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第二百七十九話 貴重な情報源

「親父、どうだ?」


龍穂にルルイエの調査を頼まれていた別働部隊は真っ暗な廊下の中で明かりを照らしながら

石壁を調べている。


「・・これはやはり遺跡だね。クトゥルフのためにガタノゾアが作り上げた石造りの都市。

クトゥルフの祭壇があるこの場所は彼らが上げた功績を称えるために飾られている様だ。」


廊下の石壁にはおぞましい化け物がいくつも刻まれている。

この先にあるクトゥルフと対面する際にその偉大さを分からせるために刻んでいるのだろう。


「あの・・・少し質問いいですか?」


同行する木下が、申し訳なさそうに調査を続けている捷紀に声をかける。


「ん?何かな?」


「俺・・・強くなるために龍穂さんに付いてきたんですけど、

あの人達が戦っている敵というのも明確に報せれていないんです。

あの化け物を見てわざと知らされていないんだと察してはいるんですけど・・・

ここまで来て何も分からないんじゃ力になれないので色々と教えていただけませんか?」


実力を上げるためにもっと厳しい環境に身を置きたいという木下の願いに応えるために

星空に所属させたため、必要最低限の知識しか与えていない。


「・・あの子の甘い所だね。君に言う通りだ。」


クトゥルフの闇に足の小指を突っ込んだだけでも奴らは簡単に取り込まれてしまう。

龍穂はその事実を十分に知っているのにも関わらず、中途半端な情報しか与えていないのは

あまりに無責任だとため息をつき、捷紀が知っている事実に火嶽や綱秀、定明が補足を入れつつ

木下が求めている知識を与える。


「そんなことが・・・。」


「何も知らない君からしてみれば嘘のような話し・・・とは言えないか。

君は先ほどの光景を目にしているのだからね。」


八海で起きた様々な出来事はこのあまりに現実離れしている龍穂の道のりを

木下が受け入れるには十分な経験だった。


「ひとまず先に進もうか。ここにはあまり情報が無いからね。」


龍穂達が片野の集中を集めているおかげか壁や床などは緑に輝いておらず

今のうちに集められるだけ情報を集めようと急ぎ移動を始める。


「・・・はい。」


全員が必死に足を動かしている最中、自身の能力を生かして辺りを明るく照らしている

火嶽のヘッドセットからノイズが響く。

戦場にいるちーからの連絡だろうと、火嶽の邪魔をしまいと口を噤む。


「ええ、こちらに影響はありません。・・・分かりました。」


短い会話を交わし、マイクを遠ざける。

火嶽が与えた情報はこちらの安否の身。そしてあちら側も提供した情報は少ない。


「悪いニュースです。」


たった一言で終わる情報をわざわざ伝える意味。端的で、それだけを大きな意味を持つ情報と

言う事を全員が察するが、開口一番火嶽が言い放った言葉に全員の緊張感が高まる。


「いや、ただ悪いという訳ではありません。

物事が進み、訪れるべき事態になった・・・とでも言いましょうか。」


「・・君は優しい子なんだね。だけど、私達の事なんて気にしなくていい。

起こったことを、起こったまま伝えてくれ。」


通常、察する事が出来ないほどに空気感を感じ取った火嶽が全員が受ける衝撃を

和らげようと前置きを挟む判断。

白として多くの戦場を渡り歩いてきた火嶽は士気の高さがどれだけ重要か理解している。

それを察した捷紀は構う必要はないと催促するとその指示通りに手短に報告を行う。


「片野東亜は宿している神であるガタノゾアと一体になりました。

奴の力が強化され、こちらへの影響があるかもしれないとのことです。」


「そうか・・・。それは龍穂が片野を追い込んだ結果と見ていいのか?」


「ええ。簡単に追い込んだようですが・・・そのまま殺しかけたと言っていました。」


「それは良くないね。その話しから察するに仲間達から止められた様だけど・・・。

あの優しい龍穂君が八咫烏様を従えた上でそのような行動をとるという事は

彼の中にいる神の力がそれだけ強大だという証かな。」


そのものが歩んで来た過程とその場の状況で行動が決まるが

人間が宿す陰と陽の比率も大きく関係すると捷紀は言う。

これまでの戦いで人間として成長を続けているが、封印が解かれたハスターの力を

どれだけコントロールするかが龍穂にとって大きな課題として浮き彫りになっていた。


足早に進んでいた一団は、廊下の先にあるとある一室へとたどり着く。

そこにはこの世の物とは思えないほどおぞましい姿を模した石像が台座の上に立っていたが

その中には見覚えのある物がある。


「これは・・・ヒュドラと陀金・・・?」


ショッピングモールで戦った二体の神に酷似した石像。

クトゥルフの神々を模した石像だと全員が察するが、

その中に壊された物があることに気が付いた。


「ふむ・・・。」


「これが残っているクトゥルフの神々という事ですか・・・。

確認できない物があるのは残念ですね・・・。」


「・・いや、そうではないのかもしれないよ?」


捷紀は何かに気が付いたように呟き、火嶽の方へ振り返る。


「火嶽君。君が知る限りで良い。白がこれまで討伐した神々を教えてくれないか?」


捷紀の言葉の意図が汲み取れないが、ここで言わない選択肢はないと火嶽は口を開く。


「俺が知っているのは・・・”イソグサ”と”ゾス=オムモグ”ですね。」


「・・君達は本当にすごいんだね・・・。」


火嶽が上げた二体の神。それはクトゥルフの息子であり、強力な力を持つ神々。

まさかの答えを聞いた捷紀は素直にほめたたえる事しか出来ない。


「親父、一体何が言いたいんだ?」


「ここにある壊された石像。これはただ単にクトゥルフの神々を崇めるための石像ではなく、

現在生きている神を現しているんじゃないかと思ってね。」


捷紀の仮説。火嶽の答えがその仮説を後押ししており、信憑性が高くなる。

とはいえ仮説の域を出ない仮説である事には変わらない。

だが・・・その仮説を否定する言葉を少し離れた所で石像を見ていた綱秀が言い放つ。


「・・それはおかしいかもしれませんよ。」


「ん?」


一体なぜそんなことが言えるのか。その答えが綱秀の視線の先にあった。


「シュド=メルです。こいつは江ノ島で俺達が倒しているはず。

こいつがここに立っている事が捷紀さんの仮説を否定しています。」


江ノ島で実朝が操っていたシュド=メルは綱秀と涼音に叩き斬られていた。

あの傷では生き残ることはできないと綱秀は言うが、捷紀はその答えを受け入れずに

別の仮説を立てる。


「謙太郎から江ノ島の事は聞いたよ。確か・・・君達が叩ききった化け物だが

姿を消したのではなかったかな?」


現場に遺体が残っていない事を指摘された綱秀は反論できずに口を閉ざす。

誰かが遺体を回収したのか、それとも・・・そもそも”死んでいなかったのか”。

そのどちらの結末を迎えたとしても、彼らが持つ回復力であれば

シュド=メルが生きている可能性は否定できない。


「・・ひとまずだ。ここに来れた時点で大きな収穫には違いない。

他にもこのような部屋があるのかもしれない。急ごうか。」


残された文献だけでは得られる情報は限られる。

この機を逃せば二度と見られない情報があるのかもしれないと部隊を足を進める。

踏み込めば踏み込むほど、深淵にハマりつつあることを自覚しつつ、

沈んだ古代都市であるルルイエの中を捷紀は駆けていった。



————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


『ガタノゾアだ。これは厄介だな。』


俺の中にいるハスターが声をかけてくる。

これが・・・ガタノゾア。神と人間が一体となった姿に後ろにいる全員の動きが一瞬止まるが

すぐさま攻勢を仕掛ける。


虎砲羅刹拳こほうらせつしょう!!」


「日輪煌々御来光にちりんこうこうごらいこう!!」


黒槍こくそう!!」


楓、純恋、千夏さんがガタノゾアに向けて一斉に攻撃を放つ。

俺が戦っている間、力を溜めていた甲斐があり高威力の魔術が襲い掛かるが

名状しがたい奴の体にたどり着く前に緑の鉱石と化してしまう。


「なっ・・・!?」


「そんなもん、効かねえよ・・・!!」


有体である物質を石化してしまうのであれば分かる。

だが風や炎を石化してしまう力は一体どういうことなのか。

姿を変えた奴の力の強大さを思い知るが、それだけでは済まない。


「な・・んやこれ・・・!?」


攻撃を放つために若干前に出ていた純恋達の体に異変が起こる。

何と体が先ほどの奴と同じように緑の高s系へと変わってしまっている。


『奴を見させるな。視界を阻め。』


ハスターの声を受け、すぐさま俺の後ろを黒いカーテンで覆う。

確か・・・ガタノゾアの逸話として見たものを石化させるものがあったが

あの緑の鉱石がそれだけ思い込んでいた。

片野はガタノゾアの全ての力を引き出せてはいなかった様だ。


「俺達は・・・大丈夫な様だな。」


俺と共に立っている八咫烏様の体には大きな変化はなく、当然俺の体にも

石化の兆候は見えない。


『強い陽を持っているからだ。奴の石化は宇宙の陰の力。

人間の陽では抵抗できんが、太陽の化身の使いとなれば相殺できるだろう。』


「なるほどな・・・。俺はなんで大丈夫なんだ?」


『あいつより強い陰の力を持っているからだ。

奴程度の力に影響されるほど、龍穂の力は弱くはない。』


俺達であればガタノゾアに近づける。たった二人だが・・・それでも十分だ。


「・・やれると思うか龍穂。」


「当然。いけますよ。」


珍しく弱音を吐いてくる八咫烏様。異形の神との戦いは経験してきたはずだが、

あのガタノゾアの姿を見て慄いてしまったのだろう。

巨大な体には蛸の眼ような球体が付いており、ぎょろぎょろと辺りを見渡している。

ただれた様な肌には血が通っていないような紺色に染まっており

何本かの大きな触手が付いている。

地球上には存在しない宇宙の神である事は奴の姿に恐怖するのは仕方がない。


「では、どうする?」


「相手の力が石化以外に分からない以上踏み込むのは怖いですが、

こちらから仕掛けます。八咫烏様は付いてきてください。」


姿を見ただけで逃げているのでは勝つことはできない。

先程までは優位を取っていたのもあり、ここで退くのはあまりに弱気過ぎる。

奴の自信をもう一度へし折るために浮かび上がってガタノゾアに近づくと

それを待っていたと言わんばかりに奴は皮膚に下に隠れていた口から

何かを吐き出してきた。


「石化の息吹イービルブレス。」


灰色の息は勢いよくこちらに向かってくる。

見た所殺傷能力はない。だが、奴がそんな中途半端な攻撃を放ってくるはずがないと

黒い風を壁の引いて阻む。

俺自身が放った風にも関わらず、息に触れた途端緑の鉱石へと姿を変えてしまう。

その名の通り、全てを石に変えてしまう息吹だ。


(これは・・・警戒しなくちゃならないな・・・。)


体を石に変えられてしまえばそれで終わり。

純恋達はあの程度で済んだが、あのブレスを喰らえば瞬く間に動けなくなり

奴の触手によって体をバラバラにされてしまうだろう。

風で吹き飛ばすこともできるが・・・それだけ手数が減ってしまう。

出来れば俺以外に攻撃の手が欲しいと思っていると、

黒い風が変わった緑の鉱石が突然砕け散り、その破片が牙を剥いてきた。


決して予想できなかった訳ではない。すぐさま風を作り出し砕きにかかるが、

後ろから再び奴が息を吐いて作り出した風が緑色に変わっていく。


「くっ・・・!!」


俺が風を使って岩を砕く事しか出来ないと思っての行動だが俺には六華がある。

素早く刀を抜き、全てを切り払うが今度は床が動き出して

俺を再び押しつぶそうとして来た。

猿の一つ覚えの様に仕掛けてくる片野に対し、空渡りを使おうとするが

後ろから近づいてくる気配を察して動きを止める。

鋭い何かが俺を押しつぶそうとして来た鉱石を全て破壊してしまう。

俺以外が正面を切った戦う事を想定していなかったのか、

奴の体に付いている目玉が大きく見開いて驚いていた。


「・・任せてもいいのか?」


後ろから近付いてきた何かが、俺を護るように近くに寄って頷く。

奴の影響を受けずに近づいてこれる数少ない人物、

ヒュドラの力を持った真奈美が増援に来てくれた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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