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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第六幕 動き出した黒幕
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第三百二十一話 厳しい現状報告

「龍穂、大丈夫やろうか・・・。」


涼音の避難を急ぐ桃子が呟く。


「・・何がや。」


「いや、いつもなら誰か残っとったやろ?一人で戦って負けなんてしたら・・・。」


皇の一族が使う病院。ここであれば意識を失くした涼音を安心して置いていけると

純恋が判断して連れてきていた。


「負けるはずないやろ。」


何時も龍穂を心配している純恋は間を置かずにすぐさま答える。


「いや、何があるかわからんし・・・。」


「何が起きても、天地がひっくり返ってもや。綱秀は龍穂に勝てん。

あの二人にはそれだけの力の差がある。」


「でも、シュド=メルの力を持ってるし・・・。」


龍穂を思う気持ちが不安へと変わっている桃子に対し、大きなため息を吐いた。


「江ノ島の時を思い出してみい。かなり手間取っとったけど、結局は龍穂の圧勝や。

しかも最期を綱秀に渡すほど余裕があった。それだけ実力差があったっちゅうことや。」


冷静な分析を聞いた桃子は目を丸くしながら純恋を見つめる。

今の発言が意外だという視線を向けられた純恋は不機嫌そうになんやと言い返した。


「いや、私がいないといけないってすぐに駆けつけると思ってたから・・・。」


「そりゃ私らがいたら龍穂は強くなる。自分の使命に巻き込みたくないって必死に戦うからや。

やけど、だからこそ敵の無力化の選択肢を間違えてまう。

そうすれば私らは龍穂の近くにおれへん。

今は私の力を強く取り込んでいるからその選択を間違えることは無い。それに・・・。」


「それに・・・?」


「あの戦いに首を突っ込むほど、無粋やない。

大した意味も無い、意地と意地をかけた男の戦いや。下手に加戦したらそっちの方が

後で因縁が残ってしまうからな。」


あの戦いに意味はない。いや、龍穂からしてみれば自分の使命に綱秀を巻き込んだ形で起きた

戦いなのだが、綱秀には賀茂忠行への忠誠なんてこれっぽっちも無い。

互いの誇り、意地をかけただけの戦いは純恋達にとってしてみれば

そんな不毛な事をする必要はないとすぐさま止めに入るような戦いだが、

綱秀にとってしてみれば命を懸けるに値する重要な一戦だ。


「・・・・・そっか。」


「いた方が後々面倒なことになるんなら絶対勝つ龍穂に任せて当然やろ。

そんな事より、私らは私らの仕事をするべきや。」


意識の無い涼音を空いている病室のベットに置き、書置きを枕元に置いた二人は

病棟の廊下を歩き、待機している楓と千夏の元へ歩いていく。

外部からの連絡が取れる部屋を借りた純恋達は、東京の広い範囲で行われている襲撃についての

情報整理を行っていた。

東京五社と呼ばれる大結界を敷くための要が襲撃を受けているという事は純恋達の耳にも

当然入っており、実力差のある綱秀をぶつけてきた分かりやすい時間稼ぎは

龍穂を支える四人の頭を悩ませるのに十分な情報だった。


「・・どんな感じや?」


部屋の扉を開き、携帯を使い連絡を取っている千夏に尋ねるが

深刻そうな表情は純恋の声を阻む。

東京の結界を壊すという事は、この国の首都を襲うと宣戦布告していると同義。

マヒしている三道省も各長官がなんとか動かし対応していると聞いているが、

出現した深き者ども達の数は多く、時間が経てば劣勢に追い込まれる事は火を見るより明らか。

だからこそ、龍穂の動きが重要。単騎でも、大軍であっても難なく対応できる

龍穂という切り札を何処に切るか。それを導く純恋達の判断が

日ノ本の未来を握っていると言っても過言ではなかった。


「大変そうやな・・・。」


連絡を取っているのはちー。各地で戦っている白達を統括しているちーとゆーの二人が

有益な情報を持っている。


「こんなことをしていてもいいんでしょうか・・・。」


今はただ待つ事しか出来ない状況にもどかしさを感じた楓が思わずつぶやく。

強大な力を持つ龍穂を支える立場であるが、この四人も相当な力を持っており

龍穂の帰りを待つ前に戦場に出た方がいいのではないかという葛藤に苛まれていた。


「大丈夫や。今は龍穂の帰りを待つことが最善。」


「でも・・・。」


不安そうな表情で千夏に視線を向けた楓の頭を純恋が撫でる。


「私も戦った方がええと思うのは間違ってない。

だけど、敵からしたら私らが動いた方が都合がいいはずや。」


「都合がいい・・・?」


「龍穂はここまで千仞に対して猛威を振るってきた。

仙蔵さん達みたいな人もおったけど、幹部級の奴らの数を減らしたのは龍穂や。

かなり大胆な作戦を仕掛けてきてはいるが、賀茂忠行の事も考えると

結局は龍穂を倒すことを最終目標としているはず。じいちゃんはその後でどうにでもなる。」


敵の狙いを冷静に分析する純恋の言葉を楓はじっと見つめながら耳を傾ける。


「そんな中、私らが動いて倒されてでもしてみい。

せっかく陰陽のバランスを整えた龍穂の心は陰で支配され必ず隙を生む。

今はじっとこらえて、龍穂ともに戦場を駆ける。

八海からここまで龍穂に仕えてきたんやろ?腹くくっていこうや。」


先ほどまで心配そうな表情を浮かべていた桃子だが、楓を鼓舞する純恋の姿を

優しい目で見つめる。

楓と同じ様に、二人も遠くからここまでやってきた。

精神的に未熟だった純恋が、同じ立場である楓を引っ張っている姿は間違いなく成長の証。

その姿を見れた事だけでも、やってきた良かったと実感する。


「・・そうやで。私達は私達にしかできない事をするべきや。」


だが今は感慨に浸っている状況ではない。

楓の不安は龍穂の従者だからこその不安。使える主人は違えど同じ立場であり、

一つ上の自分が支えなければどうすると足を動かし楓の隣に立つ。


「従者の不安は主人にも伝わる。龍穂が帰ってきた時に胸張って大丈夫だと言ってやることが、

龍穂にとって何よりも安心する事やと思うで?」


「・・分かりました。」


今までであれば千夏が前に出て全員を鼓舞し諭してきたが、その背中には大きな使命がある。

大きな負担に潰されないためにはその役目を誰かが引き受けなければならない。

成長したとはいえ、純恋の精神的にはまだ幼い部分が目立つ。

一つ年下である楓は冷静な判断が出来るが、まだ負担が大きすぎる。

状況によっては純恋の隣ではなく、前に立つことも必要だと自らを奮起させた。


「・・・・・ええ。了解しました。ひとまず、そうさせてもらいます。」


全員が覚悟を決めた後、まるで見計らったかのように千夏が電話を切る。

その表情は未だ暗く、状況が好転していない事を示していた。


「どうやった?」


「・・東京五社の内、三つが陥落。大社を破壊され機能が停止しているとのことです。」


「それは・・・マズいな。」


現代では蘆屋道満が使ったようなたった一つの術式で張ることができる結界が主流となっている。

手間もかからず、比較的簡易的に晴れるという理由で多く採用されているが、

広範囲で強力な結界を張る場合、強力な神力と術式をいくつか用意し、

それらを点で結ぶことによってその範囲内で結界を張るという結界術が採用されている。


「再生は・・・難しいか。」


「ええ。失われた技術ですからね。」


防御に特化した神術であるため、日ノ本の歴史上で多く疲れてきた技術だが

その術式のほとんどが記録として残されていない。

その理由として、解呪される危険性が問題視されたからにある。

結界はその特性から常に多くの神力を消費する必要がある。

強力な結界のため人の信仰心だけでは到底賄えない神力を必要とするため、

神社とは別の供給源から神力を吸い上げている。


「大社は崩壊しましたが、深き者ども達の掃討には成功しています。

龍脈の確保には成功していますから、今は大丈夫かと・・・。」


その供給源こそ龍脈であり、その力を使う事で結界が張られ続けている。

もし結界を解除し、無防備になった龍脈を悪用する輩が現れれば日ノ本が危険に晒される。

その危険性を鑑みた皇が神道省や当時の陰陽寮に指示を出し、

東京結界のような巨大な結界の術式を全て消し去っていた。


「・・残りの二つはどんな感じや?」


「大社の破壊を阻止し、深き者ども達の掃討に成功したと報告を受けています。

ですが・・・。」


龍脈が確保され、未だその二つの大社、すなわち術式が残っている。

時間はかかるが東京結界の再生の可能性が残っており、まだ希望が残されているにも関わらず

千夏の表情は暗いまま。


「破壊された三つの大社。それが・・・東京大明神、日枝、大國魂なのです。」


「的確に痛い所を突いてきたな・・・。」


破壊された神社の全てが天津神や国津神を主神として奉っている。

強大な結界を張る場合、多くの神の力を借りる必要があり、

再びその神々の力を引き出す手間を必要がある事を示していた。


「でも・・・明治神宮と靖国神社は残されているんですよね?」


「ええ。ですが・・・明治神宮は以前の皇を主神とし、靖国に至っては過去の英霊達が

眠る場所として使われています。

あまり比べたくはありませんが・・・他三つの働きと比べるとどうしても劣ってしまう。

残された神道省の高官達を総動員しても、早急な結界の再展開は難しいでしょう。」


千仞の電撃的な動きに見事やられてしまった事実は四人に衝撃を与える。

だが、起きてしまったことに意識を向け続けていられるほど、

彼女達は修羅場を超えてきてはいない。


「・・・・・結界が無くなった影響はどんな感じや?」


「東京結界は日ノ本に脅威をもたらす者を弾く効果を持ちます。

仮に強行突破を図ったとしても、その力を制限する。強い力を持てば持つほど

その力を発揮しますので、賀茂忠行が本来の力を発揮してしまうという事になります。」


「そうか・・・。無い物に頼りたくはないけど、結界の再展開の方法を考えなきゃならんな。」


賀茂忠行と龍穂の決戦は避けて通れない。龍穂を支える者として

賀茂忠行の力を抑えられる東京結界の再展開は必須。

無謀に近いが、その方法を探すのは自分たちの役目だと純恋は言い放つ。


「じいちゃんに話しを聞こうにもどこにいるか分らんし、神道省はあの状態。

業の長の兼定さんに話しを聞くにも・・・これもどこにいるか分らんか・・・。」


わずかな希望を持つ者も連絡が付かない状況。調べる手立てが無い状況では

動く事さえ出来ない。四人の中に沈黙が流れる。


「・・・・・あっ。」


だが、何かを思いついたように楓が小さく声を上げると重い沈黙を引き裂く様に口を開き始めた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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