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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第五幕 燃え上がる狼煙
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第二百八十九話 魔道省の内情

平治さんの先導の元、服部忍を捕えるために魔道省の廊下を歩いていくが、

足を進める方向から怒声が聞こえてくる。

見ると徳川派と服部派の職員達が何と拳や得物を交えており、

威厳ある三道省の一柱である魔道省の実情が目の前に広がっていた。


「・・ひどいな。」


「いえ、これでいいのです。」


明らかな異常事態を見て、こんな光景はあり得ないと呟くが隣を歩く千夏さんは、

この光景を何と肯定し始める。


「これが今の三道省の実情です。腹の探り合いが表面化しただけ。

徳川家が離れたことで一枚岩ではなくなった魔道省はあまりに脆い。

私はそれを・・・再び一枚岩に立て直す義務があります。」


これが今の現状。神道省より勢いがあると言われていた魔道省だが

メッキを剥がせば錆びつき、腐り切った内情が露呈していた。

これは俺の予想だが・・・千夏さんのお父さんが亡くなった時点で腐敗が進んでいたのだろう。


「・・じいちゃんってすごかったんやな。」


「本来、その役目をおじい様が担っていたんです。

その上であのような行動をとったという事は・・・あの時から既に腐敗が進んでいたと

言う事なのでしょう。」


日ノ本で絶対的な存在である皇の威信がどれだけ神道省にとって大きかったかを改めて実感する。

仙蔵さんもかなり頑張ったはずだ。だが時期長官である千夏さんはまだ幼く、

下手に上にあげてしまうと高い地位を狙った輩にそそのかされる危険性もある。

だからこそ遠ざけていたのだろう。そして・・・限界だと悟り、大きな賭けに出た。


「・・やってやりましょう。」


俺に・・・。俺達に託したんだ。日ノ本の未来を。

俺達がやらなければ一体誰がやる。この実状を変えるために・・・俺達は前に進んでいる。


「平治さん。一つお聞きしても?」


「・・ん?ああ。」


「服部派と徳川派の簡単な見分け方はありますか?」


「タイピンの形だ。徳川に忠誠を誓っている職員達は入省の時にいただいた

徳川家の家紋が入ったタイピンをつけている。」


争っている職員達をよく見ると、確かにタイピンの形が違っている。


「ありがとうございます。」


空気を操り、目に映ることの無いほどの小さな空弾を服部派の人間の顎にぶつける。


「・・!?」


意識外の攻撃を受け、脳を揺らされた奴らが次々と倒れていった。


「では、行きましょうか。」


魔道のエキスパート達が突然倒れていく姿を見て、平治さんや争っていた職員達は

驚きを隠せない。彼らが唯一感じたのは、一瞬感じた魔力の流れだけだろう。


「かっこつけすぎやで。」


邪魔者を排除しただけだが、純恋が肘でわき腹を突いてきた。

かっこつけ・・・過ぎてもいいだろう。俺の強さを見せつけるという事は、

これから魔道省を背負って立つ千夏さんが頼もしい仲間を引き連れてきた証なのだから。


「・・・・・こちらです。」


阻む者がいなくなり、防衛課の管轄まで堂々と歩いていく。

あるべき主が戻ってきたと知らせるための上洛の様だ。

防衛課は奥まった所にあるため、廊下を歩いていくが俺達を阻もうとして来る

職員の数が少なくなっていく。


(なんだ・・・?)


本当に近寄らせたくないのであれば、距離が近い所に職員を配置するはずだ。

だが顔すら一切見せず、続く廊下はそれだけで異様な雰囲気を醸し出している。


「・・さすが徳川の忍びの長と言った所か。」


この光景を見た近藤さんが呟くと、兼兄が続いて口を開く。


「作動させていないようですが・・・至る所に罠が配置されていますね。

魔術での罠がほとんどですが、魔力を必要としない海外の罠もちらほらと見えます。

本部を改造するなんて・・・なかなか好き勝手している様ですね。」


魔術省防衛課と言うのは、魔術を使い海外からの攻撃を防ぐために設立した課であり、

大魔術を防ぐための新たな魔術の開発や、立入禁止区域に仕掛ける罠などの

製造まで幅広く担当している。

これが仕事だとしても、省内にそれを仕掛ける意味は一切なく

むしろ被害を受ける職員がいると考えると、兼兄の言う通り職権乱用だろう。


「・・突き当りが防衛課の課長室となっています。」


辺りを警戒しながら進んでいくと、突き当りに付いている簡素な扉が見えてくる。

あれだけ省内を改造しているのだから、自らの権威を示すために豪華絢爛に飾っているのだろうと

思っていたが、どうやらそう言った類には興味が無い様だ。


「入るぞ。」


扉の前にたどり着くと、兼兄は一切躊躇することなく扉を開ける。

簡単に捻られたドアノブは仕掛けが無く簡単に開かれる。


「・・・・・・・・・・・・。」


そこには大きな椅子に腰を掛けた服部忍の姿があるが、たった一人であり

他の職員達の姿は一切ない。


「皇からの指示だ。近年起きた業案件となった事件への関与。

そして・・・酒井忠家殿暗殺の疑い。それら二つについて業と公安課合同で魔道省防衛課の調査に

入らせてもらう。拒否権はない。」


近藤さんから令状を突きつけられた服部はただ待って眺めるが

その姿からは一切に焦りを見せない。

これは・・・既に怪しい所を全て隠してしまったのだろうか?


「・・大名行列、ご苦労なこった。」


全く動じることが無かった服部は、頬杖を突きながらけだるそうにつぶやく。


「何・・・?」


「これから長官になる男へのあいさつに来たのだろう。

手厚く出迎えたい所だが・・・部下達は出払っていてな。」


全てを隠し終えたのではない。こいつ・・・隠す事なんてできないと察して

態度を変えやがった。

この姿を見た平治さんは怒りを現ししたが、すぐさま冷静になり

部下達に防衛課に調査を命じる。


「これ以上罪を重ねるか・・・。だが、証拠が出ればもはやこれまで。

貴様が魔道省にしがみつくことは不可能だ。」


「父親を殺されて怒っているのか?あのような老害が長となっているから

魔道省はここまで腐ってしまった。息子であるお前が始末しない代わりにやってやったというのに

酷い扱いなもんだな。」


何ていう言い草だ。酒井様は大きく揺らいでいた魔道省を支えた功労者。

馬鹿にされる筋合いは一切なく、平治さんは強く拳を握り我慢を貫く。


「我々も動きましょう。早めに見つけた方が精神衛生上いい。」


兼兄が近藤さんに伝えると、部下に指示を出した二人は服部に近づいていく。


「先程の発言、録音させてもらった。これでお前を拘束する理由が出来た。

一緒に来てもらうぞ。」


先程の煽りの内容。酒井様を殺したという証拠には十分であり、

懐から用意した手錠を見た服部は抵抗することなく両手を差し出す。


「こんなもので俺を拘束できると思っているのか?浅はかだな。」


「何を不貞腐れているのか分らんが・・・しっかりと護衛をつけさせてもらう。」


手錠をかけられた服部から近藤さんが離れるが、兼兄が動く気配を見せない。


「やっと・・・捕まえたぞ。今までの借りを・・・しっかり返させてもらおう。」


服部を絶対に逃がさないと、影を操り体を縛り上げていく。

お世話になった仙蔵さんの仇だと言わんばかりに強い意志をむき出しにした影は

鋭い棘を服部の体に突き刺しており、逃げられるはずがなかった。


「・・平治さん。捜査本部は別の場所にしていただいてもよろしいですか?」


「了解したが・・・血を流すのだけは避けてくれ。

こいつを排除した後、後任者を穢れた血が付いた場所で仕事をさせる訳にはいないからな。」


そう言うと、平治さんは俺達を連れて部屋を出ていく。

勢い余った兼兄の行動を防いだ形になったが、奴の態度にどうしても納得がいかずに

モヤモヤを抱えたまま部屋を後にした。


「・・どうしたんや?」


俺の様子を察したのか、歩いている道中に桃子が尋ねてくる。


「往生際が良すぎるとは思わないか?」


大門や道中の職員達は必死に抵抗していた。それは服部の元へたどり着かせないためのはず。

だが・・・その当の本人があの態度では示しがつかない。

これだけ追い込まれれば賀茂忠行が見放したと考えてもいいが、

他に意図があるような気がして仕方がない。


「・・近藤さん。少しだけお尋ねしてもよろしいですか?」


嫌な予感がする。出来ることはした方がいいだろうと平治さんに声をかける。


「なんだ?」


「今回の捜査の対象はあくまで防衛課のみと言う話しですが、

服部があのような発言をしたという事実は大きい。これが他二道にそのまま広まれば

魔道省自体に疑いがかけられてしまう。

もし、この先の事を考えるのであれば、他の課の捜査も行った方が

責任の所在も含めて色々とスムーズに行くとは思いませんか?」


仮に、これはあくまで仮にだ。

あの見るからに必死な抵抗が防衛課へ目を向けようとしたのであれば・・・まずいことになる。

勢いのある徳川派は防衛課の捜査を手伝っており、かなりの人数が集まっているはずだ。


「・・確かにそうだな。」


「それは捜査権限があるという意味でよろしいですね?」


そう受け取ってくれて構わないと答えが聞こえてきた瞬間、

俺は魔道省全体の空気の操作を行うために黄衣をまとう。


『冷静だな。それでいい。』


ハスターの力を借りれば空気全体を感じとることができ、これであれば

怪しい動きをしている奴らの判断が付くはず。

すると・・・俺の予想通り、俺達が通ってきた廊下を魔術で防ごうとする集団を

感じとることが出来た。


(させるわけねぇだろ・・・!)


また後手に回ってしまう所だった。奴らが呪文を発することを防ぐために空気を止めて

脳に酸素が回らなくなった奴らの意識を奪う。


「・・平治さん。近藤さん。」


「どうし・・・。」


先程と装いを変えた俺の姿を見た二人は察した様に表情を変えて見つめてくる。


「細かい説明は省きます。俺達星雲は他の課の捜査に向かいます。

立場上、俺達だけでは全てを操作する権限がありませんので

お二人にも同行をお願いしたいです。」


「・・了解した。信頼できる部下だけを残し、同行しよう。」


急いで向かわないといけない事情を察し、土方さんや親しい部下に声をかけると

捜査を任せて俺達に付いてきてくれる状況を作り上げてくれる。


「ありがとうございます。」


その姿を確認すると、全員に指示を出して駆け出す。

何が起こっているかはわからないが、潜んでいる千仞は俺達を狙っている事は確かだ。

魔道省を完全に立てなおすためにも奴らを倒さなければならないと

エントランスに向かって必死に足を動かした。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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