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第二百五十四話 大阪校に潜む業達

「はぁ・・はぁ・・・加奈子!!!」


「まだいける!!!」


控室に戻ってきて目に移ったのは必死に戦っている武田と真田の姿。

相手は三年であるにも関わらず、均衡した試合を繰り広げていた。


武道省長官、そして理事の血を引く二人。

見つけている武術は家柄の名に恥じない練度だが、不思議なことにもっとも得意としているのは

武術ではない。

自分が前に出るといった真田は相対している明智と細川に踏み込むために真田は体勢を低くするが、

距離を縮める常套手段の縮地を使う姿勢ではない。


「来るな・・・。」


その姿を見た二人は得物を構える。距離があるのにも関わらず最大限の警戒を敷く理由。

それはすぐに真田の体に現れた。

体から何かが空気を割く音が響いてくる。真田の体から鳴り響くそれは

辺りに閃光の筋をまき散らしていた。

真田家は古くから武田家に仕える重臣。戦国時代、風林火山に属する四天王の他に

陰、雷の文字を司った家臣がいたとされていた。

陰の文字を関するのは山本勘助。かの有名な啄木鳥戦法を考案した武田家の軍師。

そして雷。諸説あるが猛将とも知将とも称され、徳川家康を苦しめた武将である真田昌幸を指す。

真田はその子孫であり、受け継いだ雷の文字を体現する様に雷の力を扱えた。


一瞬。瞬きをする間もなく会場を走った閃光は相対する二人に一直線に伸びていき

気が付けば槍を振るっていた。

毛利先生も同じ力を使うが出力はそれ以上であり、最大火力は二年の中でも随一だ。


「クソッ・・・!!」


雷の力を宿した真田の槍さばきは反応できないほどの速度を誇るが

明智と細川は紙一重で躱し、なんと振り抜かれた隙をついて反撃までこなしている。

強力な力を使う真田だが大きな弱点を抱えており、それは音を置き去りするほどの速度を持つ雷を

扱いきれていない事だった。

雷の速度で体を動かすことができるが体や頭が反応できておらず、攻撃は一直線で単調。

そしてどうしても大振りになってしまい、それを理解した明智や細川は

攻撃を予測して体を動かし、生まれた隙を突かれてしまっている。

いう分には簡単だが、雷の速度で放ってくる槍を真田の体を見て察し、

それをこなしている二人は手練れの雰囲気を強く醸し出しており、

大阪校の生徒にしては珍しく戦場を渡り歩いてきた手練れだった。


槍を振るっているのにも関わらず追い込まれていく真田だが

相棒である武田がそれをただ眺めているはずがなく、縮地で距離を詰める。

得物である刀とは別に携えている小さな軍配を振るうと見た目からは考えれないほどの

突風が三人の体を襲った。


風林火山ふうりんかざん ふう!!!」


まともに立っていられないほどの突風は地面に散らばった砂を巻き上げ

真田に向けて得物を振るう二人の顔面を襲う。

武田家に伝わるあの軍配には孫氏の兵法を取り入れた武田軍が掲げた旗に刻まれた文字、

風林火山の力が込められている。

使用者の力を感じ取り、四属性の力を打ち放つことができる優れモノだが

一番の特徴としては魔術ではなく、神術を用いて力を打ち放っている事だ。

戦国時代に築き上げた栄光を称え、神として奉られた力が軍配に込められており、

武田軍の象徴とされた風林火山の力を神術に変えて打ち放つ万能の武具。

簡単に使っているが、熟練者が使ったとしても神力が足りずに柔らかい風が生まれるだけであり

武田に秘められている力と技術が高い証拠だ。


二人が怯んでいる隙に合流を果たした武田は勢いままに襲い掛かろうとするが、

飛び込んでくる砂に対して冷静に目を手で隠し対処した二人を見て足を止める。

楓に対しても対等に戦えるほどの武術を有している二人が足を止めたという事は

一度痛い目にあったのだろう。


(・・何者だ?)


戦いなれした姿には品がなく、誰かの護衛として大阪校に来ているとも考えずらい。

品の高さというよりかはただただ手練れの様相を見せている二人は明らかに異質。

一体何者なのかと窓際に寄っていくと、純恋達がこちらにやってきて口を開いた。


「・・・どうやった?」


「雑賀さんが悪い。ただそれだけだったけど・・・色々思う所があっての行動だった。」


返答をしながら織田の方に視線を移す。隣には半べそをかきながら試合を眺める滝川の姿があり、

他の生徒達は先ほどより距離を置いている姿が見える。

先程とは違い、なんとも言い難い空気が大阪校の生徒達から漂っており、

俺がいない間に何かがあったことは明白だった。


「そうか。まあ・・・向こうにいた時、反発する私達に気を回してくれていたからな。

必死に抵抗する陽菜を見て何か思う所があったんやろ。」


純恋と桃子は雑賀さんの行動に心当たりがあったようで、全てピタリと当ててしまう。


「だけどあの人はもう一人じゃない。俺達という仲間がいる。

勝手な行動を戒めるために一発殴らせてもらったよ。寮長として、星空に一員として。

火嶽を危険に晒されて怒ったちーさんの代わりにな。」


雑賀さんの心を知っていた純恋や桃子からやりすぎだと突っ込まれるかと思ったが、

二人はそれでいいと異論一つ唱える事は無かった。

組織に入った者のけじめはしっかりとつけないとならないことも理解してくれている。


「・・あの二人、気になるか?」


これ以上深くは聞かずに、俺の視線を釘付けにした大阪校の二人の事を尋ねてくる。


「ああ。なんというか・・・大阪校らしくないと思ってな。」


「龍穂ぐらいなら流石に察するか。確かにあんな戦い方をする奴は大阪校におらへん。

私達みたいに戦い慣れをしている奴なんか数えるほどやからな。」


それはそうなのだが・・・どこかで見覚えがあるような戦い方をしており

この違和感の正体が分からずにモヤモヤしていると、じらす純恋を見かねて

桃子が小さく呟いた。


「あの二人・・・”業”やで。」


桃子の答えを聞き、少し動揺してしまうが表情を変えずに戦場を見つめる。

なるほど。思い返してみると兼兄や毛利先生、藤野さんの戦う姿によく似ている。

だが何故大阪校に業がいるのか。実力を上げたいのなら東京校を選ぶはずだが

何かしらの事情を抱えていると考え桃子の言葉を待つ。


「大阪校に入る以前から陽菜はあんな感じやった。

入学したら日ノ本を変える。その前段階として大阪校も返ると豪語したらしい。

家柄もよく、品を持ち合わせているが着飾ろうとしない陽菜を見て

入学拒否しようとしたんやけど陽菜の才能に惚れこんだ皇が業を入れる事で

入学を認めさせたんや。」


「そんなことをしてまでか・・・。」


「じいちゃんも今の大阪校の事をよく思っとらん。それに・・・私達の入学も決まっとったしな。

同じような考えを持った陽菜を入れる事で、少しは楽しい学校生活を送れると思ったのかもな。」


真田様や伊達様に推薦されて陰陽師になった俺とは違い、織田は自らの手で陰陽師となった。

純恋との相性がいいという理由もあるかもしれないが、その才能は日ノ本の中でも

上澄みであることを結果が示しており、皇の慧眼が間違っていないことを証明していた。


「踏み込んで来なくなったな。」


「対応力が高い証拠でしょう。我々以外が出ていれば太刀打ちできなかったでしょうね。」


兼兄の部下である業の隊員相手では才能ある二人であっても粗削りの部分を突かれ

流石に厳しい戦いを仕入れられる。

距離を取りながら出方を伺っている二人に止めを刺そうと明智と細川は仕掛けを打って出た。


「俺が援護する。仕留めてこい。」


膝を着き、地面に手を突いた細川は自らの影を広げ、二人に向けて影を伸ばす。

影の力に慣れていない二人は一切警戒しておらず、控室にいた火嶽が声を上げて警戒を促すが

時すでに遅し。二人の足元から出てきた細川の影は足首に巻き付き動きを止める。


「さて・・・。」


影縛り。動きを止める技だが巻き付いたのは足首であり真田達であればすぐに解けるだろう。

だがそのわずかな隙は業相手では命取り。突然の出来事に足元に目を向けた二人を見て

明智は足音が聞こえないほどの素早い縮地で迫った。


「・・影打ち(かげうち)。」


勢いそのままに二人に迫った明智が通り過ぎると、二人が倒れてしまう。

あれだけ激しい戦いをしていたのにも関わらず、呆気ない結末に観客達が驚きの声を上げているが

通り過ぎる瞬間、明智が二人の顎を触れていた姿が俺の目に映っていた。


「勝者。明智、細川!」


明智が使った技は恐らく業に伝わる技術であり、闇夜に最大の力を発揮する影の術と合わせる事で

隠密行動をよりしやすくなるような華麗な技だ。

今までの決着より華やかではないが、なんとも業らしい決着を前に

どよめいていた観客達も遅れながら拍手を送る。

何が起きたのか分かってはいないだろうが、それほどまでに

洗礼された技術の介入があった事は理解しているのだろう。


「ほれ、出番やで。」


交流試合の結果は今の所二勝二敗。どちらが勝ち越すのかは大将戦に委ねられた。

星空の作戦は今のところ順調。それだけでも十分な成果だが・・・様々な思いが詰まった

この交流試合の勝敗は俺が思っている以上に大きな意味を持っていた。

織田、雑賀さん。俺は今からこの二人の野望を打ち砕かなければならない。

互いの望みをかけた戦いが始まろうとしていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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