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第二百八十二話 勝利、そして交渉。

奴との勝負を決めるため、魔力を溜めにかかる。

だが・・・その前に勝機をさらに引き寄せるために打ち放っていた流星群を

眩しそうに細める奴の魔眼に向けて撃ち放った。


「がぁ・・・!!!」


防ごうにも奴の視界は純白に包まれており、ほぼ無抵抗の内にあれだけ

苦戦されていた魔眼が潰れていく。

体を襲う猛烈な痛みに耐えつつ、光の出所を必死に探して石化の息を放つが

そうはさせまいと黒い風で天井に打ち付ける。

八咫烏様と共に放ったことで密度の高い炎が出来上がり、

奴の存在だけでも石化できない太陽を無効化する術は奴の手札にはほとんど残っていない。


「ぐっ・・・クソ!!!」


再び思い通りにいかない状況に陥ったガタノゾアは削り取られて短くなった触手を

振り回しつつ、やけくそに辺りに石化の息を吹き付ける。


『・・支援ありがとうございました。一度退いてください。』


こうなってしまえば後は止めを刺すのみだが・・・純恋達をこれ以上前線に立たせたことで

石化されてしまえば、奴を倒したとしてもそれは勝利とは言えない。

何かあった時のために援護の準備をしてくれていた全員を後ろの下げ、

俺の象徴する魔術を作り上げる。


木星ジュピター。」


この戦いの存在は決して外部には漏れることはない。

俺の通り名の元となった魔術で締める必要もないが、ここまで激しい戦いを繰り広げた

奴にも僅かながら敬意を感じている。

完膚なきまでの敗北を叩きつけ後悔なく天に昇ってもらうために、

手のひらの上に作り上げられた特大の惑星をゆっくりと押し出し、

暴れまわるガタノゾアに向けて撃ち放った。


何も見えず、強大な魔力の塊が迫っている事だけを感じ取っている

ガタノゾアにとってこの状況は恐怖そのもの。

死が形を成して迫ってきているのに何もできない強い恐怖。打破する方法はもちろんない。


『終わったな。』


木星を受け止めようとしたガタノゾアだが、破壊の惑星を受け止めきれずに

簡単に引き下がっていく。触れた部位が無くなったように破壊されていき、

あまりの痛みに意識を保つ事さえ出来ず、太い脚に力が入ることはない。

このまま奴は消えてなくなる。そう確信したその時、強力な力を持った何者かが

下がっていくガタノゾアの後ろに現れる。


「新手か・・・。」


この場所を知っているという事は・・・比留間だろうか?

ガタノゾアを窮地から救いに来たのかもしれないが、勝利はほぼ俺の手中。

短時間で木星を破壊するのは難しいと退く選択を取るだろうと高を括っていたその時、

木星に綺麗に引かれた一本の線が現れる。


「なっ・・・!?」


その光景を見た俺達は驚愕の表情を浮かべる。

何者かが俺の木星を切りつけた結果、ガタノゾアとそれを破壊するはずだった惑星が

現れた線に沿って真っ二つになってしまう。

勝負を決めにいった魔術を簡単にいなされた。その結果に驚いたわけではなく、

断ち切られ、真っ二つに割れた木星を間から見えたそれに・・・”見覚え”があったからだ。


「・・得物をしまえ。”オトゥーム”。」


あの日。涼音の警告から始まった国學館襲撃の日。

主犯である平将通さんが見せた力と・・・そっくりな髑髏の騎士が俺達の前に現れて

あの時ハスターによって作られた木星を断ち切ってしまった。

何故その力を持っているのか?まさか平さんと同じく本当は俺達の味方なのか?

断ち切られ、割れた隙間から見えた”比留間刃”の姿を見て頭の中に様々な憶測が飛び交う。


「交渉に来た。こちらに敵意はない。」


「・・服や頬に血を飛び散らせて言われても、説得力はないな。」


恐怖に耐えきれなくなったのか意識を失い、大きな巨体が床に伏せた事を確認すると

急いで壁を落とし、退いていた全員が俺と合流を果たす。


「”過去と決別”してきただけだ。あまり気にしないでくれ。」


過去との決別・・・。その言いかただと長野さんは・・・。

奴の口から放たれた言葉は俺達の敵意をまくし立て、殺気へと変わるが

無表情な比留間は顔色一つ変えずにひらりと躱す。


「こいつを持ち帰りたい。まだやってもらう事がある。」


「・・それは飲めない。そいつは兼兄達に渡す予定だ。」


「交渉だと言っているだろう。”対価”がある。」


比留間が指を鳴らすと、影から意識の無い見覚えのある人達が出てくる。

綱秀、涼音、謙太郎さん達、火嶽と木下。そして・・・捷紀さん。

何かあった時、すぐさま連絡をすると指示をしていたはずだが

その暇さえ与えずに、こいつは全員の意識を奪ったのだろう。


「こいつらをこのままお前達に渡す。もちろん、”今”は生きている。」


拒めば殺す。遠回しに奴は俺達を脅してくる。


「それだけではない。あの場にいた奴らが明かさかった事を語らせてもらう。

仲間の命と情報。その二つで・・・どうだ?」


兼兄達が語らなかった事・・・?こいつの狙いは一体何なんだ?

警戒しながら合流して来る全員の視線が俺の方に向けられるが

謙太郎さん達の命を奪われるのだけは避けなければならない。


「・・そいつをどうするつもりだ。もう死んでいるんだぞ。」


「そうだろうな。俺が断ち切った。だが・・・こいつの魂はまだ体に収まっている。

遥か太古からわが主を支えた一柱をそう簡単に失うわけにはいかないのでな。」


比留間が断ち切らずとも、俺の木星でガタノゾアはやられていた。

どちらにせよ結果は変わらないが、俺の木星は全てを塵とする破壊の惑星。

片野の体に収まっていた魂ごと削り取っていたはず。


「条件にもう一つ使いしてやろう。ルルイエからお前達を八海に戻してやる。

ここは日ノ本から遠く離れた地。お前達は善戦していたが、それなりの力は消費しているだろう?

この場にいる全員が戻る保証もない。それを俺が担ってやる。」


・・そこまでやると言われると・・・断る理由はない。

再びガタノゾアと対峙する事になるだろうが・・・仕方がない。


「・・分かった。条件を飲む。」


「物分かりが良くて助かる。」


敵の条件を仕方がなく受け入れると、比留間は倒れている謙太郎さん達を影に沈ませ

俺達の隣に送り出す。

ここで俺が空気を操り、ガタノゾアを破壊してしまう可能性も考えられるにも関わらず、

先に謙太郎さん達を渡してきたのは木星を断ち切った自身の実力への

絶対的信頼があるからなのだろう。


戻ってきた謙太郎さん達の体に異変がないことを確認し、完全に無事だと判断した所で

比留間が口を開く。


「・・気にならないか?俺が何故業から千仞に入ったのかが。」


「それは・・・蘆屋家が長年裏切っていた事実を知ったからだろう。」


長年業を支えてきた蘆屋家が大江山の鬼達と繋がっており、

京の民を捧げる事で強大な力を手にして来た事実は比留間にとって大きかったはずだ。


「たったそれだけで業を裏切ると思われていたとは心外だな。

日ノ本を長である皇に仕える業であれば、それら全てが表に出る前に

全て消し去ってしまう事こそが日ノ本のためと考えるのが普通だ。」


比留間の言葉からは業の誇りのような気高さが見え隠れしている。

であれば、奴を裏切りへと駆り立てた出来事というのは一体何なのだろう?


「京都の百鬼夜行。あれは蘆屋家が仕組んだことになっている。

だがな・・・あれは業という組織の失態。蘆屋家の行いを、業全体で”隠していた”。」


隠していた・・・?蘆屋家の失態をか?


「蘆屋家は大江山の鬼達との契約を業のために行っていた。

業のためとは日ノ本のため、そして皇のため。奴らの力を借りる事で

日ノ本で起きた大事件を早急に解決し、歴史から排除してきた。

結果としてあのような形になってしまったが・・・全ては日ノ本のため。

必要な犠牲だったんだ。それを・・・外から加入してきた奴らが暴き、全て蘆屋家の

失態として押し付けたことで落とし所としたのが京都百鬼夜行だ。」


表に出ただけでそれら全ては日ノ本のためであり、必要な犠牲だと語る比留間。

多くの人が犠牲になった百鬼夜行の存在を、こいつは肯定してしまっている。


「・・日ノ本のためなら一般人が犠牲になってもいいと言うのか?」


「そうだ。日ノ本の歴史がそう証明している。

長野と兼定がお前をここに連れてきた時、私は愚かな期待をしてしまった。

奴らは業の長だ。間違った選択をしたと、長として誰でもいい。謝罪をするべきであった。

蘆屋家への謝罪を口に出すべきであった。日ノ本を長年支えていた彼らに

頭を下げるべきであった。だが・・・奴らは何時までも蘆屋家に責任を押し付け、愚弄している。

そんな業は・・・日ノ本に必要はない。」


怒りを表ししながら比留間は語る。まるで蘆屋家を崇拝するような口ぶりだ。

こいつ・・・業で一体何を見たんだ?


「光と闇は隣り合う物だが・・・乖離していなければならない。

光の事件は光で。闇の事件は闇で収めなければならない。

お前達もそうだ。本来闇で処理しなければならない事件を光にさらけ出してしまった。

それら全てが始まったのは・・・あの京都百鬼夜行。

あの事件に関わった者として、私はそれら全てに決着をつけなければならない。」


比留間が語る百鬼夜行の意味。それが俺の戦いにまで響いてきていると言うのであれば

この話しに耳を傾けなければならない。

敵である千仞の幹部視点の語りであることに注意しつつ、奴の言葉を待った。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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