第四百十二話 違和感を覚える強さ
貴人、そしてガタノゾーアとオトゥーム。
三体の神を同時に相手したが、勝負は既に決したと言っていい。
「っ・・・・!!!」
恨めしそうに俺を見つめる貴人。体はひどく傷つき、残された力で何とか浮かんでいるが
余裕を持っている俺を倒す余力は残されていないだろう。
「さて・・・・・どうするんだ?」
隣で静観を続けてきたイタカが尋ねてくる。
その答えはただ一つ。ここでこいつの野望を打ち砕く以外にない。
「ふ、ふふっ・・・。まさか、こんな小僧に歯が立たないとはね・・・。」
「そう思っているからじゃないか?それとも、お前が衰えたとでもいうつもりか?」
十二天将の主神とはいえ、他の神達を従えるほどの力を持っているはずがない。
間違いなく貴人の力は強まっているが、それでも俺の首には手が届かない。
(・・それにしても、ここまでとはな・・・。)
いつもと戦い方は変えていない。強いて言えば一人で戦っていることだが、
たったそれだけでここまで結果が違うなんてことはあり得ない。
馴染む・・・とでも言えばいいのだろうか?心境の変化・・・いや、それが強さの源なのかも
分からないほどに全ての景色が変わって見える。
「・・・・・・・・・・・・。」
空気の流れを全て見ようとすれば本当にできてしまうと思ってしまうほどに
魔力操作が鮮明だ。空気の粒以上に小さな何かを操れる物があるのかもわからない。
何を操っているのかすら、その原理すらわからないほどに全てが研ぎ澄まされていた。
『・・・・・ハスター。』
一体何が起きているのか。止めをさせると言うのにハスターに声をかけてしまう。
『なんだ?』
『どう・・・なっているんだ?』
『どうとは何のことだ?何を知りたい。』
俺の中にいるんだ。何が起きているのかなんて分かっているはず。
『意地悪を言わないでくれ。なんでこんなに・・・俺は強いんだ?』
自分でも他に言いかたがあるくらいは分かっている。だが、それ以上に自分の強さが
不気味であり、そして心から湧き上がる高揚感に言葉を選ぶことが出来なかった。
『なかなかの言いかただな。だが・・・一つ言えるのは純恋に感謝しろと言う事だ。』
『純恋に・・・?』
『龍穂。お前の記憶にはないが、お前体は賀茂忠行との決戦を覚えている。』
『体が・・・決戦を?』
『決死の戦いで勝利を収めようとし、俺の力を引き出したお前は奴を追い詰めた。
奴と・・・クトゥルフをな。』
この力は俺が生き抜こうとした・・・いや、きっと違うのだろう。
”純恋達を生かそう”とした俺が引き出した力が・・・この力なんだ。
『・・でも、それじゃダメなんだ。』
相打ちではだめだ。俺は死ねない。
『そうか・・・そうだな。』
共に歩むには生き残らなければならない。生き抜かなければならない。
強い力だが・・・これ以上の力を身に付けなければ純恋達と共にはいられない。
『そう思うのであれば、まずは目の前の敵を倒せ。
そして・・・強くなりたいと願うのだ。まずはそこからだ。』
人の事の始まりは、願いから始まる。
強くありたい、何かを成し得たい。そう思う事こそが初めの一歩であると
親父に言われたことを思い出した。
「・・・・・分かった。」
望まなければ願いではなく、そして叶う事は無い。
俺は自らの望みのために辺りの空気を繊細操り始めた所で念話が飛んでくる。
『・・龍穂!!』
聞こえてきたのは純恋の声。空気で勝利を収めていたのは知っていた。
恐らくこちらに合流するために壁を晴らしてくれというのだろう。
『そっちはどんな感じや?』
『追い詰めているよ。だけど、気を抜けばいつでもすぐにやられるだろうな。』
こちらで起こったことを簡潔に伝えていく。
二体の神が現れた事。それによって影響はないことを事細かく伝えていく。
『それは・・・面倒やな・・・。』
『ああ。敵もそう思ってくれている事だろうな。』
貴人はまだ負けていない。奴の瞳に宿る闘志がそう俺に訴えかけてきている。
その闘志がある限り、止めをさせないだろう。
『それを利用する。少し危ないけど・・・大丈夫か?』
勝利に一番近づけるには敵の体を傷つけるのは出なく、心を折る事だ。
それには・・・圧倒的な力の差もそうだが、精神的優位性を見せつける必要がある。
『覚悟はできとる。いつでもええで。』
体へのダメージは蓄積させられている。だが、心は一切折れる気配を見せていない。
それ相応の衝撃を与えないと心を折ることはできない。
「アンタに負けられるほど・・・私は長く生きてないんだよ!!!」
オトゥームと剣を振り上げながら、辺りを石化させようとして来るが
以前戦った二人に対して力の使い方が練られていない。
「・・弱いよ。お前。」
どれだけ強い力を持っていようとも、結局の所使い方は肝心だ。
しかも二体の神の力を同時に扱うなど貴人と言えど難しい。
有利を確実にするためにケライノーを作りつつ、グガランナで剣を受け止める。
「一度見せてもらえば、十分だ。」
初見の一撃は流石に対応は難しい。だが、一度その威力を見せてもらえば十分。
細かい空気に触れると敵の情報が取れてしまうのである程度の対応は出来てしまう。
渾身の一撃を簡単にいなされてしまった貴人は一瞬驚きの表情を浮かべるが、
眼の闘志は尽きることは無い。
『・・晴らすぞ。』
返されてしまう事はある程度予想していたのだろう。
それだけでは奴の心に敗北という絶望を与えられることはできない。
それには大きなきっかけが必要だ。それは貴人ではなく、俺達から与えなければならない。
黒壁を晴らすと純恋達が得物を構えており、止めを刺そうする姿が貴人の眼に
写っている事だろう。
「・・ふ、ふふふっ。」
目の前に現れる絶望・・・ではないだろう。
助けに来てくれた純恋達は奴にとって希望そのものに見えているはずだ。
「隙を見せたね・・・。」
「・・隙?」
「聞いていた通りだよ。仲間と共に戦う事を好むってね。
一人で戦っていれば確実な勝利をつかめるのに・・・けつの青い若造が。」
純恋達に対し、石化の眼を向ける。俺に純恋達の援護をさせて隙を作る気だろう。
味方が増える事で俺の意識を削ぐことで勝機を生む。
それが奴の思惑だろうが・・・現実はそうはいかない。
「阿保だよ。お前。」
石化のために見開いた目は、俺にとっても最大の好機。
今まで見せてこなかった隙に対し、俺はケライノー達を突っ込ませる。
「ギャアアアァァァァァ!!??」
何時までも俺を舐めていた報いだ。貴人の眼からは大量の血があふれ出し、
酷く耳障りな叫び声を上げながらのたうち回る。
隙を見せた時、それはまた自らの隙を生む大きな機会だと言う事を奴は分かっていない。
これまで長く生きてきたのだろうが、格上との戦闘はあまりこなしてこなかった様だ。
「龍穂!!」
純恋達がこちらに近づいてくる。空気の感触から援軍が来ている事は察してたが、
まさかの人物達が純恋達と合流していた。
「・・・・・陽菜。」
「おう。来てやったぞ。」
陽菜と仲間達。傷ついている姿からは援護ではなく、前線で戦ったことが伝わってきた。
一度戦ったからこそ分かる陽菜の強さ。強力な援軍だ。
「だが・・・終わった様だな。」
醜くもだえる貴人。闘志を宿していた目が潰され、もう俺達に対する敵意さえなくなったのか
動きが鈍くなっていく。
「・・いや、それはとどめを刺してからだ。」
本当なら陽菜達に感謝の言葉を述べたいが、目の前の貴人が動いている以上
全てが隙になってしまう。
まずは完全な勝利を収めようと、貴人に近づこうとする。
「ぐっ・・ぐぐっ・・・・!!」
苦しそうに呻き声を上げる貴人。それが目を潰されたことによる苦しみではなく、
奴の体を襲う異変から来るものだと察するのはその見た目を見れば簡単に
理解することが出来た。
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