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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第五幕 燃え上がる狼煙
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第三百八話 勝利の代償

「・・大変なことになってんな。」


休日。寮の共有スペースで過ごす俺達に対して綱秀が口を開く。


「三道省であれだけの大事があったんや。当然やろ。」


「それはそうなんだが・・・龍穂の兄ちゃんが言っていた通り、

本当にそのまま世間に公表されるなんてな。度胸あるなあの人。」


テレビ、新聞。ありとあらゆる報道機関が今回の事件を大々的に報道している。

当然も当然だ。日ノ本の中核である三道省であれだけの事が起きていれば

報道しない訳にはいかないだろう。


「魔道省、武道省。そんで・・・神道省からかなりの人数の逮捕者が出ている。

こいつら全員が千仞だなんて相当だぜ。よく殺されなかったよ。」


「大胆に動けば法に引っかかりますからね。

地位を上げる奴らは自らの保身を手放すはずがない。

うまい話があると誘われた甘い考えを持った奴らの集団が千仞の実体だったわけですよ。」


交流試合でも、俺達を襲おうとして来る奴らは両手で数えられるほどだったと報告を受けていた。

楓の言う通り、自らの手を汚さず機を待つだけの集団だったのは確かだろう。


「そいつらを一網打尽にしたってことは、奴らの兵隊をかなり減らしたってことですよね?

これはかなり大きいんじゃないですか?」


「いや、そうとも限らない。」


今回の事件を喜ばしい事だと木下は語る。

奴らの排除を行えたことは確かに大きい。だが・・・幹部である比留間の姿が見えなかったことが

どうしても俺の頭の中で引っかかる。


「えっと・・・それはどういうことですか?」


「自分達にとって有益な部下の選別を行ったかもしれないってことだ。

保身を考え動かない奴らなんて、賀茂忠行にとってしてみれば使えないゴミ同然だろ?

俺達との戦いに備え、使える人材の選別を行ったという可能性は否定できない。」


少なくとも、ショゴスを神道省内部に侵入させた時点で乗っ取ることは出来たはずだ。

後は部下達に親父達を排除させればそれでよし。

逮捕された奴らにはできないだろうが、比留間であればそれが出来るはず。

それをせずに放っておいた事実を鑑みるに、どうしても別の意図があったと言わざるおえない。


「そ、そうですね・・・。」


「まあ、それはそれでだ。悪い事だけがあったわけじゃない。」


先ほどまで読んでいた新聞を木下に手渡す。

テレビの報道では、三道省に何が起きたのかの深堀しかしていないが

新聞の中には今回の事件で活躍した人物の名が大々的に報じられていた。


「木星、太陽の巫女・・・。」


「俺達は割と有名だからな。でもそれだけじゃないぞ?」


席を立ち、とある一面の文章を指差す。

そこには純恋と共に戦った俺の従者であると記載のある楓の名と、

そこにいたメンバーの記載があり、当然木下の名前もあった。


「あっ・・・!」


「全員の名を売ることが出来た。しかも三道省を救ったとなれば上が放っておかないだろうな。」


実力を示したかった木下からしてみれば、こうして名が売れたことは嬉しいはず。

だが・・・一瞬歓喜の表情を浮かべた後、何かに気が付いたように複雑な表情へと変わっていく。


「・・どうした?嬉しくないのか?」


「いや・・・嬉しいのは嬉しいんですけど・・・。」


表情を崩さないまま、木下は窓の外に目を移す。

そこには閉まってる寮の門に押し寄せる報道陣を対処する竜次先生と校長先生の姿があった。


「あれを見ると・・・素直に喜べませんよ。」


ここ最近、立て続けに起こった神道省の事件。その事件に俺は深く関わっており、

今度は他二道省で大事件が起きた。報道されたと言っても詳細なことまでは知らされておらず、

確実に何かを知っている俺に取材したいと集まっている。


「まあ・・・気持ちは分からなくはないよ。でもな、三道省で活躍すると

良くも悪くも注目される。これほどじゃないだろうが・・・慣れておいた方がいいかもな。」


内部争いが激しい三道省では様々な目を向けられる。

俺自身はその視線にされされてこなかったが、親父や定兄の大変そうな姿を見ていると

かなり大変な事だけは理解できる。

神道省で上り詰めるとなればなおさらだ。本来は俺が面と向かって対処するのが筋だが、

頼れる人がいる時は甘えさせてもらおう。


そんなこんなでせっかくの休日にも関わらず誰も外に出れない状況なわけだが、

体を癒すにはいい機会だと、ゆっくりと過ごしている。

俺達の活躍を聞いた沖田を除いた一年達は、自分達も後に続こうと道場で体を動かしていた。


「・・・・・?」


誰も使わないはずのエレベーターが動き、一階で止まる。

表の記者達への対応に忙しい竜次先生達の隙を突き、誰かが忍び込んだのかと

若干の緊張感が共有スペースに流れるが、開いた扉から見えたのは見慣れた人達だった。


「おう!全員揃っているな!」


謙太郎さんや伊達さん、藤野さん。当然千夏さんとちーさん達もいる。


「あれ・・・?どうやって入ったんですか?」


「なに!ちょちょいっと入ったんだよ!」


「ちゃんと説明しろよ・・・。」


伊達さんがため息をつきながらアルさんに入れてもらったと白状する。

となると・・・俺達の所へ逃げてきたみたいだ。


「その・・・ご迷惑をおかけして申し訳ないです・・・。」


「そんな悲しそうな顔をするな!迷惑なんて”俺”はかけられていないぞ!」


謙太郎さんは隣に立つ伊達さんに目を向ける。

平然としていたが、謙太郎さんの言葉にばつが悪そうな顔を浮かべた。


「お前な・・・。別に龍穂が悪いわけじゃないだろ?」


「確かにそれはそうだが・・・話しておいて損はないだろ?」


心当たりがあるとするなら・・・伊達様があの場にいた事だろうか?

だがあの方は親父と共にショゴス達と戦っていたと報告を受けている。

一体何があったというのだろうか?


「・・今回の一件。神道省襲撃事件の責任を、”うちが負う”ことになった。」


「えっ・・・・?」


何故伊達様が責任を負う必要があるのか。どう考えてもおかしい。


「言いたい事は分かる。だが・・・これも必要な事なんだ。」


「必要って・・・それは・・・。」


おかしいと言いたい。だが・・・それを一番感じているのは伊達さんだ。

これ以上の深堀は伊達さんの傷を抉るだけだと言葉を飲み込み、説明を待った。


「今回の出来事に関して、落とし所をつけなければならない。

三道省合同会議を行える状況ではなく、長官と副長官のみで行われた会議で決まった事だ。」


「・・親父が伊達様に責任を押し付けたってことですか?」


「そう言う事じゃない。母さんが立候補したんだ。

今回の襲撃は内部に敵の侵入を許したことが一番の原因。

日ノ本の精霊や龍などの貴重な式神の観測や、保護など式神にまつわる全てを担う式神課だが、

式神を神道省内に配置し、緊急時に応戦する役割も担っている。

・・適任だったんだよ。あれだけの騒動が起きていた神道省で唯一と言っていい。

たった一人で今回の責任を追えるのは母さんだけだったんだ。」


今までの騒動を含め、これだけの事件が起きてしまうと、

責任を負うにはそれ相応の人物でないとならない。

長官が責任を負うべき案件なのだが、皇の責任を負わせるなど出来るはずがない。

だからこそ、伊達様が手を上げたんだ。

次点でふさわしいとされる親父を残すため。真に日ノ本のためを思って・・・手を上げてくれた。


伊達さんの説明を聞き、何も言えずに自然と視線が落ちてしまう。

八海上杉家を助けるために辞職に追い込まれた伊達家の人達に迷惑をかけてしまった事実は

俺の胸に深く突き刺さった。


「そう落ち込むな。これが最善。俺達も納得している。」


「ですけど・・・。」


気持ちの切り替えが出来ず、顔を上げられない。

どうすればいいか分からず俯いていると、誰かが肩に優しく手を置いてくる。


「あなたの手で、課長の座に戻して差し上げればいいじゃないですか。」


聞こえてきた千夏さんの声に顔を上げる。俺の手で・・・戻す?

どういうことなのか分からない俺を見て微笑んだ千夏さんは、

読んでいた新聞のとある記事を指差す。

俺の活躍をたたえた記事。そして・・・そこには時期神道省長官候補か?と書かれていた。


「乱れた神道省を立て直すには再編が必要になります。

その際に式神課課長に伊達様を推薦すれば恩を返せる。そうではありませんか?」


そうか・・・。これだけ乱れた神道省をこのまま放っておいていい訳がない。

必ず再編が必要になる。その際に指名すれば・・・伊達家は式神課に戻れる。


「そういうことだ。うちとしては最大限の恩を売ったつもりだ。

母さん・・・いや、伊達家は龍穂に掛けているんだよ。

だからこそ、俺達も納得しているって訳だ。」


そう言う事か・・・。親父に恩を売ったという事は即ち、俺に恩を売ったという事だ。

伊達様は自ら身を挺して、むしろ地位を確保しに行ったことになる。


「・・分かりました。」


俺への期待を行動に移してくれた。後は期待に応えるだけ。


「丁度全員集まったんです。情報交換をしましょう。」


蘆屋道満との戦いを終えた後、兼兄に任せてその場を後にした。

治療を受けなければならない人もおり、簡単な情報交換しか出来ていなかった。


「沖田。頼めるか?」


「武道省内部の貴重な情報ですが・・・良いでしょう。近藤さんからも許可を得ています。」


「ありがとう。後は・・・。」


魔道省の情報を持つ者の心辺りを考えた時、千夏さんがつま先で床を叩くと

影から至る所に包帯を巻いた雫さんが現れる。


「もう少し安静にしてなきゃいけないけど・・・仕方ないね。」


平治さんと共に戦った雫さんであれば詳細な情報を持っているだろう。

これで役者がそろった。勝ち取った情報を整理し、神道省長官への道筋を

明らかにしなければならない。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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