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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第一幕 忘れられた二人
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第二十七話 従者同士の戦い

皇が扉を閉めた後、兼定が近づいてくる。


「・・・・・・・」


何も言葉を発することなく隣に立つと戦っている龍穂達をじっと見つめた。


「・・何か用があるのではないのですか?」


皇がいないこの部屋には誰も入ってこないだろうが、見られていないとは限らない。

私達が共にいる所を誰かに見られなどしたら今まで積み上げた来たものが崩れてしまう。

早急に話を終えようと話を切り出した。


「・・終わりに近づていると思うと名残惜しくてな。」


少しの沈黙の後、兼定は口を開く。


「別にこれからも顔は合わせるでしょう?」


「腹を割って話すことはないだろ?人払い済んでいる。少し・・話しをしたい。」


確かに今日から”始まってしまう”。

私達の計画は細かいすり合わせも必要ないほど順調であり、

ここからは各々動くため、顔を合わせてたとしても上辺だけの話し合いになるだろう。


「私情で動くなんて珍しいですね。そんなことでは”業”の長は務まりませんよ?」


「いいだろ今ぐらいは。二人でいる時は神道省の副長官でも業の長でもなく、ここいるのはただの男達。

土御門泰国と上杉兼定だ。」


確かに・・・下手をすればこれが最後と考えればそう思ってもいいかもしれない。


「そうですね・・・。振り返れば本当に何も持たない所から始まりましたが、

ここまで来るのに二人共ずいぶんと重い肩書を持ったものですね。」


「まったくだ。」


煙草を取り出す兼定。

いつものように二本取り出し一本受け取ると私が火を着ける。


「・・甘いですね。」


いつもならメンソールの煙草を吸っているが、

こうして感傷に浸りたいときはいつも甘い煙草を吸っていた。


「思い出すだろ?あの時を。」


あの時。私達がこの国を共に上り詰めると固く決意した日。

その時は大人の階段を登ると萎びた一本の煙草を二人で分けて吸いあった。


「ええ。慣れない煙を吸い込みお互いむせたのを覚えていますよ。」


フィルターを吸い込むとたばこがチリチリと音を鳴らし、肺に入った甘い煙を天井に向けて吐き出した。


「今じゃむせることなく吸い慣れちまって、少しは大人になったってことかもな。」


「不条理を受け入れ、身を粉にして必死で働いてきたのです。立派な大人ですよ。我々は。」


「立派な大人ねぇ・・・。」


兼定は私の言葉に何か引っかかりがあるようだが、それを吐き出すように天井に煙を吐く。


「・・木星はどうでしたか?」


「良い調子だ。親父も察して大阪校の中で一番強い純恋ちゃんをぶつけるように動いてくれたよ。

これなら計画通りに事が進められる。」


「そうですか・・・。」


計画通りか・・・。


「仙蔵さんも覚悟は決めている。下準備は抜かりない。あとは・・・・。」


「分かっていますよ。」


横まで確認を取ってきた兼定に対し、こちらも大丈夫だと返す。


「仙蔵さんには最後まで迷惑をかけることになって申し訳ないですね。」


「ああ。だが本人の提案だ。大切なのはその後。」


「残念ながら、私は関与できません。不備を疑ってはいませんが、よろしくお願いしますよ?」


「安心しろ。そこも含めうまくやるつもりだ。」


火がフィルターまで届きそうになった所で火の魔術で全て燃やし尽くし灰に変える。


「・・もう少し話していけよ。時間、あるだろ?」


察しの良いことだ。一本煙草を吸い終わったら部屋を出ていこうと思っていた。


「こうなる事は分かっていたでしょう?まだ、決心がついていないのですか?」


「そうじゃない。だけどな・・・、”兄弟”として接しすることが出来るわずかな機会なんだ。

他の奴らの話もある。いれるだけいろ。」


往生際の悪い一言に思わず女々しいものだと思ってしまう。


「・・・しょうがないですね。」


業として非情な選択をしてきた彼の本性が見れるなどなかなかない。

そんな姿を片手で数えるほどしか見れないのだと思うと足を止めて話す価値はあるだろう。


戦う二つの希望を眺めながら出来る限りの時間を会話に費やすことを決め、

先ほど兼定が言っていた通り肩書を持たない二人の兄弟として

弟や妹達の現状や昔話などに花を咲かせた。



——————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


「くっ・・・!!!」


桃子さんとの戦いは熾烈を極めている。


「何や。口だけで大したことないやん。」


私のバカ力で何度も打ち込んでもびくともしないほど桃子さんの力は強く、

離れて魔術を放ってもあの強固な鎧は破れる気配はない。


(思っていた以上に崩れてはくれないね・・・・。)


既に何度も仕掛けはしているが効果は現れない。思っていた以上に桃子さんの魔力は多い様だ。


「・・まだ戦いは始まったばかりですよ?」


桃子さんは仕掛けには気付いていないようで私の攻撃を何度も受け止めてくれている。

戦いが長引けば長引くほど有利なのは私。だが、それはお互い望んではいないだろう。


「そうやな。やけど・・・。」


桃子さんの力が増していく。

私達は早く主人の元へ行かなければならず小競り合いなんてしている暇はない。


「終わらせてもらうで?」


力を増した桃子さんが持っている刀を地面に突き刺す。


「!?」


すると周りの地面が盛り上がり、下から何かが這い出てくる。


「配下達よ。共に戦い障害になる者を討ち果たさん。」


出てきたのは鎧を身にまとった骸骨の達。これは神融和をした神の力を使った召喚術。


(死霊術・・じゃないな。)


体を持たない亡き者達を召喚する方法は大きく分けて二つある。


一つは死者の体を操る死霊術。肉体を保持した死体を操る術であり、

骨だけの奴らが出てきたのでこれは違う。


もう一つは奴らが妖怪に属する者達であり、桃子さんが持つ式神が妖怪達を束ねる者、

噂に聞いた”魔王”の力で呼び出した配下達の妖怪を召喚することだ。

かなりの力を持つ桃子さんでも制御できない力を持っている所を見ると

後者の方が条件は合致しており相当厄介な相手なのが分かる。


(だけど・・頑張るしかないね。)


力を消費させることで私の仕掛けは大きな意味を持つ。ここは全力で踏ん張るしかない。


浄蓮じょうれん!ピョコ太!!」


もう一度ピョコ太と綺麗な着物姿の女性の式神を呼び出す。


「・・久々に呼びされたと思ったら、恐ろしいお方と対峙してるみたいだね。」


浄蓮は何百年と生きている妖怪であり、私より深い知識を持っている。


「浄蓮。知っている事を教えて。」


「申し訳ないけど、それは無理だね。あのお方は私達の長の中の一人。

名前を口に出すことなんて許されてないのさ。」


やはり魔王の中の一人か。


「でも・・機嫌がいい所を見ると戦うことは出来そうだ。

どこまで許されるかわからないけど、手伝わせてもらうよ。」


そう言うと浄蓮は着物をはだけさせ豪快に脱ぎ捨てる。

激しい戦闘を見て静まりかえっていた観客たちから様々な声が上がるがすぐに驚きの声に変わる。


「さあ行くよ!いくらでもかかってきな!!」


はだけた先に見えたのは柔肌ではなく、グロテスクな昆虫の足。

そして手には人間の背丈を超えた大きさの棍棒を手に持ち振り回し始める。


彼女は女郎蜘蛛。

上半身は女性の姿で下半身は巨大な蜘蛛の妖怪であり滝を住みかにし、

近寄ってきた男を滝壺に引きずり込むという逸話を持つ。


近寄ってきた骸骨たちを棍棒で薙ぎ払うがバラバラになっても

独りでに動き出し元の姿に戻ってしまった。


「厄介だね!楓!ここに居たら埒が明かないよ!!」


前に出て勝負を決めて来いと浄蓮が遠回しに言ってくる。

数体しかいなかったはずの骸骨たちは地面から追加で這い出てきており、

このままではいつかジリ貧になってしまう。


骸骨たちは桃子さんが発動した術で動いており、

倒しても元に戻ってしまうのなら元を絶つしか止める方法は無い。


「ピョコ太、行こう!!」


戦いに決着をつけるためにピョコ太の背に乗って手印の準備をする。

そしてわざと目立つように空高く跳ね上がった。


「来たか・・・!!!」


豆粒の様に小さい桃子さんがこちらに気付き地面から刀を引き抜いて構える。


よく見ると肩で呼吸をしているようで私の刀で傷をつけていないのに消耗している様だった。


(仕掛けは効いてる。あとは私がしくじらなければ・・・。)


桃子さんも不思議に思っている事だろう。

打つ手のない私を完封し、力を残して純恋さんの元へ向かうはずが

魔力の底が付きそうになっているのだから。


なるべく近くに近づくため、ピョコ太の頭を足のつま先で軽く叩いて合図を贈る。

合図を受け取ったピョコ太は大きく口を開けるとその中には大量の煙玉が入っており、

一気に吐き出した。


火竜噴かりゅうふん!!」


手印で呪文を唱え口から火を出して煙玉に一斉に火をつける。

丁度頂点の所で煙玉が爆発し、私達の姿を隠した。


「・・・!!」


落下する私達に煙が纏う。

これで桃子さんは落下中の私達の行動を把握できない。

魔力で体の強化に必死な桃子さんでは落ちてくる私達に攻撃が出来ず、容易に近づけるだろう。

だが近づけた所で桃子さんが神融和をして刀を振るう限りこちらの劣勢は変わらない。


「面倒やな・・・やけど・・!」


落下していると桃子さんの声がする。もう少しで地面につくみたいだ。


(・・行くよ。)


ピョコ太の背中を踏み込み真横に駆ける。

煙幕のおかげで思っていた以上に近づけておりタイミングよく死角から飛び出すことが出来た。


「はあっ!!!」


私のいない煙に対し刀を振るう。

死角から飛び出したとはいえ、飛び出すために割いた空気の動きで本来ならば気づくだろう。


「はっ・・!?」


煙は刀を振った風圧で流れることなくそのまま桃子さんに覆いかぶさる。

自然ではありえない動きに思わず動きが固まってしまっていた。


煙の中、桃子さんにより近づくためにある妖怪を出していた。

それは煙々えんえんら。煙を操る妖怪だ。

頭で想像した動きと違う事象が起きた時、思考が一瞬止まってしまう。

わざと目の前で起こすことによって大きなインパクトを与え堂々と不意を突くことが出来る。


「なんや・・!これ!!!」


煙を払おうとしている桃子さんだが効果はない。

煙々羅も魔王に反抗するのを嫌がっていたようだが何とか説得を行い協力してもらった。


「今だ・・・!!」


これなら堂々と踏み込めると判断し、煙に巻かれる桃子さんに縮地で踏み込む。

わざと音を鳴らして気付いてもらえるように地面を踏みしめると

反応した桃子さんがこちらに刀を構えた。


「ど、どこや!!」


音に反し姿を見せない桃子さんは焦りの表情を浮かべながら辺りを見渡している。

視界と言う情報を遮断された桃子さんは明らかな焦りの表情に見せていた。


兎歩や投げ物を使い音でかく乱する。

桃子さんはさらに混乱し、もう私の位置を捉えることはできないだろう。

これならとどめの一撃を叩き込むことが出来る。


「ふっ!!!」


小刀を手に思いっきり踏み込む。


「!!!」


私が放つ殺気に気付いたのかこちらに振り向く桃子さんだがかく乱の甲斐もあり既に手遅れだ。


「ぐっ!!!」


桃子さんのわき腹を小刀が狙う。

先ほどまで体を守っていた鎧にはほころびが出来ており、隙間を縫った刃が桃子さんの肌に傷をつけた。


「・・エンラ。煙をは晴らして。」


勝負は決まった。これ以上の戦いは必要ない。煙を晴らして桃子さんに姿を見せる。


「・・観念したんか?それじゃ姿が丸見えや。」


付けたのはかすり傷程度。当然桃子さんはまだ戦闘を継続できると思っている。


「来てもいいですよ?来れるのなら。」


挑発で桃子さんを誘う。やる気満々で刀を持ってこちらへ向かってくるが・・・


「・・!?」


途中で膝を突き、崩れ落ちた。


「な、なんや・・・・?」


何が起きたか理解できていない様子の桃子さん。体の異変にまだ気が付いていないようだ。


「さて・・・・。」


上手く動けない桃子さんの元へ悠々と歩いていく。


「・・ど、毒か?」


こうなった原因を探すため、今までに起きた出来事を必死に思い返していたのだろう。

その結果、出てきた答えは毒。


「毒は使ってませんよ。と言うか持ち込んだ時点で先生方に没収されてしまうでしょう。

ですが・・・・考え方自体は悪くないですよ。」


奥の方に目を向けると、浄蓮が動かなくなった骸骨たちを尻目にこちらへ近づいてきていた。


「私達一族の事を調べたのでしょう?そこに敗因がありますよ。」


「・・サキュバスの血を引いているのは分かっとる。

やけど、あんたの”右手”には触れてない。力を吸うことは不可能なはずや。」


流石に良く知っている。

私の血に混ざっているサキュバスの血。淫魔と呼ばれる悪魔だが別の呼び方も存在する。


「そう。この右手で触れると魔力を吸いだすことが出来る。よくご存じですね。」


吸魔。サキュバスのもう一つの別称。

他の生物の魔力を吸いだし自らの力に変えることが出来る悪魔だ。


人が繫栄し、効率よく魔力を摂取するために人間社会に溶け込み生活してきたサキュバスだが

主に欧州で勢力を伸ばしており、日ノ本にその名が広がったのは約二百年前だと言われている。

私の祖先である加藤段蔵は戦国時代からこのサキュバスの力を使っていた。


「我々一族はこの力を数百年と継いでおり、研究を重ねた結果

力の扱いも他のサキュバスの血を引いた者より長けています。

その研究の成果の一つが・・・これです。」


黒い小刀を取り出し、手の中でくるくると回す。


「これは元はただの魔帯刀ですが我々が使う吸魔の力を

長い期間流し込むと黒く変色し、刀身にその力が帯びるのです。

こいつを通すといつもより多く吸うことが出来るんですが・・・

一番厄介なのは対象の持つ得物を通しても吸魔が出来る事なんです。」


サキュバスは右手のみで吸魔の力を使うことが出来る。

桃子さんの言っていた通り、右手で直接触れられなければ

どれだけすごい吸魔だとしても力を吸われることはない。

その弱点を補うために作られたのがこの小刀だ。


「この子の名前は妖刀 山蛭やまひると言います。

気付いた時には血を吸われ、気付いた時にはもう手遅れ。

桃子さんの様に魔力が空になり動かなくなった所を仕留めるのです。

あなたが感じた毒の作用の様に・・・ね。」


小刀をしまい動けない桃子さんの元へたどり着く。

このまま首に刀を添えればおそらく私の勝ちだが流石に神力を消費しすぎた。

少しだけ回復させてもらおう。


「・・・!?」


山蛭で傷をつけた所から流れ出る血を手で触れ、着いた血を舐める。

私の姿を見た桃子さんは驚きの表情をこちらに浮かべていた。


「サキュバス、男の姿のインキュバスのそうですが

私達の遠い先祖は体液からも力を吸うことが出来たそうです。

それが時を重ね、人間を襲い血液を摂取することで生きる選択をした種と私達の様に人と共に生き、

肌を重ねることで生き長らえてきた種に別れました。


前者は体液を摂取することで身体能力を上げることが出来たそうですが、

人類に反したため全て討伐されたと聞いています。

元が同じ種ですからその方々には劣りますが力を吸える。魔力も当然神力さえも吸えるのです。」


桃子さんはもはや抗う力はさえも残されていない。神力もほぼ底を付きかけているようだ。


「ここからの戦いのため、残っている力を全てもらいます。

私の体液も付いてしまうので淫気に晒されてしまうかもしれませんが、

気絶している間に抜けると思いますのでご安心を。」


膝を突き、わき腹に口をつける。力を吸い取るため口を窄めると口内に鉄の味が広がった。


「くっ・・・・・・。」


少し吸っただけで桃子さんは意識を無くし地面に倒れる。

鎧も既に無くなっており、神力が底を付きたことを意味していた。


この人が行っていた神融和に使われた式神。

それを完全に制御出来ていたら私に勝機はなかった。


「・・もし次戦う時があれば、こんな簡単には勝てないね。」


「簡単には勝てないどころじゃないよ。次は確実に殺されるだろうね。」


勝負がついたのを確認した浄蓮は私の元へ帰ってきてくれる。


「でも、今はあんたの勝ちだ。誇りな。」


「うん。」


さて、私には次の仕事がある。勝利の余韻に浸っている時間はない。


「そこまで。」


竜次先生が桃子さんに駆け寄り状態を確認する。


「意識の喪失を確認した!大阪校、伊勢桃子の敗北を記録してくれ!!」


毛利先生に向かって大声で伝える竜次先生。

体を抱え、安全に位置へ運ぼうとしていたその時


「!!??」


黒い風の壁の奥から感じたことの無い量の神力があふれ出し眩い光が私達を包み込んだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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