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第二百四十一話 組織名 星空

「な・・なんで八海の捜索を・・・?」


話しの意図が分からず、困惑しつつも皇太子様に尋ねる。

一体なぜ八海が捜索を受け、うちが捜査されなければならないのだろうか?


「これには深い訳があるが・・・ひとまずだ。

土方君、公安課が行った達川の詳細な操作報告を龍穂に聞かせてやってほしい。」


その答えを土方さんに求めると、ため息をつきながら資料に目を通し口を開く。


「達川が魔道省に出入りしていたことは聞いているな?

魔道省防衛課課長と接触している事が分かったんだが・・・それ以外にも多くの情報を得た。

京極涼音の両親のもとで働いていた事。彼らが亡くなったとされる八海に多く足を踏み入れた事。

そして・・・とある時期を境にまるで避ける様に一切八海に近寄らなかった事。

何があったのか分からないが・・・今回の一件が公になったことで達川の事を深く調べなければ

公安課としての筋が通らない。

それに何も動かなければ他の課がこの件を嗅ぎつけ八海を調べる可能性もある。


もしそうなれば大きなダメージを受けている八海をさらに荒される可能性もあり、

千仞の侵入も許してしまうだろう。

この捜査は我々の信頼関係を強固にし、そして千仞のメンバーを削る事が目的だ。

君からすれば不可解で不快な操作かもしれないが、決して後ろ向きではなく

前に進むためだと思って受け入れてほしい。」


まさか達川さんが八海を訪れているなんて知らなかった。

しかも涼音の両親の元で働いていたとなるとその死因に関わる何かを調べるために

八海に訪れていた可能性は高い。

土方さんの言う通り、この件を放置しておけば大きな隙となり千仞に突かれてしまう。


「分かりましたけど・・・でもこれが交流試合とどう繋がるんですか?」


「奴らの狙いである龍穂は八海上杉家の人間だ。

現在は祈祷課課長から副長官になった訳だが・・・その座に付いた理由には

土御門泰国との戦いで君が活躍したという事も含まれている。

そんな君の後ろ盾の一つである八海上杉家が公安課からの捜査を受けているという事は

周りからしてみれば龍穂への支援が難しい状況であり、何かしら仕掛ける絶好の好機だと見えるはずだ。

そんな中、龍穂に近づく絶好の機会である交流試合があるとなれば・・・

どうなるか分かるだろう?」


そうか。周りからしてみれば俺との接触自体が不自然な動きと言える。

大義名分がある交流試合であれば、何も気にすることなく近づき、声をかける事も出来る。


「この一連の捜査は大きな釣り針という事ですか・・・。」


「そうだ。全ては奴らの戦力を削ぐため。それに・・・八海捜索には別の意図も含まれている。」


そう言うと皇太子様は涼音に視線を移す。


「達川が行っていた八海の一件。これには・・・

千仞の幹部が関わっているという報告ももらっている。」


「千仞の・・・幹部・・・・。」


「そいつが何か掴んだのかは分からない。だが、状況によってはそいつも八海の情報を掴むために

その場に来るはずだ。龍穂を含め、ここにいるメンバーで最強を布陣を組む。

初めてじゃないか?こちらから仕掛けられるのは。」


これだけ念密にこちらから仕掛けるのは確かに初めてだ。

こうなった理由としてはやはり公安という味方が増えたことが大きい。

そう考えると、この人達からの信頼は何としてでも勝ち取らなければならない。


「・・とはいってもです。そいつが八海で得られる情報を全て持っていたら来ることはない。

それにこちらに動きを逆手に取られて逆に何かを仕掛けられることも考えられる。

交流試合を含め、これから起こることに対して全て対応する心持で行かないと

やられるのは俺達ですよ。」


事が大きく進め始め、やる気に満ちている所を見て竜次先生が釘を刺す。

空気が読めない発言に聞こえるが、この人達は賀茂忠行と何年も戦い続けてきた人だ。

希望を抱き、生まれる油断がどれだけ自らの首を絞めるのか身に染みている。


「分かっている。だからこそ君をここに呼んだんだ。

服部の息子が何故あそこにいたのかなど、分かっていないことも多い。

だからこそ教師として龍穂達をカバーできる立ち位置にいる君達が重要になってくる。」


「・・良い流れを所で口を挟んで申し訳ありませんが、

そちらに関しても情報が上がっています。ぜひ、みなさんに聞いていただきたいのですが

よろしいでしょうか?」


服部蓮が江ノ島にいたことは俺達も知っている。

戦いに参加していなかった所を見るに、何かを探していたのだろう。

実力は劣っているとはいえ今回の実朝の一件もある。強敵として姿を変え襲われるかもしれないと

毛利先生の言葉に全員が頷いた。


「江ノ島に入った我々は彼らを八坂神社で発見し、戦闘を行うことなく逃がしました。

混乱に乗じてその場で排除するべきかと考えましたが、未熟な彼らは我々にとって

貴重な情報源になり得ると判断した上での行動です。

総本山でもない神社を調べていた理由についてを業の部隊に調べさせましたが、

彼らの行動、そして実朝との戦いを踏まえて一つの結論にたどり着きました。」


「ふむ・・・。敵とはいえ、若者を排除する選択が出てきたことはいただけないが・・・

続きを聞こう。」


「彼らは他の名のある神社にも姿を現していたと報告を受けました。

それらの神社には共通点があり、”過去の偉人”を奉っている神社に多く出没していたと。

このことから彼らはこの世に未練のある亡霊を探し、実朝の様にクトゥルフの神々の力を

与える事で強力な味方を作り出そうと考えている様です。」


偉人が亡くなった後、その功績を称えて神として奉る神社も存在する。

だが全てがそう言うわけではない。実朝の様に悪霊として現世に留まるほど強い怨念を持ち、

災害を起こすほどの強力な力を抑えるために神として奉った神社も存在する。

実朝でも苦戦したのにそのような強力な悪霊が力を持ったとなると手も足も出ないだろう。


「それは厄介だな・・・。」


「これらの報告は神道省長官と副長官の耳に入れています。

ですが、そのお二人はかなり忙しくされている。なので実質的にはそこにいらっしゃる

定明さんにこの一件をお任せしています。」


「・・彼は確かに優秀だが、まだ皇學館大學の学生だ。

国を左右する重要な案件を任せるには荷が重いのでは・・・。」


皇太子様は心配の目を定兄に向ける。

神社の管理などは神道省の祈祷課が引き受ける事になっているが

副長官の座に座った親父は後釜は未だ決まっておらず、対応する人物がいない状況だ。


「ご安心を。学業につきましては事情を説明して休学させてもらっています。

それに・・・俺は八海上杉家を継がなければならない。

父から優秀な部下をつけていただいていますし、十分に対応は可能です。」


定兄が休学をしていたなんて初めて聞いたが、確かにそれぐらいしなければ

あれだけの仕事量をこなすことはできない。

それらをこなし、自信をつけた定兄は胸を張ってこたえるが、それでも

皇太子様は心配そうな表情を崩さない。


「そうか・・・。だがこれは失敗が許されない一件だ。

先程竜次君が言った通り、全てにおいて準備をしなければ隙を突かれる。

伊達に援助の指示を送ろう。信頼できる彼女であれば完璧なフォローをしてくれるはずだ。」


親父がこのまま副長官の座に座ればその後釜は血のつながっている定兄になる。

この一件を成功させ、さらなる自信をつけさせるためにも伊達様に支援を要請するつもりだ。

確かにあの人であれば決して裏切ることはないだろう。

強力な援護をもらった定兄は、その身にかかっている重圧が少しばかり軽くなったことに

安堵したのかゆっくりと息を吐き返事を返した。


「さて・・・各々やるべきことが定まったな。

ここからは日ノ本のために共に歩むわけだが・・・一つだけ、言わせてほしい。」


大体の話し合いの区切りがついた所で、皇太子様が手を叩いて口を開く。


「我々は一度、賀茂一族に対して支援を行う機会があった。

江戸時代だったこともあり、知識も乏しく支援を行わなかったツケが

この状況を引き起こしたと俺は考えている。」


これは恐らく阿部忠秋が発見した賀茂家の子孫についての事だろう。

文吉と呼ばれた人物に対し、報酬を約束したが十分な支援を行える状況ではなかったはずだ。


「そのツケを龍穂、君に償おうと思っている。

君が賀茂忠行に勝利し、神道省長官の座に付くためならどんな支援も行おう。

そしてそのための組織を、今ここで結成したい。」


ここまでの被害になったことを悔やみ、俺への支援をするために

正式な組織を結成しようと言い放つ皇太子様に対し誰一人として反論する者はいなかった。


「・・この沈黙、そして視線は合意と見ていいな?

俺の身分や君達から考えて、龍穂の任務報告などの大義名分がなければ

怪しまれることなく集まれないが・・・それはなんとかしよう。

人数を集めている千仞に対抗して、我々も組織を大きくすれば奴らに勝利を収められるはずだ。」


声は穏やかだが、手に力を込めて力説する皇太子様。

兼兄や白など、支援をしてくれる人達は多くいたがこれだけ頼りになる人はいないだろう。


「承知した。ですが、組織として動くためには名前が必要です。

この場にいるメンバーを繋ぐためのそれ相応の名があれば自然と結束するでしょう。」


名の無い組織はいずれ自然消滅する。

そう語る竜次先生に対し、食い気味で言葉を返す。


「決めてある!これで・・・どうだろうか!」


卓上に出された紙にはとんでもなく達筆に書かれた二文字があり、

よく見るとそこには星空と書かれていた。


星空せいこうだ!奴らが深い海に潜むのなら、我らは天高き場所で全てを見通し迎え撃つ!

千仞に対抗する組織の名としては十分だろう?」


深き海を示す千仞。それに対抗する名としては確かにふさわしい。


「この場の宣言だけで作り上げれるほど組織というのは単純ではないという事は分かっている!

だからこそ、この名を忘れずにこれから行動してほしい!」


熱い言葉、そして視線を俺達に向けて言い放つ皇太子様。

皇の血を引くだけあって、高い統率力も備えている。


「この場を持って!星空の結成を宣言する!

以後我らは同士であり!!命を預ける家族だと思って行動してくれ!!」


千仞に対抗する組織である星空の結成が宣言された。

頼りになる仲間達を前にして、焚きつけられた心の炎は俺を胸を熱く燃やした。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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