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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第三章 上杉龍穂 国學館三年編 第二幕 近くに潜んでいた闇
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第二百十一話 部隊名 木星

江ノ島に渡る橋の手前に降りるとそこには綱秀の姿が見える。

隣には不機嫌そうなガタイの良い親父さんが俺達を待っていた。


「私達は白と合流して来るよ。大人数で固まっていると怪しまれるから隠れてもらっているんだ。」


敵だと知らされている白達は既に武装を済ませているはず。

観光客がひしめく江ノ島でそんな集団が固まっていればどうしても目立ち、

何が起こったのかと動揺を与えてしまうかもしれない。


「龍穂!!!」


俺達に気付いた綱秀がこちらに駆け寄ってくる。

その後ろには涼音も付いて来ており、心配そうな表情で走ってきていた。


「綱秀!!」


「おまえ・・・一体何をしたんだよ。公安から連絡が来たって親父から聞いて驚いたぞ。」


「色々あってな。新しくできたコネなんだ。そんなことより・・・。」


用事があるのは親父さんの方。筋を通して引き留めた事をどう思っているか聞かなければならない。


「・・どうでしたか?」


歩いて親父さんの目の前まで歩き、仏頂面を見上げながら尋ねる。


「その年で公安を動かすとは・・・。若くして実績を上げているだけあるな。」


「いえ、少し縁があっただけですよ。なにはともあれ、思いとどまっていただきありがとうございます。

ここにいる沖田から詳細は聞いています。ここから先は共に行動させていただきますので、

弁財天の反応があった場所を教えていただけませんか?」


つい先ほど、思い出した様に沖田が親父さんと近藤さんが語った内容をしゃべりだした。

これを聞いていなければ、詳細な情報がないまま親父さんと話す羽目になる所だった。


「・・いいだろう。だが、その前に少しだけ話しておかなければならないことがある。」


俺の申し出に承諾してくれるが、俺に伝えたいことがあると親父さんは言い出す。


「俺は大丈夫ですが・・・。弁財天に何が起きてしまうのでは?」


「大丈夫だ。恐らく、弁財天の力を持った奴の狙いは・・・”綱秀だからな。」


「綱秀が狙い・・・ですか?」


一体何を根拠にそんなことを言えるのか。これは時間を掛けても聞かなければならない。


「ここに来る途中、近藤と話しを済ませた私は綱秀に君の事を聞いた。

どうやら深く信頼できる相手であり、お互い様々な事情を抱えていると。」


「・・・はい。」


「当然君の事情は聞いていない。無暗に息子の友人の私情を口を挟むことなどはしないからな。

だが・・・綱秀、ひいては北条家に代々伝わる呪いについて聞いているはずだ。」


誰かが夜な夜な枕元で何かをささやいてくる呪い。何を言っているのか分からないが、

どうやら恨み節を呟いているらしく、力の弱い物だと呪い殺されることもある厄介な呪いと聞いている。


「聞いています。その呪いと今回の件が関わっていると・・?」


「そうだ。君が激しい戦いを終えた次の日から続いていた呪いがぱったりと消えた。

そこに綱秀も参戦しており、恐らく何かがあったのだと思われる。」


「ですが、綱秀と弁財天に繋がりがあるのですか?

何かあったとしても、弁財天がいきなり現れるのはおかしいですよ。」


「いるだろう?弁財天と関わりのある奴が。」


親父さんが綱秀の方を見ると、隣に人の姿をした五頭龍が姿を現す。


「弁財天の力が江ノ島に現れたと察したのは五頭龍だ。」


「忘れるはずがない!あの力は・・・我が妻の力だ!!」


なるほど。確かに五頭龍であれば弁財天の力を察することが出来るだろう。

江ノ島で引きこもり泣いていた理由がいなくなった妻こと、弁財天なのだから。


「色々調べたが・・・弁財天がいなくなったことを感知できたのは五頭龍だけだった。

夫婦という強固な関係性だからこそ、強く感じる事が出来たのだろう。

弁財天がどこで何をしていたか。愛想を尽かして自ら去ったのか、誰かに攫われたのかは分からない。

だが・・・何かをされたのだけは確実。我が一族の呪いにな。」


「呪いに何かをされた・・・?」


そう言うと親父さんは江ノ島の方を見つめる。


「・・ここまで来てようやく感じ取ることが出来たよ。

上手く隠してはいるが・・・弁財天の力と共に、呪いの力を感知できる。

北条家の恨みを持った・・・”源実朝みなもとのさねもと”の力をな。」


「源実朝・・・?」


「鎌倉幕府の第三代征夷大将軍。幼くして征夷大将軍になった人物だが・・・

我々の遠い先祖である北条家に暗殺された鎌倉幕府最後の源氏将軍だ。」


綱秀達北条家は元の血を辿ると断絶した源氏の代わりに将軍を務めた北条家に当たる。

ここから鎌倉幕府滅亡まで日ノ本の頂点に君臨し続け幕府が亡くなった後、

再び日ノ本の歴史に名を轟かせるのは戦国時代。

それに対して源氏は今現在続く名家の祖先ではあるものの、

日ノ本歴史で大きく名前を聞くことが無くなった。その原因は間違いなく北条家であり、

恨まれても仕方がないだろう。


「そいつが枕元で俺達に呪いの言葉をささやいてきている。

神力が低い者、実力が足りない者は呪い殺されることもあった。

そのような弱き者は北条家に必要がないと払う事はしてこなかったが・・・

ここにきてそれが裏目に出るとはな。」


「・・北条家にずっとついてきた悪霊なんですよね?

その繋がりを利用して、ここから何か出来る事はないですか?」


源実朝がずっと北条家を呪ってきたという事はそれだけ魂の繋がりが強いという事だ。

綱秀を呪う前、親父さんも呪っていたはずなので魂の繋がりを使って何かできないかと提案する。


「俺は場合、神力が強すぎて近づいてこなかった。

綱秀も今まで呪いの被害を最小限に押さえていたからつながりが薄い。

ここから出来る事は何もないな。」


払われる可能性がある者には決して近づかない。

かなり賢いとともに、なんとしてでも恨みを晴らそうという強い意志が伝わってくる。


「そう・・ですか。では、位置を教えていただきたいです。

まだ江ノ島には大きな異常が見られませんが、何が起こるか分からない。

公安の他にも共に戦ってくれる仲間達がいますので彼らに被害が最低限になるように

動いてもらいましょう。」


「・・江ノ島の端、岩屋に弁財天の力がある。弁財天信仰発祥の場所だ。

祈願などで集まった信仰を力に変える気なのだろう。」


何処にいるか聞いた千夏さんは靴の先で地面を叩く。


「・・・・了解。知美ちゃんにも伝えておくね。」


「助かります。」


影から出てきた雫さんに偵察を頼み、知美への連絡まで気を回してくれた。


「では行きましょう。江ノ島、北条家の因縁を・・・。」


偵察にはどうしても時間がかかる。敵の居所が分かった以上、

移動しながら連絡や指示をした方がいいだろうと足を動かそうとすると

後ろから誰かに服に引っ張られ、後ろを振り向く。


「・・少々お待ちを。」


引っ張ってきたのは沖田。こちらに携帯の画面を向けている。


「近藤さん。陰陽師、”木星”と北条豪雲殿がおられます。準備が整いました。」


画面に映し出されているのは近藤さんの文字。沖田が準備が整ったと伝えると、近藤さんの声が響く。


「こちら武道省公安課長官近藤隼人。緊急時につき陰陽師、木星に任務を発行したい。」


真剣な近藤さんの声が聞こえてきた。

これは・・・陰陽師の仕事として、江ノ島での戦いに筋を通そうとしてくれている。


「・・内容は?」


「”突如”現れた弁財天の反応。弁財天は守護の神であり、もし何かしらの事情で失うことがあれば

日ノ本に取って大きな損失となる。お前には弁財天の保護を頼みたい。」


「・・道を阻む者がいた時、いかがしましょう。」


「排除して構わん。公安課課長、近藤が許可する。」


突然という言葉。これは俺ではなく、親父さんに言った言葉だ。

江ノ島での出来事は全て公安が請け負うと近藤さんは筋を通している。


「了解しました。任務を受注します。」


「助かる。この任務は神道省長官も認知している。この不審点に関しては現在調査中。

進展があり次第報告するが、君達は出来るだけ任務に集中してほしい。」


まだ先の見えてない江ノ島の異変。

この先で待ち受けているであろう源実朝や服部と会ったとしても全てが見えるわけではない。

それらの見通しをよくするため、近藤さんも動いてくれている様だ。


「そして・・・出来ればで良い。敵の状況をこちらに逐一報告してほしい。

誰が絡んでいるか。それが一体何者なのか。それら全ての情報が欲しいんだ。

突然な出来事で調査の元となる情報があまりに少ない。」


「分かりました。沖田、頼めるか?」


「戦闘に集中したい所ですが・・・良いでしょう。」


「よし、では・・・”部隊”木星、任務開始だ。」


近藤さんの電話が切れ、これからの行動が正式に任務となった。


「部隊って言ってたな・・・。」


「泰国さんとの戦いで我々が一つの部隊として戦っていたと報告が入ったのでしょう。

我々は同じ道を歩むのですから、間違いではないですね。」


同じメンバーで戦ってきたので千夏さんの言う通り間違いない。

先々を考えた時、部隊としてではなく各々単体での評価を上げなければならないと考えたら

あまり良くはないのかもしれないが、今はそんな事を気にしている場合じゃないだろう。


「では・・・行きましょう。」


任務を遂行するため、全員で江ノ島へ向かう。

一体何が起きているのか。しっかりと把握し、全てを解決しなければならない。



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