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第二百六十八話 嵐の前の宴

小和田との話しを終え、家の帰る道をみんなで歩いているが、

興味がそそられる情報を持って帰ってきたのにも関わらず重苦しい空気をまとっていた。


「・・・・・・・・・。」


小和田が最後に声をかけた三人は俯きながら口を開かずに歩いている。

彼との関係性があったのにも関わらず、一体何故言わなかったのかなんてことを

問いただす気は俺達に毛頭ない。

だが・・・彼らの表情から察する事情の重さ。出来るのであれば・・・彼らの口から

何かを教えて欲しいと願う事しか出来なかった。


「・・彼は面倒ごとを持ってきてくれたね。」


距離を取りながら歩く俺に向かって捷紀さんが口を開く。


「ご存じだったんですか・・・?」


「ほんの少しだけさ。人に言えない事情に踏み込むほど、私も気遣いが出来ない訳じゃない。

だけど・・・達川と知り合いだった事は知らなかったな。

てっきり涼音ちゃんの事が気がかりで八海に調べに来ていたと思っていたよ。」


本人が知らない所で教えた事で不信感が生まれてしまう事を捷紀さんは知っている。

今の涼音に俺達がそんな感情を生むはずがないが・・・前科があることは確かだ。

小和田がここに現れたことで時が来たと思い、涼音や加治の口から事情を説明したほうがいいと

判断し、黙っておいてくれたようだ。


「だけど・・・彼らが抱えている事情は私が思っていた以上に重いみたいだ。

捜査は明日だけど、そこまでには・・・。」


話してくれる。そう言いかけた捷紀さんだが何かに反応し、眼を閉じる。


「おーい!!」


すると俺達を呼ぶ声が聞こえ、その方向を見ると沈む夕日を背にし、

こちらを手を振る定兄が見える。どうやら俺達の帰りが遅いと迎えに来てくれたんだろう。


「・・・・・・・・。」


そしてその隣に風太さんと・・・黙ったまま俺達を見つめる親父と兼兄の姿があった。

捜査を明日に控えこちらに帰ってくるとは言っていたが・・・

当主という立場がそうさせているのか、俺達を歓迎している様には思えない。


「・・おかえり。」


何か言葉を交わそうと出迎えの言葉を送ろうとするが、

久々に帰ってきた俺が出迎えていいものか悩んでいると、親父に先手を奪われてしまう。


「・・・・・ただいま。」


親父達が後に帰ってきたのだから俺が言うべきなのかもしれないと思っていたが、

いざ出迎えられるとあまりにしっくり来てしまい、自然と声が出てしまう。

母さんが俺に対して出迎えの言葉を送らなかった理由。

家の大黒柱である親父から出迎えられる事こそが、俺が心から実家に帰ってきたと

実感させられると思ったからだろう。


「みんなもよく来てくれた。ほんの心ばかりの休暇だったが・・・少しは心身共に

休めることが出来たか?」


親父の問いを聞いた俺達だが、素直に首を縦に振れないのが現状だ。

貴重な休暇だったが・・・その僅かな時間でさえも色々ありすぎてしまった。


「・・何かあったみたいだな。」


「丁度いいじゃないか。今日の出来事を夕飯の時にでも聞かせてくれ。

言える範囲でいい。心に留めておくことも大切だが・・・適度に吐き出しておかないと

毒となり、体を蝕むことになるからな。」


こういう機会はこの先有るか分からない。腹を割って話そうと笑顔を向けながら

実家に入っていく。親父達の後に続いて玄関に入ると中から大きな笑い声が響いており、

あまりに分かりやすい高笑いに伊達さんが顔を手で覆いながらため息をついた。


「まあ・・・久々の休暇に友達とあえて羽目を外すくらいはいいか・・・。」


高笑いの正体は当然伊達様。あまりに楽しそうな高笑いだが、その中に

母さんの笑い声も聞こえている。基本的には御淑やかな人であり、大きな声で笑う姿など

数えるほどしか見たことがないが、伊達さんが言っていたことは母さんにも当てはまる。

ずっと八海にいる母さんにとって、貴重な時間であることは間違いない。


「・・配膳くらいはしてくれていると願いたいが・・・色々手伝いを

お願いすると思っていてくれ。」


かなりお酒も入っているだろう。後片付けは期待できない。

そう察した親父は顔をしかめながら俺達に言ってきた。

俺達全員の料理を用意してくれた顔さんの手伝いをするのは当たり前であり、

断る理由はないと快く受け入れる。この人数なのでやることはかなりあるだろうが・・・

皆でやればすぐに終わるだろう。


一度自室に戻り、部屋着に着替えて大広間に行くと、

一升瓶を片手に持ちながら楽しそうに談笑する二人の姿があった。

伊達様はイメージ通りだが、晩酌をしない母さんがあんな風に飲めるなんて知らなかった。


「あっ?おお!先生!!お仕事ご苦労さんだな!!!」


後から帰ってきた親父を見た伊達様は上機嫌に出迎えてくれるが、

昔の名残なのか先生と呼んでおり、それはやめろと親父は突っ込むが構わず話しを続ける。


「いや~!久々に兼子かなこと話したら止まんなくなっちゃってな!!

申し訳ないが先に始めさせてもらってるよ!!」


長机を繋げた上には肉や魚など豪華な料理が並んでおり、

取り皿や箸などの配膳も済ませてあるが伊達様達は既に手を付けてしまっている。

迎えに来てくれた綱秀や純恋達、そして鍛錬を終え、先に風呂を済ませた

土方さんや火嶽達もやってくるが、伊達様と母さんの姿に驚きつつも

各々席についていった。


「えー、まあ・・・始めようか。」


本来であれば親父の完敗の挨拶から宴会が始まる流れだが・・・

既にいい感じになってしまっている二人は親父の声なんて耳に届いていない。


「皇太子様から色々聞いているとは思うが・・・まずは交流試合で千仞のメンバーを

見つけてくれて感謝している。君達が見つけてくれた奴らはそれ相応の処罰を下させてもらった。

三道省に蔓延る千仞のメンバーを減らし、奴らの動きを減らすことが出来た。

そして・・・今回の捜査で幹部を誘い出し、撃破することが作戦は完遂となる。

だが捜査の手を緩めてはならない。しっかりとした報告を上げてもらい、

我が八海上杉家が抱える疑惑を払拭する事も千仞への牽制となるだろう。

明日は心身ともに疲労するだろうが、目の前の食事で英気を養い乗り切ってもらいたい。」


年長者として手本のような乾杯の挨拶を述べてくれる。

・・伊達様達の笑い声が無ければ完璧だっただろう。


「堅苦しいのはやめな!早く乾杯するよ!!」


簡潔にまとめたはずの親父に向かって伊達様を声を上げると持っているグラスを

持てと場を支配し始める。

こうなれば制御は出来ないと親父は口を閉じ、今にも始めそうな伊達様を制止する。

手分けしてビールやジュースを注ぎ、全員のグラスがいっぱいになると

我慢していた伊達様は大きな声で宴会の始まりを宣言した。


「かんぱーい!!!」


音頭ともにグラスがぶつかる音が辺りに響き、宴会が始まった。

先ほどまでの暗い空気はどこに行ったのか、全員が料理を頬張りながら明るく

談笑を交わしている。


「・・・・・・・・・・・・・。」


久しぶりに親父や母さん、兼兄や定兄と食卓を囲む所か

謙太郎さん達とも和気あいあいとした食事が出来るとは思っていなかった。

ここに来るまではかなり憂鬱ではあったが、蓋を開けてみれば良いリフレッシュが出来ていた。


「ほら龍穂。雰囲気を楽しむのはええけど、しっかり食べへんと明日もたんで?」


隣に座っていた桃子が空いている俺のさらに料理をよそってくれる。

実家でみんなが楽しそうにしてくれているだけでお腹いっぱいだが、明日は大一番だ。

桃子の言う通り、食べておかないと体力が持たないだろう。


「木下!この前の交流試合見たぞ~?かなり腕を上げているみたいだな!!」


「いや、まだまだですよ。結局試合には負けましたし・・・。

それに有望な一年坊に勝ててませんからね。」


交流試合を見た一年達には変化があり、

俺や綱秀ではなく木下や火嶽に鍛錬を申し込むようになった。

目標は俺達出ることは変わらないが、その前に倒すべき相手をしっかりと理解したのだろう。


「ほお・・・。そんな奴がいるのか・・・。」


今回は木下達に出番を譲ってくれた沖田だが、武術に限っていえば

木下は手も足も出ない。武術師という称号は伊達ではないので当たり前と言えるが

それを聞いた謙太郎さんは興味深そうに沖田に視線を移す。


「一度手合わせ願いたいが・・・流石に今年入った一年をいじめるのはなぁ・・・。」


相手を強敵と見定めた時、いつもの人の良さはどこかに消え去り

闘争心が前に出て相手を煽ってしまう。

悪い癖・・・とまでは言えないが、年下にやる事ではないだろうと

隣に座っている雑賀さんに突っ込まれるが、聞き耳を立てていた沖田は

すぐさま言い返しにかかる。


「強さに年齢は関係ありませんよ?もしお望みであれば今すぐにでも立ち会いましょうか?」


「ほう!なかなか骨がありそうな返しをしやがるが・・・俺達には明日があるからな。

次の機会に取っておくことにしよう。」


自分から煽っておきながらやめるのかと呟く沖田。

確かにその通りだが、謙太郎さんの言う通り今日は大人しくしてもらうしかない。

もしやるとなっては俺が止めに入ることも謙太郎さんは分かっている。

胸をなでおろしていると謙太郎さんがこちらを見ており、

悪い笑いを浮かべながら料理に手を伸ばしていた。


(あの人・・・俺に向けて言ってたな。)


謙太郎さんなりに俺の肩の荷を降ろそうとしているのかもしれないが・・・

今は流石に付き合っていられないと料理を食べながら大人達の方を向く。


「土方。お前は堅苦しいんだよ・・・。」


「それは仕事の時だけですよ。」


何と伊達様が酒瓶を突きつけこれを飲めと土方さんにダルがらみを仕掛けていた。

見るからに真面目な土方さんはどうやって対処するのかと眺めているが、

お猪口を差し出してうまく対処してしまっている。


「あら、結構飲める口なんだね。こういう類は下戸と相場で決まっているのに珍しい。」


「近藤さんに鍛えられましたから。」


お酒というのは不思議なものだ。人によって様々だが人の本性をさらけ出すというか・・・

気を大きくする効果があるらしい。

伊達様から離れた母さんや親父や捷紀さんに酌をしながら兼兄達と楽しそうに話しをしている。

出来れば俺も・・・と思ってしまうが、あの人達は大きな責任を背負っている立場であり

酒を交わさなければ話すことができないような内容があるのだろう。


「・・行かないのですか?」


桃子とは反対側に座っていた千夏さんが声をかけてくるが、俺は首を横に振る。


「俺が行けば話せないこともあると思いますから行きませんよ。その代わりに・・・。」


隣に座る二人の肩を叩いて立ち上がる。


「向こうの奴らと話して来ます。二人も一緒に来ませんか?」


一緒に戦ってきた仲とは言え、まだまだ絆を深めなければならない。

それにここに来るまでにあった出来事もある。話しが出来るような場を作らなければならない。

二人から快い返事を返してくれて、俺と一緒に騒がしい中に入っていく。

たった一日。されど一日。賑やかな休日を実家で楽しんだ。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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