表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
251/293

第二百五十一話 引き出された本能

追い詰められた滝川が出したのは見たことがある長物。

それは徳川で見た白が開発した狙撃銃にひどく似ていた。


「喰らえ・・・・!!」


白しか持っていない長物を何故持っているのか。

冷静だった火嶽の頭は一気に回転を始め、体が硬直している。

打ち放たれた弾丸は空に羽ばたいて止めを刺そうとしていた火嶽の炎の翼に打ち抜くが

炎を貫くだけのはずの翼から赤い鮮血が飛び散る。


「ぐっ・・・!!!」


あの状態の火嶽に何故ダメージを負わせられたのか。その理由は分からないが、

理解できることは雑賀さんが弟子である滝川にあの長物を持たせたこと。

そして・・・銃そのものなのか打ち放った弾丸なのか分からないが、

火嶽の体に有効な何かを雑賀さんは開発したことだ。


『・・千夏さん。』


一体なぜそんなことをしたのか分からないが、何がどうあれ雑賀さんのこの意図を

確かめなければならない。


『分かっています。』


最悪なのは雑賀さんは既に千仞の一員であり、弟子を使って火嶽を狙う事。

錫杖など俺達に対し、友好的な態度を見せておいて公の場で火嶽を倒されれば

白の一員を倒した事実がこの会場にいる千仞達に大きな影響を与えるだろう。


「・・火嶽!!大丈夫だぞ!!!」


千夏さんには出来るだけ多くのメンバーでいち早く雑賀さんの身柄の確保をお願いし、

俺が出来る事に専念することに切り替える。

まだ確定はしていないが、火嶽がこの戦いに勝てば雑賀さんの企みは全て崩れ去る。


「分かってますよ・・・!!!」


星空の事を火嶽も知っており、当然雑賀さんが新たに加わったことも耳に入れている。

この戦いの重要度が跳ね上がったことを理解した火嶽はすぐさま立て直し、

落ちてくる滝川に止めを刺そうと動き出すがそうはさせないと長物を肩に担いで

先程の魔銃を地面に打ち放つ。

風を打ち放ち、再び宙に舞った滝川は長物に付けられているスコープを覗きこむ。

このまま宙に降りることなく勝負を決めるつもりだ。

再び空に羽ばたこうとすれば的が大きくなるだけだと火嶽は翼を引っ込めると

縮地で地面を駆け、高速の移動で狙いを定めさせないように立ち回る。

高所を取った狙撃手から逃げるのは至難の技。

かといって安易な行動で優位を取り返そうとすれば痛い目を見る。

白の部隊にいた火嶽らしい好判断だ。


「逃がさない・・・!!!」


だが相手は魔弾の射手と呼ばれた雑賀さんの弟子だ。

その技術を受け継いでいるとしたら縮地で回避できるかどうかすら怪しい。

スコープを覗いた滝川は動き回る火嶽を追い続け、引き金を引く。

縮地をしながら滝川の様子を伺っていた火嶽はトリガーを引く所を視界に収めており、

その瞬間に方向転換を行うと火嶽とは別方向に銃弾が打ち放たれる。


「ぐっ・・・!!!」


これは当たらないと察した滝川はすぐさま片手を前に出すと

外れた弾丸を逃げた火嶽の方向へ移動させていく。恐らく弾丸は魔力が込められているのだろうが

あの速度の弾丸の方向転換はほぼ不可能。

流石に無理だと思っていたが、なんと大きく角度を変えて火嶽の元へ向かって行った。


(弾丸が・・・止まった・・・?)


方向転換の一瞬。わずかな時間だが弾丸が止まったように見えた。

あの速度の弾丸を止め、方向転換をさせたとしても再度同じ速度で再び打ち放つには

相当な魔力と操作が必要になる。しかもあのわずかな時間で行った技量は

下手をすれば武術師並みと言えるだろう。

それを行った滝川を見ると、あの一瞬で息を切らしている。

全ての動作を一瞬で行わなければならず、それ相応の魔力の消費なのだろう。

すなわち消費戦に持ち込めば火嶽に勝機はある証拠だが

命を落としてしまうほどの一撃が高精度で狙ってくる状況での消費戦は

あまりにもリスクが高すぎる。


「クソッ・・!!!」


方向転換をした弾丸が再び向かってきている事を察した火嶽は

何とか縮地で逃げようと試みるが時すでに遅し。

目で追えない速度突っ込んで来た弾丸は、綱秀の右足を正確に貫いた。

炎で逃げられず、風穴を開けられた綱秀はあまりの痛みに膝を着いてしまう。

機動力を失った火嶽は滝川にとって格好の的であり、

このままでは勝負が決まってしまう。流石にマズイと声をかけようとするが、

膝を着いて俯いた火嶽の体から炎が立ち上り始める。


「・・舐めてたよ。」


無駄な魔力消費を避けようと地面に降り立ち、スコープを覗いたまま

ゆっくりと迫る滝川に向けて火嶽は呟く。


「初めは頭の狂った殺しキラーだと思ったが、

どんな状況でも得物を狙い撃つ狩人ハンターの面も持ち合わしている。

距離や相手によって戦法を変えられる器用な奴だが・・・

俺もそれなりに修羅場を超えてきているんでな。」


体から上がっている炎は徐々に大きさを増していき、たちまち火嶽の体全てを包み込んでいく。

何かを仕掛ける気だがあれでは的を大きくするだけであり、

弱点は突かれないとしても戦闘不能まで追い込まれてしまうだろう。

そんな大きな隙を滝川が逃すわけがなく、火嶽に向けて弾丸が撃ち込まれる。

あれだけの大きな炎で外すわけがなくそのまま打ち抜かれるが

炎から血が流れる事は無かった。


「魔力を吸収する弾丸だな?久々に受けたが・・・対処してしまえばこっちのもんだ。」


サキュバスの力である吸収の魔術。その力を込めた弾丸であると火嶽は語る。

どんな生物でも魔力が体に流れており、不死鳥の力を持つ火嶽の炎の体も例外じゃない。

炎の力を吸い取り魔力を涸渇させることで実体化した体を打ち抜いたと指摘されるが

滝川はスコープから視線を逸らすことはない。


「”幻獣”相手によく用いられる対処法だ。

昔は嫌というほど使われたもんだよ。だけどな、そんなもんに負けてちゃ

俺達はこの日ノ本にたどり着く事すらできなかっただろうな。」


追い込まれたからか。それとも滝川の実力を認めたからか。

火嶽は白で体験した出来事を語りだす。恐らくかなりつらい体験でだっただろうが

それがあったからこそ自分はここまでこれたと語り、

さらに大きく燃え上がった炎は光り輝く火の鳥へと姿を変えた。


「見せたくなかったが、お前は知る権利を勝ち取っちまった。・・終わりにしよう。」


大きく空に飛び立とうとする火の鳥の翼を滝川は打ち抜く。

よく見ると弾丸が撃ち込まれる寸前に自ら穴をあけて弾丸を避ける事で

ダメージを回避している様であり、自らの体とはいえ銃口の向きから着弾地点を予想し

最低限の動きで回避しているのは流石の一言だった。


大きな火の鳥となった火嶽はバチバチと音を立てながら翼を羽ばたかせ、空へと旅立っていく。

格好の的であり、何とかしなければと滝川は再び銃弾を打ち放つが

対応法を熟知している火嶽の体を貫通するばかり。

もう無駄だと分からせるように堂々と飛び立った火嶽は空中で滝川の方を向くと

翼を強く羽ばたかせ始める。

辺りに火の粉をまき散らした翼から、高温の炎を帯びた羽が打ち放たれ

スコープを覗いている滝川を襲い掛かった。


魔銃ではなく、長物をもった滝川は範囲攻撃に対し成すすべはない。

このままではマズイと魔術を打ち放ち風での移動を試みるがそれを待っていたと

言わんばかりに火嶽は口を開き、打ち放った風に向けて炎の息を吐く。

体を浮かせるほどの強風だが火嶽の炎もまた強力。

強風を取り込んだ炎は空気を取り入れ、瞬く間に大きく燃え上がると

まるで津波の様に滝川に襲い掛かった。


「炎炎ノ激浪えんえんのげきろう。」


向かってくる炎の津波は触れたら死が待つのみの死の壁。

このままでは滝川の敗北どころか命さえ危ない。

魔銃の風も効かないことは先ほど証明されており、万事休す。

流石に危ないと竜次先生が割って入ろうと準備を始めるが、滝川はまだ諦めておらず

懐から取り出した長物から特殊な弾を取り出し、即座に装填ののち無造作に打ち放つ。


大鯰おおなまず!!!」


秘策中の秘策。師匠である雑賀さんも使った銃弾で打ち放つ神術。

大きな鯰を模した土の塊は迫り来る炎の津波に向かって大きく口を開きながら突進すると

身を焦がしながら炎を喰らっていく。

泥が一瞬で蒸発し、砂に変わりながらも喰らっていく鯰はなんと炎を津波に小さな穴をあける。

何とか人一人が通れる大きさであり大鯰が作り上げた希望の道に飛び込んだ滝川だったが、

その選択が・・・勝負を決めてしまった。


「待ってたぞ・・・!!!」


その動きを読んでいたかのように準備を整えていた火嶽は着地の隙を狙って飛び込んでくる。

鋭い嘴は必死に脱出劇を成功させた滝川の背中を捕えており、

このままだと後先考えずに着地したため振り返る事すら叶わない滝川の体を貫くだろう。

最初に命を狙ってきたのは滝川とはいえ、このままでは本当に死んでしまう。


「やめろ!!!」


流石にやりすぎだと叫び止めようとするが、覚悟が決まった火嶽は耳を貸すことはない。

準備をしていた竜次先生だが、縮地をしたとしても間に合わない速度で

滝川に迫っており、このままだと・・・殺人が起きてしまう。


(かくなる上は・・・!!)


俺が影渡りで突っ込むしかないと影に沈もうとしたその時、後から声が聞こえる。


「そこに居なさい。」


すると俺の影の中に誰かが入り込んだ感覚に襲われ、影渡りが出来なくなる。

一瞬の出来事に何が起こったか理解できなかったが、

眼前の戦場では火嶽が滝川に襲い掛かる寸前だった。

悲惨な結末を予想した観客達から悲鳴が上がる。控室から見ていた生徒達の中には

その光景から視線を逸らす者もいたが、視線を外さなかった俺達の眼には

予想を裏切る光景が映し出されていた。


「・・やり過ぎですよ?」


死を受け入れ、蹲る滝川。そして命を刈り取ろうとする火の鳥の姿をした火嶽の間に

立っていた人物。それは漆黒のスーツを身にまとった無名先生。

生身で受け止めれば焼き切れてしまうほどの高音を見に纏う火嶽の嘴を

何と黒い手袋を身に着けた手で握り、受け止めている。


「・・勝者!!火嶽将!!!」


間に合わなかった竜次先生が急いで駆けつけ勝敗を告げる。

最悪の結末を免れた中堅戦だったが、衝撃の結末を迎えた試合に観客達は歓声を上げず、

会場は異様な雰囲気に包まれていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ