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第三百二十七話 アルが語る教訓

龍穂のため。そして・・・何より涼音の危機を救うために足を動かそうとする。


「待ちな。」


だが、後から私の肩を誰かが掴んで無理やり座らせられる。


「純恋。アンタの出る幕じゃないよ。」


私達と共に一緒に寝ていたはずだが、いつの間にか装備を整えており

竜次さんと合流する。


「・・綱秀が危ないっちゅうことは、涼音も危ないってことや。

友達を助けに行くってことがそんなにも悪い事なんか?」


「そう言う事を言っているわけじゃない。その場の感情で動くなって言っているんだよ。

龍穂も含め、アンタらの悪いとこだよ。それじゃ、いつまでたっても千夏の負担は

無くならないね。」


落とし失くしていろと指示を受けていたはずだと言われ、言い返そうとするが

別の手がまた私の肩に置かれる。

今度は一体誰なんだと振り返ると、そこには千夏さんの姿があった。


「ちーに任せましょう。彼女ならやってくれるはずです。」


「でも・・・。」


「そもそもだ。アンタが付いてきた所で足手まといにしかならない。

私と竜次さんだけで行く方が何倍も効率がいいんだよ。」


お前は役に立たないと言われ、頭に来てしまうがそれはあまりに言葉足らずじゃないかと

千夏さんが間に入ってくれる。


「でも、どう考えたって純恋は室内戦向きじゃない。

連れて行った所でその力を上手く発揮できず、早急な解決が出来なかった意味がないことは

千夏は分かっているだろ?」


「ええ分かっています。でしたら初めからそうするべきでは?

足手まといと今の説明では言葉から受ける印象があまりにかけ離れている。

純恋さんが怒るのも当然です。」


「それは・・・。」


千夏さんがフォローをしてくれるが、ちーさんが語る現実は私の胸に突き刺さる。

私の力は太陽の炎の力。敵に対して強力な一撃を叩きこめるが、

一歩間違えれば味方を傷つけてしまう。

熱のコントロールは難しく、周りの仲間達の皮膚を焼いてしまう事を考えると

距離を取ることができない室内戦には向いていないという判断は至極全うだ。


「急いでいるのは分かりますが、だからこそ伝える言葉を選ばなければならないでしょう?

純恋さんと龍穂君への指摘をされていましたが、目の前で悪い見本を見せてどうします。」


「・・ごめん。」


「・・・・・まあ、分かったわ。」


その点、龍穂は万能だった。全ての距離をカバーできる龍穂一人がいれば

室内戦での私の弱点をすべてカバーしてくれる。


「わがまま言ったのは私の方や。気持ちは嬉しいけど、あんま責めんといてや。」


冷静じゃなかった。自分の状況をまだ呑み込めていたなかったと素直に謝る。

これからは龍穂がいない前提で動く必要がある。それを私が理解していなかっただけ。


「まだ・・・時間が必要みたいや。色々と受け入れるには・・・。」


「純恋さん・・・。」


何と女々しい事か。龍穂が傍にいなければ私は何もできない事を実感する。

だからこそ、なんとしてでも合流しなければならない。

今は無理する必要はないというちーさんのアドバイスを素直に受け入れる。


「自分の状態を理解できるってのはある程度落ち着いている証拠だ。

時間が足りないだけ。綱秀と涼音の事は俺達に任せておけ。」


竜次さんとアルさんが影に沈んでいく。

するとアルさんがこちらに近づき、抱きしめてきた。


「・・やめてください。」


こんなみじめな事はない。自分が愚かだっただけ。ただそれだけ何に・・・

過度に慰められるのはむしろ腹が立ってくる。


「そう?必要な事だと思うわ。」


「今は必要じゃないです。これから・・・もっと最悪な事が起きるかもしれへんのに、

これだけでへこたれる事なんて出来へん。」


龍穂が意識を取り戻す前に襲撃を受けたら・・・ひとたまりもないだろう。

だからこそ焦ってしまう。この焦りは・・・きっと抑えられることは無い。


「ずいぶんとマイナス思考なのね。でも・・・気持ちは分かるわ。」


私の言葉を聞いたアルさんはゆっくりと、優しく離れて膝を軽く曲げて目線を合わせてくる。


「私もそうだった・・・。ショッピングモール襲撃の前、

最期に私だけに会ってくれたの。」


————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


「珍しいわね。どうしたの?」


自分達の役目を果たすため、連絡を絶っていたのにも関わらずメッセージが届いた。

私も感じていたわ。もしかすると・・・白として彼と会えるのはこれが最後かもしれないって。


「久しぶりに顔を見たくなりました。お時間を取ってもらい申し訳ありません。」


寮の屋上。星空は見えないけど・・・月が輝いていたわ。

いつでも雲が見えるほどに光り輝いている都会の空を見ながら・・・二人で話したの。


「やめてよ。二人でいる時は敬語は使わないって約束したでしょ?」


「そうしたいのは山々なのですが・・・この夜空を見てしまうと

どうしてもこの口調が抜けないのです。」


「そうね・・・。大人になった証だわ。」


「そう・・・ですね。あなた達と会えば、昔の様に楽しく語り合えると思っていましたが、

この敬語が身に染みている事を指摘されると理不尽を受け入れ、避けようとする体に

なってしまったことを実感します。」


「あなただけじゃないわ。私も・・・この子の力を借りてしまったもの。

手放しに会える関係じゃないからどうしても保険をかけなきゃいけない。」


さっきみたいにザントマンの力を借りてみんなが起きてこないようにしたわ。

数日後、敵として戦う相手と私が会った所を見られるのは泰国は望まない。


「自分がおっちょこちょいな事をようやく自覚した様ですね?」


「フフッ・・・。ここまでしないと素が出せないなんて不憫だわ。

でも、こまで引き出せた私の勝ちってことでいいかしら?」


「そうですね・・・。完敗ですよ。」


聞いているとは思うけど、私と泰国はあの研究所からの仲でね。

兼定に連れられて旅に出たの。初めは私達にした事の申し訳なさから距離を置いていたけど、

一緒に過ごし、何度も戦場を共にして本当の家族になった。

そうなってからは彼の悪戯好きの素が見れるようになったの。


「じゃあ・・・敬語、やめてもらうかしら?敗者は勝者に従うべきよね?」


「・・・・・そうさせてもらうかな。」


————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


再び椅子に座った私に、泰国さんとの思い出を語ってくれる。


「色々話したわ・・・。今までの事、これからの事。夜が更けるまで・・・いっぱい話したの。」


アルさんが語るのは楽しかった思い出のはずなのに・・・その表情はひどい哀愁に包まれている。


「楽しかった訳や・・・無いんですか?」


「ん?楽しかったわ。でもね、心の中では分かっていたの。

数ある選択肢の中でも、きっと”最悪の結末を迎える”のだろうって。」


「最悪の・・・選択肢。」


「そう。それは現実になった。龍穂を、そして・・・私達を護るために泰国は命を落とした。

分かっていた事なの。でも・・・やっぱり耐えきれなかった。」


天井を見上げ、眼を瞑る。


「体はね、心が動かすものなの。誰もが知っているけど、悲しみには耐えられない。

純恋もそうでしょ?焦っちゃいけない。何とか収めよう頑張ってみるけど

体から焦りがにじみ出てしまう。」


「・・どうすればええんですか?」


「・・・・・どうしようもないわ。」


私の問いを聞いたアルさんは、眼を開けながらこちらを見つめて答えてくれる。


「どう・・・しようもない・・・。」


「そう。どうしようもないの。耐えるしかない。耐えて、耐えて・・・悲しくても耐えるの。

時間が解決してくれるなんて嘘。心の中に後悔が場所を陣取って離れる事なんてない。」


あの時。仙蔵さんの家にあった日記を手にしたアルさんは寮母として復帰を果たしたが、

今の話しを聞いて気付いてしまう。

あの本は・・・アルさんの頭の中に残された泰国さんとの思い出を掘り返した。

それは・・・傷を抉ったに等しい行為。心からは大量の血が流れたのだろう。


「どうやって・・・。」


出はどうやって立ち直れたのか。気になってしまい素直に言葉にしようとするが、

その行為がアルさんの心をどれだけ傷つけるのかを理解し、口を閉ざす。


「受け入れたの。傷を受け入れ・・・生きていく。その決意を、あの日記が与えてくれたの。

彼が恋しくなった時、あの日記が私の頭の中に眠る思い出を鮮明に引き出してくれる。

だから彼を忘れることは無い。思い出の中で生きているから。」


椅子から立ち上がり、こちらに向かって歩き出す。


「あの日記を開けば、思い出と共に現実が傷を抉ってくる。その痛みが、私を支えてくれるの。」


「辛くは・・・無いんですか。」


「辛いに決まってるでしょ?でも受け入れるしかないの。

時間なんて解決してくれない。この先の人生、ずっと引きずっていくわ。

でも・・・あなた達は違うでしょ?」


笑顔を見せながら、私の肩に手を置いてくる。


「私達は・・・違う?」


「ええ。だって・・・龍穂は生きている。命があれば、何度だってやり直せる。

そのチャンスがあなた達にはあるじゃない。」


生きている。たったそれだけで・・・いくらでもやり直せる。

私は、私達はそれをよく知っているはずだ。


「・・・・・そうですね。」


「そうよ。時間が解決するのではなく、その時が来るのを今は待ちなさい。

その時に全力を尽くせるように準備するの。」


同じような言葉でも、少し変えれば意味は大きく異なる。

確かにそう聞けば、少しは心が休まるかもしれない。

結局の所、上手く落とし所を自分で見つけなければならない。

それが・・・理不尽を受け入れる大人と言う事なのだろう。


「・・勉強させていただきました。」


私のお礼を聞いたアルさんは笑顔で返してくれる。

大阪校にいた頃は理不尽を受け入れられずに反発していたが、こういう形なら受け入れられる。

今更ながらここへ来れた良かったと思っていた時、心が大きく跳ねるような感覚が体を襲う。


「・・!!!」


その瞬間、座りながら眠っていた沖田以外のみんなが勢いよく起き上がる。

私達を襲った感覚。それはいつも感じていたはずの感覚であり、

睡眠を妨げるなんてありえないはずだった。


「龍穂・・・。」


心を襲ったのは微弱ながらに感じた龍穂の力。式神契約が元に戻った証であり、

龍穂が意識を取り戻したことを私達に告げていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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