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第二百八十四話 人間か、神か。

影に沈み、たどり着いたのは見慣れた景色。


「ここは・・・。」


実家。昨日まで過ごしていた俺の実家の前に全員が立っている。


「帰ってきた・・・っちゅうんか?」


先ほどまでいたルルイエが嘘のような平和な光景に全員が混乱しているが

千仞が周りにいないか確認するために辺りを見渡していると、倒れている謙太郎さん達が目に入る。


「・・ひとまず家に入ろう。謙太郎さん達の治療をしなくちゃいけない。」


空気で辺りの様子を確認しながら謙太郎さん達を運ぶ。

ルルイエに引きずり込まれた時、残されていた伊達様達の姿が実家の中にいることを確認して

最小限の警戒をしつつ負傷者達を抱えながら入っていくと俺達が来ている事に

気付いていたのか母さんが出迎えてくれた。


「入りなさい。」


緊張感あふれる声で催促して来るが当然だ。

八海の秘密を見に行って帰ってきたら体に傷をつけ、さらに意識がない謙太郎さん達を

背負っていればこんな態度になるのは当たり前だろう。

すぐさま中に入れて大広間に運び込む。


「細かい事情は良いから私に任せない。あなた達にはやるべきことがあるでしょう?」


並べられた布団に謙太郎さん達を置いた後、母さんの言葉に甘えて

先程感じた居間に移動すると、伊達様達が俺達を待ち受けていた。


「・・どうだった?」


伊達様と土方さん。そして親父と、傷ついた俺達に何が起きたのかを確認する。

各々が違う状況に置かれていたので情報の整理は必須だと俺達のみに起きたことを

詳細には語った。


「————という訳なんです。」


「そうか・・・。」


敵幹部の撃破。狙っていた比留間の討伐は果たせなかったが何がどうであれ

当初の目的を果たしたことは確かだ。


「・・すみません。ガタノゾアの力を敵から奪う事は叶いませんでした。」


「仕方がないだろう。全員無事で何よりだ。敵の妨害も当然、俺達は君を責める事は出来ない。」


何故か心苦しそうな表情で下を向く土方さん。一体何があったのだろうか?


「”私達”は別に何もないよ。こいつがただ落ち込んでいるだけさ。」


「・・・・・長野さんのことですか?」


比留間の口ぶりからして・・・この戦いの被害者を考えれば長野さんにたどり着く。

俺の問いを聞いた伊達様はため息をつきながら口を開いた。


「長野さんだけじゃない。あの場にいた古株の業達全員が命を落とした。

公安課じゃ対処できないから兼定達が死体を片づけているよ。」


やっぱり・・・か。古株という言いかたから業の里にいた人達全員がなくなった事を察する。

俺達を鍛えてくれるように頼みこんだ時、裏切者という単語を使っていたが

それがあの比留間という事なのだろう。


「こちらの情報を上げたいんだけど・・・簡単に言ってしまえば何もなかった。

比留間と戦うはずが長野さんが私達を引かせてあのザマさ。」


「それは・・・長野さんが指示という事ですか?」


「・・そうだよ。元長として、責任を取りたかったという訳さ。

業が結界内に入ってきているということは八海に入り込んでいる証拠だからね。

白や業の部隊の連絡を怠り戻ってきた私達の落ち度だよ。」


白や業の隊員の姿が見えない。恐らく深き者ども達が入り込んでいないか

確認を取っているのだろう。

伊達様や土方さんはかなり落ち込んでしまっているようだが、あの比留間相手に

戦えばどれだけ被害が出たかわからない。

結論から言ってしまえば、最小限の被害で最小限の成果を得たことになる。

お互い後悔が残る選択を取ってしまい、言葉が出ないまま沈黙が居間を支配していると

奥から足音が聞こえ、手に何かを持った親父が入ってくる。


「親父・・・。」


親父と長野さんは旧知の中。亡くなってしまったという報告を聞けば

一番悲しみに暮れていてもおかしくはないが、気にする様子は一斉見せずに

手に持っていた物をテーブルに置く。


「悲しむのはそれぐらいにしろ。まだやることがあるはずだ。」


置かれたのは文字のかすれた表紙を持つ古い書物。

よく見ると・・・八海上杉家と書かれている。


「今日一日の出来事は記録に残らない。このままじゃ、

俺はお前達を手ぶらで帰らせることになる。」


「・・八海上杉家の記録ですか?」


「”表向き”のな。これをまとめて報告を頼む。」


そう言うと親父は再び奥に入っていく。

たったそれだけかと声を上げようとするが、平然と振る舞う親父の心境を察してしまい

伸ばした手を引っ込めてしまった。


「・・今はやめといたほうがいいね。傷ついた心を抉るのはやめておこう。」


親父の事だ。同じ戦場にいた戦友をそのまま置いて行くなんてことはしない。

あの場から離れた時には既に覚悟を決めていたのだろうが、

現実を受け入れるにはあまりに時間が足りなすぎる。

ひとまず親父が持ってきた書物を見ようと手を伸ばすが、空気の探知が玄関前で引っかかる。

敵がここまで来たのかと警戒するが、兼兄や毛利先生の力が伝わってきて心を撫で下ろした。


「兼兄達が帰ってきたみたいです。」


「そうか・・・。ここは私達に任せて出迎えて来な。」


戦闘の結果、そして・・・何があったのかを兼兄達に報告を済ませないといけない。

伊達様の言葉に甘えて全員で玄関に向かう。


「・・やっとですね。」


「ああ・・・。長い事戦ってきたが・・・これで大義名分を勝ち取った。」


廊下を歩いていると兼兄と毛利先生、そして竜次先生の立ち話が聞こえてくる。


「龍穂達のおかげだな。内側と闇からじゃ出来ることは限られていた。

そこを逆手に取られていた訳だが・・・俺達も予想していなかった味方が

まさかこれだけの戦果を挙げてくれるとは思ってもいなかったよ。」


お互い暗い報告をしなければならないと思っていたが、

真剣に語る内容はどうやら上向き。


「・・おかえり。」


一体何が起きたのか話しを聞くために、兼兄達の前に立った。


「ただいま。ちー達から簡単に報告は受けている。

色々言いたいことや聞きたいことがあると思うが・・・ルルイエから得た情報を整理してから

今日一日で起きたことの情報を整理したい。」


兼兄達にしてはかなり傷を負っている。激しい戦いがあったのだろう。


「・・それは兼兄がしてくれるのか?」


「当然だ。」


つい最近まで兼兄と会う事が出来ず、また毛利先生達に任せて

どこかに行ってしまうのではないかと思ったが、しっかりとした返事が返ってきて

一安心した俺は兼兄の言葉を受け入れる。


「俺達はこれから親父や伊達さん達と合流して八海上杉家の情報を教えてくる。

あの古臭い資料には抜けている部分があるからな。」


靴を脱ぎ、すれ違いざまに俺に紙の束を渡してくる。

学校の授業で使う資料の様に綺麗にまとめられている資料には、八海上杉家の

歴史と書かれていた。


「本当であればこれを手渡すだけで終わらそうと思っていたんだがな。

色々と打ち合わせを兼ねて俺も同席して来る。」


そう言うと近くにいた千夏さんの肩に手を置き、借りていくぞと連れて行ってしまう。

その理由を尋ねるが、すぐに返すとだけつぶやいて居間に歩いて行った。


「・・・・・・・・・・・。」


ここまで来て何かを隠すなんてことはないだろうが、

連れて言った理由がどうしても気になってしまう。


「きっと千夏に確かめたいことを確認したら返すと思うよ。」


立ち止まっている俺の背中をちーさんが押し、大広間に連れていかれてしまう。

こうなってしまえば仕方がないだろうと、みんなで長机を囲みながら

資料を眺める事にした。


———————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


「・・こうなってきたか。」


また・・・夢だ。夢の中で、ハスターが呟く。


「こうなってきたって・・・?」


「以前と同じだ。あいつらが二人でクトゥルフと戦う選択を取った理由と同じ。

人というのは結局、人を超えることはできない。」


「・・・・?」


ハスターが言っている意味が理解できない。

人が人を超えることができないというのは・・・当たり前の事じゃないのか?


「龍穂の仲間達と明確に差が付いてきている。

仲間を守りたいのであれば、”共に行動しない”事が最善だと龍穂も気付いているだろう?」


その言葉を・・・俺は否定できない。

強力な範囲攻撃と一撃必殺の一撃を難なく扱う相手と戦うには俺一人の方が戦いやすいという

事実を今回の戦いで突きつけられていた。


「龍彦と稲見も同じだった。クトゥルフとの戦いで仲間達を連れて行かなかった理由がそれ。

大切だからこそ、二人は仲間達の記憶の封印し戦いに臨んだ。

それにだ、龍穂はあいつらと状況が異なり、”一人で”戦いに挑むことになるだろうな。」


それはない・・・と、出来れば言いたい。

戦わなくとも俺が道を踏み外そうになった時、正しい道に引き寄せてくれた。

不利になるかもしれないが、そこにいてくれるだけで助けになることだけは確かな事実だ。


「それは戦いに勝利する前提の話しだ。仲間を守り切った前提。

この世の正しさ、龍穂が鳴りたい姿を説かれたとしてもその仲間が目の前で死んでしまったら

龍穂の精神は持たないだろう?

過程は結果を得るための道中に過ぎない。よく考える事だ。」


・・その現実が垣間見えているとしても、俺はみんなと共に勝利を得たい。

俺に付いてきてくれるみんなと・・・勝利を分かち合いながらこの日ノ本を登りたい。


「・・ここまで来て理想を語るのか?」


そうだ、現実なんて見ても望む結果は得られない。

理想を見て、理想の結果を辿る道を歩まなければ手にしたい未来は得られないのだから。


「浅はか・・・とは言えないな。奴らは現実を見て死んでいった。

奴らの敗北は、意志は、お前にしっかりと託されていたらしい。」


だけど・・・理想への道は現実という壁に阻まれている事も知っている。

壁を壊して先に進むには・・・力が必要だ。


「先程も言ったが、人である限り力の上限は決まっている。

宇宙の神である俺の力の全てを引き出すのであれば・・・片野のような姿に成るほかないな。」


ガタノゾアの姿・・・。”人じゃなくなれ”と言うのか?


「早い話しがそうだ。片野という人間はガタノゾアという神の器として作られた。

魂を混合され、一つとなったからこそあの姿に成れたが、

契約で結ばれている我らはそうはいかない。

龍穂は俺の眷属の姿に成れている。後は精神だ。精神が俺を受け入れる状態になれば

片野と同じ、神本来の姿に成ることができる。」


神本来・・・。あの姿に成った時・・・人間に戻れるのか?


「無理だ。ああなれば人間には戻れない。

人間に擬態は出来るだろうが・・・神そのものになる。」


人間ではなくなる・・・。その言葉は俺の心に強く突き刺さる。

恐らく、賀茂忠行は人間ではない。ショッピングモールで見たあの姿は

人間ではありえないほど強大で、恐ろしい力を体に秘めていた。

あれに対抗するのなら人間ではいられないだろうが、いくら人間に擬態しても神は神。

神とは信仰される対象であり、住む次元が違う。

純恋達と同じ道を歩むことは・・・出来ないだろう。


「よく考える事だな。理想と現実、どちらを選ぶか。

どちらを選んでも・・・俺はお前についていく。」


そういうとハスターは時間だと呟く。

俺が感じている成長、それは人ではなくなってきている証拠であり、

いずれは神にならなければいけない時が来るのかもしれなかった。


一体何が正解なのか。頭を悩ませていると、闇から黄色い触手が伸びてきて

俺の眼を隠し、意識が闇の中に落ちていった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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