第四百十三話 貴人の結末
近づこうとした足の代わりに、これ以上進むなと手を横に伸ばして合図を送る。
目玉を潰し、勝負があったと言われても過言ではないが
貴人の体に起きている事はあまりに異様。
(なんだ・・・?)
悶える貴人の体は何故かうごめている。まるで体の中に誰かがおり、
中から暴れている様に見える。まるで貴人が弱るのを待っていたように・・・だ。
「龍穂・・・伝えることがいっぱいあるんやけど・・・。」
「・・ああ。今はそんなことをしている場合じゃないな。」
目の前で起きている異変。一体何が起きているのか。
確かめたいが・・・そんな悠長をしている場合ではないのかもしれない。
「ケライノー。」
作り上げたケライノーを悶える貴人に向ける。
手に持っている得物を前につきだし、体を回転させて突っ込ませるが防御する気配さえ見せない。
「貴様・・・!!まだ抵抗するか・・・!!!」
苦しそうに呟く貴人だが、俺達に向けての言葉には聞こえない。
まるで・・・”体の中にいる誰かに向けて言い放っている”様に聞こえてくる。
(俺と戦っているんじゃない・・・?)
一体何に対して語り掛けているのか分からないが、何もわからない俺が出来るのは
貴人ごと吹き飛ばしてしまうことぐらいだ。
ケライノーに魔力を込めて突撃させると、黒い刃が貴人の体を貫く。
「ぐっ・・・ぁ・・・・!!!」
これで・・・終わったのだろうか?いや、そんなはずはない。
全ての方向に警戒をしろと純恋達に指示を送るが、目立った変化はなく
ただただ時間が過ぎていく。
『・・・・・龍穂君。』
何が起きているのだろうかと全体に混乱が生まれつつあるとき、千夏さんからの念話が
飛び込んで来た。
『どうしましたか?』
『龍穂君の指示通り、月桂寮への支援を送りました。』
『ありがとうございます。』
この状況を千夏さんに伝えようとするが、会話が続いて言い出すことができない。
『ですが・・・下にいる鱗を持った妖怪達の様子がおかしいのです。』
『おかしい・・・ですか?』
警戒を解かずに視線を落とすと、待ちは破壊されておらず誰かが守るように
戦っているように見える。
『・・白の部隊を呼んだのですか?』
『いえ、私が呼んだわけではありません。ちー達が援軍を呼んだのでしょう。』
『むしろ・・・良い状況なんじゃ・・・?』
街の破壊が免れているのはかなり良いとしか言えないだろう。
千夏さんが何を不安に思っているのかが伝わってこない。
『そう言いたいのですが・・・妖怪達の数が減らず、白の部隊から”逃げ回っている”のです。』
逃げ回っている・・・?奴らを放ったのは東京の街を破壊するためじゃないのか?
『・・他の目的があると。』
『ええ。そう思うのですが・・・それが分からないのです。』
呼び出した妖怪達に別の役割があるとすれば・・・厄介極まりない。
しかも数を増やしているとなると、対処に人数をかけ続ければならない。
『厄介ですね・・・。』
奴らの目的を阻止しするか、妖怪達が増え続ける百鬼夜行を止めるか。
最低でもどちらかを行わなければならない。
だが、貴人があの姿になっているにも関わらず百鬼夜行が止まっていない事実を聞き、
さらに謎が深まっていく。
『ひとまず・・・やれることはやるつもりです。そちらも—————————————』
その瞬間。辺りの空気が凍り付いたような感覚に襲われる。
俺以外の全員が感じた異変に、千夏さんとの会話が遮断されてその原因に視線を移す。
『・・こちらで動きがありました。また連絡します。』
空気を凍らす異変を巻き起こしたのは当然貴人。体の中にいる何かが暴れ出している。
「ぐっ・・ぉ・・・・!!!!」
冷や汗を大量にかき、今にも倒れそうになっている。
ヤバいことが起きると頭に訴えかけてきており、突き刺さったケライノーの剣を回転させて
事を終わらせようとするが、貴人は倒れてくれない。
「・・手助けをしてくれるんだな。ありがとよ。」
辺りに響いたのは貴人の声ではない幼い男の声。その声に・・・俺達は聞き覚えがあった。
「その・・・声は・・・!?」
「おっ!覚えているんだな。あれだけ無残にやられたってのに、
記憶に残っているなんて・・・暴れた甲斐があったよ。」
カタノゾーアが出てきた際に、警戒しておくべきだった。
いや、それはあまりに深読みし過ぎなのだろう。何せ・・・俺は一度勝利を収めているのだから。
「感動の再会・・・。いや、それ以上だな。
何せ、今からお前達は”全滅”するんだからな。」
大層な自信だ。出会った時から見た目通りの精神に幼さが弱点であったが、
俺の力を知っている上での発言だ。煽りでも、その不遜さが言わせているわけではないだろう。
「こいつはよくやったよ。二体の神の力を体になじませてくれたんだからな。
それだけでも・・・手柄としては十分だ。」
その声は貴人の体から発せられている様であり、空気の震えを感じとると
どうやらひび割れてきている貴人の隙間から漏れている。
「な・・にを・・・!私は・・・晴明を・・・!!」
「あー、はいはい。分かっているよ。安倍晴明の復活だろ?
それは忠行様が役目を引き継ぐからさ。早くくたばれよ。」
その言葉と共に貴人の体にはさらにひびが入り始める。
どういう訳か分からないが・・・奴は貴人の体に入り込んでいる。
「それにさ。アンタは初めから捨て駒だったんだよ。百鬼夜行を使ってもらった時点で
アンタの役目は終わり。後は龍穂達を少しでも削れればいいと思っていたんだけど・・・
やっぱり荷が重かったみたいだな。」
こいつが・・・捨て駒?確かに俺達が圧倒したと言っていいが、それは決して
貴人が弱かったわけではない。神道省・・・いや、三道省の特級達が束でかかっても
勝てるかどうか怪しいほどの相手だったはずだ。
「捨て・・ごま?や・・・くめ・・・・?」
「そうだよ。アンタの役目はそもそも俺が引き継ぐ予定だったんだ。
だからさ、もう抵抗なんてしないで体を委ねなよ。どれだけ足掻いてもさ、
辛いだけで結局結末は変わらないんだ。」
全ては賀茂忠行の手のひらの上だった。その事実を聞いた貴人の表情から苦悶が消え、
体の力が抜けてヒビが深く入っていく。
「ふっ・・ふふ・・・!!」
このまま奴に体を乗っ取られるかと思ったが、こぼれるような笑みと共に体に込められている
力が最高潮まで高まっていく。
「気に食わないね・・・。」
体から零れ落ちる皮膚。まるで卵から雛が孵るような光景を目にするが、
貴人の一言によってひび割れがピタリと止まる。
「・・何だって?」
「全て計画のうちなど・・・気に食わんと言っているだよ!!」
体に込められた力が・・・放たれようとしている。
自身の勝利など端から考えられていなかった事実を、貴人は認めていない。
「・・下がれ!!」
体の中で行われている仲間割れ。このままだと俺達も巻き込まれてしまう。
全体に指示を送り距離を取らせる。
「例えアンタ達に手のひらに上で踊ろうとも・・・!!
ここは私の舞台なのは変わらない・・・!!!」
貴人はどうやら最後の花火を打ち上げようとしている。
自らの野望が自らの手で果たすことが出来ないのであれば、この現世にいた証を
残そうとしているようだった。
「なんだよ・・・。最後に龍穂の味方をしようって言うのか?」
「はっ!!そんな気はさらさらないよ!!!
幕引き手前で手のひらを返して極楽浄土に行けるなんて思ってもいないさ!!!
ただ・・・私は私らしく、最後まで足掻いて地獄の落ちるのさ!!!」
幕引きは自らの手で・・・。強い意志を持った貴人は自分らしくこの世と別れる気だ。
「どうせ・・・晴明もこっちに落ちるからね!!!
であるのなら、憂さ晴らしついでに見上げ話の一つでも作っておくさ!!!!」
決死の一撃。求めた主との会話を増やすという傍から聞けばくだらない理由で
この世を去ろうとしている貴人。取っ手付けたような理由だが・・・主を求め、
炎のような苛烈さを持った彼女らしい結末なのかもしれないと心の中でつぶやく。
「・・何をする気だ?」
「見てれば分るさ・・・!!」
体に込めた力。今にもはち切れそうな力を一気に解き放つ。
「北極紫微波!!!」
自らの力を一気に解放し、辺りに衝撃波を放つ。
本来であれば辺り一面を破壊するほどの一撃なのだろうが、体の中にいる奴らに
力を吸い取られ、距離を取った俺達に届いたのは強烈な突風だけ。
辺り一面の空気を操り、吹き飛ばされない様に風を抑えつつ貴人の結末を見届ける。
野望を抱いた十二天将の長の最後は・・・なんと呆気ない結末であり、
その後に残ったのは・・・体の中にいた”奴”だけだった。
「ふぅ・・・。久しぶりだな。」
衝撃と共に吹き飛んだ殻の中にいた奴が姿を現す。
あの時の様に人の姿を保っておらず、以前よりおぞましい姿だったが
その中に宿っている力はその正体を俺達に明かしている。
「賀茂龍穂。あの時の借りを返させてもらうよ。」
「・・・・・”片野東亜”。」
あの研究所。ルルイエで倒したはずの片野東亜が俺達の前に再び立ちふさがった。
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