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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第二幕 交流試合襲撃
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第四十五話 三道省合同会議

出席者の大半が大広間に集まっている。

その中を悠々と歩いていく土御門はこちらを横目で見た後、ゆっくりと自らの席に座った。


「さてさて、ほとんどが集まりましたね。」


土御門は一番奥の席に腰を落とす。

部屋を囲むように左右に並べられた座布団は各省の格が高い順から

奥に座っていくように名札が置かれておりその一番奥、部屋を一望できる真ん中に置かれた席には

神道省長官の札が置かれていた。


そこはこの日ノ本を治める皇の席であり皇以外の人物が腰を掛けることは誰一人として許されていない。

もし腰を掛けたとすれば、裁く法はないが三道省からの働きでその身に何が起きるか定かではなかった。


「現在来ていないのは・・・皇と上杉影定殿ですか。

上杉殿はやっと重い腰を上げて皇を探しにいかれたようですね。」


少し離れたところに座っている俺の方を見ながら土御門は話す。

親父がいなくなってよかったと言っているように思える。嫌みを言われるほど何かあったのだろうか?


「先程連絡が入った。上杉殿は少し遅れるとな。」


口を開いたのは魔道省長官である酒井忠家さかいただいえ様。


『あやつは前魔道省長官である仙蔵の息子が亡くなった後の後釜として選ばれた仙蔵の忠臣だ。』


俺の中に入った青さんが説明をしてくれる。


親父が連絡を入れたところを見ると少なくともこちら側についてくれている一人なのだろう。


「そうなんですか。皇がいない今、会議を進めている私に連絡を入れず、

なぜ酒井殿なのかは気になりますが・・・まあいいでしょう。」


少し不満げな土御門だが、すぐに切り替えて

手に持っていた扇子でお膳を叩き注目を集めると声を張り上げる。


「これより三道省合同会議を始める!」


「!?」


土御門の宣言にざわめきが起こる。それも当然。なぜなら開始時刻までは時間があったからだ。


「何を言っておる!時刻はまだ—————。」


「これだけ回数を重ねてなお答えの出ない会議は前例がない。

これは三道省全体の決断力のなさを強く示しており、

皇がいなければ何もできない我々の脆弱さが露見しているのです。


このままでは皇に飽きれられ信頼を失ってしまう。

せっかくみなさんが定刻前に集まっておられるのですから時刻を早めてでも

今回の騒動への答えを出し皇に結果を報告することで

少しでも信頼を回復する方がよろしいのではないでしょうか?」


酒井様の反対を土御門が押しのける。


俺達を参考人として引っ張り出さなければならないほど議論は平行線をたどっており、

土御門の意見は真っ当なものであることはここにいる全員が感じている事だろう。


「ぐっ・・・・・。」


歯がゆい顔を浮かべる酒井様のみならず、他の参加者も口を開くことはなかった。


「この沈黙は賛成と見なさせてもらってよろしいですね?」


既に答えは出ていると言っていいが改めて口に出すことで土御門がこの場を支配する。


「では、始めさせていただきます。

何度も口にしていますので皆さまもご存じだとは思いますが議題は徳川家の処遇について。


これからの日ノ本を支えていく若き芽である国學館高校や惟神高校の生徒達。

そして日ノ本を治める皇が視察に来ていた交流会を襲撃した徳川家を朝敵と見なすかどうか。


本日もこちらを議論していきたいと存じます。」


始まってしまった。俺はこの場で徳川さんを擁護し、千夏さんを救い出さなければならない。


「さて、まずは・・・。」


土御門が話を進めようとしたその時、奥の方から怒号に近い主張が飛んできた。


「やはり皇の身に危険を及ぼした徳川家は朝敵だ!!!」


驚きながらも声がした方向を見るとかなり年を取った

肉付きの良い男性が不満そうな顔で土御門を睨んでいる。


「上杉殿・・・ああ、申し訳ない。山形上杉殿。そう声を荒げないでいただけないでしょうか?」


荒々しい怒りの声を見下すような冷ややかな顔で躱す土御門。


あれが山形上杉家の長。その後ろには当然謙太郎さんの姿があり、

目を瞑りながら静かに座るその姿はどこか哀愁を感じさせた。


「徳川家が朝敵か否か。それは今までの会議で議論を重ねてきたはずです。

今更声を上げたところで我々では議論が平行線をたどり答えが出ないことは明白。


ですからこうして被害にあった参考人のお三方に出席をお願いしたのですよ?」


これは山形上杉家の長に伝えているわけでは無い。

この場にいる全員に余計な茶々を入れるなと警告している。


「早速お話を聞かせていただきたいところですが、

私の独断で申し訳ございませんがもうお一方この場にお呼びしたいとと存じます。」


土御門が近くの職員に目線で合図を贈ると頷いた男が大広間の奥にある襖を軽く叩く。


「・・失礼いたします。」


開かれた襖から出てきたのは千夏さんだった。


赤色の着物を身にまとい現れた千夏さんは俺達の前を通り、

皇が座る席の前に座り全体に見えるように両手を前に着いて深々と頭を下げる。


「大変・・申し訳ございませんでした・・・。」


突然の登場に全員が困惑する中、謝罪の言葉を述べた。


「そちらにおられる龍穂君達が仙蔵さんを打ち破り

こちらに転送された時に千夏さんの身柄を”業”が確保しました。


その情報が入ってきたのは数日前。

私はすぐさま業に合同会議に参列する様に求めたのですがなかなか返答がこず、


つい先ほどやっと返答がありこの場に来ていただいたのです。」


土御門の説明の中に聞き慣れない言葉が入っている。

業と呼んだ何者かが俺が託された本の中に入っている千夏さんを確保していたようだった。


畳から額を離した千夏さんは話し始める。


「今回の騒動、主犯である祖父を止められなかった私の責任であると存じます。


罪を軽くしようとする気は毛頭ございません。

この身に与えらえた罰を素直に受け止めさせていただきます。」


抵抗をする気はない。そう全体に伝えた千夏さんを見て土御門は口を開く。


「では、あなたの処遇を決めるためにお聞きしましょう。

襲撃を行った徳川様は何か怪しい行動を取っていませんでしたか?」


尋問が始まった。


「・・交流試合の前に祖父から手紙が寮の自室に置いてありました。」


「ほう!その内容とは?」


先程の職員が土御門の近づき、一枚の紙を手渡す。


「すまない。私を許してくれと書かれておりました。」


その紙には純恋と小さく書かれており、

土御門は千夏さんが言っていた内容に誤差が無いか確認していた。


「・・間違いありませんね。そしてこの手紙を受け取った千夏さんはどう思ったのですか?」


「祖父から手紙を受け取ったことは何度かありますが、

このような内容は初めてであり・・・かなり驚きました。


祖父のみに何かが起こったと察し、すぐさま祖父に連絡を取ろうとしましたが電話繋がらず、

既に消灯時間を迎えており外出も叶わず祖父に何が起きたのか聞き出すことが出来ませんでした。」


交流試合当日。確か千夏さんは珍しく寝坊をしてきた。

手紙の内容に動揺し、まともに眠れなかったのだろう。


「そうですか。では、仙蔵さんにはお会いできなかったのですか?」


「いえ、交流試合の途中、どうしても話がしたいと祖父に会うために

各校の校長がいる部屋に向かいました。


そこには京都校の校長の姿は無く、祖父のみが席についており

戦っている龍穂君の姿を微笑みながら眺めていました。」


「そこでお話しされたのですね。

ですが・・・あなたは本の中に閉じ込められていたと聞いています。そこで何があったのですか?」


問いを聞いた千夏さんは深呼吸をした後、ゆっくりとその時の状況を話し始める。


—————————————————————————————————————————————————————————————————————————


「あれは・・一体どういう意味なのですか?」


祖父は窓から目を離すことなく口を開きました。


「・・私は今から大罪を犯します。私自らの意志で。」


あの優しく、いつも生徒達を思ってきた祖父から出た言葉に思わず自らの耳を疑いましたが

それは一言一句間違っていなかったのです。


「何を・・・言っているんですか・・・・?」


「千夏さん。あなたは私の元から離れなさい。そして以後、私の事を忘れなさい。」


背を向けている祖父の表情は分かりませんでしたが、その言葉には重さが込められていました。


あのお方は冗談を言う人ではありません。本気で罪を犯すつもりなのだと。

私は止めようと祖父に近づこうとしましたがその間をどこからか集まった水の壁が阻みました。


「もう一度言います。私の元から離れなさい。」


水越しでしたが、やっとこちらを見た祖父の表情は見たことの無い険しい顔をしていました。


「・・・・・!!」


その顔を見た私は思いました。ここを逃せばいつ祖父に会うことが出来るかわからない。


気付いた時に祖父のもとに足が向かっていました。

阻んでいた水の壁を突き破り祖父の胸へと飛び込んだのです。


「どこにも・・・どこにも行かないで・・・・。」


それは私の本心から出た言葉でした。


両親に先立たれ、残された私を守ってくれた祖父はもはや肉親と同等であり、

その祖父がいなくなれば私は一人。


私が見た祖父の覚悟を受け入れる余裕は私にはなかったのです。


「・・・・・・・・・・・。」


そんな弱い私を祖父は黙って抱きしめました。

そしていつものように頭を撫でた後、


「・・・・千夏さん。」


私の名前を呼んだのです。


「あなたは私の自慢の娘です。妻に先立たれ、息子達も失った私にあなたは光を与えてくれた。

毎日が楽しく、絶望の淵に立っていた私を照らし救ってくれました。」


突然の感謝に私は顔を上げるとそこにはいつもの優しい笑顔でこちらを見つめる祖父がいました。


「あなたのような素敵な女性に涙は似合わない。

・・笑顔を見せていただけませんか?」


その言葉を聞いた時、引き留めることが出来ないと悟ってしまい

説得を諦め祖父に笑顔を向ける事しかできませんでした。


「・・いい笑顔です。最期にその笑顔を見せてくれたこと、大変感謝します。」


祖父がある本を取り出し、開くと中から大量の水が私に向かって飛び出して来ました。


「これ以上あなたの人生の節目を見届ける事が出来ないことは大変残念ですが、

欲におぼれた私への罪。この選択を取ったことは決してあなたのせいではありません。


千夏さん。あなたは可憐で強かな女性だ。

私の様に道を間違えることなく・・・自らの道を進むのですよ。」


水は優しく私を包み込み、意識を奪っていく。

おじい様へ手を伸ばすことさえ叶わず、祖父が本を閉じたと同時に私の意識は闇へと沈みました。



———————————————————————————————————————————————————————————————————————


「それが私が見た祖父の最後の姿でした。」


眼の涙を浮かべながら必死で語る千夏さんの姿に胸を打たれてしまう。


俺だけではなく参列している有力一族の中でも

魔道省の格の高い一族達は全員が千夏さんと同じように涙を浮かべており、涙を流している者も見えた。


「・・ありがとうございました。」


だが、土御門は何も感じなかったようで先程と何も変わらない表情で千夏さんにお礼の言葉を伝えた。


「さて、武道省長官である真田殿。いかがでしょうか?」


尋ねたのは日ノ本の治安を守る武道省の長官である真田昌繁まさしげ様。


「・・私に千夏さんを裁く権利はない。意見を述べることは差し控えさせてもらう。」


裁くことはできないが、法に乗っ取り日ノ本を守る武道省の長の発言は

これだけの人物が集まっているの中でも強い発言となるのは明白であり、

それが分かっているからこそ真田様は意見を控えたのだろう。


「それは行けませんよ?あなたは感情などに流されずにいつも中立でなければならない。

武道省の長の立場を踏まえ、もう一度発言をお願いします。」


土御門は許さない。

言いにくそうな真田様の首根っこを掴むようにもう一度発言の場に引きずり出す。


「・・・どういった経緯であれ、徳川殿は事件を起こした。


そして千夏さんが止められなかったのも事実であり、

徳川家の罪は変わることはないかと。」


あくまで中立の立場で千夏さんの発言から出た武道省の見解を述べる真田様。


今回の事件の異質な所は武道省の介入がほぼない所にある。

小さな事件や今回の様に日ノ本を揺るがすほどの事件であっても一番初めに介入するのは

魔道省でも神道省でもなく武道省だ。


事件を捜査した上で会議の場に意見を持ってくるのが通常であるが今回の首謀者は死亡しており

事件現場も日ノ本であるかさえ分からないような場所。


この真田様のはっきりとしない発言が事件の難しさと会議が長引いている事を現していた。


「・・ありがとうございます。こちらが用意した席にお座りください。」


千夏さんは立ちあがり、俺の隣に新たに敷かれた座布団に座る。


横目で千夏さんを確認するが、背筋を伸ばして座っており、

何があろうと徳川家として堂々と立ち振る舞おうと言う気概が見て取れた。


「では、次に前回我々が決めた参考人のお三方にもお聞かせ願いたいと思います。」


今の話はあくまで襲撃の前日の話。

核心には触れておらず、呼ばれた俺達の発言で初めて触れるのだろう。


「では二条家から二条純恋さん。伊勢桃子さん。

そして・・・八海上杉家から上杉龍穂さん。よろしくお願いします。」


座布団から立ち、有力一族の前に座る。

俺は畳を向きながら緊張を飲み込み覚悟を決めた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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