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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第二幕 近くに潜んでいた闇
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第二百二十一話 陰の力の代償

いるはずの無い平田が姿を現し、二人は驚愕の表情を浮かべる。


「なっ・・・!?」


こんな時に新手に襲われればひとたまりもない。

急いで平田を警戒するが、目の前に広がったのは想像の域を超える光景だった。


「フン・・・・。」


平田によって操られた人形達は囲んでいる配下達に襲い掛かり、

こちらに来ないように足止めを始める。


「俺は平さんの弟子。あの人はお前らのために命を散らしたんだ。

よって俺は味方だ。頭を冷やせ。」


突然姿を現した事で二人は気が動転してしまったが、

平は平田と黒川を生かすために国學館を襲った。

それは同時に龍穂のためであり、泰国が仕組んだ襲撃だったことから

少なくとも平田は敵ではないことを忘れてしまっていた。


「向こうには黒川を送っている。時間を稼ぐくらいは出来るだろう。

お前達は目の前の敵、あの図体のデカい奴に集中しろ。」


平田が操る人形達は配下達の回転する笠に追い込まれていくが、

人形の体が動き出し、口の様に開かれた腹部からは水鉄砲が飛び出す。

海を支配され、この場の水分を全て支配された状況だったが

外から持ち込まれた水は支配下に置かれないようで、不意を喰らった奴らは

悲鳴を上げながら後ずさりしていく。


「・・感謝します。」


過去の事はどうあれ、この状況での増援は二人にとって願ってもいない救世主であり

その実力は以前の戦いで証明されている。

安心して背中を託し、眼前に広がる配下達と巨体の武将に集中することが出来た。

配下達に対しては有効だった黒い風だが、武将達の固い装甲を破ることが出来ず

さらなる一手が求めれており、自らが持つ手札の中にその切り札があるのか思考を巡らせる。


(さらなる一手・・・。)


固い装甲を前に、自慢の術達に対して信頼を置けなくなっていた二人は

答えを見つけられないが、楓の中にいる白虎は今までを思い出せと声をかけた。


『これではお前に稽古をつけた意味がないな。後ろを気にする必要がなくなったのだ。

前に踏み込んでみろ。』


白虎との鍛錬。それは龍穴での戦いで見いだされたと徒手格闘の才能。

それを引き出すために毎日の様に行われており、接近戦において

武術師の資格を持つ沖田とも互角に戦えるほどだった。


「・・分かったよ。」


これだけの数の中で立ち回るのは難しい。

あの装甲を破るのに時間がかかってしまうと抑えていたが

援軍が来たことで前だけを見れる状態になり、何も考えずに踏み込むことができる。


「黒・虎風拳こく・こふうけん。」


拳に黒い虎を模した風をまとわせる。

龍穂の黒い風であれば奴らの装甲を貫けることは証明済みであり、

これであれば乱戦の中駆け抜けられるだろう。

楓は勢いよく踏み出すと、武将へ向けて縮地を使いながら駆けていく。

一直線に向かっていくが、周りの配下達が見過ごすわけも無く溶解液や笠の一撃で

楓を破壊しようと動き出した。


「フッ!!!」


だがそんなことは楓も想定している。

手にまとった拳を突き出すと、空弾が放たれ攻撃態勢を取ってきた周辺の配下達を

なぎ倒していった。


『そうだ。だがすぐに囲まれるぞ。』


味方が倒れても臆さず踏み込んでくる狂気の鎌倉武士たちはすぐさま楓に追いつき

攻撃を放ってくるだろう。


「短期決戦だね!分かってる!!」


固い鎧を持つ武将をすぐさま倒さなければならないが

嬉々として突っ込んでいく楓もまた狂気を孕んでいる。

周りの鎌倉武士に当てられてたか、それとも何も考えずに戦えることを

楽しんでいるのかわからないが、そのおかげか武将ただ一人に集中することが出来ていた。


得物を構え、楓を待ち構える武将目掛け楓は大きく跳ねあがる。


猛虎破砕衝波もうこはさいしょうは!!!」


拳を重ね、牙を模して開き武将へ向けて突き出す。

両拳に纏っていた黒い風を重ね合わせ、風の一撃を打ち放ち、

風の一撃は大きな虎へと姿を変え勢いそのまま武将へと牙を突き立てる。

得物と触手を重ね、牙から身を守るが牙が突き刺さった瞬間辺りにすさまじい衝撃が放たれた。


風の衝撃を受けた武将の触手は破壊の風に当てられボロボロになるが

その下の装甲には届いておらず、勝負を決める一撃には程遠い。

だが周りのいる配下達は黒い風に当てられると朽ちる様に体が崩れていった。


『すさまじいな・・・。』


神融和をしていた白虎は放たれた一撃に驚きを隠せない。

通常であれば吹き飛ばされる程度の技だが龍穂の力を持った風の一撃は

同じ宇宙の神々であるクトーニアンであっても防ぐ術は無かった。


「こっからだよ・・・!!!」


重力に負け、武将目掛けて落ちていく楓は手を振るうと再び黒い風を拳に纏う。

狙う武将を見つめる目の瞳孔は大きく開き、たった一人となった得物を狩る獣へと変わっていた。


『楓。大丈夫か?』


楓を包んでいく狂気。龍穂の風を使う度に深く、そして強く狂っていく楓を

心配そうに尋ねる白虎。だが楓から答えは返ってこず、目線を逸らさず舌なめずりをした。

龍穂が使う黒い風を多用してこなかった理由。

それは龍穂が持つ宇宙の力に意識を”飲み込まれてしまう”からだった。


陰と陽。人間は太陽の照らされる時間帯に行動する昼行性であり、

その行動原理は陽の属性とされていた。

だが宇宙の力、陰の力が体を支配すると動物としての本能である残虐性が表に出てきてしまい

通常であれば踏み込まない領域にもその残虐性により踏み込んでしまう。

長野との鍛錬では影の力を扱う際に、当時龍穂と契約していた純恋と楓は

黒い風を操る訓練を行っていたが、あまりに強い陰の力によって心支配されてしまい

操るどころではなくってしまう事も多々あった。

それでも少しは扱えるようにはなったものの、使いすぎれば心を支配され、

組織的な行動を行えなくなることを懸念して、二人はこれまで使う事を避けていた。


「ググッ・・・!!!」


戦いに集中しすぎて開かれた口からは涎がこぼれ、もはや人間とは思えない声を漏らしつつ

楓は構えている武将に向かって落ちていく。

過去の鍛錬でもここまで深く狂気に落ちた事は無かった。

それは楓も分かっているが、こんな奴らに手こずっていては龍穂の隣には立てない。

この先共に戦うために、今は後退のネジを外さざるおえなかった。


「・・心深虎撃しんしんこげき!!!」


黒い風をより深く、より強く拳に纏い、迎え撃つために束ねた触手を伸ばしてきた

武将の一撃に打ち付ける。

風の一撃は一度ぶつかれば辺りに衝撃波放つが、触手にぶつかった風は弾けることなく

触手の中へと打ち込まれ、武将の装甲を内側から破壊し始める。

水を嫌うとはいえ、再生能力が無いとは限らないと踏んだ楓は一度に全て破壊しようと試みた。


「はぁ・・・はぁ・・・・。」


一撃を命中させ、地面に着地した楓は膝を着き、片手で頭を抑える。

狂気に包まれ、その反動からか酷い頭痛が襲っており

その姿を見た配下達が襲い掛かろうとするが、背後から襲ってきた衝撃に

振り上げた腕がぽとりと地面に落ちた。


撃ち込まれた風は武将の中で暴れ出し、体内を内側から破壊していった。

その勢いはとどまる無く、全てを破壊した後に開放された黒風の塊は辺り一面に飛び出し

楓を襲おうとする配下達の体を全て破壊していった。


『・・無茶をしたな。』


囲まれていた配下達を全てなぎ倒した楓はその代償として狂気に体を支配されつつあった。


「無茶じゃ・・ないよ。これくらい平気だし・・・まだ戦わなくちゃ・・・。」


戦いはまだ続いている。辺り一帯の配下達を倒したとはいえ、その数はまだ計り知れない。

そして黒い風の奥で戦っているであろう龍穂と合流し、隣で戦わなければならなかった。


「桃子さんの支援に・・・・。」


残る武将と戦っている桃子の加勢に向かおうとする楓。

激しい戦いの音が鳴る方へ視線を向けると。そこには見たことのない桃子の姿があった。


————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————



『さて・・・やるか。』


霧の中を走る桃子は武将へ向けて一直線に駆ける。

薄くかかった霧を騰蛇の力で集め、濃霧の道を突きすすむ桃子の事を配下達は

見る事さえ叶わない。

道中障害なく突き進み、武将の足元まで到達した桃子は自らが放つことができる最大の一撃を

撃ち放った。


黒擂鉢くろすりばち!!!」


辺りの砂をかき集め、黒い風共に武将を中心に巻き上げる。

すり鉢状に舞い上がった破壊の風は触手や鎧を破壊すると思われたが桃子自身、

黒い風の扱いに慣れていなかった事。

そしてあまりの装甲の固さに削り取る事さえ叶わず、手に持った得物で一刀両断され

操作を失ってしまう。


「そんな・・・・。」


自慢の一撃。いや、頼みの一撃がいとも簡単に絶ち切られ、

その光景を見た桃子は思わず足を止めてしまう。


『・・次の一手だ。足を止めるな!!」


これ以上の一撃を持たない桃子は必死に頭の中を探るが打開策は出る事は無く、

楓の様に立ち回ることができずにどうしたらいいか何もわからなくなっていた。


(どう・・する・・・?)


このまま何も考えずに刀を振るってみるか?そんなことをしても何も意味がない。

騰蛇と力を合わせた一撃も効果が無いことは目に見えている。

だが何もしない訳にはいかないと霧に包まれているとはいえ、

戦場で足を止めてしまう事は自殺行為だと自信を奮い立たせ得物を握り踏み出そうとするが、

頭の中に聞いたことのない声が聞こえてくる。


『・・揃いつつあるな。』


聞き覚えの無い声。だが何故か聞き馴染のある声を聞いた桃子は

得物を握りしめたまま、その声に耳を傾けた。


『俺を使え。今なら少しは力を出せる。』


使えという意味。その意味が分からないはずの桃子だが体が自然と動き出し、

自らの胸に手を当てる。


「————————————。」


自然と呟いたとある名前。その名前を呟いた時、脳が認識することを拒んだように

頭にもやがかかるが、中に潜んでいた力が前面に出てくる。

神融和をしているはずの騰蛇を弾き飛ばし、一体となった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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