表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第六幕 動き出した黒幕
315/333

第三百十五話 東京の状況

「・・来たね。」


影渡りでちーさんの影までたどり着いたが、眼前に広がっていたのは暗闇。

音を立てずに辺りを見渡すが、それ以上に鼻の中に入ってくる埃臭さが室内だと知らせてくれる。


「ここは・・・?」


「ごめんね。近くにいるって嘘をついた。だけどすぐに戦場には送り出せるよ。」


近くでちーさんの声が聞こえると、小さな灯りが部屋を照らす。

手に持ったランプの灯りに照らされたちーさんがこちらに近づいてきており、

古い洋風な作りの部屋が背景に写る。


「・・では、行きましょう。綱秀を————————————」


「ちょっと待ちな。状況を共有しなきゃだめだろ?」


少しでも早く行きたい気持ちを押さえつけられる。

確かに大切だが・・・今更深き者ども達に負けるわけがない。

それはちーさんもよくわかっているはずなのに、いやに慎重な姿勢が引っかかる。


「幹部がいるんですか?」


「いや、姿は見えない。だからこそ少し気にかかるんだ。

奴らが出てきた時。必ずその裏には幹部の姿があった。

でも・・・今回に限って言えば、姿だけじゃなく影すらないんだよ。」


深き者ども達がいる所では必ず千仞の姿がある。

奴らがクトゥルフの崇拝者であり、それを支える幹部達の行動を共にしてきた。

奴らだけで動くほどの強さはなく、意志の強さも無い深き者共達が理由も無く暴れている理由。

確かに・・・その理由を明かさなければ、大変なことになるかもしれない。


「・・・・・ここが本陣ではない、という事ですか?」


「そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

白の部隊を使って調べさせているけど、今の所情報は無し。

罠かもしれない場所に足を踏み入れ、状況によってはすぐに動きを変える必要が

あるってことだよ。」


奴らがここにいる理由が俺達に対する罠。その可能性は否定できない。

深き者ども達だけでは俺達相手に何もできない事を踏まえると、

俺達を呼び出すための罠の可能性が濃厚だ。


「・・それでも行くしかありません。」


例え罠だとしても、大切な仲間が危機に陥っている事実に背を向けるわけにはいかない。

どれだけ悲惨な罠が待っていようとも、綱秀を助けなければならない。


「そう言うと思っていたよ。でも・・・もう一つだけ、話しておくことがある。」


首にかけていたヘッドセットをつけながら、口を開く。


「ついさっきの事だ。アルさん達との連絡が途絶えた。

こういう戦いではお互いの意思疎通が大切なのは分かっている。

だけど・・・それでも連絡を絶ったという事は、

それ誰の事態が寮で起こっているという事だよ。」


火嶽と拓郎が寮の全員の避難を終えた事だけは確認していると告げられ

ひとまずは一息つくが、戦場での連携がいかに大切な事かを知っているアルさん達が

通信を絶つほどの何かが起きている事実は俺達にさらなる緊張感を生み出す。

すぐさま解決できると踏んでいた俺の甘い考えを一蹴する様な出来事が

俺達を待ち構えていると、直感が強く訴えかけてくるがそれでも止まれない。


「近くにゆーを向かわせている。私の影から影渡りを使えばすぐに境内につくよ。」


嫌な予感を漂わせるこの空気を一変させるには早急な解決しかないと意気込み

影の中に沈む。何が起きようともねじ伏せ、誰も失わない。

俺の使命。そして・・・大切な人を護らなければならない。


——————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


「おい!将!!」


後輩達を信頼できる仲間達の元へ預けた火嶽は早足で外を駆けていく。

その背中を必死に追いかける拓郎は、引き留めるために伸ばした手を大急ぎで肩に置いた。


「何処に行くんだよ!あいつらを守らなきゃいけないだろ!?」


「・・あそこにいたら守れない。」


「どういうことだよ・・・。」


足を止めた火嶽の言葉が理解できないと顔をしかめる。

それも当然。拓郎や後輩達は状況を飲み込めず、ただただ避難をしてきており

戦場に戻る選択肢は頭の中に残っていなかったからだ。


「アルさん達との連絡が途絶えたと聞いた。寮で何かあったに違いない。

簡単にやられる人たちじゃない。わざわざそんなことにするとなると・・・

かなりマズイ事になっていると思っていい。」


「かなりマズイ・・・?何言ってんだ・・・?」


「それを今から確認しに行く。兼定さんに会いに行くぞ。」


情報共有をする気がさらさらない火嶽が再び足を踏み出そうとするが、

混乱する拓郎は今度は手を掴んで止めに入る。


「ま、待てよ!龍穂さんが対応に向かっているんだろ?

あの人なら全部丸く——————————」


「収められるとは限らない。俺の予想では・・・今回は”規模が違う”。

現に世界に散らばる白の部隊に集合がかかっている。

あの人達は勝負所を間違えない。おそらく・・・総力戦の匂いを嗅ぎつけたんだろう。」


今までより遥かに規模が小さい襲撃。だが、白の部隊達は何を嗅ぎつけたのか

ここがまさに勝負所だと踏み、持てる全ての札を切ってきた。

その異常事態を綱秀は肌で感じており、裏で動かしている兼定に直接会おうとしている。


「だ、だとしてもよ!あの人に簡単に会えるわけじゃないだろ!?

そもそもどこにいるのか分かっているのか?それが分からないのなら

時間無駄になっちまうぞ!」


それであればいっそのこと龍穂達の元へ向かった方がマシだと拓郎は説得する。

確かに異常事態は起きているのだろう。だが、拓郎の眼には焦りが募り、

ただ闇雲に行動している様にしか思えなかった。


「・・・・・・・。」


「少し頭を冷やせ!そうしなきゃ最善手は打てない!」


「・・だったらどうすればいい?この状況をどうすれば打破できるんだよ。」


見えない闇の中を歩こうとし、明らかな苛立ちを見せている火嶽に対し、

ただただ冷静に言葉を変えす。


「打破するも何・・・。ひとまず今はその状況の把握からだろ。

何も知らない俺達が何を思っても無駄だ。何かを得たければその渦中に飛び込むのが最善。

龍穂さんは必ず事の中心にいる人だ。あの人と合流しよう。」


どのような状況においても最善の道を歩もうと提案する拓郎の言葉を聞き、

腕を組みながら少し考えた後、火嶽は大きく頷く。

納得していないが、少し冷えた頭で導き出したのは拓郎の提案を飲むことだった。


「だったら急ごう。お前の影渡りで・・・。」


まだ戦闘になっていないはず。今から合流すればこの事件の全容を見届けられる。

悩む綱秀を急かし、拓郎は動き出そうとするが、

装着されていたヘッドセットを耳に押し当てた火嶽の様子を見て拓郎は口を閉ざす。


「・・・・・・・・・・。」


あまりに真剣な表情が拓郎の思考を必要以上に回転させ、

火嶽の耳に入ってくる情報を頭の中で様々な事を思考させる。

これまで以上の戦いとなると・・・嫌な予感しかしない。

火嶽と共に援軍に向かったとしても、果たして力になれるのだろうか?

戦場に立っていないにも関わらず、冷や汗が頬を伝う。


「・・・・・白の部隊の出動がかかった。

どうやら、東京五社でも襲撃が行われている様だ。」


「東京・・・五社?」


「それぞれが龍脈によって強い力を持っており、それらを繋げることによって

東京に大きな結界を作り上げられている五つの神社の総称だ。

それを破壊しようと目論んでいるという事は・・・奴らは戦いの規模を

この東京まで広げる気だぞ。」


嫌な予感がここまで早く的中するとは思っていなかった拓郎は驚愕を顔を浮かべる。

東京大結界を破壊しようと考えるなど、皇のいる土地を襲うと同義であり国家転覆に等しい。

戦争でも起こす気なのか。そう思わずにはいられないが、

龍穂が背負う使命を知る拓郎はそれが現実に起きてもおかしくはないとすぐに悟り、

得物を取り出し火嶽の近づく。


「・・逃げてもいいんだぞ。お前にはその権利が—————————」


「手柄を上げる絶好の機会だ。それに・・・ここで逃げたら龍穂さんとの縁も切れるだろ?

あの人にはここまで俺を引き上げてくれた恩もある。逃げるわけにはいかないよ。」


命を落とすことが容易に想像できるほどの戦いが巻き起こることは拓郎も理解している。

だが、龍穂と過ごしてきた日々が彼の逃げ道を塞ぎ、

そして乗り越えた先にある輝かしい未来が足を前へと動かしていた。


「・・・・・分かったよ。」


これ以上何を言っても無駄な事は火嶽も理解している。

決意を固めた二人が龍穂と合流するために影に沈んでいったその時、


「・・・・・!?」


火嶽のヘッドセットから漏れるほどの大声で聞こえてきた衝撃の史実は二人に衝撃を与え、

そして・・・それはその場にいる龍穂達が足と止めてしまうほどの悲しみ包まれている事を

容易に想像させた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ