第三十一話 謎の声と決着
両手を上げ、魔力が高まっていく。
『・・奴め。面白半分で封印を解いたな。
体への負担が高いとは思っていたがこれでは体に力が入らないのも頷ける。
少し痛みがあるだろうが強引に行くぞ。』
魔力が極まっていくにつれ、頭の中から何かが割れるような音が鳴る。
(痛っ・・・!!)
本当に頭が割れているような痛みが頭を襲う。
思わず顔をしかめるが、俺の体は構わず魔力を上げるのを止めることはない。
『一時的な痛みだ。耐えろ。
龍穂が魔力を使えなかったのは封印が解かれ今まで何ないほどの魔力が体に流れ込み、
力を使う信号を送る脳と体の認識がずれていたためだ。
そして体に力が入っていなかったのは封印が中途半端になっており、
無理やり魔術を放とうとしたため脳に負担がかかりショートを起こした。
まずは障害となっている封印を完全に解く。そしてあの太陽を破壊するぞ。』
まるで弾けたような音が頭に響くと体が一気に軽くなり手足に力が入り始める。
これで声の主が言っていた封印が完全に解けたみたいだ。
『さあ、始めるぞ。』
木霊と共に風の弾を作り上げる。
魔力をかき集めていたため、すぐに大きく成長するが今までの黒い球に変化が訪れていた。
(黒・・じゃない・・・。)
土のような茶色に所々白い線のようなものが混じっている球体が出来上がっていく。
(・・・・綺麗だ。)
まるで磨き上げられた宝石のような玉。あまりの美しさに思わず目を奪われてしまう。
「なん・・・や・・・?」
俺が放った魔術を見て、勝ちを確信していた純恋が唖然とした顔でこちらを見つめている。
「木星・・・か?」
純恋が呟いたのは宝石ではなく遥か彼方に浮かぶ太陽系に属する惑星の名前。
「・・こんなもんに私は負けん!!全て焼き尽くすんや!!!」
少し怖気ついた表情を浮かべた純恋だがすぐさま立ち直り太陽に魔力を込める。
肩で息をしている所を見るにこれが最後の魔力の様だ。
『なかなかやるな。だが所詮は炎で作り上げた太陽。そんなものではこいつは破れん。』
太陽と木星。惑星を模した二つの塊が徐々に迫っていき距離がつまっていき優しく触れあう。
「!?」
その瞬間、すさまじい衝撃波が辺りを襲った。
「ひっ!!」
「くっ!!!」
強大な魔術達がぶつかった衝撃は計り知れず、あまりの衝撃に前にいる二人は
立っているのがやっとであり得物を地面に突き刺しなんとか踏ん張っている。
「これはいかんな・・。」
離れていた青さんも姿を龍へ変え、俺達の前に立ち衝撃を阻む壁になってくれる。
「吹き飛ばされるな!!壁に飛ばされ打ち所が悪ければ最悪死ぬぞ!!!」
全力で俺達をかばってくれる青さん。
それだけの事態のようだが、近くにいる俺にのみ衝撃波の影響がない。
(風が避けてる・・・・・。)
俺に来るはずの風がまるで避けるように別方向へ流れている。
おそらく俺が放った魔術なのだろうが操られているとはいえ、気が付かないほど静かで繊細な魔術。
俺もこのように扱えれば戦いを楽に運べるのだろう。
『これは私があこがれた星を模した魔術。
我が物にしたいと思い焦がれた末、思いが具現化したものだ。
だがあれでは不完全。勝負を決めようか。』
何者かがそう言うと広げていた手を窄めるように内側に動かす。
頭の中で誰かがしゃべりかけ、体を勝手に動かされているにも関わらず不思議と恐怖は感じない。
むしろ話しかけてくる声を聴いて安堵してしまう。
まるで生まれた時からずっと聞いていた声のような気持ちだ。
木星の周りに激しい風が舞うとそれは惑星を囲んでいき風の環が出来上がる。
太陽に刃が絶たないような薄い環だが、高速の回転により炎を削り取っていく。
「なっ・・・!?」
必死に食い止めようとする純恋。
たった一手で劣勢に追い込まれるなんて思ってもいなかったのだろう。
噴き出る汗から目に見えて焦りが見えていた。
太陽から放つ光が弱まっていくと木星に飲み込まれていく。
「止め・・られへん・・・!!!」
その様子を見ていた観客からどよめきが起こる。
純恋が正面から圧倒されるこの状況を誰も予想していなかった。
『これで最後だ。この経験を忘れるな。』
萎ませた手を合わせる。すると巨大な木星が目に見えなくなるぐらい小さく縮んでいく。
「伏せろぉぉ!!!!!」
それを見た青さんが叫ぶ。決して俺達だけに向かっていったわけでは無い。
相対する純恋に届く様に声を上げた瞬間、
「へっ・・・・?」
巨大な木星に込められた風の魔術が一気に爆発する。その衝撃は先ほどのものとは比べ物にならない。
青さんが俺達を長い胴で囲み守ってくれるがこのままでは太陽に寄り添っていた純恋が衝撃で・・・。
『・・殺しに来ていた敵の安否を思うか。』
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるはずの純恋が姿を消す。
あまりの速さでよく見えなかったが地面に吸い込まれている様だった。
『餞別だ。次は私の姿を見せられるほど強くなっている事を願うぞ。』
頭の中の声が鳴り終わると、操られていた体の感覚がまるで糸が切れたように元に戻ってくる。
守ってくれている青さんの中は光が差し込まず薄暗い。
先程の様に俺を避けるような風も起こっておらずあまりの衝撃で飛んできた
砂や岩が青さんの体に当たり鈍い音が何回も経っていた。
隣を見ると楓と純恋が身を寄せ合っており外の恐怖から必死に耐えようをしている。
「きゃっ!!」
そんな中、俺の腹に柔らかいものがぶつかる。
驚きながら下を見るとそこにはどこかへ地面に飲み込まれたはずの純恋が俺を体にぶつかってきていた。
魔力神力共に激しく消耗した純恋の体には多くの傷が残っており
もし青さんの隙間から岩などが純恋に向かって飛んできたら対処できないだろう。
小さい純恋を抱きながら守る。反撃してこないかと心配していたが、動く様子はない。
「・・・・・・。」
意識はあるはずだが、体や腕をピクリとも動かさない純恋。
激しく消耗した体では抵抗すらできないのだろう。
吹き荒れた風が収まっていき、青さんが俺達を守ってくれていた胴を解いていく。
辺りを見ると砂煙がまっており、草や水たまり、火台などが全て砂に変わっており見る影もない。
そして観客席を覆っていた結界がすべて割れてしまっている。
生徒達や高官達に怪我はないようだが、想像がつかないような衝撃は辺りを襲っていたようだ。
「龍穂。止めを刺せ。」
近くいた青さんが催促する。
試合のルールを破ったが継続はしており、純恋に対して敗北を突き付けなければならない。
抱えている純恋をゆっくりと地面に降ろし、立ち上がる。
刀を鞘から取り出し顔を隠し無抵抗で地面に寝ている純恋の喉元に突きつけた。
「・・勝負あり!!!」
頭や体に包帯を巻いた竜次先生がこちらに歩いてくる。
静まり返っていた会場からぽつぽつと拍手が起こりやがて
全体を巻き込んだ割れんばかりの拍手が俺達を包み込んだ。
「・・・・・・・・。」
会場の雰囲気に思わず驚いてしまう。
これは戦った俺達に向けての賞賛の拍手であり認めたという証だろう。
だが、正直言って素直に受け取れない。あの謎の声の力が無ければ俺達は敗北していただろう。
この拍手はあの声の主に向けられたものだ。決して俺に向けられたものでは無い。
「さて・・・どうしたものかな。」
竜次先生が戦いを終えた俺達を見ながら何か悩んでいる。
何に悩んでいるのかと思い、純恋達の方を見るが
立ち上がろうとしない純恋に対し、桃子が心配そうに語りかけている。
「純恋・・・・。」
だが手で顔を覆ったまま返事はない。
催淫にかかっていたとはいえ敵対した桃子に怒っているのだろうか?
純恋の元へ歩いていき、片膝をついて手を差し伸べる。
「・・・立てるか?」
試合が終われば、敵も味方も関係ない。
寝ている純恋を起こそうとするが、俺の声を聴いた純恋は隠している手の指を動かし
隙間から俺の顔を見る。
「・・・今度はちゃんと責任取れ。」
赤い顔でこちらを見ていた純恋は俺の手を握る。
(・・・・・・あっ。)
倒れている純恋に手を差し伸べる光景。この景色と・・・・似た光景を知っていた。
(これ・・・小さい時と同じだ。)
八海で仲良く遊んだ幼いころの記憶。
まるで絡まっていた糸が解かれたようにあの頃の記憶が蘇っていく。
「・・・・・・・・・。」
”今度は”責任を取れと言う言葉。八海で別れた時に純恋が言った事を言っているのだろう。
「えっと・・・・。」
純恋は体を起こしたのはいいが何と返したらいいかわからず言葉が詰まってしまう。
「・・皆さん。」
何を言おうと迷っていると、真剣な顔の毛利先生が近づいてきた。
「お疲れさまでした。竜次先生。会場の復旧の指示をお願いします。
・・そして生徒達は私について来て下さい。」
冷静に指示を送る毛利先生の口調はどこか冷たく、俺達の勝利を喜んでいるように思えなかった。
「・・わかりました。」
全員で毛利先生についていく。その行先は謙太郎さん達がいるウォーミングアップ室ではなかった。
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「ものすごい戦いだったな!」
龍穂達の戦いを見終えた謙太郎達三人は興奮気味に談笑している。
「まさかあの純恋達を倒してしまうなんてな。あの転校生は何者や?」
「分からんが・・あいつの実力はまだまだ底が見えない。これからもっと強くなるんじゃないか?」
試合を見ていた全員が龍穂の話題でもちきりであり、
護国人柱である二人が破れるなんて誰も思っていなかった。
「こりゃ復旧に時間がかかるな。飲み物でも買いにいかないか?」
藤野が二人へ提案する。
試合を見に来ていた高官達も復旧に手を貸しているが会場の損傷はひどく、
開始時刻が大幅に遅れることは目に見えていた。
「龍穂達を出迎えないのか?」
「あほ。純恋はルールを破っているし、何よりあの二人はとこの会場をボロボロにした張本人や。
従者であるペアの四人共々反省部屋に叩き込まれてるやろ。」
懲罰房のような部屋があり、問題を起こした生徒を交流試合が終わるまで閉じ込められる。
「・・・あれだけの試合をしたのに出迎えてやれないのは悲しいが仕方ないな。」
謙太郎は納得し、会場から目を背け部屋を出るために歩こうとする。
他二人も会場から目を離したその時。
「!!!」
何かが起きたと言わんばかりに三人は再び会場に目を向ける。
だが、高官達が復旧を行っているだけで何も変わってはいない。
他の生徒達も同様、誰一人として反応は見せていなかった。
「・・なんだ?」
三人は得物を取り出し、外へ出る。
感じた違和感の正体を確認するために辺りを見渡すが変わったところはない。
「変な魔力を感じたが・・・昨日せいか?」
「・・・・・・・上だ!!!」
藤野が大きな声で叫ぶ。
空から大きな影がいくつも浮かび上がり、人ではない巨体が地面に降り立った。
「なんだ・・・こいつらは・・・!?」
人の数倍ある巨体。手には棍棒が握られている。特徴としては鬼に近しいが三人は異形の姿を見て
思わず足を止めてしまう。
「頭から・・触手・・・?」
頭部が切断されており、代わりに触手がうごめいている。
龍穂が八海であった鬼と同じような奴らが何体も戦場に降り立ち
声にならない雄たけびをあげた。
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