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第二百三十九話 江ノ島のその後

「ふぅ・・・・。」


歩き慣れない廊下を歩きながら大きくため息をつく。


「お疲れさん。」


一緒に付いてきてくれた桃子が労いの言葉を掛けてくれた。


「任務達成報告なんて始めてきたけど・・・緊張するもんだな。」


江ノ島の実朝襲撃事件。綱秀が実朝を倒してくれた後、沖田が呼んだ公安課の職員が

事件の詳細や事後処理を行ってくれた。

色々質問されたが関わっているのが千仞であるためどう答えればいいのか戸惑っていると

遅れてきた土方さんが間に入ってくれて治療を受けるためにその場を後にした。


「別に何も緊張することないだろ。ただ何が起きたか説明するだけじゃねぇか。」


「そうは言ってもな・・・。」


主犯の討伐を行った綱秀と涼音も呼ばれ、共に報告を行ったが

綱秀は動揺する素振りすら見せずに堂々と報告を行っていた。


「お前の親父に報告するのになんでそんなに緊張するんだよ。」


武道省公安課が発行した任務を受けたはずなのに報告先は何故か神道省副長官である親父。

一応その隣には近藤さんの姿はあったが本来であれば発行先である公安課、ひいては

武道省に報告を入れるのが筋なのではないだろうか?


「いつも違う姿を見ると変に緊張してな・・・。」


三道省合同会議の時もそうだったが、いつもと違う働いている親父の姿を見ると

緊張してしまう。ずっと八海にいたのもあるが親父の役職の重さを改めて実感する。

それに近藤さんと親父が醸し出している異様の雰囲気。

公安課という立場がそうさせているのか、険悪に感じた。


(なんかあったのか・・・?)


あの二人は決して人当たりは悪くない。俺がいない間に一体何があったというのだろうか。


「まあまあ、終わった事なんやからあんま考えても・・・。」


悩む俺の心情を察したのか、桃子が声をかけてくれるが途中で不自然に途切れる。

どうしたのかと桃子の顔を見ると、何かに気が付いたように一点を見つめている。

会いたくない人を見つけたのかと見つめる方向に視線を向けると、

そこには至る所に包帯を巻いている沖田が壁に寄りかかりながら俺達の方を見つめていた。


「・・お疲れ様です。」


気が付いた俺を見て沖田がこちらへ歩いてくる。

神道省に武道省の人間である沖田が一人でいる理由。近藤さんの護衛を頼まれていたのだろうか?


「お、おう。」


「私がここにいる事に驚いているみたいですね。」


驚きを隠せない俺を顔を見て口を開く。


「近藤さんの護衛か?」


「いえ、あなた方を待っていたんですよ。」


近藤さんの護衛ではなく、俺達に用があったようだがそんな理由でよくここに

入ってこれたなと沖田に尋ねると着いて来てくれと小さく呟きながら歩き始めた。


「・・本当はここに入れた理由をすぐにでもお話ししたい所ですが・・・。」


沖田は目線だけで辺りを見渡す。何を警戒しているのかと同じように辺りを見渡すと

すれ違う職員達の視線が俺達に集まっている。

これまでの経緯を考えるとあれだけの騒ぎを解決してきた陰陽師が顔を出したと

多少は注目を受けるだろうと思っていたが、俺に向けられるいくつかの視線には

僅かだが殺気が込められていることに気が付く。


「・・俺は嫌われているみたいだな。」


「そうではありません。これから向かう場所で説明をしますので耐えてください。」


今まで一切顔を見せなかったが気に食わない人もいるだろうと

殺気を放つ視線を受け入れようとしたがすぐさま沖田が否定し足を早める。


「こちらです。」


連れてこられたのは以前の三道省合同会議の後に兼兄や皇と出会った部屋の前。

沖田が軽くノックをした後、戸を開くとそこには様々な顔ぶれがテーブルを囲んで座っていた。


「ご苦労。武術師である君に龍穂達の迎えを頼んですまなかったね。」


「いえ、とんでもございません。」


その中でも一番奥に腰を掛けている男、皇太子様が沖田に労いの言葉をかける。

他には毛利先生、土方さん、竜次さん、綱秀の親父さん、そして定兄の姿があり一体

どういう繋がりの集まりなのか分からず戸惑っていると定兄が声をかけてくる。


「龍穂、とりあえず座れ。」


何時になく真剣な表情と声色で隣に敷かれている座布団を叩いて催促して来る。

異様な雰囲気に座っている人たちの顔色を伺いながらついてきたみんなと共に腰を掛けた。


「さて・・・全員集まったな。」


「すみません・・・。これはどういう集まり何ですか・・・?」


何も知らされずここに来て何もわからない俺は一体何が始まるのかと

場を仕切っている皇太子様に尋ねる。


「まあ、そう言う反応になるのは分かる。龍穂達には事前に何も伝えていないからな。

だが・・・これくらいしないとこの場にいる全員が集まれる状況じゃないことも

理解してほしい。」


「集まれない・・・ですか?」


土方さんを除いた全員が国學館に所属しており、土方さんを学校に呼べば同じ状況は

すぐにでも作り上げられる。

皇太子様の言った意味が分からず、首を傾げているとそれを見た毛利先生が口を開いた。


「校長先生。それだけではさすがの龍穂君も事態を理解しかねます。

今は話しを進める事が先決かと。」


確かにそうだなと呟いた皇太子様は咳払いをする。


「まずは先日の事件、よくぞ対応しきってくれた。

ここに集まってもらったのは・・・先日の江ノ島での事件の詳細を

業と公安から君達に伝えてもらうためだ。

そしてその結果を受け、君達には二つばかりお願いしたいことがある。」


江ノ島の詳細は報告した時に聞けると踏んでいたが、親父達は無駄なことは一切語ることは

無かった。皇太子様がこうして説明する場を用意してくれている事を知っていたんだ。


「さて、では早速行こうか。まずは・・・公安から頼む。」


無駄な会話は最低限だと土方さんに説明を求める。

テーブルに置かれた資料を手に持つと土方さんは江ノ島の事後処理について語り始めた。


「はい。公安としては江ノ島で起きた被害報告とその後の処理について説明させていただきます。

部隊木星の戦闘被害など細かくありますが、大きな被害は二つ。主に森林における火災被害と

敵が移動に使ったとされる地中に空いた穴が引き起こす地盤問題。

火災については魔道省に支援を要請し、魔術によって事件前同様の状況に戻っています。

地盤問題については現在も対応中ですが、支援をいただいた神道省からは

順調に解決に向かっています。」


実朝の配下達によって離れた触れられない炎による火災。

俺達には対処できなかったが、業や白が何とか触れられる手段を見つけてくれて

被害は最低限に収められていた。

そしてあの巨体で江ノ島を動き回っていた実朝が作り出した地中の大穴。

俺が作り上げた足枷も被害を大きくした要因の一つだがここは黙っておこう。


「そうか。では江ノ島に日常が戻る日は近いという事だな?」


「そう言いたい所ですが・・・今回の事件の全てを公表されない事態を受け

そうだと大きく首を縦に振ることは出来ません。

こちらとしては江ノ島に住む住民の方々にもご協力していただいたこともあり、

以前のような日常を送れるような援助を行っていきますが・・・何しろ業案件が絡んでいる。

どうあがいても表に出せない情報があり、それらは島民や観光客の方々に不安を与える。

以前のような日常をすぐに取り戻すのは難しいのが現状です。」


江ノ島の被害はかなり大きく、姿は戻っても前のような活気が戻ることは難しいと

土方さんは語る。


「そうか・・・。江ノ島の島民は間違いなく被害者。

今回の任務の発行元は公安課だ。表に出せない情報があった上で不安を取り除けるように

手を尽くしてほしい。」


「承知いたしました。」


任務の発行責任を最後まで全うすると言ってくれる土方さんから思わず視線を逸らしてしまう。

襲撃を受けたとはいえ、賀茂忠行が関わっているという事実は俺の胸に罪悪感が突きささった。


「では次、業から話しを聞こう。」


「よろしいですが・・・一応お伺いします。

今からする話を聞けば、あなた方も闇に体をつける事になる。

日ノ本に長年蔓延る闇に底は無い。抜け出すことも不可能。それでもよろしいのですか?」


俺の使命に関わってしまえば賀茂忠行から追われることになる。

今回の件で公安も関わっているものの、まだ抜け出すことはできると毛利先生は語るが

何も問題はないと一切迷いのない返事が返ってきた。


「・・分かりました。では・・・。」


手元にある資料を持ち、毛利先生は口を開く。


「今回、我々業が担当した事後処理は実朝、ひいてはシュド=メルの遺体の処理。

決して表に出せないクトゥルフの神々の遺体は厳密な保管が必要なので担当いたしました。」


「何か有益な情報は取れたか?」


「・・単刀直入に言いますと”何も得る事が出来ませんでした”。

その原因としては遺体の状態にあります。」


そう言うと毛利先生は一枚の写真を取り出し卓上へ置く。


「龍穂君達が実朝の討伐に成功し、五分と満たずに我々が現場に到着。

状態を確認しようと遺体に触れた瞬間このようにして体が灰の様に崩れてしまいました。」


写真には綱秀が止めを刺した実朝の姿があったが、そこには体の一部が

手形の様に崩れている光景が映し出されていた。


「ふむ・・・。」


「恐らく遺体から情報を取られないようにするための策なのでしょう。

敗北が分かった瞬間に何かしらの手を使ってシュド=メルを力を引き抜いたのでしょう。」


「・・そんなことが本当に可能なのか?」


毛利先生の話しを聞いた土方さんは不可解だという表情を浮かべているが

ここまで戦ってきた俺達は毛利先生の話しが本当だという場面に直面している。

泰兄との戦いを繰り広げたショッピングモールでハイドラや陀金の最後が

今回と似たような状況だった。


「可能です。それを証明するために調査を続けていましたが・・・

あまりよろしくない結果が出てきました。」


不穏な言葉を言い放った毛利先生は新たに資料を卓上に置く。

細かい文字で書かれており、その全容を確認しようと凝視していると

衝撃的な言葉が耳に入ってきた。


「細かい説明は省き、結果から言いましょう。

悪霊、実朝の討伐は達成されましたが、シュド=メルは逃してしまいました。

今までもこのような事はありましたが、今回の一件は日ノ本を滅ぼす可能性を生むような

異質で危険な技術を奴らが生んだことを示しています。」


毛利先生からの言葉は強い緊張感を俺達に与えてくる。

今の言葉が一体どういう意味なのか、俺達その答えを聞くために口を開かずに

ただただ次の言葉を待った。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

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