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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第六幕 動き出した黒幕
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第三百十九話 愛する者の叫び

増幅する魔力。それは俺の本能に強い危機感を知らせてくる。


『雑魚である奴の力をこれほどまでに引き上げるとは・・・。

契約者の技量は相当だな。』


ただ相性が良かっただけでは説明が付かないほどの魔力。

そして・・・とうとう神力まで上がりつつある。


「・・・・・・・・・・・・。」


綱秀は・・・姿を変えるつもりだ。そこまで踏み込めばもはやに人ではなく、

もう元に戻れなくなってしまう。

俺は目の前で・・・親友が再び化け物になる所を見なければならないのか。

だが、止める術など・・・俺は持っていない。


「はぁ・・はぁ・・・綱秀!!」


無理やり止めるのか。それとも変わった姿の綱秀を受け入れ戦うのか悩んでいると、

聞こえてきてはいけない声が聞こえてくる。


「涼音・・・!?」


「何・・・してんの・・・?」


振り返ると、そこには汗を流しながら立ち止まり、

魔力に包まれている綱秀を見つめる涼音の姿があった。

悲しみ、驚きが入り混じった悲壮感溢れる表情で見つめる涼音。

同級生として、そして・・・綱秀の親友として。涼音をここに来てほしくはなかった。


「アンタ・・・お父さんに会うって・・・。」


「・・・・・・・・・・。」


目の前で起きている光景は、涼音が一番避けてきた最悪の現実。

国學館で救われた綱秀を助けるため、自分を犠牲にしてまで罪を背負った涼音が

必死に避けてきた結末だ。


「どうして・・・ねえ・・・・。」


「これは・・・俺の戦いだ。俺が望んでここにいる。涼音には————————」


それ以上は言ってはならない。そう言いかけた時、力の塊が一瞬にして氷つく。


「バカ!!何言ってんだ!!!アンタが化け物になったら・・・

私は一体どうやって生きていけばいいのよ!!!」


綱秀の行動に、怒りを爆発させた涼音は涙を流しながら魔術を放ち始める。


「綱秀が生かしてくれた・・・。私の人生は、”あの時で終わっていたはずなの!!!”」


俺が入学する以前、国學館襲撃。そして・・・修学旅行。

多くの被害を出したあの事件達で涼音は本来檻に入るはずだった。


「綱秀がいなかったら終わっている人生で・・・アンタがいなくなったら、

私は生きる意味が無いの!!なんでそれが・・・分からないのよ!!!!」


三道省内部にあれだけ千仞がいたんだ。

逃げ場のない俺に入れば涼音は一体どうなっていただろうか?

それを綱秀は救い出したんだ。その責任を負わず、自分の人生を優先してしまえば

涼音は生きる意味を失ってしまう。


「・・・・・・・・・・。」


反撃もせず、ただただ無言で涼音の攻撃を受け続ける綱秀。

どのタイミングでシュド=メルに唆されたのか分からないが、あれだけの決意を持って

涼音を守り続けた綱秀だ。迷わないはずがない。


「アンタがそっちに行くなら・・・私が止めてやる!!!

龍穂になんか手を出させない・・・!!!私が殺してやる!!!!」


怒り、悲しみ、嘆き。全ての感情を綱秀にぶつけるが、氷の中の綱秀は

びくともせず聞いている素振りさえ見せない。


「アカンで涼音!!」


狂気の中、感情を爆発させている涼音を引き留めようとやってきた桃子が

後ろから抱きかかえるが、すぐさま振り払い攻撃を止めることは無い。

後先考えず、たった一人で俺と戦い決意を決めたんだ。

大切なパートナーである涼音を前にすれば、綱秀はどうすることもできないだろう。


『・・・・・楓。』


『分かっています。』


だが・・・綱秀の体の中にいるシュド=メルの支配が進めば涼音の身が危ない。

出来ればあの氷で綱秀の頭を冷やしてもらいたいが、二人のこの先の事を考えた時、

無事なままで退いてもらうのが一番だと楓に指示を送る。


「手荒になりますが・・・。」


振り払われた桃子がすぐさま駆け寄ろうするが、兎歩で素早く涼音の背後に回り込んだ

楓が懐から何かを取り出し涼音の口元を覆う。


「!?」


「我々も龍穂さんの近くに居ましたから、涼音さんの気持ちは分かります。」


涼音の鼻と口を覆ったのは黒い布。ここからでは見えにくいが何かを染み込ませている。

魔術や神術で止めようとすれば、感情を暴れさせている涼音と言えど感づかれて

逃げられてしまうと判断したのだろう。


「はなし・・・!!」


「無事では済まないでしょうが・・・龍穂さんは必ず綱秀さんを生きて涼音さんの元へ届けます。

その怒りは、その時に取っておいてください。

貴方を救うと決断した雄姿は嘘だったのかと・・・優しく抱きしめてあげてください。」


布に染み込ませた何かを吸い込んだ涼音の意識は一瞬で遥か彼方へと飛んでいき、

その姿を確認した楓と桃子は影に沈んでいく。


「龍穂さん!!!」


影に沈み切り、綱秀の身にまとう氷が砕け散ったその時。

入れ違いに声をかけてきたのは後輩達を避難させていた火嶽の拓郎が駆けつけてくれた。


「無事ですか!?」


「ああ。それより二人共・・・。」


得物を持ち、黒い力に包まれる綱秀に切先を向けようとする二人の前に手を出し静止させる。


「俺がやる。近づくな。」


涼音といい後輩達といい・・・。綱秀は一体なんてことを俺達に押し付けてくれたのだろう。

厳しくも優しい先輩が闇に落ち、俺達の前に立っているなど・・・なんて説明すればいい。


「・・事情は聞いています。共に戦わせてください。」


火嶽達は既に事情を知っており、他の所への加勢ではなくあえて

こちらに来てくれたのだと察する。


「・・・・・そうか。」


「あの姿。力を蓄えているみたいですね。」


「この隙に作戦を・・・。」


戦いたくない相手であるはずだが、それでも二人は綱秀を止めようと奮起してくれている。


「・・いや、二人には俺の頼みを聞いてもらいたい。」


「頼み・・・ですか?」


流れのままに戦う事を選択したが、化け物になったとしても綱秀を殺したいとは

微塵も思っておらず、楓の言う通りどんな形であったとしても五体満足で救いたいと思っている。

それが俺が出来る綱秀に対する罰であり、後は涼音や他の人に重い罰を与えてもらう他ない。


「ああ。あの状態の綱秀を倒して治療したとしても、いつああなるか分かったもんじゃない。

式神契約か何なのか分からないが・・・魂から無事にシュド=メルの力を引きはがせる方法を

二人には探って欲しい。」


全てを元通りにとはいかないだろう。だが、最善を尽くさなければならない。

神の力を体に取り入れているという事は必ず魂に契約を結んでいるはず。

それを引きはがすことが出来れば・・・綱秀を人間に戻せる。


「力を引きはがす・・・。でも、仮に式神契約だったとして、あの強力な契約を

断ち切るなんてことは・・・。」


難しい技術だ。楓の時の様に一度命を落とす以外の方法で

契約を断ち切る方法なんて無いのかもしれない。


「・・いや、あるかもしれません。」


僅かな希望にかけて二人に頼んだが、火嶽はそのわずかな光を知っていると言い放つ。


「本当か?」


「ええ。龍穂さんもご存じの技術。魂魄融合の技術があれば出来るかもしれません。

あの技術は複数の魂を一つの形にくっ付ける技術ですが、それは魂の捜査が出来ると言う事です。

例えば・・・魂の一部。契約を結んでいる所だけを取り除くことが出来れば

命を落とすことなく契約を断ち切ることが可能だと思います。」


確かに魂魄融合の技術を使えば、契約を断ち切ることができるかもしれない。


「ですが、これはあくまで机上の空論です。それが出来る方の手が空いているとも限らない。」


「分かっている。大変だがそこら辺を含めて・・・頼めるか?」


何も手配が無い状況だが火嶽達に託すしかない。

兼兄が近くにいれば相談できるが・・・いない人を頼りにするほどの余裕はない。


「了解しました。」


「・・綱秀さんをお願いします。」


俺の頼みを受け入れた二人は影に沈んでいくが、去り際に正気に戻してくれと

代わりに頼んでくる。


「・・綱秀。お前、分かっているのか?」


俺の問いに力の中にいる綱秀は何も応えない。


「お前を思ってくれている人が何人もいる。

俺との戦いに執着した事で、その大切な人達の信頼を失ったんだぞ。」


涼音、火嶽達。この事件を知った人達の全員が綱秀のことを心配している。

これだけ慕われているのにも関わらず・・・

一体この先どうやって生きていくつもりなのだろうか?


「・・それがどうした。」


だが、ここまで事を起こした綱秀は悪ブレる様子さえ見せず平然と返して見せる。

その言葉に怒りが込み上げてくるが、二つの声が混ざったような返事を聞き

冷静を取り戻した。


「こんな機会・・・二度とないんだ。

お前を倒し・・・”あの方に忠誠を誓う機会を逃すわけにはいかない”。」


あの方・・・。綱秀の意識が徐々に薄れている。

あのような光景を目の前で見たんだ。自らの行いに疑問を持った綱秀の自我を

シュド=メルが抑えにかかったのだろう。


「貴様は・・・私が殺す。全てを失う覚悟の上でこいつが望んだことだ。」


「・・お前がそう唆したんだろ。」


包み込む力はさらに大きくなり、同時に形を変えていく。

奴が綱秀の自我を奪ったという事は・・・言葉で動きを止めるのは不可能になった証だ。


「唆した?何を言っている。今の姿は私を受け入れた結果だ。

恨めしく思っていたんだよ。こいつは・・・お前を、あの愚かな亡霊のようにな。」


恨めしく・・・か。全てを支配できるこの力は、確かに魅力的だ。

だが、綱秀も強力な力を有しており、極めていけば敵う者など数えられるほどの

強さを身に付けられたことだろう。


「・・目ざわりとは言わねぇ。お前を超える壁として俺は認識している。

だから・・・殺されてくれ。」


今度は綱秀の自我が表に出てきた。シュド=メルの言葉に応じた魂が同調してきている。

そして・・・形を変え、膨張を続けていた力が破裂し、

中から出てきた綱秀の姿は・・・人ならざる姿へと変わっていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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