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第二百五十話 織田が歩んだ茨の道

いくら銃弾を撃ち込まれても血を流す事さえない火嶽に対して滝川は困惑する。

その反応は真っ当だろう。何せ火嶽の体は炎そのものであり、肉が裂けて血が出るはずの

体に弾痕一つ付いていないのだから。


「覚悟は決まったか?」


背中から生やした炎を翼を羽ばたかせ、空から襲い掛かる火嶽。

滝川も負けずと再び何発も銃弾を打ち放つが炎を貫くだけでダメージを与えておらず

火嶽の接近を許してしまう。


「なら・・・!!」


銃が不得意な接近戦に持ち込まれた滝川だが手に持った銃を持ち替え

弱点を補った魔銃流で勝負しようと試みる。

だがそれは生身の人間相手を想定した武術であり、炎の体を持つ火嶽には通用しない。

魔術の弾を放ちながら火嶽に打撃を試みるが触れた瞬間、皮が焼けた音が辺りに広がる。


「ぐっ・・・!!!」


触れただけでも大やけど。それだけ火嶽が身にまとう火が高温であり

接近戦を仕掛けてはならない相手だと理解する。

すぐさま距離を取った滝川を見た火嶽は分かりやすく大きなため息をついた。


「なんだよ・・・面白くないな。」


狂気を持った相手であれば身を焦がしながらも向かってくると期待していたようだが

冷静に距離を開けた所を見てがっかりしている。

あの姿を見てまともに打ち合おうと一度でも思ったこと自体褒めたやりたいが、

この場で堂々と急所に打ち込んでくる度胸を買っていたからの煽りなのだろう。


「東京校はバケモンぞろいやな。」


一度は不安になったものの、難なくいなした火嶽の姿を見て安堵していると

後ろから聞いたことのある声が聞こえてくる。

振り返ると先ほどまで観客席にいた雑賀さんが何と控室にやってきており、

戦場を見ながら俺の隣までやってきた。


「部外者は立入禁止やで。」


「部外者ちゃうやろ。ここのOBや。」


嫌がる純恋はじゃあ向こうにいけやと爪弾きにしようとするが

俺の後輩達はあいつに毒されて居場所がないねんと織田に親指を向ける。


「そんな中でもたった一人の弟子がこうして頑張っとるのに

あんなバケモン相手にされちゃ今までの苦労が台無しやで。ほんま敵わんわ。」


「・・勝てばいいだけの話しやろ。」


「まあそうなんやけどな。やけど・・・勝ちにしろ負けにしろ、

不甲斐ない結末を迎えるのだけは勘弁してほしいわ。」


この人は俺達に文句を言いに来たわけじゃない。

これまでの戦いを見て大阪校の生徒達に発破をかけに来たようだ。

せっかくかけられた発破だが、大阪校の生徒達は静まり返ってしまう。

雑賀さんの発破に応えられるほど大阪校の士気は高くはない。

そして流れを変えられるような元気溌剌とした生徒や大人な生徒達は

雑賀さんの言う不甲斐ない結末を迎えてしまった張本人達であり反論が出来ない今、

士気が地の底に達してしまうと思われたが、一人の生徒が立ち上がる。


「・・それは聞き捨てならんな。」


織田がこちらに近づいて来て文句を垂れる雑賀さんに詰め寄る。

大阪校を率いる長として上から見ているだけの奴に文句を言われる筋合いはないと

戦っている誰もが思っていたことを言い放った。


「そもそもだ。上級生達だってあまり良い勝ち方をしていたわけじゃないだろう?

不意打ちなもちろんの事、相手の弱みを握って八百長をしていたなんて

話しも聞いたことがあるぞ。」


「俺はそんなことをしてないで。他の奴らの事は知らんけどな。」


詰め寄ってきた織田に負けじと雑賀さんも顔を近づけるが、

耳元でささやいた言葉は先ほどのは嫌みとは程遠い内容だった。


「あんな周りからの態度を気にしている様な奴らどうでもええ。

織田、お前達が大阪校の東京校と同等に戦える所を見せてくれへんと絶対に変えられへん。

やっと大阪校がまともになりかけてんねん。

ここで不甲斐ない負け方したらめんどくさい奴らが上から押しつぶそうとして来るで。」


今までの大阪校の在り方が間違っていた。

以前代表を務めていた雑賀さんもその中に身を置いていたため身に染みて分かってる。

だからこそ、裏で何もすることなく真正面からぶつかっている織田達を応援したい。

そんな雑賀さんの気持ちを汲んでか、睨みは効かせてはいるが黙って話しを聞いている。


「全ては実力で示すしかない。それ相応の奴らを集めているのも伝わってくる。

だが・・・滝川みたいに全てを使ってでも勝たんと思わんと

番付無しでも実力を競い合ってきた東京校の奴らに敵うはずがない。

もっとや。滝川に見たいにもっと必死にならんと勝てるもんも勝てへんで?」


勝てる可能性は十分にある。俺の期待に応えて見せろと遠回しに伝えた雑賀さんは

織田の肩を叩いて立ち去って行った。

決して今まで生徒達が生ぬるい戦いをしていたわけじゃない。

だが・・・それだけでは足りないと雑賀さんは伝えてたかったのであり、

先鋒戦が終わった後、木下姉をしかりつけた意味がここで明かされる。

そもそも織田は俺達に簡単に勝てない事を知っていたんだ。

だからこそ、完膚なきまでに勝利を収めなかった姉に対して公の前でしかりつけ

引き締めようとしたのだろう。だが・・・丹波が言っていたこともまた筋が通っている。


「・・準備不足だったな。」


雑賀さんの言葉を聞いた織田は表情を変えないが、悔しそうに自らの反省点を

呟いて大阪校の輪に戻っていく。

織田の思惑通りにいかなかった原因はたった一つ。

信頼できる仲間達だけでも必死に戦わないとマズイと伝えなかったことだ。

それを理解できず、結果として丹波に叱られる羽目になってしまった。


「ふん・・・・。」


戻った織田だが輪に加わることなくたった一人で戦っている滝川を見つめている。

それが分かっていたのであれば、信頼できる仲間達に事前に知らせた方がいいことぐらい

織田なら分かったはずだ。それをしなかった理由。恐らく・・・心から

信頼できなかったのだろう。

雑賀さんから大阪校の長を引き継いでから僅かな期間で大きく雰囲気を変えたのは流石だ。

だが・・・信頼というのは時間をかけなければならず、しかも教師に口を出させないほどに

大阪校を掌握したとなれば、その信頼にひびが入る者だっている。


「大変・・・だな。」


その姿を見て、思わずぼそりと呟いてしまう。

織田の苦労。それは実際に実行した織田自身にしか分からない。

だが彼女が歩んで来た道が茨の道であったことは容易に想像でき、純恋が嫌悪してきた

あの雰囲気を変えている苦労には尊敬の念を抱いてしまう。


「・・敵を思うなんてずいぶん余裕があるんやな。」


「そう言うわけじゃない。ただ・・・頑張ってきた奴が少しでも報われて欲しいと思うのは

当然の事じゃないか?」


楓や純恋、桃子や千夏さん。最近であれば綱秀だってそうだ。

頑張ってきた人が自らの努力で報われる姿を見てきた。


「そう思うのは勝手や。やけど・・・最後はアンタが手を下さなければいけないんやで。」


戦場を見ると、火嶽に対して何もできない滝川が徐々に追い詰められている。

抵抗はしているが・・・全て無駄に終わってしまっている。

残るは副将戦と大将戦。副将戦には真田と武田に任せているが、相手は三年が出てくる。

恐らく厳しい戦いになるだろう。となると・・・純恋の言う通り、勝敗を握るのは

俺である可能性はかなり高い。


「・・分かっているよ。」


彼女の努力が報われて欲しい気持ちはある。だが・・・俺の強さを証明することで

千仞から離れる人達がいるのなら・・・ここは圧倒しなければならない。

野望を果たしたい。何かを変えたい。どちらにせよ、相手の努力を踏み越えなければ

目標を達成することはできない。


「おいおい・・・。あの時の威勢はどうした?」


優位を手にし、ゆっくりと追い詰めていく綱秀。

滝川もあらゆる属性の魔弾を打ち放ったが、全て燃やされもはや打つ手がないように見える。

まるで自らの実力を相手の体、そして心に教え込むようにじりじりと距離を詰めていく

綱秀を見て、滝川は何かを呟いた。


「本当は仕留める時に使いたかったけど・・・。」


何と身に着けている銃を地面に置く。

辛うじて一丁の拳銃を手に持っているが、もはや解釈してくれと言わんばかりの佇まいだ。


「降参か?あれだけやったのにそれは—————————」


心底がっかりだと言おうとしたその時、手に持っている拳銃が地面に打ち放たれる。

着弾した瞬間、辺りに巻き起こったのは竜巻。

特殊な銃弾であるとともに、まだ滝川は勝負を投げていない証拠だ。

あまりの強風に地面に敷き詰められた砂が舞い上がり火嶽の視界を防ぐが、

炎を羽を風よけに使ったことで視線は滝川を捕えている。

何かを仕掛けるつもりの滝川は、竜巻の勢いで空中で舞い上がりながら札から何かを取り出した。


「なっ・・・!?」


その姿を見た火嶽は動揺して体が一瞬硬直してしまう。

何故なら滝川が手にした小銃、長物には見覚えがあったからであり、

徳川家の地下にあった白の部隊が開発した特殊な狙撃銃にそっくりだったからだ。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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