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第二百八十話 新たな黒牛

助けに来てくれたのはヒュドラの姿をした真奈美。

同じクトゥルフの神々の力を持った真奈美であれば俺と共に前線を張れる。


「また・・・一緒に戦えるなんて思っていなかったよ。」


真奈美と共に八海の山で暴れる妖怪を退治した記憶が蘇る。

一年も経っていないはずだが・・・ずいぶんと前に事に感じる。


「あんまり期待しちゃだめだよ。私に出来ることは少ないからね。」


「分かっている。それにいざという時にはみんなの護衛に戻ってもらうつもりだ。」


ヒュドラの力ではガタノゾア相手ではどうしても力負けしてしまう。

あくまで俺の補助、真奈美には無理をさせる気はさらさらない。


「ヒュドラか・・・。お前に何が出来る?」


「アンタにはまだ敵わないかもしれないけど、隣に居る龍穂に圧倒されたじゃない。

私は龍穂の隣に立っているだけでいいんだ。それだけで・・・アンタに勝てる。」


片野は言葉で翻弄しようとするが、真奈美という人間を分かっていない。

置かれた状況の自らの役割を把握し、しっかりと役目を果たす。

他人にどういわれようとも、揺らがないほどの強い精神力の持ち主が

未熟な片野の言葉に揺らぐはずがない。


「そうか・・・。じゃあ、手薄になった方を狙わせてもらうよ。」


後から鉱石が動く音が鳴り響き、黒いカーテンの後ろから鋭く大きな鉱石の山が築き上げられる。

純恋達の悲鳴は上がらないが、視界から得られる情報が遮断されており

不意を突かれたのは間違いない。

片野を見せるわけにはいかないが、奴に支配されているこの部屋の中には逃げ場はない。

だからこそ念で連絡を取るべきだったが・・・奴に集中しているからか

失念してしまっていた。


『大丈夫か!?』


『だい・・じょうぶです。ですが鉱石が下から押し上げられてきています。

このままだと・・・。』


奴を視界に収めてしまう。このままだとマズイと風を向けようとするが

真奈美が大丈夫だと静止を求めてくる。


「あいつがいるよ。安心して。」


再び後ろから大きな物音が聞こえてくるが、これは奴が鉱石を動かした音じゃない。

固い何かがぶつかった轟音。真奈美の言うあいつ、緑の巨人となった猛が咆哮を上げて

大きな拳を振り上げて地面を抉り取っていく。


「こっちは・・・任せろ!!」


猛は純恋達に鉱石の破片が当たらないように丁寧に拳を振るっている。

八海ではダゴンに精神を乗っ取られていたが、完全に支配下に置いてしまっている。

白に存在を隠されていたが、回復を遂げた二人は泰兄が込めた神を支配下に置くために

努力を続けていたのだろう。二人が味方になる時、嬉しいという感情が込み上げていたが

この力強さを見た瞬間改めて頼もしさを実感する。


「さて・・・大丈夫か?」


二人の活躍は俺に余裕を与えてくれる。

八咫烏様と真奈美、この二人であれば猛がみんなを守ってくれている間に

片野との決着が付けられる。


「ふん・・・。まだ戦いは始まったばかりだ。ただの息と簡単な攻撃を凌いだだけで

そんな勝ち誇るなよ。」


片野は俺達に対して苛立ちを露わにする。

力を解放したのにも関わらず、思い通りに戦いを進められていない苛立ちは

奴の小さな器から溢れてしまっている。

このまま戦いを進め、奴の本領を発揮させずに勝利することが理想だが

いままでその理想を通し切った事は一度もない。

願いや希望は抱いた者の心に隙を生む。何が起きても良いように準備を整えつつ

真奈美に声をかける。


「ゆっくりと前に出るぞ。奴がもう一度息を吐いてきたら風で吹き飛ばす。

もし、さっきみたいな状況になったら・・・頼むぞ。」


分かったと頷いた真奈美と共にゆっくりと歩き出す。

奴の手札がいまだ不明な点、そして奴が一撃必殺の能力を持っている二つの点から

全ての出方を伺いながら突き進む選択を取った。


「俺も・・・仲間がいるな・・・。」


ガタノゾアの仲間と言えば・・・かつて地球にあったとされるムー大陸にいた多くの信者達。

それかガタノゾアを地球に連れてきたユゴス星人か地球に飛来したとされているロイガー一族か。

地下室から得た知識だが、奴のそのどれもを従えていない。


「緑の巨人エメラルド・ゴグマゴグ!!」


先ほど見た研究所で全て殺してしまったのか。それとも兼兄達が全て消してしまったのか。

分からないが、代わりに地面の鉱石を使い緑に輝く巨人を作り出した所を見ると

配下や友と呼べる仲間はいないのだろう。


「龍穂、どうする?」


「逃げるなんて選択肢は端からありません。

正面突破をしますが・・・砕け散った鉱石が厄介ですね。」


緑の巨人の手には荒く作られた剣が備えられており、俺達に向かって振り下ろされる。

どれだけ大きな巨人が相手だとしても、今まで戦ってきた奴らからすればなんてことの無い相手。

だがあの巨人は緑の鉱石で作られている。

いくら砕いても、奴の操作によって俺に向かってくるだろう。


「俺が灰に出来れば一番なのだが・・・あの大きさでは燃やしつくには時間がかかる。」


あれを別の物質に変える様な何かがあれば一番なんだが・・・。

宇宙の力である奴に対抗できる力は・・・。


「鉱石か・・・。」


ある。効率は悪いが、俺はその力を持っている。

砂と岩の大きな違いは大きさだ。俺の風で細かく砕いてしまえば鉱石は砂へと変わる。


「ひとまず、俺が対応します。二人は何が起きても良いように準備を。」


こちらに向かってきている剣を壁で受け止め、奴の足元に黒い風をを作り上げる。


「黒い恒星ブラックホール。」


作り上げた風は密度が高く、光さえ通さないほどの漆黒は小さく巻き上がると

鉱石の巨人の体を瞬く間に破壊していく。

奴が鉱石として俺達の討ち放とうとした時には既に緑の砂と化している。

これであれば緑の鉱石を怖がらずに壊すことができる。


(まだ大きな奴は出せないな・・・。)


空気を圧縮に圧縮を重ねて出す技であるため片野を飲み込むほどの大きさの物は

作り上げることができない。

奴を動かしたり、ダメージを与える事は出来るだろうがあの巨体相手では

勝負を決める一撃にはならないだろう。

だが奴が望んでいた援軍はこれでいなくなった。

再び無勢に多勢の状況を作り上げたが、奴は苛立ちを露わにすることはない。

むしろこの状況を待っていたと言わんばかりに触手を振り回してくる。


「エメラルドのシャムシール・ウィップ!!」


緑の鉱石を身にまとった触手を振り回して身を護る。

空中で音を鳴らしており、音速を超えた固い触手をまともに喰らえば骨が折れる所か

触れた部位が抉り取られてしまうだろう。


「これは・・・近づけないな。」


この技を仕掛けたいがために巨人を作り上げたのだろう。

ただれた様な皮膚に覆われた体から見えないほどに足が短く、接近戦はあまり得意ではないと

見ていたが、俺の予想とは反して強力な技を有していた。

だが近づけないのであれば外から攻撃を放つのみだと魔術を放とうとするが、

四方八方の鉱石が形を変え、鋭い破片が俺に向けられる。

地面から生えてきた棘は真奈美がすぐさま打ち払い、壁や天井から打ち放たれた鉱石は

俺と八咫烏様で対処する。

この熾烈な攻撃の中で奴に一撃を入れるのは難しい。

だが・・・奴の攻撃のパターンを見て、一つの疑念が俺の中に浮かび上がる。


(攻め手がないのか・・・?)


俺達に対する有効な攻撃を一切放ってこない。

強いて言えばあの鞭はかなり脅威だが、他の有効な攻撃と言えば緑の鉱石をぶつけてくるだけ。

もしかすると、文献に会った通りの石化の能力が奴の最も強い術であり、

それ以上を持ち合わせずに攻めあぐねている可能性が浮上する。


「・・・・・・・・・・・・。」


勝負の時が来たと、魔術を唱えながら二人に合図を送る。

一番の脅威である鞭をどうにかするための強力な一撃を試みるために風を作り上げる。

強力な敵と戦う際、強力な中距離攻撃としてアルデバランを使ってきたが通用しなくなってきた。

黒い風を扱えるようになって初めて自分で生み出した魔術なので思い入れもあり、

どうにかして威力を上げられないかと改良を重ねて出来た上位互換。


「・・天の黒牡牛グガランナ。」


シュメール神話で登場する冥界の女王の最初の夫であるグガランナ。

力を合わせたギルガメッシュ王とエンキドゥに殺されるが、王が大切な友人を

失うきっかけを作った死の運ぶ伝説の牡牛。

アルデバランを作り上げるきっかけとなったおうし座の元となったと言われているが、

逸話を元にして改良を重ねた結果、より大きく、そして鋭い角を持った

強力な魔術へと変貌を遂げた。


「行け。」


鞭を振るうガタノゾアに対してグガランナが突っ込んでいく。

質の高い黒い風で出来た体からは漆黒の魔力が溢れ出ており、

触れた瞬間に死を与えられることを見る者に伝えている。

グガランナを目視したガタノゾアは音速の鞭を振るってくるが体に触れた瞬間、

無くなったのは体の一部ではなく緑の鞭。新たな力を得た黒牛にガタノゾアはなす術がない。


「クソッ・・・!!」


近づくのが苦しかったはずだが、あっさりと突破した死を呼ぶ黒牛は止めを刺すために

角を突き立てながら突き進んでいく。

やはり奴は攻め手を欠いていた。これで勝負が決まりかねない。


「取っておきたかったんだけどな・・・。」


これで勝ち筋が明確になる。そう確信したその時、

黒牛の体が一瞬にして緑に染まり光り輝きだす。


「石化の魔眼イービルアイ。」


奴の体に付いている複数の眼が赤く染まっており、そのどれもが魔眼であることが見て取れる。

攻め手を欠いていたのではなく、奴はカウンターを狙っていたんだ。


「そんな簡単に終わるはずないだろ?まだまだこれからだよ。」


攻め手を隠す様な敵との戦い。ショッピングモールでの戦いを思い出す。

こちらも手札を切り切らないと倒せない敵。簡単に倒せない事を分かっていつつ、

それでも勝利を勝ち取るために緩みかけた気を引き締め、ガタノゾアと再び対峙した。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

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