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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第六幕 動き出した黒幕
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第三百二十四話 龍穂の行方

無言で向かってくる春の表情は何も示しておらず、

龍穂が無事なのかさえ察することができない。


「・・・・・・・・・・。」


だが、味方であることは確かだ。自分達より早くこの地に来たという事は

何かしらの情報を持っているのだろうと、最低限の警戒をしつつ春の到着を待つ。


「・・お疲れ様です。」


近づいてきた春はねぎらいの言葉をかけてくるが、その口調はひどく疲れているを理解させる。


「・・・・・ここで何かあったのか。教えてくれますか?」


一体春の身に何が起きたのか。本来なら尋ねるべきなのだろうが、

純恋達にそんな余裕はない。


「報告では・・・シュド=メルを取り込んだ綱秀君との戦闘の後、不意打ちを受けたと。

これ以上の詳細は残っておらず、お二人がどこに行ったのかは分かりません。」


最期まで残っていた業の隊員からの記録だと春は語る。

手に持っていたのはボロボロになった刀。何も特徴の無い平凡な刀だったが、

それがここに最後まで残り、少しでも詳細な情報を残してくれたのだろう。


「そう・・・か・・・。」


「ですが、悪い知らせだけではありません。

私もつい先ほどここへ立ってきたのですが、私より先に何者かが来た痕跡が残されていました。」


「・・千仞が回収に来たのかも・・・。」


つい先ほど爆発が起こった地に来る者など限られている。

龍穂を狙った千仞意外に考えられない。


「いえ、そうではありません。」


春は泣き出しそうな楓の前に、何かを差し出す。

そこには一枚の厚紙があり、菊花紋章と背景に山を添えた十六葉菊。

皇と家紋と八海上杉家の家紋が刻まれていた。


「これは・・・皇と八海上杉家・・・。」


「私より先に兼定が来たの証拠です。あの人が龍穂君と綱秀君を持っていったのでしょう。」


兼定の名前を聞いた瞬間、全身の力が抜けた楓は地面にへたり込む。

千仞に龍穂を奪われた訳ではない事が確定して、安堵のあまり緊張から来ていた

体の強張りが全て抜けきった。


「ひとまず・・・龍穂が敵の手に渡っていない事が分かったのは大きな収穫です。

ですが・・・無事が確約された訳ではない。」


「その通りです。先ほど兼定と連絡を試みたのですが、繋がらず。

どうしようかと考えていた所であなた方を見たのです。」


「どうにかして兼定さんと連絡をとらなあかんな・・・。」


業の長である兼定との連絡手段はかなり限られている。

同じ舞台に所属している春が取れないのであれば、純恋達には不可能だ。

だが、それだけで諦めるほど純恋達と龍穂の絆は浅くはない。

直接会えなくてもいい。最低でも龍穂の無事を確認できる手段を模索し始める。


「・・・・・・・ん?」


何か手段は無いかと春に相談を持ち掛ける純恋達と少し距離を置いていた

ちーの携帯電話が震える。


「・・どうした?」


その画面を見たちーはすぐさま電話に出る。少し相槌を打った後に通話を終え、

話し合っている純恋達の元へ歩み寄った。


「少し話しを聞いてもらいたい。」


会話を割ったちーに視線が集まる。視界の端でちーの行動を見ていた全員が

何か打開策に繋がる連絡が入ったのかと、その言葉に注目が集まる。


「綱秀を人間に戻す方法を探していた将と拓郎からの連絡が入った。

魂魄融合を行える白の隊員に接触した二人は、酷い傷を負った綱秀を見たらしい。」


「ってことは・・・。」


「そこに兼兄がいたんだろうな。だが、龍穂の姿はなかった。

報告によれば綱秀の近くに龍穂はいたんだろうからそれ相応の傷を負っているはず。」


では何故、その場に龍穂も置いて行かなかったのか。

四人の頭の中にはもう手遅れの文字が浮かび上がる。


「将もこの状況を少しは知っていてね。察しは付いているから龍穂が何でいないのかと

尋ねたみたいだ。」


「・・気遣いは無用です。結論をお願いします。」


「ああ、ごめん。一応話の道筋に沿って話そうと思っていたからさ。

結論から言えば・・・”龍穂は生きている”。その場にいた医者を一人連れて

別の所で治療させるって報告を受けたから間違いないよ。」


求めていた言葉を受け取った全員の表情はほんの少しだけ明るくなる。

だが、その代わりに大きな謎が一つ残された。


「なんで・・・龍穂だけ別の場所で治療させる必要があるんや・・・?」


「分かりません。我々はそれを知る必要がある。」


そう言うと春は携帯電話を取り出し僅かな操作の後、耳に当てる。

居場所が分からない兼定に連絡を取ろうと試みているのかと純恋達は思ったが、

あまりに早く口を開いたことから協力者に連絡を取ったのだと察した。


「そちらは?・・・ええ、ですが困ったことが一つ。兼定と連絡が取れないのです。

・・・はい。・・・・・分かりました。兼定がいない場合、私が長代行です。

状況把握も兼ねて、一度そちらに向かいます。」


簡単に会話を終え、千夏達に向かって口を開く。

一体誰に連絡を取ったのか。内容からは察することができない。


「ここにはもう情報はありません。移動しますよ。」


「何処へ・・・ですか?」


「国學館の学生寮、月桂寮です。あそこには戦闘を終えた竜次達がいます。

彼らと合流して情報を交換しましょう。」


「でも・・・さっきまで戦ってたんやろ?情報なんて・・・。」


龍穂のために身を潜めていた純恋達は自分達の選択が間違っていたという後悔に

心を蝕まれており、それが焦りへと変わっていた。


「冷静に。こうした緊急時こそ周りを見て行動しなければ

本当に大切なことを見落とすのです。」


その心情を理解している春はしっかりしろと声をかける。

何時も龍穂ともに戦ってきた。危うい所はあるが、その圧倒的な強さは

精神的支柱であったことがその動揺から伝わってくる。


「今、龍穂君は意識がない。動くと事の無い彼からはこれ以上の情報は生まれない。

であるのなら、彼の居場所を知る兼定の方を探した方が龍穂君と出会う確率が格段に高い。

恐らく龍穂君を護るために姿を隠しているのでしょう。

ですが彼は業の長。今は私が代理ですが必ず表に姿を現す。

そのタイミングを逃さないためにも、この戦いの鍵を担っている月桂寮に向かうのです。」


東京結界を一目で確認できる寮の上階であれば、千仞の次の狙いが分かるはず。

これ以上東京を荒されるわけにはいかない兼定は必ずその場に姿を現す。

それに竜次達は強力で、確実な味方であることは間違いない。

千仞の動きが激しく、兼定までたどり着けないなんてことは万が一にも起きることは無い。


「いいですね?」


純恋達との距離を詰め、答えを尋ねる。動揺が収まることなく、冷静になれない純恋達だが

春の言い分が至極真っ当な事だけは理解できる。


「・・分かりました。」


少し距離を置いていたちーと共に純恋達は春の影に沈んでいく。


「・・大丈夫です。必ず見つかります。」


皇に仕える業である前に、彼女は生徒達を教え導く教師。

その身に秘めるポテンシャルを未だ引き出せていない彼女達がここで折れてしまわないように

導くことも大切な仕事の内の一つ。

兼定は決して龍穂を死なせたりしないと、優しく声をかけると

瓦礫の平野から姿を消した。


———————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


「・・頼めるか?」


真っ白な部屋の中。黒いスーツを身にまとった兼定は血が繋がらない家族に向かって尋ねる。


「やるだけやるが・・・短い時間じゃやれることは限られるぞ。」


「分かっている。」


部屋の内観に合わせた真っ白なベットの上には血まみれの龍穂の姿があった。

人体の弱点である後背部からの衝撃は龍穂に致命的なダメージを負わせ、

呼吸は浅く、このままであれば命を落としてしまうだろう。


「・・しかし、名状しがたき者の力は偉大だな。

あれだけの一撃を喰らってにも関わらず、体を維持している。」


「黄衣のおかげだ。後は・・・頼んだぞ。」


清潔そのものの様な白衣に身を包んだ男の話しを軽く返すと、

兼定は逃げる様に部屋を後にした。


「・・・・・・・・・・。」


シュド=メルを仕留めきれなかった。その話は当然知っていた。

気に留めていなったわけではない。だが・・・過信していた事は確かだ。


「大きな失態を・・・犯しましたねぇ。」


真っ暗な廊下に響く男の声。その声に反応した兼定は足を止める。


「・・・・・ああ。」


「ハスターの主を失えば、我々に勝ち目はない。一体どうするおつもりですか?」


「どうするもこうするもない。道筋は変えられない。」


「あなたらしくない。こういう時、いくつかの選択肢を持っておけと

家族達に言っていたのはあなた自身でしょう。」


かつて、親友と共に白の部隊を率いていた時の事。

日ノ本にたどり着くまでに多くの家族達を失ってきた兼定達は、

窮地に陥った時のために進路や退路、回り道などいくつも用意しておけるように

視野を広げて様々な選択肢を持っておけと常日頃から周りに教えてこんでいた。


「・・俺に取れる選択肢は、もう無い。全部・・・置いてきちまったよ。」


「本当にそうでしょうか?確かにあなたは多くの者を失ってきた。

未熟なあなたを庇い命を落とした者。宇宙の神によって心を乱され自ら命を終えた者。

そして・・・大切な親友もです。ですが、それでもあなたの手の中には仲間達がいる。

取れる選択肢は・・・まだあるはずですよ?」


影から聞こえる男に問いに、兼定は何も応えず廊下を歩いていく。


「・・逃げられましたか。」


ここまで、多くの者を失い続けてきた。唯一の希望である龍穂を失いかけた現実は、

ボロボロになっていた兼定の心に深刻なダメージを負わせるのに十分な衝撃だった。


「さて、そろそろですか・・・。」


誰もいなくなった漆黒の廊下に足音だけが響く。

彼もまた、兼定共に歩んで来た者の一人。だが・・・決して家族ではない。


「アミューズからポワソンまでは完璧でした。

あとはメインディッシュと・・・デザート。楽しみですねぇ・・・。」


暗闇に響く足音は兼定が歩む方向とは真逆に進んでいく。

この戦いの行く先。兼定と龍穂の行く先は一体どこなのか。

男の小さな笑い声が響き、足音は闇に溶けていった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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