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第二百八十一話 ガタノゾアの魔眼

新たな手札を切ってきたガタノゾア。

見たものを石化させる魔眼は俺の強力な魔術も石化させてしまう。


「これなら・・・お前達でも石に出来る。」


ぎょろぎょろと辺りを見渡していた魔眼は一斉にこちらを向いてくる。

すると体の至る所に違和感が沸き上がり、見ると皮膚が徐々に緑の鉱石に変わっていく。


「!!!」


奴の陰の力を上回っているはずの俺に対して石化を与えられる奴の魔眼。

これは・・・非常にマズイとすぐさま前に風の壁を引く。


「こっちだ!!!」


俺でさえ石化されてしまうのだから、前線に立つ二人も同じ目に会ってしまう。

標的が変わる前に遮蔽物に隠れさせようと二人の前に壁の道を作り上げ合流しようと

試みるが、黒壁は見る見るうちに緑に変わっていく。


「逃げられると思うなよ?」


奴の姿を見るだけで常人は石化されてしまうのに、息や魔眼を使えば

どんなものも鉱石に変えてしまう。


「ほら!」


しかもこの鉱石も奴は動かせる。目の前に広がった緑の鉱石が動き出し、

鋭いクナイへと姿を変えてこちらに向かってくる所か、大きな穴をあけて

視線を通そうとまでしてくる。


「クソッ・・・!!!」


打つ手なしになったのはこちらの方。どこへ逃げようと奴の視線からは逃れられない。

しかも影に逃げた途端、奴の狙いは壁の後ろにいる純恋達に向くだろう。

逃げたいのに逃げられない。完全に状況が逆転してしまった。


『本領発揮したな。さて、どうする?』


圧倒的不利な状況に陥ったのに、ハスターは俺の対応を楽しむように尋ねてくる。

ひとまず・・・あの魔眼をどうにかしなければ全員が石にされてしまう。


「・・二人共。一度下がってくれ。」


打開策をいくつか考えるが・・・どうしても真奈美と八咫烏様が邪魔になってしまう。

もし、二人と共に戦うとなると・・・囮に使う事になるが

それだけは絶対に避けなければならない。


「・・分かった。」


俺の意図を汲んでくれたのか、真奈美の影に沈み純恋達と合流してくれる。

皆には苦労を掛けるが、奴を追いこんだ時には必ずみんなの助けが必要になる。

その力を十分に発揮してもらうためにもここは申し訳ないが・・・一人で戦わせてもらおう。


『良い判断だ。この状況であれば龍穂一人の方がいい。』


「ああ。」


壁を何重にも張り、黒いコスモで飛んでくる鉱石をいなしつつ奴と俺の状況を

冷静に整理する。

視線だけで石化させられる奴の射程は無限大。この戦場全てを支配していると言っても

過言ではないが、実際は大きく異なる。

この部屋を漂う空気は全て俺の物だ。奴と同じように俺もこの戦場を支配している。

魔眼での石化は厄介だが、それを封じてしまえば先ほどと同じように

息と緑の鉱石だけを気にしていれば優位を取り戻せる。


「なんにしてもだ。あの魔眼を潰す。」


『そうしようか。』


そして奴と俺との大きな違い。それは攻撃動作の少なさだ。

見るだけで石に変えてしまう魔眼を除き、奴は鉱石を作り上げ、そして俺に向けて攻撃を放つ。

対して俺はその場にある空気を使うだけ。攻撃の際に俺より一手多くかかる奴には

必ず隙が出来るはずだ。


「黒のカーテン。」


奴と俺との間に薄い風のカーテンを敷き、視界を阻む。

魔眼の力ですぐさま石化し、形を変えていくがそれでいい。

視界を情報源としている奴は俺の位置が正確に把握できないが、空気の探知によって

姿形がはっきりしている俺にとって、このわずかな時間は圧倒的に有利な状況だ。

穴をあけて俺を探す奴の魔眼の動きを捕えつつ、それら全て潰すために

無数の空弾を作り上げる。


「黒牛の流星群タウリッド。」


奴の周りに棘の生えた空弾を無数に作り上げ、勢いよく打ち放つ。

灯りが少ない八海では星の輝きが目立ち、秋頃になると楓共に訪れる流星群を見に行った。

その時見た流星を模した空弾たちはありとあらゆる方向からガタノゾアの眼球を潰しにかかる。


「こんなもの・・・!!」


奴の声が聞こえてくると、空弾の操作が一斉に絶たれてしまう。

魔眼の力で緑の鉱石に変えられたのだろうが、それだけで対処できるほど甘くはない。

奴は空気を鉱石に変えるだけ。たったそれだけで勢いを殺すことはできない。

鉱石を操作して勢いを殺さなければ俺の攻撃を受け止めたことにならず、

勢いを殺し損ねた緑の砲弾はガタノゾアの魔眼に命中していく。


「ぐぁ・・・!!」


広範囲の魔力操作は慣れているが、一つ一つを丁寧に扱う繊細な操作を苦手としている様で

逃げ回る俺を捕える様な攻撃は一切してこなかった。

強力な石化の能力があるからこそ必要にしてこなかった技術だが、

空気を操ってきた俺相手だと大きな隙でしかなく、それを突かない理由は存在しない。

触手などを使い、ほとんどの砲弾を防がれてしまったが二、三個は潰せたはず。

効果がある攻撃は継続するのが戦いのセオリーであり、すぐさま流星作り上げて

奴の眼球に向けて撃ち放っていく。


必死に対応するガタノゾア。奴の意識が群流星に傾き始め、カーテンの石化が遅くなっていく。

やはりあの魔眼が奴の全て。このままゆっくりと追い込んでいけば

勝機は必ず俺の元へやってくる。


「あんまなめんじゃねぇぞ・・・!!!」


目を潰され、激痛が走っているにも関わらず奴は何とか打開しようと

この部屋全体を動かし始める。俺の体勢を崩そうと試みているのかもしれないが、

宙に浮いている俺には効果がない。という事は・・・別の意図がある。


「巨人でダメなら・・・数で勝負だ。」


抑え込まれている自分では状況を打破できないと判断した奴は

緑の部屋の鉱石を全て動員し、軍隊を作り上げる。

紀元前より前・・・かは分からないが、相当古い装備を整えた緑の軍隊は

俺達に向かって一斉に襲い掛かってきた。


『かなりの数だな・・・だが。』


ひ弱だ。今までの俺の攻撃に対して作り上げた戦力にしてはあまりに弱い軍勢。

時間稼ぎにもならない手駒を俺は簡易的に作り上げた風で簡単に崩壊させていく。


「・・ここからか。」


『だな。』


そう。奴の起死回生の一手がこんなものですはずがない。

俺の中にいるハスターと同じく奴もまた宇宙の神であり、こんな生易しい攻撃で

終わるはずがない。

警戒を緩めなかった俺の予想通り、破壊された戦士達が勢いよく飛んでいくが

その矛先は決して俺ではなく浮かんでいる俺も真下に飛んでいき、

塵が山となり俺の足元まで近づいてくる。


暴風陣ぼうふうじん!!!」


奴に向けている流星群の魔力操作に支障が出ないように魔術を放つ。

およそ風で出ないはずの鈍い切削音を立てながら緑の山を削っていくが

密度の薄い風では砂にはできずに切り離されてはすぐに再生し、俺の元へ迫ってきていた。


『このままでは飲み込まれるな。』


山は俺の足先に触れるまで近づいてきている。俺を鉱石で拘束したいのであれば

直接体に向けてきた方が効率がいいだろうが、実際に目の前にしてこの攻撃の意味を理解する。


(視覚的な恐怖か・・・。)


鉱石は空気を通さない。あれに頭まで飲まれれば窒息してしまうだろう。

体に向かってくるのであれば簡単に往なすことが出来るが、密接して再生しながら

見せつけるように迫ってきている明確な死は俺の精神を追い込んでいく。

あれだけ追い込まれているのにも関わらず、この選択肢を取れる冷静さは

幼いながらもセンスを感じさせる一手だ。


(敵を褒めている余裕はないな・・・。)


ここから逃げなければならないが、徐々に石化したカーテンにはいくつも穴が開いており、

精神を揺さぶられて精度が落ちた流星群では奴の魔眼が俺の体を捕えてしまうだろう。

再び同じ状況に陥ってしまい、自分を守るために優位を手放そうとしたその時、

千夏さんから念が頭に響く。


『止めないで。こちらから仕掛けます。』


緑の鉱石を全て動員してくれたおかげで後ろへの被害が無くなった。

そのため効果的な一撃を放つための力の十分に溜められたのだろう。


『・・分かりました。』


後ろからの支援をもらうには視線を防ぐ壁を一度下げなければならない。

下手をすれば多くの被害を出してしまう可能性は十分に考えられるが

ここはみんなを信頼しようと黒い風を解く。

そこには共に力を溜めている八咫烏様と純恋、そして大きく口を開いた猛が

今にも力を撃ち放とうと準備を万全に済ましている姿が写った。


「喰らえ!!!」


急いで前にもう一枚壁を追加すると、猛が口から鋭い水のレーザーを撃ち放つ。

鋭く打ち放たれた水は石を断つほどの切れ味を誇り、岩の山を崩していく。

ただ破壊するのであれば先程の様に再生されてしまうが、水龍の勢いは

鉱石を部屋の奥へ押し込み山を築き上げさせない。


だがそれに気づいたガタノゾアは水流に視線を送り、

再び先ほどの兵を作り上げようと試みた瞬間。八咫烏様と純恋が動き出した。


「もう一度や・・・!!!」


二人が付く上げた太陽。先ほど打ち放った日輪煌々御来光にちりんこうこうごらいこう

ガタノゾアに対してゆっくりと近づいていく。

速度の遅い太陽は奴にとっていい的であり、すぐさま鉱石に変えられてしまうと

思っていたが、俺の予想は大きく外れて強い光を放ち続けている。


「ぐっ・・・!!!」


あまりの眩い光に魔眼で凝視し続けれない。

奴が切り札をここまで切り渋っていた理由がここで明かされる。


京都の戦いで純恋と八咫烏様に強い光を放つ太陽を受けていた片野は

魔眼で凝視できないことを理解して、俺単独で動く状況まで持ち込んだのちに

ここぞというタイミングで切り札を切ったんだ。

奴の計画では部屋に敷かれていた緑の鉱石で純恋達の動きを防ぐはずが

俺に追い込まれた事でその全てが破綻してしまった。


(共に戦う仲間は・・・絶対に必要だな。)


俺の能力は汎用性が高いが、出来ないこともある。

手が届かない所にしっかりと手を差し伸べてくれる仲間は千仞との戦いを勝利へ導いてくれる。


再度仲間の大切さを感じつつ、ここで仲間達を失うわけにはいかないと

ガタノゾアとの決着をつけるために勝負を決める一手を打ち放つ準備を整えた。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

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