第二百五十五話 第六天魔王
意識を失い、担架で運ばれてきた真田達へ付き添う火嶽達とすれ違う。
「・・頼みましたよ。」
真田達にとってはまだまだこれからだと意気込んでいた所であの終わり方だ。
何が起こったか分からず、気付けば敗北を叩きつけられた状態で俺も負けてしまえば
自分達が不甲斐ないばかりに負け越してしまったと落ち込んでしまう。
それだけは避けてくれと火嶽は言いたいのだろう。
安心してほしいと肩に手を置き、真田達を頼むと声をかけると黙ってうなずいてその場を後にした。
「会場の復旧ため、もうしばらくお待ちください。」
真田達の戦いで崩れた戦場の復旧を出口の前で待っていると出場予定の織田がこちらにやってくる。
「東京校の面子は流石に強いな。私が戦う頃には勝負が決まっている予定でいたのにこのザマだ。」
強気な発言だが・・・先ほどの雑賀さんが滝川が火嶽に勝てないと言っていた事を考えると
強がりな発言というか・・・願望に近い言葉なのだろう。
「・・強がりなんだな。」
返事をはぐらかせたりすることも出来た。だが・・・そんな事をしてしてしまえば
彼女に対しても、自分に対しても良い方向には進まないだろう。
決して強がりではない煽りを織田に返すと、今までに見たことがないほどに口角を上げる。
「弱い犬ほどよく吠えるとでも言いたいのか?そんな軟ではないぞ?」
嬉しそうに俺に返してくる織田の笑顔は狂気を孕んでいるというよりかは
久々に出来事に生まれた嬉しさが笑顔という形で前面に出てきている印象を受ける。
実力が高いのもあるだろうが、大阪校の生徒で言い返してくる者などいないのだろう。
いたすれば純恋なのだろうが、実際に戦う相手に煽られるのは初めてなのかもしれない。
「私も陰陽師の資格を有している。
お前の方が先に、しかも功績を上げているが・・・まだ同格だ。」
「そうかもな。だけど陰陽師としての実戦経験はあるのか?あるのとないのじゃ大きく違うぞ?」
「それを・・・今日は残しに来たのだ。上杉龍穂を倒したという実績をな。」
陰陽師になりたての織田は俺との勝負に勝ち、実績を残すと言い放つが
陰陽師同士の戦いの勝敗にあまり意味はないだろう。
だが、多くの実績を持つ俺相手に勝つことで東京校より大阪校に入学したほうが
実力をつけられると噂が立ち、二校の立場を逆転しようという意図があるのかもしれない。
「・・出来ると良いな。」
織田の計画。その成功は自らの勝利に委ねられた。
そして・・・星空の計画も俺の圧倒的な勝利が条件として加えられている。
「・・・・・ん?」
修正が終わり、後は入場するだけとなった時。隣に立つ織田に向けて拳を突き出す。
「我々は仲間ではないぞ?拳など合わせてどうする。」
「別に情けをかけてくれなんて言っているわけじゃない。
だが・・・陰陽師、そして同じ国學館の生徒だ。離れていたとしても繋がりはある。」
繋がり。純恋もそうだったが・・・一度繋がりを持てばどこかで仲間になる可能性もある。
逆も然りだが・・・必ずどこかで道は重なる。
「・・・・・ふん。」
織田は鼻を鳴らし、こちらに目線を向けないまま拳をぶつけてくる。
気に食わないだろうが、実績を持つ俺との繋がりはいずれ役に立つと思ってくれたのだろう。
その後は会話をせずに二人で戦場へ向かう。
観客達は待ってましたと言わんばかりに歓声を俺達にぶつけてきた。
(すごいな・・・。)
このような展開になった大将戦が盛り上がるのは当然かもしれないが、
この歓声を受けられる者はなかなかいない。貴重な体験だが自然と緊張はしなかった。
今までの経験からだろうか。どれだけ人に見られていても戦うと意識すれば
それだけに集中できる。それに・・・目の前にいる織田が猛者の放つ雰囲気を
強く醸し出している事もあるだろう。
「両者。準備は良いな?」
先程よりも緊張した面持ちで竜次先生が声をかけてくる。
陰陽師同士の戦いという事もあるが、俺が前科者であることも大きな要因だ。
純恋との戦いでこの会場の結界を破壊してしまった事件の後、
同じ結界を敷くのにかなりの費用が掛かったようで始まる前に今回はセーブしろと
念を押されていた。今回は大丈夫だと頷き、織田も同じように首を縦に振る。
「じゃあ・・・始めるぞ。」
腕を組み、顎を上げて堂々とこちらを見つめる織田。
腰に携えた得物を持たない所を見ると、接近戦は苦手なのか、それとも何か策はあるのか。
どちらにせよ・・・対応は出来る。
「用意・・・始め!!」
竜次先生が腕を振り下ろすと、今日一番の歓声が上がり俺達の戦いが始まったことを告げる。
先手必勝もいいが・・・実力を見せるとなると少しは時間をかけた方がいいだろうと
織田の出方を伺うが、動く気配を見せない。
『動く気配はないの。どうする?』
このままじっとしている訳にも行かない。であれば前回とどれだけ俺が変わったかを
知らしめるために青さん達をこちらに呼び出す。
俺を守るように長い体で巻き付く青さんとその隣に雪男の様な大きな体を持つイタカ。
そして光り輝く体を持った八咫烏様が飛んでおり、それを見た観客達は驚きの歓声を上げる。
あの時とは違う式神達、しかも八咫烏様がいるとなれば驚くだろう。
「ふん・・・一年で力をつけた様だな。」
この中に木霊がいないことを指摘して来る。
ハスターの力が封じ込まれていた木霊は札の中から消え去っていた。
封印の器になっており、役目を終えて体が砕け散ったのかもしれないが・・・
出来れば役目を終えるその時を一緒に過ごしたかった。
「青龍と雪男・・・?珍しい式神を連れているな。それに・・・。」
織田もやはり八咫烏様に注目している。国津神である太陽の化身を使役しているとなると
陰陽師としてもやはり格が高い。
これを見せれただけでも大きな意味があるだろう。
「・・面白い神を連れている様だな。」
「頼りになるお方だよ。」
大阪校の生徒でも、これを見たら萎縮してしまうだろう。
だが・・・驚いた表情を一瞬見せたが態度を変えず、堂々した立ち振る舞いを変えない。
「出し惜しみをさせる気はないようだな。」
臨戦態勢を俺を見た織田は一枚の札を取り出し、神力を込める。
かなり強い力を持った何かが封じられており、それが織田を陰陽師に引き上げたのだろう。
「人間五十年、化天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり、一度生を受け、滅せぬ物のあるべきか・・・。人は必ず滅ぶ。それなのに・・・我が生徒達は一体何を守っているのだろうな?」
かの有名な織田信長が好んだ幸若舞、敦盛の一節を使って尋ねてくる。
「立ち止まる事がどれだけ愚かな事か。お前なら分かるだろう?
登って登って・・・格を維持できるだけの力をつけなければ家柄を守ることはできない。
本来そうでなければならないはずが・・・立ち止まる事が正解となってしまっている
この日ノ本は本当に腐っている。」
家柄というのは日ノ本への貢献度で決まる。
どれだけの年月、日ノ本に対して忠誠を誓って働いてきたかを評価され与えられる・・・はずだ。
「これを綺麗事だと笑うか?強き者にゴマをすり、腹を見せる事が家柄だとでもいうか?
私はな・・・そんな軟弱者達を引きずり下ろすためにここまで来たのだ。」
札を落とすと、辺り一帯が煙に包まれる。
奇襲を仕掛けてきたかと辺りの空気を感じるが動きは無く、
代わりに想定していた以上の強者が織田の後ろに佇んでいた。
「それを阻むのであれば、”我ら”は討ち果たそう。人、神、そして・・・・仏でさえもな。」
徐々に晴れていくと、織田の後ろに立っていたのは鎧を着た何かが佇んでいる。
南蛮鎧の上から見える黒いマントは、後世に伝わる織田信長の姿によく似ていた。
「第六天魔王!!」
織田が召喚したのは仏敵とされる第六天魔王。
日ノ本の組織に反旗を翻そうとしている彼女にふさわしい式神だ。
立ちふさがる織田と第六天魔王を前にして、体が震え鳥肌が止まらない。
久々の武者震いは織田の事を強敵だと体が認めた証拠だった。
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