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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第五幕 燃え上がる狼煙
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第二百八十七話 様々な思惑が重なる服部家への捜査

八海から国學館へ戻ってきたが、ソファーに座っている俺の心中は穏やかではない。


「・・・・・・・・・。」


これまで千仞の奇襲に対して後手に回っていた。それを打開するために

八海上杉家への捜査を行った訳だ。結果として形は異なるが幹部の一人を撃破する事に成功し、

しかも幹部の根城への捜査に繋がった。

星空という組織が出来上がったことで奴らとの戦いは大きく進展しており、

喜ばしいことだが同時に心にこびりつく不安も大きくなっていく。


服部家の調査。千仞との戦いを進めるうえで大きな前進であることは間違いないが、

奴らの根城に千夏さんを連れて行っていいものなのか。

服部忍は魔道省長官の座を狙っている。この捜査は奴にとって厄介だろうが

長官への道の一番の障害である千夏さんを始末する格好の場なはずだ。


(説得は・・・無理だな。)


酒井様は仙蔵さんを慕っていた。当然、千夏さんもお世話になっていただろう。

そんな恩人の仇を討てる場に連れて行かないなんて・・・出来るはずがない。

そんな提案をすることさえが無粋であり、千夏さんの意志を尊重するしかない。

雫さんがいるとはいえ、無いがあっても良いように準備をしなければならない。

どんな敵でも倒せるような術の開発も急がれる。


「ん・・・?」


夕飯を食べ、鍛錬も終えて風呂も入り後は寝るだけだという所で携帯電話が震える。

画面を見ると楓からのメッセージが届いており、中身を見ると消灯後に会えないかと

画面に表示されていた。


「珍しいな・・・。」


転校して間もない時はメッセージや電話をよくしていたが、学校生活に慣れてきてから

頻度は減っていた。それなのにこうして直接会いたいなんて言ってくるなんて

何か思う所があるのだろうが、心当たりはある。


「・・どうした?」


「楓からメッセージが来てたんです。消灯後に会いたいって。」


八海で兼兄から言われた一言が頭から離れないのだろう。

いつも使っていた力が悪魔の原初と呼ばれる化け物から得た力だと知れば

色々考えてしまうのは当然だ。


「そうか。どこで落ち会うんじゃ?」


「千夏さんにお願いして仙蔵さんの家で会おうと思っています。

短時間であればバレないですからね。」


急いで千夏さんにメッセージを送ると、快く了承してくれる。

そのまま楓に落ち会う場所を送り、簡単な身支度を整える。


「部屋の電気を消しますし・・・一緒に行きますか?」


漫画を読んでいる八咫烏様とイタカは行かないと返事が返ってくるが、

青さんは同行したいと申し出る。


「色々気になるからな。」


青さんも楓とは長い付き合いだ。弟子の妹の様な存在である楓を気にかけてくれるだろう。

アルさんが見回りに来た時のために鍵が閉まっている事を確認してから影に沈む。

仙蔵さんのお家に着くと、そこには寝間着にブランケットを羽織った千夏さんが出迎えてくれた。


「お疲れ様です。」


「突然すみません。調べものですか?」


奥の机にはもらってきた二つの資料が置かれており、どちらとも開かれていた。

帰ってきたばかりだが中を調べてもらったようだ。


「ええ。報告書を見ていました。なかなか興味深い内容でしたので

思わず見入っていたのです。」


出来ればその話を聞きたいが、今はそれどころではない。


「一体どうしたのですか?消灯時間後にこちらに来られるなんて珍しいですね。」


「ええ。実は・・・。」


事情を説明し、部屋を貸して欲しいと説明すると快く承諾してくれる。


「では、暖かい飲み物を用意しましょう。」


楓の力の正体。クイーンサキュバスの力の源が強力な悪魔だと知れば

不安になるのは当然。平然を装っていたが一人になった瞬間に得体のしれない恐怖が

襲って来てもおかしくはない。

千夏さんにお礼を言い、ソファーに腰を掛けると青さんが持ってきた漫画を手に持ちながら

横になり、俺の太ももを枕代わりに読み始める。

この人・・・これが狙いだったのか。


「・・・・・・・・。」


気になると言っていたのにこのだらけよう。イラついたのでおでこを軽く叩いた所で

楓が俺の影からやってくる。


「・・何をやっているんですか?」


「罰だ。青さんへの罰。」


不意を突かれた青さんの反撃しようと伸ばした腕を掴みながら交わしている光景を見た楓は

後ろから首をへ抱き着いてくる。

混ぜてくれと左右に体を揺らすが・・・首が取れそうだからやめてくれと言うと

今度はふくれっ面で肩に顎を乗せてきた。


「楓、何の用・・・何やってんねん。」


呼んでいない純恋達が部屋の奥からやってくる。どうやら楓が声をかけていた様だ。

じゃれつく俺達を見てため息をつきながらこちらにやってきて対面に腰を掛けると

奥から千夏さんが湯気の立った五つのマグカップをテーブルに置く。


「あれ・・・?全員呼んだって私言いましたっけ?」


「龍穂君だけに話しがしたいのだったら何も言わずに自室に行くでしょう?」


楓が俺と共にこちらへ来ると言うだけで純恋達が来ると察してくれていた。

やっぱり千夏さんは周りをよく見ている上に、俺達の事をよく知ってくれている。

入れてくれたココアを飲みながら楓の言葉を待つが、嬉しそうにココアを飲む姿は

重苦しさを感じさせない。


「・・原初の悪魔の件じゃないのか?」


明らかに深刻そうな態度ではない姿を見て、思わず尋ねると

楓からは呆気なく、はいと口にした。


「何も思っていない訳じゃありませんけど・・・あまり気にしていませんよ。

私に力を与えてくれた訳ですし、それにまだ強くなれるかもしれないじゃないですか。

別に悲しむことなんてありませんよ。」


楓は兼兄の話しに対してマイナスなイメージを一切持っておらず、

むしろ前向きに捉えていた。


「私らもてっきりそう思っとったけど・・・じゃあなんで呼び出したん?」


「・・服部忍に関して少しだけ話しをしておきたいんです。」


まさか楓の口からその言葉を聞くとは思っておらず、全員が首を傾げる。


「もっと言うべき人間がいるんちゃう?絶対楓より詳しいで。」


「ええ、それは分かっています。ですが・・・あえて私の口から言っておこうかと思いまして。」


何故そんなことをしなければならないのか。雫さんという適任がおり、

しかも俺達のみの場で共有することはリスクが異なる。

俺達だけ知っている知識が部隊の動きを乱すことを楓もよく知っているはずだ。


「・・・・・なんでそんなことをするんだ?」


「私の視点からしか察せないことがあるという事ですよ。

簡単に言いますと・・・雫さんを服部家の前に出すリスクについて話しておきたいんです。」


そんなことはここまで共に戦ってきた俺達なら誰でも知っている。

兼兄も言っていたが、雫さんは表向きは亡くなっている事になっている。

それがバレれば様々な混乱が起きる事は分かっているが・・・楓が俺達を集めて

そんなことを言いたい訳じゃないのだろう。


「雫さんは父親である服部忍に対して不信感を持っていました。

当主である徳川家への忠誠を感じられず、長きに渡って仕えてきた家臣として

いかがなものかと訴えてきたのですが・・・帰ってきたのは厳しい仕打ち。

それ相応の恨みを持っているんです。」


「・・雫さんが服部忍を殺す可能性があるってことか?

だけど千夏さんに仕えている雫さんが俺達に不利になるような事を起こすとは思えないぞ。」


大義名分を得た捜査内で魔道省防衛課長官が亡くなると知れれば

その犯人として俺達が疑われてしまう。

そんな分かり切ったことを雫さんがするとは思えない。


「服部忍の命を狙っているのが雫さんだけではないとしたらどうでしょう?

しかもその人物が星空の中にいて、しかも凄腕の忍びであるのなら・・・どうです?」


星空の中にいる凄腕の忍び・・・?楓と雫さん。そして・・・風太さんがいる。

消去法で行くと風太さんが第一候補として上がるが、楓からの話しでは

雫さんは風太さんに恨みを抱えていた。

今は共に戦う中だが・・・私情で動くことはない忍びの中の忍びと言える

風太さんが恨まれている人物のために動く事なんてありえるのだろうか?


「・・鈍い龍穂さんでは話になりませんね。千夏さん、いかがでしょうか?」


何故か馬鹿にされ、少しムッとしてしまうがひとまず全容が見えない限り話しが進まないと

感情を抑えて千夏さんの方を向く。


「ありえない話ではない・・・いえ、十分にあり得るでしょうね。」


「えっと・・・。確か雫さんって・・・。」


千夏さんが肯定した理由を尋ねるために、俺が思っている矛盾点を上げるが

それを聞いた全員が大きなため息とともに鋭い視線を向けてくる。


(な・・なんだ・・・?)


今の発言は誰かを怒らせるような内容じゃなかったはずだが・・・。

何で怒っているのか尋ねたいが、そんな雰囲気ではなく口を開くことができない。


「・・楓さんの言いたいことは分かりました。

服部家および、防衛課の調査では雫さんと風太さんを見張っておけと言いたいのですね?」


「はい。特に私の兄、風太は凄腕の忍びです。一瞬の隙をついて服部の首を取るなんてことも

やってしまうでしょう。

敵の根城に踏み込むのですから警戒するべき点が多い中で大変ですが

他の方々に伝えるべき内容でもない。

信頼できる兼定さん達にも話しを通しておきますが、基本は我々で何とかしましょう。」


楓の言葉に大きく頷いた三人。話しの内容についていけていない俺は

ちんぷんかんぷんで置物と化していた。

ひとまず、分かっている事は風太さんと雫さんに対しても警戒をしておく事。

特に風太さんはいつでも抑え込められる準備をしておいた方がよさそうだ。


様々な要素が絡み合う服部への捜査。一筋縄ではいかないことは分かっていたが、

奴への容疑を固められれば大きな前進となる。

色々な意味で大変になるだろうが、より一層気を引き締めなければならないと

皆の視線を受けて改めて誓った。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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