表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第六幕 動き出した黒幕
318/333

第三百十八話 嫉妬の矛先

「天の黒牡牛グガランナ。」


綱秀を倒すために、黒牛を作り上げる。


「出してきたな・・・。そいつで俺を倒す気か?」


「それがお望みなら・・・そうしてやるよ。」


こいつの突破力なら、綱秀の攻撃を難なく突破できる。

後は・・・周りの配下達。他愛もないが・・・邪魔されると厄介だ。


「黒牛の群流星タウリッド。」


奴らに向けて、無数の流星を打ち放つ。

既に体に黄泉の炎を身にまとっているが・・・関係ない。

奴らの体には大きな風穴が空き、次々と倒れていった。


「簡単にやってくれるな。だが、そうじゃなきゃ、俺がここまでした意味がない。」


配下達を倒されても、綱秀は悲しむ所か嬉々とした笑顔を浮かべる。

こんなものであいつが怯えるなんて・・・思ってもいない。


「・・お前が見てきたように、敵としてお前を叩き潰す。覚悟は良いな?」


「変な確認して来るなよ。そんな弱いのお前じゃ、殺す価値も無い。」


殺す・・・か。本当に変わってしまったんだな。

覚悟は決まっているが、いざこの姿の綱秀を前にすると悲しみが心を襲う。

だが、もう振り返ってはいけない。何故ならその背中をこいつは躊躇なく襲ってくるからだ。


「・・そうだな。」


覚悟があるのなら・・・俺は答えなければならない。

どういう形であれ、綱秀が俺との戦いを望んでいるのであれば・・・。


「行くぞ。」


いつもの道場の様に、そして転校初日の時の様に。

俺は立ち会うのみだ。


「フン!!!」


綱秀は再び背中に生えた触手を伸ばし、俺に向けてくる。

らしくない。いつもならその手に持っている得物を持ち、俺に仕掛けに来るはずだ。


「・・・・・・・・・・・。」


だが、あいつがわざわざらしくない事をしてくる時。必ず何かを狙っている。

対処する事は簡単だが・・・単純に行けば厄介な事になるかもしれない。

そう考え、あえて身を躱して避けて見せる。


「やったな。お前の悪い癖だ。」


そう。これは俺の悪い癖。深く考える事で瞬間的な判断を疎かにし、

対処できるにも関わらず、兎歩などで避けるという簡単な選択肢に逃げてしまう。

俺の行動を見て、にやりと笑った綱秀の意図。地面から突き出てきた触手という答えで

見せつけてきた。


「・・それくらい分かっているよ。」


お互いを高め合うための立ち合いの日々の中で綱秀は何度も俺に指摘してきた。

耳に胼胝ができるほど指摘されてきたことを、俺が忘れるはずがない。


「黒い恒星ブラックホール。」


バレないように作り上げたブラックホールを生えてきた触手に向ける。

俺の肌に突き立てようとした矛先は、引力に引っ張られ俺に届くことは無い。


「お前の手の内は分かっているよ。」


「お互いにな。」


見たことの無い姿。そして・・・立ちはだかることの無い黄衣の姿であっても、

お互いの行動を察し、見たことの無い手札でも対応できてしまう。


「じゃあ・・・今度は俺から行こう。」


生ぬるい小手先の戦いをしてばかりでは埒が明かない。

このまま平行線をたどれば他の場所の対処が遅れてしまう。


「・・黒き女神アルテミス。」


ハスターが住まうおうし座に含まれるプレアデス星団。

その名の由来はギリシャ神話に出てくるプレアデス七姉妹から来ている。

俺が使う黒いケライノーもその中に含まれ、彼女達が使えるのが月の女神と呼ばれる

アルテミスだ。

月とは夜の象徴。夜の女神は他にもいるが彼女もまた、夜の支配者の一人。


「へぇ・・・。新魔術か。」


「行動を読まれるんなら、新手を出してやろうと思ってな。」


綱秀と俺との違い。得物、戦い方。様々あるが、一番の違いは手札の数だ。

以前純恋が言った通り、俺の風は様々な扱いが出来る。

それらを俺が身に着けた知識と駆け合わせれば、具現化して扱う事が可能だ。


「矢を注ぐ地母神の狩り(アルテミス・キニギ)。」


俺の合図共に作り上げた黒い弓矢を天に放つ。

弟のアポローン共に弓の逸話を持つ女神の矢は強力。

俺の破壊の風と組み合わされば綱秀を圧倒できる。


「何だよ・・・。新魔術と聞いて身構えたが、俺の真似事じゃねぇか。」


大量の矢が打ち放たれ、ここから落ちてくるというのに綱秀は焦る素振りは見せない。


「八幡・・・!!!」


俺の攻撃に対応するため、八幡神との神融和を行う。あれは・・・豪雲さんが使用していたはず。

まだ修行の身である綱秀は神降ろしが精一杯のはずだ。

俺だけを狙えばいいはずの戦いなのに、肉親である豪雲さんと戦った理由。

同じ八幡神の力を使う者同士、どちらが上か見せつけどちらが使用者か

認めさせるためだったのだろう。


「八島平定の矢陣やしまへいていのやじん!!」


そして携えた弓に矢筈をかけると、引かれた矢が光出し空に向かって撃ち放つ。

あの時、交流試合で見せた雨の様な矢を見事に強化させてアルテミスの矢を向かい打った。


「お前が使う術。見たもの、見た景色。それらを動員して作り上げている。

結局は猿真似だ。どれだけ新しい術を作っても、お前の近くにいた俺なら想像がつく。

対応するのは簡単だ。」


鋭い指摘で俺の弱点を突いてくる。

綱秀の言う通りだ。アルテミスに使わせた術は、綱秀の真似事。


「そうかな?お前は確かに近くにいたが、隣に立っていたわけじゃない。」


だが、決して猿真似じゃない。ただ真似ただけじゃ力をつけたあいつに勝てるわけがないことは

分かっている。

光る矢が対照的な黒い矢を迎え撃つために天に向かっていたが、

降り注いで来たのは矢の形を成していない。


「美しい愛娘(カリスト―)。」


天に届かず落ちてきた矢は形を変え、クマに姿を変えている。

アルテミスは山の女神であり、山に住まう獣たちを引き連れていた。

その中でもクマとかかわりが深く、彼女を奉る祭りでは熊の装いをした踊りが催されていた。

そして・・・彼女の娘。美しい女神であるカリスト―はなんと熊の姿に変えられてしまった。

その姿に変わってしまった訳にはいくつかの説があるが、

その中にはアルテミスの怒りを買ってしまい熊に変えられてしまったなんてものも存在する。

その伝説を見た時はなんて仕打ちだと思ったが、怒りのままに熊に姿を変えたものの純潔を破り、嫁に出る彼女を手放したくなかったのかもしれない。


「なっ・・・!?」


戦いの神である八幡の矢は強力。だが・・・彼女達も神に仕える聖獣達だ。

向かってくる光の矢を鋭い牙でかみ砕き、全て折って見せる。


「集まれ。」


このまま地面に落とし数で追い込んでもいいが、あいつはシュド=メルの力を未だ見せていない。

分散して数を増やすより、一つにまとめてグガランナ共にぶつけた方がいいだろうと

全てを集めて大熊に姿を変える。

そして綱秀の前に降り立つと雄たけびを上げた。

八幡神とシュド=メルの力を体に入れた綱秀だったが、カリストーを前にして

身構える以外の選択肢を取ることは出来なかった。


『ふむ・・・。なかなかやるな。』


目の前にはカリスト―。後ろにはグガランナとアルテミス、そして俺。

これで俺の優勢だ。まだ綱秀は力を出し切っておらず、ここからどう立ち回ろうかと思っていると

ハスターが珍しく褒めてくる。


『いや、お前ではない。あいつの事だ。』


『綱秀・・・か?』


今まさに追い込まれている綱秀を褒めた意図が分からずと、よく見てみろと促される。


『あやつ、二つ同時の神融和を行っておる。

しかもだ。我らと地球の神を上手く飼いならしている。』


『確かに・・・。』


一つの体に二つの魂を取り込んでいる。

人間の魂は陰陽という二つの属性で分けられており、その属性に沿って

もう一つの魂を込めるのは比較的簡単とされている。

だが・・・さらに一つ増えるとなると、話しは大きく変わってくる。


『かなりの手練れでなければ三つの魂を配分を間違えずに取り込むなど出来ん芸当だ。

それに、そもそも適性が無ければ我らを体に取り込むことも難しいだろう。』


魔術をあまり得意としない綱秀は、神術と武術に特化した戦いを好む。

俺の様に手札は少ないが、手にある札の質を上げてここまで戦ってきた。

二体の神を体に入れる事が出来るのも・・・頷ける。


『・・俺に出来ると思うか?』


『できない訳がないだろう。だが、今は試すべきではないな。』


二つの魂を体に入れ、尚且つ配分も均等にするとなるとそれなりの時間を要する。

既に戦場に足を踏み入れている身だ。魔術で作り上げた三体の味方がいるとはいえ

そのような隙は生まれないだろう。


「やるな・・・。」


そして何より、ハスターの警告の理由は綱秀の変化にある。

強力な俺の魔術を前にして、追い込まれた綱秀は現状を打破する必要がある。


「流石だよ。流石、俺が超えたいと思った男だ。」


窮鼠猫を噛む。追い込まれた者は何をしでかしてもおかしくはない。

それに・・・あいつは鼠ではなく化け物だ。

追い込まれた化け物が一体何をしてくるのか。何度も戦ってきたが、

そのどれもで碌な経験をしていない。


「このままじゃ、俺はお前に勝てない。例え八幡神の力を使ったとしても、

シュド=メルの力を使ったとしても。お前はねじ伏せてくるだろう。」


「・・だろうじゃない。確実にだ。お前が見てきた様に。」


「そうだな。だが・・・俺にはまだ手札があるぜ?

それは・・・とっておきの札。そう、切り札だ。」


得物を地面に差し、目の前でお気負い欲重ね合わせる。

すると、綱秀の体にある異なる二つの魂が共鳴したかのように動き出し、一つに交わっていく。


『一つになる気だ。防げ。』


三つの魂を・・・一つにする。そんな芸当出来るはずがないと思いたいが、

今の綱秀ならやりかねない。

奴の体が黒い魔力で包まれていく所を見逃さず、無防備の所を狙いグガランナを突っ込ませる。

雄たけびを上げながら突っ込んだ破壊の角が、勢いよく魔力の塊にぶつかる。

本来なら、風穴が空く所か粉々になってもおかしくはない。

だが・・・魔力の塊はびくともせず、穴が開く所かつく刺さる事さえ叶わない。


「これだ。これなら・・・お前に勝てる。」


魔力の衣の中から聞こえてきたのは綱秀の声。

だが・・・まるで何者かが同時に喋ったような多重の声が聞こえてくる。


『備えろ。さらに面白くなるぞ。』


面白くなる・・・。俺には決してそうは思えない。

魔力の衣の中で増幅する力が・・・俺の本能にそう伝えてきていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ