第二百二話 傷を癒す思い出の品
人間・・・ではない?
衝撃の発言がノエルさんの口から放たれる。
「ここにいる竜次・・・いや、ドーラはドラゴンと人間のハーフ。
そしてノエルはエルフのハーフなのです。
日記に書かれていたのはエルフ、ドワーフ、ドラゴンが扱う言語。
兼定達は私達の言語を学ぶため、そして我々は日ノ本語を学ぶために
交換日記をつけていたのです。」
妖精達の・・・ハーフ。
確かに竜次先生の戦闘の際に見せた口から出した炎や鱗。
そしてアルさんとノエルさんの身体的特徴は昔に見た欧州の妖精たちと酷似している。
「落ち込んでるアルに取って幼き日の思い出は大切な恋人を失った心傷への
薬となるかもしれません。ですから・・・我々は何としてでもあの日記を手に入れたい。
ご理解いただけましたか?」
ひとまず・・・日記を手に入れたい理由は理解できた。
だがそれ以上に大きな疑問が次々と湧いて出てきており
日記を渡す前に聞いておきたいことが山ほど増えてくる。
「それは・・・分かりました。ですが・・・。」
「龍穂君がお聞きしたことは分かっています。
私は先ほどの条件を決して逸れる気はありませんし聞かれたことについて全て話す気でいます。」
ノエルさんは絶対に俺から逃げないと宣言して来る。
竜次さんがイラついていた原因はここに来れないアルさんが弱っている姿を
きっと見ていられないのだろう。
優しい竜次先生ならでは理由であれば納得できる。
「ですから・・・・。」
二人の最優先事項は日記の回収。
アルさんのための日記回収と謳っているが恐らくこの二人の心をひどく傷つき
本心では泰兄との思い出の品を欲しているはずだ。
「・・・・・ついてきてください。」
大小あれど俺達も同じ傷を心に負っている。
その辛い気持ちを少しは理解できる。
それに俺には解読できないような資料があることも事実であり
有識者の知恵を借りたいと思っていた所だ。
俺は二人を隠し部屋に連れていくために立ち上がる。
「龍穂さん。いいのですか?少なくとも千夏さんの許可を・・・。」
「千夏さんと一緒にあそこを調べていたけど俺達のは分からない言語で書かれた物が多くある。
解読し始めて間もないけど、解読に時間がかかりすぎている事が俺達の課題だった。
千夏さんもちーさん達に助けをもらおうかと考えていたけど
色々と考えた上で今はやめておこうという判断になったが
ノエルさん達がこうして話し合いの場を作ってくれたおかげで
その問題は今、解決に向かっている。」
千夏さんがちーさん達の協力を要請しなかった理由。
それは泰兄と昔仲間だったと話しを聞かされていたのにも関わらず、
封印された記憶についての説明があいまいだったこともあるが
ちーさん達が目に見えて消耗していたのでこれ以上精神的負荷を与えていいものかという
千夏さんの一言で伝える事を躊躇していた。
だが二人の話しを聞いた限り、むしろあの場所の事を教えた方が
心の傷を癒すことに繋がると確信した。
「それに・・・。もう連絡は入れてある。」
リビングを扉を開くとそこには千夏さんの姿があった。
新入生達とご飯に言っていたが、近藤様がいた時点で念で連絡を送っており
移り変わる状況を細かく連絡を入れることで詳細を把握してもらっていた。
「よろしいですね?」
「・・・はい。」
千夏さんの後ろにはちーさんとゆーさんの姿もあり、
親睦会を途中で抜けてきてくれたことが分かる。
「・・ありがとね。」
化粧で隠しているが目の下には大きな隈があった。二人も相当悩んでいたのだろう。
「お礼を言われる筋合いはないです。
あなた方がこの家で言ってくれた通り、我々は共に戦う仲間だ。
だからこそ、傷ついた時こそ支え合わなければならない時に何もしなかった事は事実。
お互い様なのかもしれませんが、俺達の質問に全て答えてもらいますよ。」
決して一方的に施しているわけではないと伝える。
二人は兼兄に部隊を率いる事を任されるほどに信頼されている。
それに・・・千夏さんを守ると言ってくれたのにも関わらず
大切な状況で何もしなかったのははっきり言っていただけない。
「分かっているよ・・・。」
俺達は一心同体。お互いに負うべき責任を全うしなければ関係に歪が生まれ
何時しか壊滅してしまうだろう。
「・・ですが俺達も何もしなかった。本当に申し訳ないと思っています。
なので、これで手打ちにしましょう。」
一心同体だからこそ、お互い蟠りを無し。
ここからは隠し事無しで語り合う必要がある。
新たに加えた四人と共に千夏さんが開けた隠し扉をくぐり、地下室へと入っていく。
「初めて入るな・・・。」
「・・先生たちはここに入ってことはないんですか?」
「あいつらが何か隠している事は知っていた。
だが・・・まさか仙蔵さんの家にこんな所があるなんて知らなかったよ。」
家族同然の仲間達に言わなかった隠れ家。
兼兄と泰兄がここを俺達のために用視するために隠したことがよくわかる。
「きっと・・・奴らはこうなることを初めから分かっていた。
ここで俺達と龍穂達がさらに絆を深める機会をわざわざ作ったのだろう。」
「・・やっぱり兼兄と連絡がつかないんですか?」
「ああ。卒業式の後、龍穂をあってすぐに行方を暗ませた。
一応、春が詳細を知っているとは思うが・・・何も説明なく姿を暗ませているのは
正直言ってあまりいい気分ではない。」
これだけの事をしておいて何故何も言ってこないのか。
先生たちもやはり気になっている様だ。
認識阻害の影響とはいえ深く聞かなかった事が悔やまれる。
「見つけ次第・・・吐かせる必要がある。だが、あの様子じゃ雲隠れを続ける気だな。」
「兼兄は・・・賀茂忠行との戦いを俺達に託した、という事でしょうか?」
「そこまで無責任な奴じゃないさ。
気に食わないとはいえだ。業という日ノ本の闇の仕事を一手に担う兼定の負担は
俺達とは比べ物にならないほどに重い。
だからこそ、あいつには俺達に頼ってほしい。
こうして腹を割って話した上で・・・だ。」
どれだけ憎んでも・・・心の奥底には家族の絆で繋がっている。
泰兄の件もあってか、先生は本心から兼兄を心配している様だ。
「・・卒業式で兼兄にあった時、俺は兼兄にも事情があると何も話しませんでした。
今はそれを後悔していますが・・・あの人負担を軽くするには
千仞との戦いに勝利し続け、賀茂忠行を倒すしかない。
この場にいる全員が心の中に色々抱えているとは思いますが、
結果を出すことこそが自分を、そしてみんなを助けることになると思います。
今は出来ることに専念しましょう。」
それは俺も同じ。だが業の仕事に介入することができない俺達は
俺達にしか出来ない事を全うする事しかできない。
「ここか・・・。」
下についた竜次先生達は辺りを見渡す。
「懐かしいもんが色々あるな。」
「ええ。我々が使っている武器の歴史が色々ありますね。」
壁に掛けられている銃器には薄く埃がかぶっており、使われていなかった。
恐らくいつか使う時が来るかもしれないと大切にとっていたのだろう。
「・・・これです。」
日記が入っている本棚の前まで歩き、三つの日記を取り出す。
その三つを竜次先生に手渡すと、その中の一つをノエルさんに手渡した。
「懐かしい・・・。とても・・・懐かしいですね・・・。」
小さな体で日記を抱きしめるノエルさんの眼には光る物が見え、
三人に取ってとても大切な日記だと改めて感じる。
「助かった。これで落ち込んでいるアルを少しは励ますことが出来るかもしれない。」
「いえ。きっと・・泰兄がこうしろと残してくれた物だと思うので・・・。」
「・・そうか。しかし・・・あいつらが今まで俺達を
ここに入れなかった理由がよくわかる・・・。」
感謝を述べた後、竜次先生が辺りを本棚を見渡す。
「それは・・・どういう意味ですか?」
「・・お前ら、いいな?」
俺の問いにこの場にいる白の部隊に許可を取り始める。
それ問いに全員が頷くと、まるで決心を決めるように一呼吸おいて竜次先生が口を開いた。
「ここにある資料。その大半がとある実験施設にあった物だ。
恐らくだが・・回収した兼定が仙蔵さんに場所を借りて保管していたのだろう。」
「実験・・施設・・・?」
「そうだ。そこは日ノ本のとある一族が海外に密かに作り上げた実験施設。
賀茂忠行によって指示を受けたその一族は・・・”人体実験”を行い、
作り上げた生物をいずれ日ノ本を支配する時に動員するつもりだった。」
竜次先生の衝撃の発言に脳の理解が追いつかない。
一体何を言っているんだ?
「そして白の部隊の隊員のほとんどがその研究施設”出身”だ。」
「出身って・・・まさか・・・!?」
ちーさんとゆーさん。そしてノエルさんの表情に影が落ちる。
「そのまさかだよ。実験施設で生まれた半神の人間。
俺達は・・・”元実験体”だ。」
現実離れした告白に俺達は言葉を失う。
話しを続ける竜次先生の言葉に耳を傾け息を飲みながらその言葉を脳に刻み込んだ。
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