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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第二幕 近くに潜んでいた闇
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第二百十五話 源実朝

源実朝と対峙し、臨戦態勢に入った。


「いいか?今回の戦い、敵の狙いは俺じゃない。綱秀と親父さんだ。」


今までの戦いと大きく違う点は敵の狙い。

俺を狙っていた奴ばかりと戦っていたが、実朝の狙いは北条家の血を引く二人だ。


「配置を変える・・・という事でしょうか?」


「ええ。その方がいいと思っています。」


敵の狙いである二人は槍を手に持っている。

一族代々命を狙ってきた宿敵を前に、俺達の後ろに隠れる選択肢はもちろん無い。

二人が前に出るのなら、俺も出て手が届く範囲で共に戦った方が二人を守れるだろう。


「千夏さんと純恋は後ろ。桃子は二人の前に立ってくれ。楓は涼音を守ってやってくれ。」


それに俺が前に立った方が色々配置が楽になる。

遠距離戦が得意な人に護衛をつけるだけで、視界が通りやすいこの海岸では脅威になるだろう。


「さて・・・参ろうか。」


全員を遠くに配置し、残ったのは四人。


「沖田。お前も・・・。」


「遠距離に私を配置してどうします。お供させてもらいますよ。」


近藤さんから預かっている沖田に傷をつけるわけにはいかないと説得しようとするが、

端から聞く耳を持ち合わせていない。


「それに・・・あれだけの強敵を前にして下がれというのはあんまりじゃないですか。」


かなりの戦闘狂だと思っていたが、目の前の実朝を前にして

怖気ずくどころかまるで涎をたらすように奴との戦いを心待ちにしていた。


「・・しっかり付いて来いよ。」


この様子じゃどれだけ遠くに離してもすぐに戻ってくるだろう。

仕方なく俺の背中に付かせることにした。

戦闘を走る二人の後ろを駆けながら、六華を取り出す。


『青さん、イタカ。準備はいいか?』


『大丈夫じゃ。』


『龍穂。奴は陰の力を手にしている。

どれだけ接近戦が得意だとしても、何が起きても良いように心構えを忘れるな。』


どうやって賀茂忠行に触れたか分からないが、悪霊が実体を持つほどの

強力な力を持っている事は確かだ。泰兄ほどではない・・・と思いたいが、

警戒はどれだけしてもいいだろうう。


「この手で・・・摘み取ってやる!」


俺達を接近を簡単に許した実朝。

手には得物を持っておらず、身に着けている鎧のみで受け止めるつもりなのか?


「弁財天の力・・・存分に味わえ!!!」


綱秀が槍を突きだすが、どこから突き出された刀が受け止める。


「なっ・・・!!」


千仞の新手が来たのかと思ったが、目の前の実朝の姿が否定して来る。


「天女の姿である弁財天だが、元来鎮護国家の戦神だ!!

そのような神に接近戦を挑もうとは愚かな奴らよ!!!」


奴の背中から生えてきた八本の腕。

その手には弓、矢、刀、矛、斧、長杵、鉄輪、羂索と武器が備わっており、

戦神としての姿を解放してきた。


「ぐっ・・・!!!」


戦闘を駆けていた二人が八本の腕の攻撃に苦戦するどころか圧倒されていく。

たった二本の槍では歯が立たず、このままだとすぐに首に刃が突き刺さってしまうだろう。


(六華じゃ無理だ・・・!!!)


どれだけ兎歩で細かく動こうとも、あまりの手数になす術がないと鞘に納め、一枚の札を取り出す。


「退け!!!」


雑賀さんからもらった錫杖を取り出し、魔力を込めて地面に突き刺す。

本来青さんに送られた代物だが一気に魔術を放つことができ、

この場を乗り切るのに一番適している武器だと言える。

錫杖に付いている輪が黒く輝きだすと、空弾が一気に放たれ二人の首を狙う武器に命中する。

急いで放ったので本来の威力はなく、弾き飛ばすことは叶わないが

衝撃に武器を動きを止め、二人が距離を取る時間を稼ぐことはできた。


「大丈夫ですか!?」


「ああ、助かった。」


危うく決着がついてしまう所だったが、何とか窮地は脱した。

奴は弁財天の力を全て引き出しており、相当手ごわい相手であることが理解できた。

命を残して分かっただけでも儲けものだ。


「これは・・・簡単に近づけませんね。」


対人戦のスペシャリストである沖田であっても踏み出すことを躊躇させるほどの風貌と実力に、

俺も次の手が浮かんでこない。


「どうしますか?」


「・・こういう時はな。」


近づけないと安易に距離を取るか。それとも勇気を持って無謀に接近戦を試みるか。

何を選ぶのが最適かをこの身を持って沖田に教えようと踏み出す。


「突っ込むんだよ!!!」


錫杖を手放し、六華に持ち替え実朝に突っ込む。

泰兄に習った兎歩を使い、音を消しながら踏み出すが俺の姿を見た沖田は後を追う事はない。

誰が見ても無謀だと言える行動に、相対する実朝も肩を落として武器を構える。


「わが主の宿敵がまさかこのような木偶だとはな・・・。」


俺の一撃を刀で簡単に受け止めると、すぐさま俺の首を狙う一手が向かってくる。

勇気ある俺の踏み込みに落胆した実朝だが、決して無謀ではない。


「阿保が。よく見ろ。」


奴の首を狙う一撃は決して俺に届かない。

何故なら手放した錫杖を青さんが受け取り、受け止めてくれたからだ。


「やるな・・・。だが、まだまだあるぞ!!!」


俺達が受け止めたのは二つの腕であり、残る六本はすぐさま俺達を狙った振り下ろされる。

だが、俺の影から飛び出した炎の球が腕に飛びつき動きを止めた。


「なっ・・・!!!」


予想外の連続に、実朝の動きが止まってしまう。

その隙を逃すことなく六華で鎧を切りつけると、手には肉に届いた感触が伝わってくる。

弁財天の力で強化されていたようだが、六華のあまりの切れ味に簡単に裂けてしまった。


「ぐっ・・・!!!」


向こうが予想外の事をしてくるなら、こちらも不意を突くまで。

影を使った不意打ちは長野さんとの鍛錬で作り上げた戦法であり、

遠く離れた純恋や千夏さんの魔術を影渡りで送り付ける。

人間の影だと巨大な術が入らず、弱い威力の魔術しか送ることができないので

対人戦しか効果が無く、ハイドラなどの戦いで使う事が出来なかったが、

この戦法のおかげで奴をほんの少しだけ退かせることができた。


「すまん。」


そして稼いだ時間で綱秀と親父さんと合流して来る。


「何か仕掛けてくると分かっていた上でやられるとは・・・。」


「我々は部隊です。お互いがお互いをカバーしあって戦うのは当然ですよ。」


奴を引かせたとはいえ、接近戦は向こうに分がある。

狙われている二人を前に出すのは少し考えた方がいいかもしれない。


「・・綱秀。お前は後ろに行け。」


俺と同じ考えを抱いた親父さんは綱秀に離れろと言い放つ。


「親父。それは———————」


「いいからいけ。」


危険な前線に残る決断を聞いた綱秀は何かを言いたそうにしていたが、

親父さんの顔を見て後ろに下がっていく。

北条家を継ぐ決意を決めた綱秀を生かすための決断だ。

竜次さんの前で、綱秀の言葉を聞いたからこその決断だろう。

俺はまだ若い。親父さんと同じ目線に立つことはないが、荒れていた綱秀が

胸を張って家を継ぐと言った時、きっと嬉しかったのだろう。


「・・付き合ってくれるな?」


親父さんが俺の方を向いて口を開く。

北条家が招いた呪いとはいえ、実体化させたのは俺のせいでもある。

それに・・・・親父さんを亡くし、悲しむ綱秀を見たくはない。


「ええ。行きましょうか。」


親父さんを生かしつつ、奴との接近戦を制さなければならない。

あの背中から生えている八本の腕。弁財天の力をどうにかしなければならない。


「策も無く突っ込むのは自殺行為。

先程は不意打ち前提で突っ込みましたがもう通用しないでしょう。」


「手数を増やすか?」


「いや、一つの体に大人数で集中するのはあまり良くありません。

我々だけで対応するのが一番でしょうね。」


一か所に集まれば足元が狭くなり隙を生みやすい。

それに弁財天と実朝を合わせて十本の腕より多くの得物を繰り出そうすると

ほとんどの人が前線に立たないとならない。


「遠距離からの援護を大前提で立ち回りましょう。決してバラバラにならず、一点突破を狙います。」


奴が持っている長杵。これは武器ではなく法具だが

戦神である弁財天が手にしているとなると恐らく神力を放つためにある。

接近戦のみなら離れて戦う選択肢はあるが、中距離も戦えるとなると話しは別だ。

三人の力を合わした方が一撃を与えられる可能性は高い。


「少し驚いたが・・・これしきなんともない。」


距離を取った実朝は既に立て直し、こちらに武器を構える。


「次こそ、討ち取って見せようか。」


まだまだ余裕。たった一度の小競り合いをしただけなので当たり前だが

その余裕を少しでも引き剥がさない限り勝機はない。


『・・みんな。準備は出来ているか?』


『大丈夫や。』


『こちらもです。』


後ろで攻撃の準備を整えた二人は俺達の動きに合わせてすぐにでも仕掛けられる。


「行きましょう。」


再び地面を駆け、奴に向かう。

戦いはまだまだこれから。粘り強く戦い勝利を勝ち取らなければならない。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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