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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第二幕 交流試合襲撃
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第四十七話 不当な判決

「徳川家を朝敵と見なすことが決定しました。」


残酷な結果が俺達の耳に届く。


「そ・・んな・・・。」


票数はたったの一票差。

その一票が明暗を分けてしまった。


「・・否の方は新参の方々の票が多く入ったようですね。

徳川家は日ノ本の発展の功労者ですが・・・仕方がありませんね。」


土御門は眉間に皺を寄せながらも口元は笑っており、どの表情からは悲壮感は感じない。


隣から大きく息を吸う音が聞こえる。

それは絶え絶えであり目の前で決まった死を必死に受け入れようとしている様子だった。


定兄からは劣勢と言われていた。

俺の言葉で僅差まで持っていけたがそれでも届かなかった。


(何か・・・手は無いか・・・・?)


必死にこの状況をひっくり返せる方法を考えるが答えは出てこない。


「・・ありがとうございました。」


その時千夏さんは握られていた手を離そうと震えている手の力を抜く。


「少々お待ちを!!」


だが、定兄の声が大広間に響く。

その声を聴いた俺はまだできることはあると手に力を入れ無造作に握った。


「ここにいる代表者の人数は44人!残り一票は一体どこから来たのでしょうか!!」


睨むように土御門の方を向いて怒声を上げる定兄。


二列に並べられた座布団の数はそろっており票が奇数になることなどありえない。


「・・遅れている八海上杉家の代理のくせに反対意見ですか。

しかもあなた、前回前々回と会議に口を挟んできていましたよね?身分をわきまえてはいかがですか?」


土御門も負けていない。

口元を扇子で隠しながら遠回しに意見を口答えするなと見下しながら指摘する。


「不正がある以上!口出しして何が悪いのですか!!

回収をして投票用紙に刻まれている所属部署の名を確認するべきです!!!」


日ノ本の歴史に欠かせない偉大な一族とその血を継ぐ小さな命が失われようとしているんだ。

その判決に不正などがあってはならない。


「・・判決の可否の判断は各々に任せているとはいえ我が武道省はあくまで中立。

判決が決まったとはいえ不正の可能性があるのなら今すぐ投票用紙を調べさせてもらいますぞ。」


真田殿も定兄の意見に同意であり不正の証拠の投票用紙の確認の催促を迫る。

他の長たちも声を上げており流れはこちら側に傾いていた。


「・・調べる必要はありません。」


反対の声を中、土御門が口を開く。


「なぜなら・・・私が否に票を入れたからです。」


その内容は自分が仕組んだことだと言う自白だった。


「なっ・・!!司会を務める者は投票の内容が分かるため投票できない決まりのはずです!!!」


投票が集まる司会者はこのような票が僅差の場合、

結果を決められるという理由で投票はしない決まりとなっている。


そんなことをしておきながら悪びれる素振りすら見せず堂々と不正を白状した。


「私がこの会議を始めた時の言葉・・覚えていますか?」


真剣な顔で全体を見渡す土御門。


「この会議で答えを出す。それが出来なければ皇からの信頼を落としかねないと。」


全員の口が閉じられたことを確認すると立ち上がり、注目を集めながら演説を始めた。


「今回の事件。業からの情報が入っている事を考えると必ず皇の耳には入っている。

ではなぜ、この場に姿を現さないのか?それは我々は試しているからです。


新参者が増え、新しい風が吹いているこの三道省の長達がどういった答えを出すのかを。」


俺達の前を過ぎ、中央に向かって歩きながら長達に語りかける。

まるで古参達が邪魔であり、新たに入ってきた長達の意見が大切だと言わんばかりの言い口だ。


「徳川家は功労者だが、今の日ノ本には不要。

集まった票からそんな意志を感じた私は掟を破ることにしたのです。」


決まりを定めた理由を踏みにじり自らの意志を通そうとしている土御門。


「そんなアンタの独断で・・・!」


定兄は怒りに震えていたが新参者たちは真っすぐな目で土御門を見つめており、

その眼はまるで従うべきを主を見つけたような希望に満ちた目を輝かせていた。


「独断?それは違う。徳川仙蔵は罪を犯していたことは覆すことが出来ない事実。

そんな血を引く彼女を生かしておけば同じような出来事が起こる可能性がある。」


振り返り、こちらへ向かってくる。


「これから起こる危機をあらかじめ排除しておく。”我々”は判断したのです。


全てはこれからの日ノ本のため。あなたもこれからの世代だ。

当主となった時の予防はしておきたいでしょう?」


彼女は悪くないと叫ぶ兼兄を尻目に土御門は俺達の前に立つ。


「・・・・・・・・・・・。」


俺は痛む足を一歩前に出し、握っていた手を離し千夏さんの前に腕を伸ばす。


何が予防だ。言っていることはめちゃくちゃでありこんな奴に千夏さんを奪われはならない。


「結果を受け入れないのであれば、私が直々に裁きましょう。」


懐から札を出し、殺気をこちらに向ける。

応戦したいところだが腰に得物を差していない。


距離が近すぎて大太刀は振るえないし痛む足では千夏さんを抱えて逃げることもできない。


『・・龍穂。そのまま千夏を守っておれ。』


魔術を放とうと詠唱の準備をしていると

青さんが指示を出した後、飛び出してくる。


狭い室内で青く長い胴が俺達を守るように優しく巻き付いてくると

小さくまとまりながらも唸りを上げて土御門を威嚇するが怯える様子も引く様子も見せない。


「あの時の龍ですか。これだけ懐いていると使い勝手がよさそうだ。」


札をこちらに向けて投げようと腕を引く。


「ぜひ私の物にしたいですねぇ。」


警戒が最大限に高まり今にも緊張がはち切れそうになっていた時、

土御門の後ろでガチャリと金属音が鳴る。


「調子に乗りすぎだよ。」


今にも札を投げるために腕を振り下ろそうとしている土御門の後頭部に何かを押し当てる人物。


何時の間に移動したのかわからなかったが

そこには先ほど俺を睨んでいた伊達さんのお母さんである式神課課長、

伊達颯だてりゅう様が銃を押し当てていた。


「・・得物の持ち込みは禁止されているはずですよ?」


「札を持っているアンタが何を言っているんだい?

中に何が入っているか知らないが、私が持っている銃より恐ろしいものが入っているんだろう。」


伊達様の行動に奥に控えていた新参者たちが反応を示すが

公安課の近藤様が睨みを効かせ、溢れ出る威圧感にたじろぎ立つことさえできない。


「その手を降ろしな。そうしなきゃ風穴があくよ。信頼が落ちるだって?

こんな不正があったなんて皇の耳に入ればそれこそ放っておいた私達の信頼が地に落ちるってもんだ。


あんな戯言、何も知らないバカな新参者たちにしか響かないんだよ。」


伊達様は銃の引き金に徐々に力を入れていく。

イラつきを見せている表情からは放った言葉に嘘は無く、

このまま腕を下げなければ本当に額に銃弾の穴が開くだろう。


だが、土御門は腕を振り下ろすようなそぶりは一切せずこちらをじっと見つめてくる。


「・・これからの日ノ本のためにはこの一族は不要なのです。」


この状況にも関わらず、腕を振ろうとしている土御門。

俺は千夏さんの前に立ち、青さんも鱗が俺達に触れるくらい巻き付いて来て守ろうとしてくれるが


「・・・・・・・・・。」


土御門の影から出てきた真っ黒な姿の男に腕を掴まれ札が俺達に届くことはなかった。


「・・遅いご登場で。」


腕を掴んだのは兼兄。

土御門は驚きながらもすぐに飄々とした表情に変わり兼兄に嫌みをぶつける。


「もう少しゆっくりしてもらえばこちらとしては好都合でしたが・・・

おかげでこちらで判決を下させていただきましたよ。」


兼兄は表情を変えない。ただいつもより怖いぐらい静かに土御門を眺めている。


「・・皇の御前だ。全員、得物をしまい席に戻れ。」


感情が無い声で静止をしたのち、入口の方へと歩いていく。

伊達さんは舌打ちをしながら銃を懐にしまいこちらを睨みながら席へ戻っていった。


「・・・青さん。」


その土御門を威嚇していた青さんに声をかけると無言のまま俺の中に納まっていく。


『おかげで時間が稼げました。ありがとうございます。』


皇がここへ来る。

親父と兼兄が皇を見つけ、ここへ連れてきてくれたんだ。

一度判決が出たとはいえ、それが不正であることは変わらないし皇の一言で何とでもなる。


皇の邪魔にならないため、元居た端の座布団に座り頭を垂れて皇の到着を待つ。

奥の方で戸を開ける音が鳴ると三つを足を音が聞こえ、こちらに向かって歩いてきた。


一つは途中で別れ、布がすれる音が聞こえてきた。

おそらくこれは親父が定兄と合流したのだろう。


そして二つの足音は一番奥、俺達の前を通り中央を見渡せる席へとつく。


「・・頭を上げろ。」


枯れた声が大広間に響く。

指示通り頭を上げ、隣を見るとそこには年老いた細い男が座っていたが貫禄がすさまじく

一目で皇だと理解できる。


「これより三道省合同会議を始める!」


兼兄が声を上げる。これで全員が揃った。

仕切り直しであり一時的にだが千夏さんが助かったことを意味していた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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