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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第六幕 動き出した黒幕
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第三百二十五話 闇包まれた龍穂達の居場所

「なんやこれ・・・。」


春の影渡りで寮の前に戻ってきた純恋達。

いつもと違う寮の姿に純恋は驚くが、他の四人は見覚えがあった。


「アルさんのお友達達です。どうやら、本当に襲撃があったようですね。」


以前の襲撃を受け、設備を強化していた上に竜次達が待ち構えていた寮に

襲撃を仕掛けるのは無謀。

その無謀を突破しようとする者がいただけでも驚きだと千夏は呟く。


「非常用のシャッターが落とされていますので、脇から入りましょう。」


侵入者を防ぐシャッターが落とされているが、争った跡は見受けられない。

真正面から襲撃を仕掛けるほどの大物ではなかった事を確認しつつ、

交流試合の夜に龍穂達を逃がした時に使ったと思われる非常用扉の鍵を使い中に入っていく。


「上層階に居ると連絡を受けています。他の場所は寄らずにいきますよ。」


学生が使うフロアを過ぎ、重要な上層階に上がろうとした純恋達の視界に写ったのは

激しく争った跡に横たわる無数の妖精達。


「これは・・・。」


「かなり激しく争った様ですね。」


羽の生えた小さな体の妖精達は多くの血を流しており、壁や地面に飛び散っている。

そのどれもが呼吸をしておらず、帰らぬものになってしまっていた。


「アルさんの元へ・・・返さなくてもよろしいのですか?」


妖精達を踏まないように歩こうとする春に楓が尋ねる。


「自然が形となったのが妖精です。このまま放っておけば自然に帰っていきます。

ですが、最期に人の手が入ってしまうと自然と遠い存在に変わってしまう。

楓さんのお気持ちは分かりますが、何もしない事が彼らにとって一番なのですよ。」


見ると妖精達の体は既に細かい光の粒に変わってきており、空気に溶け込み始めている。

人は人。妖精は妖精の還る場所があり、自分の手が加わることで

その理を絶ってしまうのはあまりに罪な事だと、春の背中を追っていく。


「・・ここですね。」


東京結界を移すモニターがある部屋を護る重厚な扉の前に立つ。

この場所を護るための戦いが行われたのか、分厚い鉄の扉は何か所もへこんでおり

扉としての役目を果たすための形を何とか保っている。

春が扉に付いている取っ手を引くが、立て付けの悪くなった扉は軋んだ音を立てるが

広く様子は一向に無い。


「フン!!!」


ここで時間を使う余裕はない。力任せに無理やり引くと、

立て付けの悪い扉ごと引き抜いて横に投げ捨てた。


「相変わらずのご登場だな。」


あまりに豪快な姿に困惑しつつも、声がした先を見るとそこには治療を終えた

竜次達の姿が見える。


「見慣れているでしょう。それより・・・かなりやられたみたいですね。」


「ああ。想定以上だったよ。」


春の後に続いた中に入っていくと、そこには以前見た景色が残されており

ここに人の手が一切絡んでいない事を示していた。


「一つ、残念な知らせよ。ここを襲撃した比留間刃を取り逃がした。

かなり深手を負わせたからすぐさま行動なんてしないでしょうけど・・・。」


「ここを護っていただけたことだけでも十分です。落ち込まないでください。」


奥にはアルとノエルが座っているが、竜次ほどではないが傷を負っている。

アルは意識を保っていたが、その中には疲労からか目を閉じ眠っているノエルの姿があった。


「さて、情報交換と行きたい所だが・・・他の隊員からあらかた聞いている。

兼定の居場所が知りたいんだな?」


イスに腰を掛けた竜次は手元の機器を操作し始める。

東京結界を形成していた神社があった地点が写されるが、その中には兼定の姿はない。


「五つの地点に兼定の姿はない。大社が無くなった土地を護る白や三道省の職員達だけだ。」


「まあ・・・表に出ていれば白の隊員から連絡が入っているはずですし、想定内です。」


「・・こいつら何が目的なんやろ。」


モニターを凝視する純恋が思わずつぶやいてしまう。

大社を破壊し、東京結界を消し去ることで広い地域が危険に晒される。

だが、今の所他の場所で大きな被害は出ていない。

戦力を整えられてない今、攻め込むには絶好のタイミングだろう。


「東京結界を破壊した後、配下達をなだれ込ませる気だと踏んでいたが、

その気配さえない。自分が全力を出せる環境を整えただけかどうか・・・。

正直に言えば、目的は分からない。」


「でも、一つだけ分かり切っている事があるわ。

賀茂忠行は龍穂を狙っている。これだけ大々的な襲撃を仕掛けたんだもの。

ただ命を狙っているだけじゃない。この戦いに勝利し、自らを日ノ本の王とでも

名乗る気なんじゃないかしら。」


これだけの規模の襲撃は自らの存在を世間に公表すると言っている様なものだ。

結界の破壊も含め、賀茂忠行は必ず表舞台に姿を現す。

そこで・・・龍穂を殺し、その血肉を喰らい日ノ本の頂点に立つのだろうとアルは言い放つ。


「そんなことはさせへん!!」


「分かっているわ。だからこそここに私達がいるんだもの。」


「賀茂忠行が出て来そうな場所に兼定は出てくると踏んだが、それも空振り。

このまま捜索を続ければ、後手後手に回るのは目に見えている。」


竜次は立ち上がり、眠っているノエルの肩を優しく叩く。


「戦場の様子を見ての捜索はやめだ。これじゃ手遅れになる。」


「ですが・・・兼定の居場所に繋がる手掛かりはありません。

それとも、竜次は何か心当たりがあるのですか?」


「春。お前が知らないんだ。俺達が知っているはずがないだろう?

ったく・・・あいつはなんでいつもこういう時に何も言わずに・・・。」


ぼやく竜次を春は諫める。優しいままじゃ、いつか取り返しのつかない事になると

説教を垂れるが、これも自分の役目だと呟く。

その姿を見た純恋は何時の日かの桃子の姿と重ねてしまう。

自分の代わりに辛い事を押し付けてしまい、申し訳なくなり頭を下げると

これも自分の役目だと同じセリフを吐き出した。


(なに・・・させてんねん・・・。)


大切な親友だと思っていた。だが、従者という立場で自分が桃子を縛り付けてしまっていた。


(大切な人、なんやろ・・・。)


大切だから、自分の苦しみを押し付けていい訳がない。

理解してくれていると思い込んでいいわけではない。

純恋と桃子。春と兼定。年齢も、立場も違えどやっている事は同じ。

兼定も彼女に居場所や思いを伝えるべきであり、春も兼定に思いをぶつけるべきだ。

だが・・・兼定の姿はここにはない。もう、何もかも遅いのかもしれない。


(それは・・・私も同じか。)


龍穂が勝利すると思い込んでいた自分も同じだ。

大切だからこそ、近くに居なければならなかった。

男同士の戦いに水を差すなんて無粋だと思い込んでいたことを後悔しているが、

今は引きずっている場合ではない。

この後悔を払拭するために龍穂に会う。自分を変えるきっかけを作ってくれた

情けない恩師のためにも二人と出会うため、気合いを入れるために両頬を叩く。


「・・ひとまず!行動せえへん事には始まらんわけやな!!」


何とも言えない不穏の空気を変えるために、純恋がはつらつとして声を放つ。

手がかりも何もない状況でもじもじしている暇は、純恋達に残されていない。


「そうだな。行動することにしよう。」


「それはそうですが、ここに誰かを残さなければなりません。

東京結界の跡地を敵に利用されることはあってはなりませんし、

何よりここには”再展開の鍵”がある。誰かが残っていなければなりません。」


東京結界の再展開に置いての最重要拠点だと春は語る。

再復旧の鍵という単語が純恋達には引っかかるが、尋ねる前に竜次が口を開く。


「分かっている。そのために・・・。」


携帯を取り出し、らひらひらと手を振るように画面を見せつける。


「既に手を打ってあるよ。もうすぐ来るはずだが・・・。」


画面には送信したメールの画面が映し出されいるが、その内容までは見ることができない。

一体何をしたのか理解できずにいると、隠そうともしていない大きな足音が

後ろから聞こえてくる。


「おーおー。派手にやったな。」


「すまねえな。”近藤さん”。」


そこには武道省公安課課長である近藤の姿があり、激しい戦いの跡を見渡しながら

部屋に入ってきた。


「可愛い”元部下”の頼みとあっちゃ、断れねぇからな。」


メールの画面を見せたことから、純恋達がここに来る前に既に連絡をとっており

竜次達の代わりにここで監視をしてくれるのだろうと純恋達は理解する。


「少々お待ちを。」


先ほどまで座っていた竜次のイスに腰を掛けようと純恋達の間を割りながら中に進んでいくが、

進路に春が割って入る。


「あなたは公安課課長です。

この事態にあたっている公安課職員達に指示を送る役目があるはず。」


「おうよ。だからそれを、ここでやろうと思ってな。」


「こんな所では有事の際にすぐに動けません。

長である貴方が動けないと部下達が知れば・・・。」


「まだ頭が回ってねぇな。そんなんじゃ、いつまでたっても長の隣に立てねぇぞ?」


春の肩を叩き、椅子に腰を掛けモニターを見つめる。


「わずかながら・・・お前さん達の事を知っている。

敵はこの日ノ本を手中に収める気なんだろ?本丸は姿を見せないが・・・奴らは

皇を護る奴らを狙ってくるはずだ。」


「・・・・・あなたも狙われると?」


「その通り。ここは武道省内部より安全だ。しかもここにいるっつうことをお前達は知っている。

すぐさま連絡が取れて助けに来れるだろ?」


「ここからは簡単に連絡が取れない状況になります。

そこまで信用されてもあなたを護れないかもしれませんよ。」


分かっているよと呟き手を上げると、公安課の職員達が数人部屋に入ってくる。


「厳選した信頼できる部下達だこいつらと共にここで籠る。少しは時間を稼げるだろう。

後は・・・こいつを連れて行ってくれ。」


職員達の中に純恋達が見知った顔が一つ。沖田の姿があり純恋達と合流を果たす。


「・・状況は聞いています。よろしくお願いします。」


「こいつならすぐに連絡を取れる。それに、少しは戦力になるだろう。」


接近戦のプロである沖田は龍穂のいない木星の部隊にとって貴重な前衛。

少し便りな部分もあるが、戦力は増強される。


「何から何まですまねぇえな。」


「そう言うな。俺がここに留まるってことは、お前達に全部押し付けるってことだ。

ひとまず、拠点を作れ。心休まる所を作っておくことで余裕もできる。」


多くの修羅場を超えてきたのだろう。これだけの事態になっても余裕を崩さない近藤は

早く行けと催促する。


「・・ありがとうございます。」


未だ不透明な兼定と龍穂の居場所。その手掛かりをつかむため、純恋達は動き出す。

動き出した黒幕。日ノ本の王になる野望を持つ賀茂忠行との戦いは始まったばかりだ。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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