表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/293

第二百四十二話 凄腕の武器商人

江ノ島の戦いの報告、そして星空の結成を終え寮へ戻る。


「お疲れさん。」


俺達をエントランスで待っていた純恋と楓、そしてアルさんが出迎えてくれる。


「どうやった?褒めてもらったか?」


「・・色々あったよ。」


俺の返事を聞いた三人は一気に緊張感を漂い始める。

色々含ませた返事をしてしまったが三人の視線が集まる顔、表情から感じ取ったのだろう。


「ひとまず・・・人気のない所で話したい。それに・・・千夏さんも一緒がいいな。」


この場にいる全員だけでは足りないと、後にいる竜次先生とアルさんに視線を向ける。

窓には登っていた陽が既に落ち、代わりに黄色が差し込む白い光を放つ月が登っていた。


「自由時間が終わっているぞ・・・と言いたい所だが、内容が内容だ。

少しくらいは許す。アル、いいな?」


「竜次がそう言うのなら、黙っておくわ。それに・・・私も聞かせてほしいもの。」


事態を察した二人は外出の許可をくれる。

俺達と一緒に付いてきてくれるかと思ったが、竜次先生がアルさんを連れて

奥の部屋に向かって行った。


「楓、千夏さんは?」


「先程連絡をいれました。仙蔵さんの自宅にいらっしゃいます。」


内容もろくに伝えず指示通りに従ってくれた楓に礼を言って、全員で影に沈む。

ほんの一瞬暗闇が目の前に広がると、すぐさま見慣れた書斎が視界に写る。


「・・お疲れ様です。」


俺達を待っていた千夏さんとちーさんゆーさん。そして謙太郎さんと伊達さん、藤野さん。


「おっ、主役の登場やな。」


いつものメンバーに加えてなんと雑賀さんが出迎えてくれた。


「おや?ここにいてはいかん奴がおるようじゃな。」


「アンタに払った授業料の対価が振り込まれてないからな。請求しに来たっちゅう訳や。」


ここにいてはいけないはずの雑賀さんがいる事を、出てきた青さんが指摘するが

ひらりと難なく躱される。

その姿を見た青さんは鼻を鳴らしながらそっぽを向くが、本当にいてほしくないのであれば

何も言わずに実力で排除するはずだ。

恐らくこの返答も想定内。かなり不器用だが、青さんなりに歓迎しているのだろう。


「江ノ島の一件の報告で何かあったのですか?」


「いえ、そちらは何事も無く終えました。

ですが・・・その後に色々とありましてね。全体に共有をしなければなりませんが・・・。」


だが俺としてはあまり歓迎できない。

あの一件を見てしまったことで俺の戦いに足を片方踏み入れてしまったが、

今ならまだ逃れられる。


「・・いいんですか?」


「ええよ。ある程度やけど、君の一族の事を調べさせてもらった。

ああ、別に君の家に忍び込んだわけやないで?うちも、”闇に生きてきた一族”やからな。」


俺の心配をよそに、雑賀さんは飄々と返事を返す。

そして・・・俺や賀茂忠行と同じく闇に生きてきたと言い放った。


「君の魔帯刀。あれは俺らが作った武器や。掘られている銘がそう言っとる。

雑賀家は戦国時代、いち早く火縄銃を取り入れ傭兵として戦ってきた。

安土桃山、そして江戸時代と世が平和に近づいていくにつれ、その役割を失った。

やけど・・・戦なんぞ表に出ないだけで数えきれないほど起きてきた。

傭兵一家として隠密に兵を派遣する傍ら、闇に潜む武器商人へと姿を変えて

これまで生き残ってきたんや。」


「だからあのような錫杖を・・・。」


「あれがあってよかったやろ?俺が片手間で作った紛いもんやけどな。」


雑賀さんと話している最中、どこからか風を感じ取り辺りを見渡すと

隠されている地下への扉がむき出しになっており、ほんの少しだけ開かれ

隙間風が通っている事に気が付く。


「お前さんに協力する代わりに、ちょっとばかり地下を見させてもらったわ。

当然、あの本には目を通してないで?」


そしてゆーさんの方を向いて手のひらを差し出すと、

不機嫌そうな表情を浮かべながら札から取りだした銃を雑賀さんに向けて放り投げた。


「なかなかの上物。素人さんが必死になって作ったにしては上出来や。」


「それ以上家族を侮辱すると、ぶっぱなすよ。」


「おお怖い怖い。いや、別に悪く言った訳ちゃうで?

拳銃、小銃、散弾銃。部品を見ると世界を渡りながら作り上げた努力が

ひしひしと伝わってくるわ。

やけど・・・だからこそ、改良の余地は十分にある。

新たな武術として武道省に認めさせた魔銃を作り上げた俺なら・・・な。」


語っていた雑賀さんに向けてイラつきながらゆーさんは答えを急かす。

まあまあそういうなと言いかけたが、家族の努力を自らの技術が上回ると宣言した

雑賀さんに向けて敵意を向けており、出しかけた言葉を急いで引っ込めた雑賀さんは

俺に向かって言い放った。


「俺も仲間に入れてくれへんか?後悔はさせへんよ?」


「それはありがたいですが・・・一度こちら側に来てしまえば命の保証は出来ませんよ?」


「確かにそうやけど・・・命をかけるほどの見返りがある。

あれほどの化け物の相手をするなら、それなりの得物がいるやろ?」


「俺は今の得物でも・・・。」


母さんが残してくれた刀。入れた式神の力によって刀身が変わる刀があれば奴らとも戦える。

そう答えた俺を見て、片方の口角を上げて周りを見渡した。


「君はそうやろな。でも・・・そこにいる仲間達はどうやろな?

才能を持った奴らが集まっているが、君みたいに戦える奴はどれくらいいるんやろなぁ。」


武器とは握った者の力を何倍も増幅させる。

質が高ければ高いほど、その倍率も上がっていく。


「・・貴方がいれば、もっと楽に戦えるという事ですか?」


「それをついさっき説明したつもりやけどな。」


ここまで生き残ってきた実力はあると自負はある。

それは共に戦ってきた仲間達も同じ、それ相応の実力をつけてきた。

その実力を倍増させてくれる得物を作ってくれるのなら・・・断る理由はない。


「・・・・良いでしょう。」


実力は十分。謙太郎さんと互角に戦ってことが証明している。

そして武器を提供してくれるのなら仲間として迎え入れたい。


「良い判断や。しっかり稼がせてもらうで。」


差し出した手を握り返してくる。

この胡散臭さがなければ・・・もっと歓迎できたことだろう。


「では・・・お話しします。」


皇太子様との話し合いで決まったことを全体に共有する。


「————————という事なんです。」


「なかなか・・・面白いことを話していたんだね。」


「ええ。お願いされた二つの策、せっかく作り上げてくれた星空の初陣を、

勝利という形で収めたいと考えています。」


語る最中、質問を交えながら理解を深めていくが誰一人として

二つの策について反対する者はいなかった。


「支え合う二つの策ですか・・・。私達も交流試合の見学は出来ますので

龍穂君の力になれそうですね。」


「怪しい人物を見つけろと言われていますが、選抜されたメンバーの戦いを

見守る役目もあります。空気を使って全体の行動を見る事も出来ますが、

試合前に消耗して負けてしまうのは東京校の寮長として許されない。

千夏さんのおっしゃる通り、力を貸していただきたいです。」


既に仕掛けられている八海捜査の一件を無駄にしないためには

交流試合での動きを明確にしなければならない。


「龍穂があんまり周りを見れないっちゅうことは・・・私らは試合に出ない方がええな。」


俺が出した不安点を解消するために、純恋が一つの提案を出してくる。


「いいのか?京都校の奴らに成長した姿を見せる絶好の機会だぞ?」


「あいつらにそんな愛着も無いし、憎しみもないで。

あるとしてたら憐みぐらいやけど・・・”あいつ”にそんなもんが通用するわけないからな。」


純恋の口から出てきたあいつという言葉。

それが一体誰の事を指しているのか尋ねるが、当日に教えると言われ聞き出せない。


「龍穂の活躍を知っとるっちゅうことは、同じ陰陽師の私達の事も知っていると思う。

それに二年生の活躍の場を作るのが目的やろ?

純恋の言う通り特別出たい訳やないし、今回は護衛に専念させてもらうわ。」


「そう言ってくれると助かるよ。」


まだこのことを後輩達に話してはいないが喜び、そして気合いが入るはずだ。

特に木下は絶対に結果を出すと奮起するだろう。

俺は寮長なので必ず出なければならないが、純恋達が控えてくれるのなら選抜の幅が広がる。


「ひとまず・・メンバーの選抜は置いておこう。当日の動きは・・・・。」


敵の動きなどを想定した話し合いは続いていく。

ここに来る前の竜次先生の言葉などとうに忘れ、この後説教を喰らったのは当然の結果だった。


—————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


「準備は出来ているか?」


交流試合当日。気合いの入った面々に対し、声をかける。


「木下。先鋒、頼むぞ。」


自らの力を証明するため、準備を怠らずに行ってきた木下を先鋒に決めるのには

時間がかからなかった。

待ちに待った交流試合を迎え、緊張していないかと肩に手を置くが

力が入っておらず、リラックスしながら会場を見つめる。


「気合い入れてけ!!」


今日一日、俺の護衛を務めてくれる純恋が会場に歩いていく木下に向けて声をかけると

こちらを向くことなく片手だけを上げて応える。

会場は三道省の職員、惟神高校、そして皇學館大學の生徒達で埋め尽くされていた。


「・・これより、国學館交流試合を行います。」


スピーカーから聞こえてきた毛利先生の宣言によって交流試合が始まる。

試合はもちろん、俺達星空にはやるべきことがある。

俺に向かってくる視線、そして全員が醸し出している様々な緊張感の中、

国學館交流試合が始まった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ