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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第二幕 交流試合襲撃
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第四十話 激しい攻防

全員揃い、改めて徳川さんと対峙する。


「俺が先に仕掛ける。

龍穂が足をやられているから桃子ちゃんと楓が前に出てカバーをしてやってくれ。」


そう言うと兼兄が宙に浮いていた銀の球を引き連れて駆けだした。


「あなたが先に来ますか。いいでしょう。」


「最後に手合わせをと思いましてね。」


銀の弾の形を鋭く変え徳川さんに襲い掛かる。

少しでも近づけば水が蒸発してしまうほどの純恋の太陽を前にして水魔術を扱う事などできないと

思ったが大量の水を動員することで簡単には蒸発しない分厚い水の壁で徳川さんは身を守ろうと試みる。


「・・走れ。」


見るから液体である銀の塊は水と同じような性質を持っているように思えたが、

兼兄の一言で速度を増した銀の針は水を突き破り徳川さんの元へ走っていった。


「厄介ですね。」


針が迫っているのにも関わらず焦り一つ見せず、

杖を床に軽く突くと地面から木が生えてきて徳川さんを包みこむ。

細く作られた針は木を突き破る威力は無く軽い音を立てながら突き刺さった。


「焦ることなく対応を変える歴戦の判断力。

長いこと魔術省長官を務めていたのは伊達じゃありませんね。」


これ以上の攻撃は無駄だと判断したのか銀の針は兼兄の元へ戻っていく。


「それはこちらのセリフです。世界中を見ても使い手が希少な錬金術を難なく扱う実力。

あなたが”あそこ”に所属してさえいなければ魔術省に引き入れ、

土御門君と双璧を担ってもらい日ノ本を支えていただきたかった。」


「・・俺を買いかぶり過ぎですよ。あなたもご存じの通り、俺は不器用です。

あいつみたいに器用に立ち回る事なんてできっこない。」


二人の声は小さく、何をしゃべっているかこちらまで聞こえてこない。


「だからこそなのです。彼とあなたは正反対。

器用で打算的な彼とは違い、兼定君は情に厚く人に寄り添うことが出来る。


あなた方二人であれば日ノ本を任せられると思っていましたが

今こうなっているのも運命なのでしょうね。」

兼兄の周りの床から木の根が飛び出して襲い掛かる。

先程使った木の魔術で木の根を伸ばしたのだろう。


不意を突いた奇襲だが兼兄も冷静に対処しており、

銀の球を変形させ鋭い刃が複数突いた丸鋸を作り上げ高速回転させ向かってくる木の根を削り切る。


「青さん!そっちにも行っています!!」


地面が固く舗装されていても、植物の力は強く根を張り巡らせることが出来る。

丸鋸では全て断ち切ることが出来ずこの部屋にいる限り、地面からの攻撃には注意しなければならない。


「水では劣るが、木であればわしの方に分があるぞ・・。」


兼兄言う通り、俺達の周りの床から木の根が出てきて貫こうと勢いよく飛んでくるが

それを見た青さんは魔術を唱えながら地面に手をつけた。


若草緊縛わかくさきんばく!!」


命を狙う根は俺の心臓がある左胸に迫ってくるが

床から生えてきた草が急激に成長し、木の根に絡みついて動きを止めた。


「木の魔術まで力を上げておるとはな。

おかげでこの程度しか使えんかったわい。」


「木は水と土の複合魔術です。

水の力が依然とは格段に上がっていますから相対的に木の魔術の威力も上がっているのですよ。」


木の魔術が得意な青さんだが、使い勝手を考慮していつもは水の魔術を中心に戦いを進めていた。

だが、上手の水魔術の使い手が目の前にいるので窮屈な戦いを強いられてしまっている。

川の化身と言われている龍を上回るほどの

水魔術を使う徳川さんは本当に人なのだろうかと疑ってしまうほどだった。


「火、水、土、風。これらの四大元素と呼ばれる四属性はそれぞれが作用しあうことで

我ら人類のみならず地球上に存在する生命に大きな影響を与えてきました。


水はあらゆる生物に潤いを与え、火は栄養や温もりといった活力を与える。

風は種を運びより広い大地へ生命を繁栄させ、最期は土に還る。


これ以外の複合魔術など様々な魔術が存在しますがその全ては四大元素が必ず含まれています。


極稀に謙太郎君や龍穂君の様に通常とは違う魔術を使う方も存在しますが

それには何かしらの理由が必ずあります。

その理由を知ることでより繊細に魔術を扱えるきっかけになるかもしれないので

調べてみるといいでしょう。」


俺の戦う理由を誘導しながらも与えてくれたり、

こうして得意な魔術についても教えてくれる姿に俺は敵意を向けることが出来ずにいる。


「そして兼定君が使っている錬金術のような高等魔術は四大元素を極めた先の魔術の一つです。


基礎的な話になりますが、四大元素は極めていくにつれ太陽が我々にもたらす作用に近づいていきます。

錬金術は長い研究の末、人類が見つけ出した魔術ですので

少し異なりますが、極めた場合効果は強力。こういったことが出来るのです。」


躱し切れなかった傷に自らの魔術で操作した水を当てると見る見るうちに傷が塞がっていく。


「生命の母である水。

攻撃性が他の属性より弱いですが、唯一の特性である癒しと再生。

こういった強力な効果を発揮できます。


純恋さんは既にお持ちの様ですが、まだ荒削り。

龍穂君を含め他の方々も才能があるようですから目指してみるとよいでしょう。」


そして何よりあの笑顔。俺を見ている目には殺意が感じられない。

この人は本当に敵なのか?足に穴を開けられてなお、そう感じてしまっている。


「ずいぶんと敵に塩を送るのですね?」


「私の性なのでしょうね。いくら敵と認識しても

才能ある子供を見るとついこうして小言をこぼしてしまう。


あなたにも依然こうした話しをしたことは今でも覚えていますよ。」


何かを思い出すように兼兄に向けて笑顔を向ける仙蔵さん。


「・・私もですよ。」


こちらから兼兄の表情は見えなかったが、

聞こえてくる声はどこか寂しそうな絞り出した声だった。


「さて、このまま小競り合いをしていても人数差を埋められませんね。

私も長いこと生きていますからこのままでは不利だという事は分かっています。


ですから・・・仕掛けさせてもらいますよ?」


徳川さんは手にしている杖を両手で掴み呪文を唱え始める。


徳川さんの詠唱が俺の耳に届いてくるが

たった一つの口を動かしているはずなのに声がまるで重複したように聞こえてくる。


(多重詠唱か・・・・。)


実家の書斎の中で見たことがある特殊な技法で多数の呪文を一気に唱える秘術。


昔は多数使い手がいた様だが年月が経つにつれ

魔術を簡略化が進むと俺達が使っている簡易呪文の普及が多くなっていき、

頭の中で魔術の構成する簡易魔術と通常の呪文を口に一気に詠唱する多重詠唱は

すこぶる相性が悪くその技術は淘汰されていった。


「攻めきれないか・・・。」


上手く対処され、一人ではだめだと判断した兼兄は俺達の元へ兎歩を使い戻ってくる。


「集中しろ。あの人は少なくとも四種類以上の魔術を唱えている。

仙蔵さんがどう俺達を攻撃してくるかわからないが考えられるのは大きく二つ。


一つは唱えてくる魔術を全て合わせての攻撃。

かなり強力だが俺達の攻撃を一点に集めれば対処は可能だ。」


どれだけ強力な魔術であろうと、こちらには純恋や俺がいる。力を合わせれば何とかなるだろう。


「問題はもう一つ。俺達を———————————————」


兼兄が言いかけた時、少し遠くに大きな魔力が沸き上がったのを感じる。

そして轟音を部屋に響かせながら何かが俺達に迫ってきていた。


「・・全方位の魔術が来るぞ!迎撃の準備をしろ!!」


音が近づいてくるにつれ、その正体が明らかになっていく。

四方から迫ってきていたのは異なる四大元素の魔術達。


阿毘達磨四界陣あびだるましかいじん。」


繊細な魔術ではないが魔力が多く含まれた規模の大きい魔術であり、まともにくらえば全滅は必至だ。


「こっちは私やな!!」


各四属性どれも強力だが特に水の魔術の勢いがすさまじい。

それを見た純恋が率先してその方向に向かって立つ。


「俺は土をやる。錬金術は金を作り出そうとして研究された技術だ。

魔術の規模が高いが質は俺の方が上。対処は出来る。


風は楓、お前が対処してくれ。クイーンサキュバスの力を引き出したおまえであれば

風の魔術で対抗できる。」


迫りくる魔術に対し、冷静に人数を配置していく。


「私は何をしたらいいですか?」


「桃子ちゃんは反撃の狼煙を上げてもらう。

阿毘達磨四界陣あびだるましかいじんは多重詠唱で四つの魔術を放つ強力な技術。

その反面疲労度が高く、すぐさま魔術を唱えることはできないだろう。


一応手印での魔術で迎撃を考えられるが神融和をしている桃子ちゃんなら何とかなるだろう。

必ず俺達が後から続くから自信を持って踏み込んでくれ。


そして龍穂。お前には一番攻撃性の強い火を何とかしてもらう。」


「でも・・水は使えない・・・。」


純恋の様に強い火でない限り、水が効果的だが徳川さんに操作を乗っ取られてしまう。


多重詠唱を行っているため乗っ取られない可能性はあるが

決めに来ている魔術を前にリスクのある行動は

敵に付け入れられる隙を与えてしまうきっかけになりかねない。


「違う。お前の風で弾き飛ばせ。」


兼兄は予想外の指示を送ってくるが、純恋との戦いの出来事を振り返り納得する。

純恋の太陽され阻んだ黒い風であればあの程度の炎は防げるはず。


「・・わかった。」


痛む足を何とか動かし体勢を変え、迎撃態勢に入った。


「ギリギリまで引き付けろ。対処してできた煙や衝撃でできた隙で桃子ちゃんに突っ込んでもらう。

純恋ちゃんと俺が突っ込むから龍穂と楓は後方支援を頼む。」


迫りくる魔術をできる限り引き付け各々が魔術を放つ。


落陽らくよう!!」


純恋が作り上げた太陽を水に向けて落とす。

水は見る見るうちに蒸発していき大量の水蒸気を辺り放つ。


大空弾だいくうだん!!」


楓も風で迎撃するが、俺が今まで見ていた楓の魔術を軽く凌駕するほどの強力な風の弾を放つ。

よく見ると風の中に少しだけ黒い風が混ざっており徳川さんの風を軽々弾き飛ばした。


あれはどう見ても俺が持っている風の特徴。

式神契約を行ったことで楓にも俺の力が移ったのだろうか?


「いいぞ。なかなかやるな。」


兼兄は集めた液体状の金属を俺達を前に集め大きな壁を作る。


まるで土砂のような魔術は壁に当たり大きな音を立て、

勢いが収まらずに漏れ出てきてしまうが

兼兄が金属を巧みに動かし土を包み込むことによって完全に無力化させた。


(あとは俺か・・。)


近くまで迫った火に向かった詠唱を始める。


空気を掴み、風を起こそうとするが俺の魔力が含まれた空気の一つ一つが黒く変色していき、

動きを生み出すことによって風が生まれていくのが手に取るように感じ取れた。


「・・・黒牛アルデバラン。」


ふと頭の中に浮かび上がった呪文を唱えると風の塊が大きな牛の姿へと変わる。

そして大きな雄たけびをあげながら火の塊へ突っ込んでいくと

角の一撃によっていとも簡単に打ち砕かれてしまった。


「・・よし、行くぞ。」


全ての魔術に打ち勝ち、それを見た兼兄は桃子と共に駆け出す。

水蒸気で姿を隠した所からの縮地は敵の不意を突けるだろう。


「ぐっ・・来ますか・・・。」


二人の空気を割くほどの縮地で辺りの水蒸気は晴れていき、

得物を刀に変えた仙蔵さんに襲い掛かる桃子の姿が見える。


声を多く発しているので、呼吸を整えられていない

仙蔵さんは何とか桃子に食らいつくも完全に押されていた。


「いくら老兵とはいえ・・・、舐めないでいただきたいですね!」


兼兄が言っていた通り、手印を使い口から火を吐いて

桃子との距離を離そうと試みるが鎧を身にまとった桃子は一切引こうとはせずに構わず踏み込む。


だが、火の目くらましで出来た一瞬の隙を突いて

仙蔵さんは水の操作を行っており、水の矢が桃子の頬を掠めた。


気が付けば辺り一面に矢が敷き詰められており、

矢先を向けられた桃子は押し引きの判断に躊躇してしまう。

そんな隙を徳川さんは見逃すわけがなく足を止めた桃子に向けて一斉に放った。


「俺がいる!進め!!」


後ろについてきていた兼兄が同じように鉄の矢を作り上げており降りかかる矢を防いでいく。

バラバラにされた水が俺の時の様に再び形を整えようとするが

すぐさま鉄の矢が襲い掛かり迎撃を許さない。


再び桃子が近づいていき、接戦戦へと持ち込んだ。


「面倒ですね。また仕切り直しますか。」


刀を振るう桃子に対し、今度は地面から木の根が生えてきて足を止める。


桃子も木の根を素早く切り接近を図ろうとするが既に縮地で十分な距離を離しており、

再び杖を握り魔術を唱えていた。


澎湃激浪ほうはいげきろう!!」


徳川さんの後ろから大きな影が現れたと思うと俺達の背丈を優に超える

大津波がこちらに向かって来ていた。

これだけの水をどこに蓄えていたのだろう。

兼兄の錬金術でも対処は不可能であり桃子を抱えてこちらへ戻ってくる。


「純恋ちゃん!楓!頼む!!」


このまま波にのまれてしまえば純恋の詠唱は封じ込められてしまい、

そうなれば徳川さんの独壇場。


「私が道を作ります!!」


そうはさせないと楓が純恋の前に立ち、魔術を唱える。


旋風道つむじみち!!」


津波に向けて竜巻を起こすが威力は低くこれだけでは

穴を開けるどころか簡単に飲み込まれてしまうだろう。

だが周りに空気を多く巻き込んでいるようでこれから純恋が放つ炎の道を作り上げていた。


「出来る限り大きな奴をぶち込んだる・・・。天道てんどう!!」


楓が作り上げた道に純恋が眩い光を放つ炎を注ぎ込んでいく。

多くの空気を含んだ炎は一気に膨れ上がっていき津波に負けないぐらいの大きさに変貌した。


津波と炎が振れた瞬間、焼けていく音と大量の水蒸気が辺りに充満する。

熱しられた水蒸気は下に落ちてくることなく天井に溜まっていくが、

先程とは違う匂いが辺りに充満していた。


(塩辛い・・・海水?)


これまでの戦いで水使っていたが、そんな匂いは全く感じさせなかった。


津波を使った影響なのだろうか?

だが、俺も青さんとの修行で同じような魔術を使ったことがあるが水自体の変化はしたことが無かった。


炎と津波は完全に互角であり、お互い全てを消し切ってしまう。

残ったのは大量の水蒸気と塩っ辛い匂いだけだった。


激しい攻防に純恋の魔力も残り少ない。

純恋の火の魔術が命綱なのでそれが無くなってしまえばじり貧になってしまう。


「・・私の魔術も残り少ない。勝負を決めに行きましょうか。」


その純恋と競り合っている徳川さんも同じようで天井に張り付いていた水蒸気を手元に集め始めた。


「すまん・・。これ以上撃ったら動けなくなる・・。」


「いや、十分だ。よく仙蔵さん相手にここまでやってくれた。


あちら側も最後の力を振り絞ってくるだろう。後は俺達に任せてくれ。」


そう言うと兼兄は俺の肩に手を置く。


「龍穂。仙蔵さんは今まで以上の魔術を放ってくる。それに対抗できるのはお前だけだ。」


先程の俺の魔術を見て兼兄は判断したのだろう。

錬金術は汎用性は高そうだが、高い威力を出せる技術ではないようだ。


「龍穂君も綱秀君との戦いでやっていましたが、魔術を極めると神術に近づいていきます。」


集めた水が床に染み込んでいく。

すると音を立てながら床を突き破り大きな木がうねりながら徳川さんを守るように這い出てきた。


木で作られた体には鱗が付いており、繊細に作られた獣は舌を出しながらこちらを睨んでいた。


「祟り神、ミジャグジさま。

本来は神術によって降ろすような神様ですが私にはそのような才能は無いので魔術で再現しています。」


無機質な木であるはずがまるで本当に生命が宿ったような動きを見せており、

今すぐにでもこちらに飛びかかってきてもおかしくはない。


「さあ龍穂君。勝負を決めましょう。」


わざわざ指名してまで俺との決着を望んでいる徳川さん。


俺に戦う理由を授けてくれたり、魔術の知識を授けてくれたりなど

敵ながら俺達を思うその姿勢に答えなければならないと痛む足をなんとか動かし立ち上がる。


先程放った魔術の感覚であれば、あの神を打ち破れる。そう確信し、呪文を唱え始めた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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