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第二百四十九話 不死身 対 狂気

勝者を称えるために、控室で二人を待っていると

綱秀が明らかに不満そうな表情でこちらに戻ってくる。

兎にも角にも労わねばとお疲れ様と声をかけようとしたその時、

俺の言葉を遮るように綱秀が不満を漏らしてくる。


「お前・・・どっか行ってただろ。」


俺が席を離れていたことを試合中に見ていたようで、自らの勝利を見せつけれなかった事が

かなり不満だった様だ。

それくらい余裕を持ちながら勝利を収めたことは非常に良いことだが、

事情が事情なのでここで説明するわけにもいかずに素直に謝罪をしてはぐらかす。


「これで一勝一敗だ!まだまだこっからだぞ!!」


ひとまずこれでイーブン。ここから流れを持ってくるぞと綱秀を祝おうと集まったみんなに

声をかけると、良い雰囲気の声が上がってくる。

実力からしても本来置くべきではない次鋒戦を快く受け入れ、

中堅に出場する火嶽にバトンを渡したぞと声をかけながら去っていく綱秀と涼音は

最高の仕事をしてくれた。


「・・・情けない敗北だったな。」


騒いでいる東京校の中から大阪校の方を見ると集まっているメンバーからは活気が感じ取れない。

そして大阪校からしてみれば、良い内容ではない勝利から敗北というあまりに悪い流れを

押し付けられたんだ。最悪の空気になってもおかしくはない。


「・・・・ごめんなさい。」


「もう良い。あまり責めれば士気にかかわると言ったのはお菊、お前だ。

であれば、これ以上士気を下げるのはやめろ。」


俺達と同じく向こうも実力ある三年を次鋒戦に送り込んで来たという事は

同じ様な考えで配置したのかもしれない。

その期待に応えられなかった丹波と柴田の謝罪を受け入れた織田は

次に向かうために必死に声を上げる。


「何を落ち込んでおる。仕切り直しだ!たったそれだけ!それだけの事ではないか!!」


ただ振り出しに戻っただけだと声を上げる織田だが、その過程を見てしまっている

メンバー達はなかなか顔を上げられない。


滝川数鬼たきがわかずき!!」


だがそれでも試合は始める。中堅に出場する二年生である滝川の名前を呼ぶと

小さな背丈の男子生徒が気の弱そうな声を上げた。


「中堅戦にお前を指名した理由!分かるな!?」


「て、敵を倒し!大阪校に勝利を———————————————」


明らかに空回りをしてしまっている滝川の言葉を遮るように、織田は大声でもう一度名前を叫ぶ。

そして立ち上がると怒られるようなことをしてしまったのか怯える滝川に向かって

歩き出し、その佇まいとは裏腹に優しく頭に手を乗せる。


「・・お前の銃の実力があれば東京校の生徒など取るに足らん。

それを証明させるため、お前を中堅に置いたのだ。」


緊張をほぐすために頭を撫でると、まるで年の離れた弟をめでる様に優しく声をかける。


「重圧など感じ取るな。目の前の敵を倒すため事だけに集中しろ。」


まるで今言った言葉を頭に擦りこむようにゆっくりと頭を撫でていくと

滝川が纏う雰囲気が変わっていく。別のスイッチが入るルーティーンなのか、

それとも催眠術の類なのか分からないが、弱弱しい滝川の姿は一切なくなった。

少し面白い所を見たなと思っていると、戦場に向かう火嶽が俺の横を歩いていく。


「火嶽。」


白の一員である火嶽は俺以上の戦闘経験を持っているだろうが、この雰囲気の交流試合前だ。

少しは緊張しているかもしれないと声をかけるが、平然とした表情で火嶽はこちらに振り返る。


「なんですか?」


「・・初めての交流試合らしく緊張しているかもしれないと思っていたが・・・心配ないな。」


当然ですと答えた火嶽は俺の短い応援の言葉に軽く答え戦場に踏み入れようとするが

その直前で足を止めて、再度こちらに振り返る。


「ああ、龍穂さん。」


「どうした?」


「交流試合が終わったら拓郎が相談したいことがあるそうです。時間、作ってやって下さい。」


綱秀達の試合の時間、木下を励ましていたのだろう。

何を言われたか分からないが、あいつの力に慣れるのなら相談なんていくらでも乗る。

分かったと返事をすると火嶽は再び戦場へと足を向ける。

今言わなくてもいいような日常会話を挟んでいる所を見ると

むしろ緊張感がなさすぎる様にも感じるが、いつも通りの火嶽なら大丈夫だろう。


「両者、向かい合って。」


竜次先生が間に入り、向かい合った二人は得物を取り出す。

火嶽はいつも通りの刀を腰に差すが、問題は滝川の方。

腰にベルトを巻くと、何本もの拳銃を刺していく。戦いの中でその全てを使うのかと思ってしまう

ほどの量だが、なんとその上で防弾用のヘルメットと背中に小銃を背負った。


「・・それでいいのか?」


あまりの装備の多さに竜次先生はそれで戦う気かと尋ねるが滝川は平然とはいと答え、

開戦の時を待つ。

銃は強力だ。間合いの広さ、そして威力。銃の登場により存在が消え去った武器は

数えられないほどだろう。

それだけ時代を支配した銃への対処法は当然研究されている。

銃弾が直線にしか飛ばない事、そして装填時間の際に大きな隙が出来る事。

そして接近戦への対処は難しく、間合いを詰められないために立ち回るのが銃を扱う者の常識だ。


(となると・・・。)


あれだけの銃を持っていたとしても立ち回れる技術を持っているはず。

それは去年行われた交流試合でまざまざと見せつけられた。


「・・・・・・・・・・・。」


会場に目をやると席に座らず手すりに肘を乗せて頬杖を突きながら会場を見つめる

雑賀さんの姿が写る。あの様子から見るに、滝川と生徒は雑賀さんの弟子であり

魔銃流を使うのだろう。

だとすれば火嶽と言えど厄介な相手となる。何せあの謙太郎さんを追い込んだ技術なのだから。


「・・では始めよう。用意・・・始め!!」


開始の合図とともに観客が歓声を上げるが、今までの試合とは違って二人は動く気配を見せない。

お互いが相手の行動を見に来ており、膠着状態になっている。


「・・・・来ないのか?」


先に声をかけたのは火嶽。

銃を得物としている者の定石とは外れている行動に対しての問いなのだろう。


「そちらからどうぞ。別に距離を離す必要はありませんので。」


中腰になりながらベルトに入っている拳銃を取り出せるように構えを取っている滝川。

これじゃ向こうから仕掛けてくることはないと察した火嶽は

ゆっくりと刀を取り出そうとするがその瞬間、辺りに破裂音が鳴り響く。


「!?」


何が起こったのか分からないと観客達はざわめき始める。

あまりにも一瞬の出来事で困惑するのも仕方がないだろう。

だが戦場で起こっている出来事は観客達の想像を超えるほどに、悲惨なものだった。


「火嶽!!!」


あまりにも容赦がない一撃に大声を上げてしまう。

滝川の手に握られていた拳銃の銃口からは煙が上がっており、

目にもとまらぬ早打ちで放たれた純団は得物を握ろうとしていた火嶽の手のひらに

風穴を開けていたからだ。

あまりの出来事に体が固まってしまう火嶽だが隙を見逃さなかった滝川は容赦をしない。

再び大きな破裂音が鳴り響き、手のひらの穴の気がついた観客達からは悲鳴が上がる。

あまりの早打ちに一つの銃声に聞こえるが、火嶽の体にはいくつもの穴が開いてしまっている。

眉間、顎、心臓、肝臓、膝と人体の弱点を的確に貫いた滝川を見た俺は完全に理解してしまう。

あいつは狂気を孕んでおり、火嶽を・・・殺す気だ。


あの光景を見た大阪校の生徒からは悲鳴が上がるが、どこか歓喜が混じっている様に聞こえる。

ざまぁみろと言いたいような眼差しがこちらに向けられており、

その光景を横目で見た俺は睨んでやろうかと思ったが

俺達はあれだけじゃ火嶽はやられないことを知っている。

先程はあまりの速さに声を上げてしまったが、倒れない火嶽を確認しつつ

俺達に視線を向けている奴らを鼻で笑った。


「へぇ・・・そこまでしてくるんだ。」


弱点を突かれ、命の灯が消えていてもおかしくない火嶽が口を開く。


「試合と呼ばれる場でそこまでするんだったら・・・自分がされても文句は言えねぇよな?」


倒れなければおかしい。弱点を突かれた生物としての常識であり、

不可解すぎる光景を目にした滝川は纏っていた狂気が剥がれ始める。

だが敵は生きている。主は自分にこいつを倒す事を望んでいるとすぐに奮い立たせ

再び銃弾を放つが、体を貫かれたはずの火嶽は体が警告を示す激痛に意を返さない。


「さあ・・・やろうか。」


徐々に近づいていく火嶽は背中から火の翼を生やして臨戦態勢に入る。

不死鳥である火嶽は狂気を弾丸を放つ滝川に襲い掛かった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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