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第二百六十四話 取り戻した者と振り返る者

自室を後にし、居間に行くと客室に荷物を置いた純恋達が縁側を眺めている。


「おっ!龍穂龍穂!」


俺を見つけた途端、嬉しそうに手招きをしてきたので何かを思い出したのかと

縁側に向かって歩き出す。


「どうした?」


「ここで花火したこと覚えてるか?」


純恋が遊びに来た夜。親父が勝ってきてくれた手持ち花火を庭に出て

遊んだ記憶は確かに戻ってきていた。


「覚えてるよ。確か・・・線香花火は俺の勝ちだよな?」


「はあ?あれは私の勝ちに決まっとるやろ!」


線香花火を落とさなかった方が勝ちという勝負を純恋と楓とした覚えがある。

力を入れすぎた楓は早々に脱落。残った俺と純恋はかなり長い事火を保っていたが、

ほぼ同時に落としてしまい、喧嘩になったはずだ。


「まあまあ。子供の頃の話しで喧嘩をしても決着はつかへんで?」


「いーや!絶対負けてへん!」


縁側の縁に腰かけている桃子は振り返りながら純恋を諫めるが、

あの頃から変わらない負けず嫌いの純恋は意地を張り続ける。


「ふふっ。そこまで言うのでしたらもう一度勝負をしてみたらいかがですか?」


言い合う俺達を見ながら微笑む千夏さんは花火をしないかと遠回しに提案してくれる。

居間に腰を掛けていた謙太郎さんがそれはいいなと声を上げると

近くにいた伊達さんと藤野さんに買い出しに行こうと半ば強引に連れ出し出かけてしまった。


「あっ。お金渡さないと・・・。」


「大丈夫ですよ。休めていない龍穂君のために謙太郎君が気を使ってくれたのですから

ここは素直に受け取っておくべきです。」


申し訳ないと思いつつ辺りを見渡すと、他の面々の姿が見当たらない。

千夏さんに尋ねると、残りのメンバーは道場を借りて土方さんに稽古をつけてもらっていると

答えが返ってきた。


「公安課の副課長に稽古をつけてもらえる機会を逃すわけにはいかないと

木下君が張り切っておられましたよ?明日の事を考えてほどほどにすると

綱秀君が言ってましたので大丈夫だと思います。」


木下と火嶽はまだ分かるが・・・江ノ島の戦いで共に戦った黒川も行っているのは意外だ。

人形遣いであるため接近戦は苦手なはずだが・・・黒川なりの狙いがあるのだろう。


「定明さんと風太さんは帰ってこられる影定さんの迎えに行っておられます。

兼定さんも同行されるかは分かりませんが・・・夜にはこちらに来られるようです。」


「そうですか・・・。」


久々に家族が揃う。しかも・・・国學館で出来た仲間達と共に過ごせるとなると

かなり賑やかになろだろう。今では収まり切らず、大部屋での食事は特別な時間になるはずだ。


そんな会話をしつつ、縁側に歩いていくと俺の両親の墓石の前に座る青さんの姿が見える。

両親と同じ様に国學館に行き、仲間を作って帰ってきたと報告してくれているのだろう。


「・・・・・・・・・・。」


サンダルを履き、青さんの隣で膝を折り手を合わせる。

少しずつだが両親の事を聞き、お互いが辛い運命と戦ってきた偉大な両親である事を知った。

隣に居る青さん。そして俺の中にいるハスターが両親が残してくれた力であることも知り、

顔も覚えていないほどに若くして亡くなったが二人の愛情が俺のここまで強くしてくれ事を

感謝しつつ、これからも見守ってくれと祈りをささげる。

後ろから足音が聞こえ振り向くと、純恋や桃子、千夏さんや楓が俺の元へやってくる。


「・・両親のお墓ですか?」


「・・・・・ええ。」


俺の返事を聞いた全員が同じ様に膝を折り、手を合わせて祈りを込めてくれる。

これが・・・俺の仲間達。共に戦う頼もしい仲間を両親に紹介していると、

瓶がこすれるような音ともに誰かが近づいてきた。


「・・ちょっといいかい?」


純恋達の後を追う様にやってきたのは伊達様と母さん。

母さんはここに来る道中に購入した和菓子と伊達さんが持っていた手提げ袋を持っており、

隣に立つ伊達様はお酒と綺麗に切りそろえられた菊の花を持っていた。


「仲間に入れておくれ。」


伊達様が買っていたのは父さん達へのお供え物だったのか・・・。

親父に引き取られ、八海で育った父さんに馴染みある物を味わってほしかったのだろう。

祈りを終えた俺達は伊達様達に場所を譲ると、二人はお供え物や花を置いていく。


「これは私。そんでこれは・・・真田からだよ。」


持ってきた紙袋から取り出されたのは見覚えのあるフルーツの詰め合わせ。

大晦日に純恋が買ってきてくれた京都の老舗の物だ。


「遅くなったごめん・・・って言ってもあんた達のせいだったね。謝り損だよ。」


「いいじゃない。これから始めていきましょう。」


全てを飾り終えた後、酒瓶の蓋を開けて墓石に注いでいく。

半分までかけた所で止めると持ってきた二つのお猪口に酒を注ぎ、

母さんと二人でゆっくりと飲み干した。


共に飲みたいと言っていたのは・・・俺の両親の事か。

十何年の前に亡くなっている両親達に供えるのであれば少しは色づいた花が適しているだろうが、

記憶が封じられていた伊達様からしてみればこれが初めての墓参り。

いや、喪中とってもいいだろう。母さんが言っていたこれから始めるという言葉が

それを現しているが、あまりに親し気な口調がどうしても引っかかってしまう。


「二人は・・・どういう関係なんですか・・・?」


「ん?ああ、教えてなかったかい?こいつとは同級生だよ。」


「どうきゅうせい・・・同級生!?」


あまりに衝撃的な告白に思わず聞き返してしまう。

まさか伊達様と同級生・・・ということは・・・・?


「えっ?母さんと親父って・・・?」


「教え子と教師。あのクソ親父、自分の生徒に手を出し————————————」


追い打ちをかけようとする伊達様の頭に母さんの拳骨が下される。


「私が捕まえたのよ。勝手に改ざんしないで頂戴。」


なんとまあ・・・。そんなことがあったのか・・・。

俺の両親と同級生であり、親父の奥さん。二人がどうやって結ばれたのか気になるが・・・

聞きたくない気持ちの方が勝ってしまう。育ての親とはいえ、俺にとっては本当の両親だ。

その馴れ初めは・・・なるべき聞きたくない。


「へぇ・・・!龍穂のお母さんは年上を捕まえたんか!」


これ以上は深く踏み込まないで置こうと思っているが、純恋や桃子、千夏さんが

母さんに食いつき、群がっていく。


「お!気になるかい?」


「私達には縁の遠い話しではあると思いますが・・・出来ればお話しを聞いてみたいです。」


その光景を見て失敗したと気が付く。他人の恋路、しかも自分達より経験のある

大人の恋路となると女子たちが食いつかない訳がない。

ここにいてしまえば聞きたくない親父とのなり染を聞いてしまう事になると兎歩で逃げにかかる。


「あっ!逃げた!!」


音を立てずに屋根を駆け、表に逃げたはずなのに何故か気が付いた純恋の大声を聞いて

捕まることはできないと八海の街中を駆けて行った。


———————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


「ふぅ・・・。」


無心で逃げる俺の足が選んだ道はいつも通っていた道。

八海高校への通学路を駆けており、とうとう辿りついてしまった。


「・・・・・・・・・・・・。」


正門前から見える八海高校は俺がいつも過ごしてきた頃の様に元通りになっている。

今の時間帯だと・・・授業中なのだろう。

先生がチョークで黒板に書きこむ内容を必死にノートに取る姿や

グラウンドでサッカーに励んでいる姿が見える。

八海で起きた悲惨な事件の傷跡は全く残ってはいないが、

血に汚れ、倒れていた生徒達の姿が俺の脳裏にしっかりと刻まれており、

あの事件から立ち直り、平和になった事を安堵する傍ら何事もなかったように

時が進んでいる事に対しての疑念が渦巻いていた。


「・・休日の意味をご存じですか?」


複雑な気持ちで眺めていると、不意に下から聞こえて来た声に驚き思わず跳ねてしまう。

見ると俺の影から楓が顔を覗かせており、やれやれといった表情で影から出てきた。


「休めるのは体だけではありません。心も・・・ですよ?」


かつての戦場に来ては心が休まらないとため息をつくが、

俺と同じような表情で八海高校を見つめ始める。


「何も・・・変わっていないですね・・・。」


「・・そうだな。」


あの事件を引きずって欲しい訳じゃない。

だが・・・彼らの戦った証が何も残っていないのはあんまりじゃないかと思ってしまう。


猛と真奈美はこの場所を襲った犯人だ。それには変わりない。

だがそれは結果であり、その過程としてこの場所を守ろうとした英雄だったことも間違いない。

そして共に戦った仲間達もだ。どうしても悪名ばかりが世間に広がっているが、

猛達が必死に戦った跡が少しでも残ってほしかったと平和が戻ったこの場所を見て

思わずにはいられなかった。


「彼らは・・・間接的とはいえ、俺達のために戦ってくれた。なのに・・・。」


「・・この場所が元に戻らない方がよかったと?」


どうしても口に出さずにはいられなかった俺に対し、楓は言い返す。


「言いたい事は分かります。ですがそれ以上言ってはいけません。

彼らが命をかけて守りたかったのがこの平和なのです。

その場所に悲惨な事件の跡が残って良い訳がありませんよ。」


・・楓の言う通り。彼らの願いこそがこの平和だとしたら自分達が戦った跡を残してはならない。

では彼らの活躍が風化されてもいいのかと言葉が喉から出かかってしまうが、

そんなことを楓に言ってもしょうがないと口を閉じる。


「・・八海の事件の主犯は惟神高校の生徒。その後ろには服部忍という千仞の幹部がいます。

龍穂さんがどれだけ声を上げたとしても、三道省に蔓延る奴らが全て握り潰してしまうでしょう。

彼らが戦った事を知って欲しいのであれば、我々は今進んでいる道を突き進むことです。

龍穂さん、私達は間違っていません。」


楓は俺の両手を包み込むように手を握り、真っすぐな目で見つめてくる。

自分達が歩む道を迷わず進めという楓なりの励ましだった。


俺が歩んで来た道を振り返れば・・・多くの犠牲者が横たわっている。

俺が歩む道を作り上げるために亡くなった方々だが、この八海で倒れた彼らはだけは違う。

だからこそ、彼らが倒れた意味が欲しかったのかもしれない。

俺の歩む道を作りあげた犠牲者達と俺の使命に巻き込まれた者達の倒れた意味を

示せるのは・・・賀茂忠行に勝利するほかなかった。


「・・・ありがとう。」


自然と足を運んでしまった元戦場を見て、どうしても道を振り返えざるおえなかった。

血と亡骸で作り上げられた道を見てしまい、ほんの少し道を踏み外す所だったが

上手く修正してくれた楓に向けて感謝の言葉を述べる。

いつでも頼ってくださいと笑顔で答えてくれた楓。従者であり、妹の様な存在だったが

いつの間にこんなに頼りになる存在になっていた事に気が付かなかった。


「・・青春を謳歌している所、失礼する。」


手を解き、楓の頭を撫でようとしていた所で聞き慣れない声が後ろから聞こえてくる。

八海の住人ではない。聞いただけで直観させられる声色に、

いつでも六華を取り出せるように札を手に持ちながら振り返ると

直観通りに見慣れない人物が俺達を見つめていた。


「制服を着ていない様だが・・・八海の住人か?少し聞きたいことがある。」


よれたシャツにジーパン。整えられていない髪の上から被さったバケットハット。

手には手帳とペンが携えられた人物は若干の警戒心を含みながら俺達に尋ねてきた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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