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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第二幕 近くに潜んでいた闇
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第二百二十九話 八咫烏との不思議な信頼関係

「・・諦めたか。」


江ノ島のシンボルであるシーキャンドルの前に佇んでいる綱秀達に向かって

姿を現した実朝は呟く。


「それとも見捨てられたか。我らを裏切った一族にはお似合いの末路だな。」


辺りを入念に捜索し、味方が誰一人として近くに待機していないことを

把握しているからこその言葉であり、それを聞いた綱秀、そして豪雲は口を開くことはない。

何か策を用意してあるのなら、何かしら言い返してくると踏んでいた実朝だが

この光景を見てなお、この少人数で神と同化した自らに立ち向かおうとしているとは

思っておらず、その証拠として触手で逃げ道を囲むことはせずに辺りの捜索に当てていた。


「・・無駄口が多いな。」


目の前の綱秀達の行動の真意を測り損ねている実朝を見て、綱秀は言い放つ。


「何・・・?」


「何を考えているのか分からねぇが、そんな言葉で俺達が殺せると思ってんのか?

早くかかって来いよ。」


不自然なほどに待ち受けていた綱秀達を警戒し、石橋を叩いていたのにも関わらず

目の前にいる綱秀からの一言が実朝の癇に障ってしまう。

慎重に事を進めようとしていたが日ノ本の頂点に立っていたというプライド、

そして因縁のある北条家の小僧から放たれた安い挑発が実朝の頭を簡単に沸騰させた。


「・・いいだろう。」


辺りの捜索に使っていた触手を戻し、逃げ場を無くすように地面から綱秀達の周りに出す。


「そんなにあの世に行きたいのなら、すぐに殺してやる。」


今までの慎重さはどこに行ったのか。目の前のいる怨敵の命を奪うため、

それ以外何も考えずに大きな口を開き、触手と共に綱秀達に襲い掛かった。


「馬鹿が・・・。」


鋭い牙が迫り、得物を構えていた綱秀が怒りに身を任せていた実朝に向かって呟く。

そんな余裕ある姿を鋭い牙で地面ごとかみ砕いた実朝だったが、

口から伝わってきたのは綱秀達の肉や骨を噛み砕いた感触ではなく、

削り取った地面の土や岩のみだった。


待ち望んでいた結果が得られず、何が起きたのかと辺りを見渡すと

包囲していた触手の外へ駆けていく綱秀達の背が見える。


「クソが・・!!!」


一体何を使ってあの状況から抜け出したのか。

そんなことはどうでもいいとすぐに触手を向かわせ、今度こそあの憎き北条家の血肉を

味わうために巨大な胴をくねらせ綱秀達の背を追い始めた。


———————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


『かかりました。』


楓からの報告を受け、ちーさん達に指示を出す。


「かかりました。お願いします。」


「分かったよ~。」


煽りにかかった奴は頭が沸騰しており、かなり危険な状態だ。

姿を隠しながら戦うとはいえ、そんな戦場に向かうのに緊張感すらない返事が返ってくる。


「言ってくるけど・・・肝心なのは私達より龍穂の方だ。

アンタが失敗すれば状況はかなり悪くなる。しっかり”長”の務めを果たすんだよ。」


準備を整えた二人は大雨の中を駆けていく。

濡れた地面では水音が鳴り、近づけば敵にばれてしまうがそんな音さえかき消してしまうほどの

大雨の中では気にする必要はない。


「・・・・・・・・・・。」


奴はこの江ノ島を幕府へ変え、弁財天の力により護国の力を使いこの地を陣地に変えた。

幕府の中で行動する人間の動きなど把握するのは容易いはずだが

何故綱秀の周りの警戒をしていたのか。


「・・大丈夫なんですか?」


「・・・・・ああ。」


奴は一時的に護国の力を失っている。

護国の力というのは指定した場所に力を付与する術であり、結界術に属する。

結界内に効果を付与する術式を細かく言えば、張った結界内の神力に働きかけ

その効果を結界内に張り巡らせる術。

であるのなら、結界内の力を崩してしまえばいい。俺にはその力がある。


「・・暗黒空間あんこくくうかん。」


今までは魔術操作で一から空気を操作していたが、戦闘で使えないと判断し

簡易魔術で使用できるように新たに考えた魔術だが

時間が無い中作り上げたにしてはよくできている。

だが魔力消費量がかなり多く、長時間維持できない。

護国の力による魔力消費量の増量があるのかもしれないが、

改良の余地はまだあると思いつつ操作した空気の中で逃げ回る綱秀達の姿を捕えた。


「どんな状況や?」


影渡りを使い、戻ってきた純恋達が状況を尋ねてくる。


「無事釣れたよ。ちーさんや謙太郎さん達が対応に向かっている。」


大雨の中、複数の何かが大きく空気を割いて移動している。

位置からして謙太郎さん達、そしてそこから少し離れた所にも同じような二つの塊。

これはちーさん達であり、既に身をかがめて準備を整えている。


「そうか。私達も動くか?」


桃子はまだしも純恋の魔術は時間がかかってしまい、あまりの魔力量に

隠れてもすぐに見つかってしまい意味がない。


「まだだ。純恋達は俺が奴の逃げ場を無くしてから動いてもらう。」


だが桃子の突破力と純恋の破壊力を使わない手は無い。

奴に追い込む際に存分に力を発揮してもらうためにも今は無駄な力を使わずに

待機の指示を出した。


綱秀達を追っている実朝は謙太郎さん達が待つ地点にもうすぐ突入する。

もし追いつかれたとしても、楓の影渡りでこちらに戻ってこれるので二人が命を落とす

危険性は低い。


「・・龍穂。」


交戦のタイミング、そしてその様子を空気の流れて感じ取っていると

八咫烏様が話しかけてきた。


「なんですか?」


「先程はタイミングを失ったが・・・六華を取り出し続けておけ。

そして時が来たら、イタカではなく俺を中に入れるんだ。」


イタカではなく・・・八咫烏様を?


「見た所あの刀は中に込められた神の効果を刀身に放つことができる特殊な武具。

俺の力は陽の力。接近戦において、奴に有効打を与えられるはずだ。」


封神刀である六華は確かに封じられた神の力を刀身に出せる。

イタカであれば刀身に霜が降り、触れた敵を凍り付かせることが出来る。


「・・分かりました。」


俺が使う事が出来ない太陽の力。八咫烏様と共に戦えないことは痛いが

状況によっては六華に入ってもらい、太陽の斬撃を放った方がいいのかもしれない。


「それとだ・・・。その黄衣をまとわなくてもその魔術を維持できるか?」


八咫烏様の提案の意味を理解できず、思わず聞き返してしまう。


「少しであれば出来ると思いますが・・・どうしてですか?」


「このような入り組んだ危険な状況。

少しでも道を間違えれば死につながる状況に置いて俺の力が役に立つ。」


「俺の・・・力?」


「この目をお前に使わせてやろうと言っている。」


八咫烏様が持つ勝利への道筋が見える特殊な魔眼。

今のような危ない橋を渡っている状態であればさぞ役に立つだろう。


「それが出来たら誰も・・・。」


だが八咫烏様のような高位の神が持つ魔眼を俺が使えるはずがない。

そんな都合の良い話しは無いと言いかけるが、すぐさま純恋が口を挟む。


「分からないんか?神融和をしたるって言ってるんや。」


神融和・・・。確かに八咫烏様とは未だに神融和を行えていない。

その背景にはハスターとの神融和があまりにも使い勝手が良かった事。

そして純恋の面倒を見ており俺との連携自体をあまりしていなかった。


「・・いいんですか?」


国津神のプライドというよりかは、神融和が出来るほどの信頼を八咫烏様から

得ていないと思い、確認を取る。


「二度も言わせるな。」


技術的な話しではなく、娯楽にいそしむ場で共に過ごしてきた記憶しかないが

それでもいいと八咫烏様は思ってくれている様だ。


「ありがとうございます。」


勝利への道筋を辿ることができるのなら、この戦いを優位に進める事が出来る。

だが陰の力を使う俺と陽の力を扱う八咫烏様の相性はあまりいいとは言えない。

使うべきところを考えて、最も有効な場面で真実の目を使う必要がある。

そのためには戦場の様子を詳細に把握し続けなければならない。

魔術に集中し、ゲリラ戦が始まった戦場の空気に集中した。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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