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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第二幕 近くに潜んでいた闇
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第二百三十二話 花の名を関した刀

楓から伝えられた朗報。


「いいぞ・・・。」


俺からちーさん達への指示。

いや、指示というよりかはお願いに近かったが、二人は自分たちの嗅覚を利用できる

環境を見事に作り上げた。


「何があったんや?」


「計画通り、ちーさん達が奴に匂い付けをした。これで俺でなくとも

実朝の位置を把握できる。

それに・・・綱秀のおかげで弁財天の力を抑えられたらしい。」


こっちに関しては完全に想定外。

弁財天の力のおかげでこちらに位置がバレる事を受け入れて立ち回るつもりでいたが、

綱秀と五頭龍のおかげでかなり有利な状況に持ち込めた。


「やったやん。これならいけるんちゃう?」


「いや、陽動をしてくれた謙太郎さんの魔力が底をついた。

離脱させるために伊達さんと藤野さんも一時離脱。痛いな・・・。」


奴への有効打を持つ謙太郎さんの離脱はかなり痛い。

代わりになれる人物はおらず、現場にいる人達にとってかなり負担がかかる。


「奴の位置を特定できるのなら、私達がここにいる意味はありません。

援護に向かいますか?」


沖田から手薄になった味方への援護を進言されるが、俺は首を横に振る。


「まだここで良い。離れた位置からでもやれることはあるからな。」


沖田としては少しでも成果を上げたい所だろうが、俺達が戦場へ行けば

奴は再び姿を隠すかもしれない。

俺の役目である奴の逃げ場を無くすことが最優先であるためここから離れる事は出来ない。


「ですがそれでは・・・。」


「安心しろ。青さんがいる。」


謙太郎さんが抜けた穴は青さんが埋めてくれるだろう。

奴は木々を倒して回っていたが、青さんにかかればそれさえうまく利用して

立ち回ってくれるはずだ。


「そんなことより・・・。」


奴を逃げ場を無くすため島の空気を辿り、奴の尻尾を辿る。

資料によれば奴の全長はあまりに長く、表に出ているのはほんの一部分なはず。

奴の位置を把握するためにリソースを割く必要がなくなり、

体全てを把握するために使う事が出来るがまるで世界の果てまで続いているかのように

果てが見えてこない。


(こりゃ・・・きりがないな。)


資料通り、奴の全長は果てしなく長い。

だが中途半端に策を仕掛ければ江ノ島に大変な被害が出てしまうだろう。


(どこまで狙うかだけど・・・。)


こういう時、近くに千夏さんがいてくれれば思って仕方がない。

俺と共に資料を見ていた千夏さんであれば適切なアドバイスをくれただろう。

だがそんなことを言っている暇はない。綱秀達のためにいち早く奴の逃げ場を無くし

早く戦場に向かわなければならないのだから。


「・・・・・・捕まえた。」


追って、さらに追ってやっと見つけた奴の尻尾。

人類が到達したことがあるのか分からないほどの深さまで探知した結果

細くなっている奴の尾の先端を見つける事が出来た。

後はここに策を仕掛けるだけ。

だがこれだけ離れた距離で俺の魔術は一体効果を表すのか不安になるが

そんなことは言ってられない。


「・・岩の足枷クラスト・シャックルズ。」


風の魔術ばかりに頼ってはいけないと、千夏さんから教えてもらった土の魔術。

俺にはどうやらその発展形である岩の魔術の才能があったようで

地中深くに埋まる岩を動かし奴の尻尾に括りつける。


(まだまだ・・・!!!)


これで奴は多少は動けなくなったが、まだ上の部分が自由であり逃げ場を無くしたとは言えない。

距離は離れているがここまでくれば護国の力は働かず、地上に繋がる奴の胴に次々と

足枷をつけていく。

奴が移動してきた穴に引っかかるようにつけた足枷は、徐々に奴の動きを阻害していく。

そして地上に向かっていくにつれ、地上に潜る事さえ難しくなっていくだろう。


「・・・ん!?」


だが実朝も黙ってはいない。

ただ足枷をはめられるわけにはいかないと、体をくねらせ足枷を破壊しようと試み始める。

固い地中に岩の足枷をこすりつけるために暴れるが俺が作り上げた岩はそんなに軟じゃない。


(あわてるな・・・。)


うねる胴に慣れない岩の魔術を使って足枷を作り上げていく。

体に岩で拘束されていくと、地中に岩が引っかかりうねる事さえ出来なくなっていく。

そして奴が地中に潜ったとしても、隠れられないほどの枷を作り上げる事が出来た。


「なんとか・・・なったな・・・・。」


慣れない岩の魔術と空気の魔術を使った合わせ技。

しかし行き当たりばったりでうまく言ったものだ。

自分で言うのもなんだが、俺でなければできない芸当だろう。


「何とかって・・・実朝を捕まえでもしたんか?」


「捕まえてはいないけど・・・ひとまずこれで遠くに逃げたり地中に潜られたりすることはない。

これでやっと・・・立ち回れる。」


優位をとっても逃げられることが無くなった。

ここまでしてやっと、実朝に余念なく攻勢を仕掛けられる。


「ってことは・・・向かうんやな。」


俺を待っていてくれた純恋と桃子、沖田は準備万端でこちらを見つめる。


「どうする?すぐに神融和をするか?」


そして八咫烏様が真実の目を使うかと尋ねてくるが、まだその時ではないと首を横に振った。

以前、真実の目を使っても勝利の道筋が見えてこないことがあったはず。

攻勢を仕掛けられる状態になっただけで、奴を追い詰めているとは程遠い状態では

真実の目が働いてくれるとは限らない。


「まだ使い所ではないと思っています。

それに・・・奴には俺の恐ろしさを味合わせないといけない。」


俺が未熟であったため、イタカはひどく傷つき札の中で傷を癒している。

ここまで戦いの主導権を握られたのは奴が俺を舐めているからであり、

完璧な勝利を叩きつけるためには恐怖を植え付けるような立ち回りで

奴の心を支配しなければならない。


「なので・・・こちらに入っていただけませんか?」


それには有効な攻撃手段を多く持たないとならない。

八咫烏様の力が必要だと六華を取り出す。


「・・待て。」


封神刀の中に入ってもらおうとしたその時、傷を負っていたはずのイタカが飛び出してきた。


「イタカ・・大丈夫なのか?」


「傷は深いが・・・出てくることぐらいはできる。

それよりだ。六華について少し話しておくことがある。」


母親の形見である六華。イタカを封じ込めていた封神刀であり、とんでもない切れ味を誇る。

だがそれ以外の情報は無く、あまり調べもしなかった。


「この刀が・・何かあるのか?」


「本来、この刀に名前は無い。無銘の封神刀だった。」


「・・・?でも、親父はこの刀を六華って言ってたぞ?」


「それは俺が入っていたからだ。お前の母親は刀に神を封じ、刀身が姿を変えるたびに

名前を付けていた。主に花にまつわる名をな。」


花・・・。六華と言えば雪の結晶が花の様だと付けられた名であり

確かに花に関連した名だ。

イタカの言いかたからすれば、母親は複数の式神と契約しており

状況に応じて使い分けていた様だ。


「だから・・・お前も名付けろ。この刀に。」


イタカは刀に手を添えて呟く。

永く生きる神に取って先祖代々の仕来りなど存在せず、宇宙の神であるイタカからすれば

本来あまり意識をすることがない風習のはずだ。


少し悲し気なイタカの表情を見て、何故あのような状態で実家に残されていたのか気にかかる。

青さんの様に俺の体に封じておいてもよかったはず。

だがあえて刀に封じていたのか。きっと意味がある。

その意味がイタカにこのような表情を浮かべさせているのだろう。


「・・分かった。」


そんなイタカの申し出あれば、断る理由は無いと了承する。

その姿を見た八咫烏様は俺が持っている六華の刀身に向かって飛び立つと

刀に向かって勢いよく飛び込んで来た。


「うわっ・・・・!」


吸い込まれるように八咫烏様と一体となった刀。

刀身が眩く光り、まともに直視する事さえ出来ないほどだ。

流石太陽神に仕える神。これであれば実朝の固い皮膚に傷を与えられるだろう。


「太陽の・・花・・・。」


この刀に名前を付けなければならないが、真っ先に思いつくのは夏に割く向日葵だ。

だがそれでは少し安直だと思い、別の名を考えるが花には疎く、いい名前が浮かばない。


「・・・・・・・・・あっ。」


太陽に似た花を探していると、母さんが手入れをしていた花壇の中に

綺麗な花があったことを思い出す。

まだ肌寒い季節なのに黄色の花びらをいっぱいに咲かせていた花は親父が見せてくれた

両親の墓石を囲んでいた。


「・・金盞花きんせんか。」


あまりに綺麗に咲いているので母さんに名前を聞いた俺が知る数少ない花の名。

この光輝く刀身に付ける名としては丁度いい。


「金盞花か・・・。良い名だ。きっとあいつも喜ぶだろう。」


天を見上げ呟くと、傷ついたイタカは安堵した表情を浮かべながらふらふらとよろける。


「イタカ!?」


心配になり支えようとするが、すぐさま立ち直る。

だがかなり無茶をしていたようで限界が近い。


「これで最後だ。この刀の鞘は特別製でな。納刀すれば刀身に纏う力を隠す効果がある。

奴との戦いに備えしまっておけ。」


これだけの力を発していれば、辺りを警戒している実朝にすぐさま見つかってしまう。

それを隠して近づけるのはありがたい。

全ての説明を終え、イタカは札の中に帰っていく。

念を使わず、わざわざ表に出てきてまで話す内容だったのかと疑問に思うが

あの表情を見るに、俺が名づける光景を見たいがために出てきたのだと察する。


(・・・・・・・・。)


疑問を解けばすぐに新たな疑問が生まれる。知りたいことが多すぎるが

優先順位をつけ、一つずつ解き明かしていくしかない。


「・・行こうか。」


金盞花を鞘にしまい、準備をしてくれていた三人に向けて出発の掛け声をかける。

再び空気で戦場を見ると、合流した青さんと共に何とか戦ってくれている様だ。

奴との決着をつけるため、木々の中を駆けて行った。






ここまで読んでいただきありがとうございます!

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