第二百十四話 北条家を討つ悪霊
「・・見つけましたよ。」
毛利春は龍穂から指示を受け、服部蓮の捜索に乗り出していた。
「・・・・・!!!」
先に捜索をしていた加治知美から報告を受け、
八坂神社の境内で何かを探している様子の服部蓮と惟神高校の生徒達の前に現れた。
「一体何をする気か分かりませんが・・・避難勧告が出されたのにも関わらず
こうして島内に残っている所を見ると、あまり頭が回らないようですね。」
前回の龍穂への襲撃は、父親である忍の根回しのおかげで捕まる事はなかったが
今回の明らかに怪しい行動は、何も言い逃れできず現行犯での逮捕まであり得る。
「・・・ふふっ。何を言っているんですか?我々はただ観光に来ているだけですよ?」
「であれば、すぐさまここを出なさい。先ほども言ったように避難勧告が出ています。
今すぐであれば・・・見逃します。」
鞘に手をかけ殺意を向ける。次はないと告げる春の表情に惟神高校の生徒達は怖気ついていく。
「・・・・・・・・分かりましたよ。ここは素直に退きましょう。」
抵抗して来ると構えていた業達をあざ笑うかのように撤退を選択した服部蓮。
何か指示を受けていたのかもしれないが、自らの命を最優先にしたようだ。
「賢明です。何か起きた時のために護衛をつけて差し上げますよ?」
春が茂みの方を向き、首を縦に振ると顔を隠した業の隊員がやってくる。
弁財天が岩屋にいると報告が入っているにも関わらず、八坂神社にいた服部達を
警戒した護衛とは名ばかりの監視をつけられた。
「お気遣いありがとうございます。」
「いえ、気にしないでください。
・・避難勧告が聞こえないようであれば、いくら頑張ってもこちら側に来れませんよ?」
国學館の教師からの厳しい言葉を聞いた惟神高校の生徒は暴言ともとれる指摘が癇に障り、
腰に差している得物を取り出そうとするが近くにいた服部が手を伸ばし抑える。
「今はやめろ。大人しく退け。」
相手はたった一人。だが圧倒的な戦力差にすぐにやられてしまう。
実力が足りず、惟神高校に進学した服部だが部隊を率いる者に必要な状況判断を持ち得ていた。
「あら、意外ですね。龍穂君の実力を測り損ねたにしてはあまりに冷静。」
「・・あまり煽らないでいただきたい。俺達からは何も出ませんよ。」
これ以上探りを入れてもお目当ての物は出ないと春に向けて言い放つ。
先日の敗北が服部に変化を起こしていた。
「それは残念。あなた方をここに招き入れた”武道省の職員”の情報を
少しでも引き出せると思ったのに。」
春の一言に若干の反応を見える配下達だが服部は意に返さず足を進める。
「”また”お会いしましょう。」
すれ違う瞬間、すぐに会う事になると言わんばかりに春が呟く。
それはまるで服部蓮が置かれている窮地を察しているかのようだった。
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岩屋にたどり着くが、先ほど前なかった人影を感じとることができる。
「・・・来たな。」
感じたことのある力を持つ二人。竜次先生とノエルさんだ。
「突然の呼び出し、そして対応感謝します。」
「礼をいうな。当然だ。」
「しかし、人の動かし方が板についてきたみたいですね~。」
大きな動きを見せない敵はすぐそこにいるはずだが二人は余裕を見せている。
流石、激しい戦いをこなしてきた人達だ。
「お前さん達の目標はすぐそこにいる。俺達は手を出さない。お前達で倒すんだ。」
今までの戦いでは手を貸してくれたが、これからは俺が成り上がるための戦いだ。
この二人が手を貸さない事に対して何も思わない。
「・・綱秀。あの時言った事、覚えているか?」
弁財天の元へ駆けようとしたその時、竜次先生が綱秀に対して尋ねる。
「修学旅行の風呂場での話ですね。忘れていませんよ。」
俺にも記憶がある。純恋を待つ桃子の元へ向かおうと風呂場を出ようとした時、
綱秀を捕まえて何かを話していた。
「逃げるなら今だと伝えたが、しっかり付いてきているな。
だが・・・戦いが激しくなるのはここからだ。分かっているとは思うが、
敵はどんな手を使っても龍穂を追い込む。当然、共に戦うお前の事もだ。
お前や隣にいる涼音、そして・・・家族さえも襲いに来るだろう。」
隣に立つ親父さんの方を向く。竜次さんの言葉に動揺一つすることはなかった。
「まだ引き返せる。この戦いが終わり、俺達白の保護下に置かれればまだ安全に過ごせる。
それでも・・・立ち向かうか?」
既に綱秀や家族達に影響を与えている。
これ以上、迷惑をかける事が出来ないのであれば、首を横に振るはずだ。
「当然です。俺は行きます。」
それでも綱秀は俺に付いてきてくれると言ってくれた。
「龍穂がこの国を成り上がるという目標がありますが、俺にも実家の神社を継ぎ、
この一帯を守護するという目標が出来ました。この江ノ島も・・・守護の範囲内です。
将来の事を考えれば、決して逃げる事が出来ない戦いですよ。」
五頭龍を使役していた事で察してはいたが、綱秀にもやるべきことが出来たという事だ。
自らのため、そして・・・愛する者のために立ち向かわなければならない。
「・・・そうか。」
綱秀の決意の言葉を聞いて、竜次先生は嬉しそうに笑う。
隣で聞いていた親父さんは腕を組み、耳を傾けていた。
「では、後は龍穂に任せるとしよう。江ノ島の住民の事は任せておけ。無事に守り切って見せる。」
竜次先生達は踵を返し、岩屋を後にした。
岩屋を突き進み海岸沿いを駆けていくと
空気を感じ取らなくとも分かるほどに強大な力を感じ、魔力操作を解く。
「あれだ。」
そこには情報の通り、まるで一つの体に二つの魂が混在する不安定な何かがそこには立っていた。
「来てやったぞ、源実朝。」
代々北条家を呪っていた正体である源実朝。
苦しめられていた綱秀が名前を呼ぶと、ゆっくりと体をこちらに向ける。
「・・待ち望んでいた。」
俺達、いや。綱秀と親父さんを見た実朝は何かを呟く。
「若くに将軍に就き、北条の傀儡にされていた。それでも耐え忍び、
執権を奪い返し右大臣に上り詰めた。だが・・・八幡宮拝賀を終えたあの夜、私の命を潰えた。」
一つの口から二つの声。
弁財天の力を上手く取り込めていない証拠だが、聞いていると頭がおかしくなりそうだ。
「甥に命を奪われ、無念の心中の中。薄れる意識の中で我が瞳に写ったのは・・・北条義時。
私を見下すような表情を見た時、全てを察したのだ。
奴は初めから私を傀儡としか見ておらず、甥を唆し源の滅亡を望んでいたと・・・な。」
鎌倉三代目の将軍。
最後は前将軍であり、兄の息子によって命を絶たれたと親父さんから聞いていたが、
その怨念は何百年と経った現代でも潰えておらず、実体を持った今、最高潮を迎えている。
「北条への恨みは私を現世に繋ぎとめ、その血を引く者へとりつくことを許した。
だが・・・不思議なものだ。鎌倉、室町、南北朝。変わっていく時代に北条はうまく対応し、
その血を現代まで続かせた。滅亡する姿をこの目に収められれば少しは満足するだろうかと思っていた
私の期待を打ち砕き、わが怨念に負ける事のない強き者が家を継ぐ姿を見て
我が怨念は届かないのではないかと諦めかけていたその時、闇から声が聞こえてきたのだ。」
奴の怨念が強くなっていくと共に、神力が増していき、混同していたはずの弁財天の力が弱まっていく。
「闇は俺にささやいた。その怨念を晴らさないかと。そう望むのであれば、力を与えてやると。
失意の念に押しつぶされそうになっていた私は縋るようにその言葉を飲むと
気付いた時にはこの場所にいた。そして・・・私は”神”に成っていたのだ。」
いや、弱まっているんじゃない。実朝の魂と同化しつつある。
奴の怨念に弁財天が負け、二つの体が一つに重なっていく。
「我は北条を滅ぼす!そして・・・同じく我を殺すために動いていた上皇の血筋、
すなわち皇をこの手で殺し、我は再びこの国の頂点へ返り咲くのだ!!!」
完全に重なり一つになった実朝。
その体には煌びやかな飾りが用いられた甲冑が身に付けられており、
将軍の椅子に座っていた全盛期の姿を取り戻したことが伝わってくる。
「気を付けろ。強敵だぞ。」
奴が持っているのは弁財天の力だけではない。体から伝わってくるのは強い陰の力であり、
闇からの声の主である賀茂忠行が何かしらの力を与えたのだろう。
江ノ島に現れた悪霊、源実朝。
千仞の息がかかった奴を倒すため、そして綱秀を守るために得物を抜いて戦闘態勢に入った。
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