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第二百七十五話 記憶の奥に眠っていた研究所

突然現れた扉に引き込まれ、落ちた先は闇の中。

固い何かの上に何とか着地をしたが辺りを見渡しても何も見えない。

若干の悪臭の中、聞こえてきたのは何かが危機馴染のある声達。


「いたた・・・。」


これは・・・純恋の声だ。他にも落ちてきた仲間達の声が聞こえすぐさま空気を支配する。

どこかわからないがとある一室に落とされたようで落ちる前に見た人達以外の全員が

この場にいる様だった。


「なんやもう!いきなりどっかに落としてなんのつもりや!」


文句を言う純恋に近寄り、声をかけながら肩に手を置いて立ち上がらせる。


「純恋、ここは敵陣だ。文句を言いたい気持ちは分かるが・・・何が起きても良いように

準備をしてくれ。」


八咫烏様を呼び出し、辺りを照らしてもらう。

着地の際に怪我をした者はおらず、無事を確認するが照らされた部屋が俺達に与えた情報に

どうしても目線が向かってしまう。


「ひっ・・・!」


真っ白な古びた部屋に落とされたようだが・・・至る所に生々しい血が飛び散っている。

生臭い悪臭の原因はその場にいる全員の精神を蝕んでいく。


「なんだここは・・・。」


窓はなく、ここが日ノ本なのかさえ分からない。

何か情報が無いかと小さな机に置かれていた血が滲んでいる資料を手に取るが、

見たことがない文字で書かれた古びた紙からは何も得ることが出来なかった。


「・・情報の整理をしようがない。動かなければならないですが、ここは敵陣。

部隊の編成をしましょう。」


空気で辺りを探ることもできるが、範囲を広げないと俺達の居場所を知らせてしまう危険がある。

だが・・・奴との戦いを控えている今、探索で多くの魔力を消費するのは避けたい。

危険を承知で体で情報を得ようと提案する。


「二手に分けるか?」


「いえ、場所も分からず視界も悪い場所で二手に分けるのは流石にマズイ。

ここはしっかりと役割を分け、全員で動くことが好ましい。」


先程の扉と出てきた腕。体に触れられた瞬間、魔力を出せなくなった。

どういう術なのか分からないが、魔力だけではなく神力までも封じることができるのであれば

一気に全滅もあり得る。

遠距離と近距離で中距離が得意な者を挟んだ隊列を取り、先頭にたったちーさんは

たった一つだけついたドアを開いた。


「病院・・・でしょうか。」


神力を感じ取られると八咫烏様を戻し、ライトが付いた銃を手に持ったちーさんとゆーさんが

辺りを警戒しながら進んでいくが、タイルや壁、天井など全てが真っ白な

清潔感を感じさせる施設を見て、千夏さんが呟く。


「例え病院だったとしても、八海の病院はこんなに古臭くはありません。

それに・・・。」


「あの血や。何かあったんやろうけど・・・あれだけの事になっていれば通報されるやろうし、

それを武道省の奴らが見逃すはずないで。」


日ノ本ではありえない光景を見て、純恋はおびえてしまい中で縮こまっている。

歩いている廊下にも至る所に血しぶきが飛んでいるが、肝心の死体が見えない。

見た所たった一人が襲われている訳ではなく、多くの人間が逃げ惑うかのように辺りに

地が広がっている。


「乾いている・・・。建物の形状からして当然だが、何かが起きてから

かなりの時間が経っているみたいだな。」


定兄が風太さん共に壁を調べているが、部隊を離れている二人に対し

戦闘を歩く二人は注意さえせずに奥に進もうとする。


「・・少し待ってください。」


経験豊富は二人にしてはあまりに周りが見えていない。

この恐怖から抜け出したいと焦っているのではないかと声をかけるが

平然としながら大丈夫だと言ってくる。


「・・・・・ひとまず情報です。どこかの部屋に入ってみましょう。」


僅かに冷や汗をかいている二人を見て、安心させるためにも情報を得ようと

廊下に付いているドアを開いて中に入る。

先程の部屋とは真逆の散らかった部屋には、見たことも無い大きな機械が備え付けられていた。


「研究所・・・か?」


清潔感のある場所にこのような大きな機械となれば、研究所という選択肢に絞られる。

一体何を研究していたのか調べるためにガラス片などが散らばる部屋を進み、

横になっている机に付いた引き出しを引っ張ると中から資料の束が出てきた。


「・・・・・・。」


先程は見たことの無い言語だったが今回は日ノ本語で書かれており、

この資料から何か情報が得られないかと読み始める。


「ワーウルフとは・・・?」


資料にはワーウルフ、いわゆる半獣半人についての事が書かれており、

その歴史から幅広い生息範囲、現代でも姿を確認されていると記されている。


「何かありましたか?」


俺が資料を眺めていた姿を見た千夏さんが声をかけてきたので資料の内容を簡潔に説明する。


「半人半獣・・・ですか。」


「・・ええ。」


研究所、半人半獣。資料から取れたわずかな情報である二つの単語を繋ぎ合わせると

とある部隊との関わりがある場所の可能性が浮上する。


「・・・・・・記憶はない、はずなんだけどね。」


自然と向けられた俺達の視線から察したちーさんが呟く。


「小さい頃だったし、思い出そうとするなって言われていた。

でも、この”匂い”を嗅いだ時に体が理解したよ。ここが・・・”そうかもしれない”ってさ。」


俺達が飛ばされてきたのは・・・千仞の研究所だった場所。

アルさんやノエルさん、竜次さんが被検体、泰兄が研究者として暮らしていた場所であり、

兼兄が滅ぼした場所のはずだ。


「でも確証はない。ワーウルフを兵隊として使いたいなんて研究は世界の至る所で

行われていたからね。だからそんな顔をしないで、傷つくよ?」


記憶にないはずの研究所を思い出せたのは俺達でさえ鼻に突く悪臭。

半獣である二人の鼻は血に含まれている鉄分さえ感じ取られ、眠っていた記憶を

呼び覚ましてしまったのだろう。


「・・・・・・・・・・・・・・。」


二人の様子を見て、最小限に収めていた空気操作の範囲を広げにかかる。

その様子を見たちーさんは俺に苦言を呈すが構うことなく探知を進めた。


「お二人が記憶を思い出すほど、過去の研究所と酷似しているのは確かなのでしょう。

ですが・・・それにしては血の匂いが生臭すぎる。もっと腐った匂いをしていいはずです。

そうは思いませんか?」


時系列が合わなすぎる。どう見ても・・・これは罠だ。

業のみを狙った罠だと結論付け、この先にちーさん達を陥れる罠が他にないか確認する。


「それは・・・どうかな?」


廊下にあったいくつかの扉の先も同じような形状であり、散らばったガラス片に

机が置いてあるのみ。一体何をしたいのか理解できずにいると、捷紀さんが口を開く。


「さっき龍穂君が置いてきた資料を持ってきたんだよ。

ギリシャ文字で書かれた資料だけど・・・なかなかに興味深い内容が書かれているね。」


俺の予想に疑問符を打った捷紀さんは先ほど置いてきた資料に目に通しながら

内容を簡潔に説明してくれる。


「これはとある神道の技術について書かれている。

魂と魂をくっつける・・・。もしこれが本当にある技術であるのなら禁術に指定されているね。

魂を砕くなんて生命への冒涜だよ。」


魂とは、生命の象徴。人格や神格などを形成するのに必要な、人体における実体を持たない

一つの臓器とも言われている。

魂魄融合について書かれている資料だったようだが・・・そのおかげで生き長らえている者も

俺の近くにはいる。


「君達にはここに心当たりがあるようだけど・・・出来れば聞かせてほしいな。

こので一体何が行われていたのか——————————————」


知識として蓄えたいのか、それとも状況を把握したいのか。

捷紀さんが俺達に説明を求めようとしたその時、


「俺がしてやるよ。」


誰もいないはずの真っ暗な空間から声が聞こえ、ちーさん達が銃を向けると

ライトが照らしたのは俺達をここへ引きずり込んだ扉から出てくる片野の姿。


「どうだ?話しに聞いたとおりに”してやったんだぜ?”

忠行様に色々聞いてさ。当時に生き残りなんていやしないからさ。」


殺気はない。得物さえ持たずに距離を取っている。

踏み込めば一瞬でつまる距離だが・・・奴であれば対応して来るだろう。


「俺と・・・同じ。いや、俺の方が格上か。

でもさ、根っこは同じ。俺も同じことをしてもらったんだよ。神と一緒になったんだ。」


匂いが俺達に伝えてくる殺人の証が飛び散る部屋を、片野は懐かしそうに見ながら語る姿は

長い期間、ここにいたことを伝えてくる。


「その資料。あいつに壊される前に忠行様が持ち帰ってきた奴なんだ。

その時点じゃ未完成の技術だったんだけど・・・土御門が帰ってきた。

俺は嬉しかったよ。これで忠行様の力になれる。憧れたあの人の傍にいれる・・・。

嬉しかったな・・・。」


「・・歓喜の所申し訳ないんだけど、話しが逸れているよ。説明、してくれないか。」


こいつは賀茂忠行を、クトゥルフを崇拝している。

俺達が戦った時点で壊滅していたが、教団と呼ばれるほどに信仰を受けていたはずだ。


「ああ、ごめんごめん。ちょっと嬉しくなっちゃってさ。

ここは見ての通り研究所だ。魂魄融合という技術を使い、人と神が一体になる研究をしていた。

そこにいる奴らはさ、弱い神を入れられて可哀そうだよ。

まあそれも仕方がないこと。俺を生み出すための”試作品”達なんだから。」


試作品と言いながら、ちーさん達に憐みの向ける。

こいつとちーさん達は別の場所で人体実験を行われた・・・?

となると・・・あの非道の研究は続けられていた事になる。


「お前達が受けた拷問は無駄じゃなかったんだよ。

痛み、苦しみ、恐怖。それは全て・・・俺の中に込められ、力に変わった。」


片野の声に力が込められていくと、それと同調する様に部屋が震えていく。

奴の怒りに震えるように。奴の力に怯えるように。


「さっきさ。託されたって言ってたよな?俺も同じなんだよ。

今まで殺されてきた奴らが俺に託したんだ。痛みを、苦しみを、恐怖を!

俺達に与えた全てを!お前達に与えろってな!!」


床や壁、天井達が恐怖に耐えきれずに体を固めていく。

あの日見た、緑に輝く鉱石へと形を変える。


「俺の名は片野東亜!偉大な神、クトゥルフの子を見に宿すことを運命づけられた男だ!

賀茂忠行様にお前らを捧げるため!ともにあるガタノゾーアと共に

貴様らを葬ってやろう!!」


奴の体から鋭い緑の鉱石が生えてきて人ではなくなってしまう。

クトゥルフの子供である神と共になった片野は俺達を囲む鉱石を操り、

命を奪おうと襲い掛かってきた。






ここまで読んでいただきありがとうございます!

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