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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第一幕 忘れられた二人
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第二十六話 分断

青さんと共に二人へ突っ込む。

悠長にしていて再び太陽の魔術を使われれば今まで立ち回りが全て無意味になってしまう。


「純恋!下がって!!」


縮地で一気に距離を詰めよると神融和をした桃子が刀を抜いて俺達に立ちふさがる。

純恋も薙刀を構えているが線は細く、近接戦は得意ではないようだ。


あれだけ魔術を扱えるので必要はないだろうがそこを狙わない手は無い。


『わしが純恋に行く。龍穂は従者との距離を開けてやれ。』


念で指示をもらい構えている桃子に突っ込む。

青さんも縮地の勢いを生かした魔帯刀の大太刀の突きを放ち

鋭い水の斬撃を薙刀で受け止めた純恋は足を止めざるおえなかった。


「くっ・・・!」


桃子は青さんの一撃を目で追いつつも、正面から最速で近づいてくる俺に対応し足を止める。


(重っ・・・・!)


構えている刀に向けて思いっきり振り抜こうとするが

手に伝わってきたのはまるで固い壁を切ったような重い感触のみ。

振り抜くのは無理だと感じてしまうほど桃子が持っている力はすさまじい。


俺の一撃が軽いと分かり、すぐさま純恋に元へ向かおうとする桃子。

だが行かせるわけにはいかない。足裏で地面を捉え、兎歩を使い二人の間に立ち進路を阻む。


「邪魔や!どけ!!」


行く手を阻む俺に対し明確に敵意を向けると

桃子が身にまとっている鎧から禍々しい神力が立ち込めてくる。

恐らく怒りや敵意を力とするような式神と神融和をしているのだろう。


(これはやばいな・・・。)


俺を退けようと一歩ずつかみしめるように踏み出してくる桃子。

神融和は式神の力を体に上乗せするが、精神も互いに影響しやすく

片方の精神状態がもう片方を飲み込むなんてこともある。


怒りは我を失いやすい。

まとっている鎧の隙間から黒い瘴気が漏れ出しており綻びも段々と少なくなってきている。

よく見ると桃子の体には神力の他に大量の魔力も流れており、

身体能力を大幅にあげていることが見て取れた。


本来神融和をしているのであればそれだけで身体能力が格段にあがるため、

魔力で上げることはほぼ無意味とされている。では何故桃子がそんなことをしているのか。

それは神融和をしている神の力が大きすぎるのだろう。


神融和は式神と深い信頼関係を築かなければできない高等技術。

信頼を築くには長い年月を過ごし、認め合わなければならないが

それには実力が対等であることも必要になってくる。


青さんの様に師匠と言う間柄であれば式神が使役者に実力を合わせることもしてくれるが、

大抵の場合は実力を認めさせることが神融和の大前提。

神融和をした上で式神の力を最大限に発揮できる使役者でないと

信頼を預ける気にはならないのは当然のことだ。


「桃子!アカンで!!」


青さんに詰め寄られ、何とか薙刀で応戦している純恋がまるで正気に戻すかのように桃子の呼びかける。

魔力で体の強化しなければ体を乗っ取られてしまうほどの実力がかけ離れている上での神融和。

それは長年過ごした信頼関係で行っているのではなく、

何かしらの利害関係が一致した上で信頼関係で行われているに違いない。


それを示すかのように桃子の体はまるで何者かによって

操られているかの如くぎこちなく動いており体を乗っ取られるまであと一歩と言ったところだった。


(・・・・・・・・・・。)


桃子が上手く体を扱えない今、俺にとって明らかな好機ではあるが

耳に届いた小さな呻き声はどこか苦しんでいるように聞こえてきてしまい

助けた方が良いのではないかと頭によぎり、分断させるのかと心に迷いが生まれる。


桃子は純恋を守るために障害である俺を排除しなければならない。

もし、このまま分断すれば神融和をしている神に体も心も完全に乗っ取られてしまい

さらに苦しめることになるだろう。


『龍穂!!何をやっとる!!!』


迷って体が止まっている所に青さんの声が聞こえてくる。

これは俺の運命を決める戦いと同時に純恋達の運命を変える戦いだ。

迷いは隙を生み、敗北を叩きつけられてしまうだろう。


(やるしかない・・・!)


非情な選択だとしても、取らなければならない。勝たなければ意味が無いのだから。


「なるべく使いたくなかったけど・・・しゃあない!!」


桃子と純恋の距離をより離すため、魔術の準備を始めるが

一枚の札が俺の横を通って桃子の胸に張り付けられる。


「グッ・・・!!!」


あと少しで体を乗っ取られ、暴走しそうになっていた桃子は札の力によって式神の力が抑えられていく。

鎧から漏れだしていた瘴気が静まっていき、禍々しい神力も収まっていった。

神の力が抑えられ、神融和が安定してきた証拠だ。これなら距離を離しても大丈夫だろう。


螺旋空砲らせんくうほう!!」


二人の距離は話すための魔術を桃子に放つ。

意識がおぼつかないものの、何とか桃子は反応し刀で受け止められてしまうがこれでいい。


「!?」


先程は空砲を完全に受け止められてしまったが、

銃弾の様に回転を加えることで貫通力を上げることによって例え受け止めようとしても

風の勢いは止めることが出来ずに吹き飛ばされる。

桃子も先ほどとは違う結果に驚きを隠せない。


「木霊!!」


十分な距離を離したことを確認し、木霊を呼び出して風の壁を張る。

俺自身が他の属性を壁を張る選択肢もあったが火はダメージ覚悟で

無理やり突破される可能性があり、何より純恋に魔力操作で利用されてしまうかもしれない。


水と土は柔らかく、壁の意味をなさないのでダメ。

すさまじい勢いで寄せ付けることさえできずさらに音でこちらの状況を把握させない風の壁を選択した。


「・・・面白い魔術を使う式神を使役しとるな。」


通常の風ではなく、黒い風の壁が俺達と楓達を阻む。

漆黒の風は景色さえ阻み、向こうの状況を一切遮断した。


『楓、任せたぞ。


『ええ。』


既に接敵しているのか、短い返事が返ってきて念話は完全に遮断された。


「頼みの従者は近くにおらんぞ?」


苦手な接近戦を担当する桃子がいなくなり、純恋の不利に思えるが余裕はまだ剥がれることはない。

現在の状況をあえて口にすることで煽る青さんだが怯むことなく、言い返してくる。


「あんたら二人。私だけで十分や。

それに・・・大丈夫か?桃子は楓だけで務まる相手やないで?」


確かに桃子の実力は高い。

暴走さえしなければ俺と青さんの攻撃を受け止められるだけの力は有している。


楓も確かに強いが絡めてなどで相手の隙を突いて戦う事が得意であり、

隙を突いたとしても防御が強い相手は苦手な部類に入るだろう。

純恋の言う通り、楓には辛い相手だ。


「・・状況を把握しておらんようじゃな。

わしらは十分に勝機があると確信し、楓をぶつけたんじゃ。

それに・・・それはわしらも同じじゃ。」


青さんと俺は刀を構え、純恋に対峙する。


「確かにお主の魔術はすさまじい。じゃが、一人ならいくらでもやりようはある。

出し惜しみはせん事を勧めするぞ?」


まだ出していない力があると分かっているような事を言う青さん。

この人は純恋の実力を理解している。


「・・・ええんやな?」


確認を取ってくる純恋。まるで本気を出してしまえばすぐに終わると言わんばかりの表情だ。


「ああ。軽く捻ってやるから存分にこい。」


純恋の周りに強大な神力が立ち込める。


「来い。お玉。」


そして純恋の後ろに大きな炎が立ち上り、中から黒い影が浮かび上がる。

青さんに匹敵する神力を持った式神。純恋が言っていたのはこいつの事だろう。


「・・・やるぞ。龍穂。」


青さんと共に刀を構える。今までに戦ったことの無いほどの強敵相手に

覚悟を決めて足を踏みしめた。


—————————————————————————————————————————————————————————————————


「よっと・・・・・。」


分断された桃子さんの元へたどり着く。

流石龍穂さんと青さん。あれだけの相手を手際よく分断してくれた。


「っ・・・!!!」


吹き飛ばされた桃子さんはすぐさま立ち上がり純恋さんの元へ向かおうとするが、

その間には木霊が出した漆黒の壁が張ってある。

激しい音を立てながらそり立つ壁は簡単には破れないだろう。


「向こうにはいけないですよ。ですので私の相手をしてくれませんか?」


後で手を組みながら桃子さんに語りかける。

あえて時間を稼ぐためにも会話を試みた。


「・・これを狙ってたんか。」


「当然でしょう。あなた方が一緒に居られるとこちらとしても手の打ちようがありませんからね。

それに・・・純恋さんが持つ”式神”をあなたがいる時に出されてしまえばもうお手上げです。」


幼い頃、八海に来ている時には有していなかった強力な式神。

それが何なのかをお父さんから聞いたことはあるが・・・とんでもない大妖怪を使役しているみたいだ。


「・・あんた。純恋のどこまで知っとるんや?」


興味が壁の向こうから私へと切り替わる。

従者として仕えていない期間の話が気になるのは当然のことだろう。


「あなたが知らない時期の事だけですよ。伊勢桃子さん。

少しだけあなたの事も調べさせてもらいました。」


ゆっくりと壁の方へ歩きながら口を動かす。


「二条家に代々仕える伊勢家出身であり、護国人柱に選ばれてしまい

周りの人から避けられるようになった純恋さんに寄り添うため、自らも護国人柱になった忠義者。

見たところ封印から式神使役切り替えられたようですが・・・

完全に支配下に置いている純恋さんとは違い制御できていないようですね。」


討伐が困難な妖怪達を人の体に封印する護国人柱。

特殊な鉱石などに封印する手もあるが力のある人の体に封印することによって

後々式神として使役をし、制御下に置こうとした神道省の試みだが

人柱になった人物は体の中にかつて日ノ本を滅ぼそうとした

化け物が入っていることを恐れられ避けられる場合がほとんどだ。


純恋さんも同じように恐れられたようだが

従者である桃子さんはふさぎ込んだ純恋さんの信頼を勝ち取るため

自らも護国人柱になることを選んだのだろう。


主人のためを思ったその行動は従者の鏡だ。


「・・加藤楓。」


桃子さんと壁の間に立ったタイミングで桃子さんが私の名前を呼ぶ。


「八海上杉家に仕える加藤家。

先祖を辿れば幻術などを扱った忍び、加藤段蔵がいる一族・・・やな。」


「・・・へえ。よくそこまで調べましたね。」


加藤段蔵。私の子孫であり、様々な書記に登場する伝説の忍び。

諸説あるが主君である上杉謙信に密かに抹殺されたとされているがそれは表向きでの話。


当時の皇の八海上杉家を援助しろと命を受けた上杉謙信に抜擢された加藤段蔵は

表舞台から姿を消して闇から支える忍びとして現在まで八海上杉家を支えている。


「私の家の事をそこまで知る人はこの日ノ本に数えるほどしかいません。

どうやってその情報を得たのか、深く聞きたいですねぇ。」


私達の存在を知った者は歴史から葬り去っている。

それを言いふらし者も同じ結末も同じ。


だが、純恋さんの従者となれば話は違う。

この人をやってしまえば私の身だけではなく、下手をすれば加藤家が無くなってしまうかもしれない。


まずは勝利して詳しい話を聞いた後、どうするか考えてよう。

そう決断し、札から特別な得物を取り出した。


「なんやそれ。けったいな得物やな。」


通常の小刀ではなく、黒い特殊な鉱石で作り上げられ禍々しい装飾を施した妖刀。


加藤家の事を知っているみたいだけど、その”秘密”までは知らないみたいだ。


「悪い趣味してるんやな。そんなんじゃ私はビビらんで?」


「ええ、そんなことは知っています。

ですが・・殺意というものは感情や行動ではなく視界から得た情報で感じ取るものです。」


小刀を構え、桃子さんへと構える。


「・・あなたを殺します。その強固で、強大な力の弱点を突いてね。」


護国人柱として封印された妖怪を私は知らない。

そしてこの人がその妖怪を完全に支配下に置いた場合、

勝利は果てしなくゼロに近いが今の不完全な桃子さんにとって、私は相性最悪。

しくじることが無ければ勝機はあるだろう。


「吹かすのはええけど、負けたら主人に会わせる顔ないで?

それに、私は早く純恋の元は辿りつかへんとならんのや。」


純恋さんが放った札で力を抑え込まれながらも

こちらに敵意を向けた純恋さんからは相変わらず強大な力を感じる。


勝利したのち、龍穂さんの元へ向かい戦わなければならないが余力を残そうとすれば負ける。

桃子さんの闘気からを感じ取った体が脳へ必死に信号を送ってきていた。


「行きますよ・・・!」


お互い主人のため負けられない。

勝利を掴み取り、龍穂さんの元へ戻るために強敵である桃子さんに向かって駆けだした。


———————————————————————————————————————————————————————————————————


「眺めはいかがですか?」


龍穂君と純恋ちゃん。この交流試合で屈指の好カードを上から眺めている。


「いいに決まっているだろう。わしが設計したからな。」


皇自らが設計したこの会場には外からは見えない特別な部屋が作られており、

こうして稀にお忍びで未来ある国學館の生徒達の試合を見に来ている。


龍穂君を推薦した身であるので、活躍を見ようと足を運んだが

その途中、皇の配下に声をかけられここへ呼び出された。


「・・先日は無理な願いを受け入れていただき感謝しています。」


計画通り龍穂君を国學館に転校させるため、突然の頼みを聞いていただいた感謝を伝える。


「気にするな。わしも気に掛けていたからな。

それに・・・”奴”からも同様の願いをされた。」


奴・・・か。私と同じ大義を抱いている男の姿が頭に浮かんでくる。


「気に掛けている二人の試合。どちらが勝つと予想されますか?」


「どうだろうな。龍穂は”あの血”を引いている。

始まったばかりだが魔術や移動法などの些細な体の動かし方は猛者そのもの。

実力はかなりのものだろう。だが・・・・」


皇は少し悲し気な表情で式神と共に戦う二人を見る。


「純恋はこの国のため重い使命を背負って来た。

しかも皆に期待に応え、あれを支配下に置いておる。

今まで何も知らずに背負ってこなかった者と重い使命に負けなかった者。

実力が均衡しておるなら後者の方が勝つに決まっておる。」


「ほう。では、純恋さんが勝つと。」


「そうは思うが、龍穂は何も知らないとはいえ

封印が解けて間もないはずが無意識のうちに力を使い始めておる。

もし、激しい戦闘の中で奴の中にいる”神”の力を引き出すことが出来れば

五分まで持っていくことが出来るだろうな。」


二人の戦いと持っている情報を合わせた上で五分と判断したか。


年月を重ね、体は衰えているが人を見る観察眼はさすがの一言に尽きる。

主人と従者。別々に戦っているがお互い激しい戦闘を繰り広げているのを

沈黙の中で見つめていると突然口を開いた。


「・・お主には、長官の座を渡そうと思っている。」


昇進の話。本来であれば歓喜する話題であるが、

神道省は長年長官にふさわしいほどの血筋を持つ者がおらず開いた席を皇に座っていただいていた。


その影響が大きく古参連中全員が皇に忠誠を誓った者達で構成されており、

その後釜座るだけでも反対意見が出るのは目に見えていた。


「・・・・なぜ、私が?」


「”実績”じゃ。お前が積み上げてきた実績は長官に値する。

それに、若いうちに席についておけば苦労はあるだろうが

ガタついている神道省の安定に繋がると思うてな。」


実績・・・か。


「・・・ありがたいお言葉ですが、お断りさせていただきます。」


それではだめだ。この国は実績だけでは上り詰めたとしてもいずれ蹴落とされてしまう。

この国で成り上がるのは生まれと実績。

私は神道省で上り詰める過程で嫌と言うほどそれを見せられてきた。安定など・・・するはずがない。


「そうか・・・・・。」


皇は険しい顔つきに変わり、大きくため息をつく。


「やっと・・少しは休めると思ったのだがな。」


「申し訳ありません。ですが、いずれ私を超える適任者が現れます。」


「そうだといいのだがな・・・・。」


「・・もうすでにいるのかもしれませんよ?」


笑顔で皇に応える。そう、既に現れているのだ。

私は・・私達は・・・抱いた”大儀”のための犠牲でしかない。

だからこそ・・・あの方に仕えているのだから。


皇は戦いの途中だが窓から目をそらし部屋を出ていこうと歩き出す。


「最後まで見ていかないのですか?」


「いや、別の場所で見させてもらう。」


「ここでよろしいではないですか。そのために作ったのでしょう?」


私の問いにため息で答える皇。


「先客じゃ。心行くまで話せ。」


部屋の灯りの関係で影になっている所から何者かが姿を現す。気配は微塵も感じさせなかった。

この場所の存在を知っているのは限られた者だけのはず。一体何者だ?


「・・兼定。」


姿を現したのは兼定。なるほど、それなら合点が行く。


「・・・・お主ら。」


部屋を出ていこうとした皇が立ち止まり、こちらに顔は向けないまま私達を呼ぶ。


「”変な気”は、起こすなよ?」


何かを見透かしているような一言を残し、皇は扉を開いて外へ出ていった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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