第二百話 公安との協力宣言
近藤様の言葉にリビングの空気がぴたりと止まる。
日ノ本のために公平でなければならない公安の長が言ってはならない言葉だ。
日ノ本の象徴である皇の威厳を取り戻すことは理解できるが
一個人、それに未成年である俺に対して支援を送るなど他の高官達が聞けば絶対に黙っていないだろう。
「課長・・・。これが他の二省・・・いや、三道省全体に知られれば大変なことになりますよ。」
「分かっているよ。だからこそ、この場で言ったんだ。」
この家には俺達以外に誰もいない。ここでの発言で収め、裏から支援を行う気なのだろう。
「近藤さんらしくないね。一度決めたことは意地でも貫き通して結果で周りを認めさせる。
日ノ本のためなんでしょ?全体に伝えてこの人に日ノ本を救ってもらえばいいじゃん。」
やめたほうがいいと諫める土方さんとは対照的にやるならいつも通りに行こうと煽る沖田。
俺としては味方は多いに限るが未来を考えた時、公安が俺達の味方をしていたなんて知られれば
その事実を追及されるだろう。
「・・・・・・・・。」
素直に喜べない複雑な気持ちが俺の喉を塞ぐ。どうしたらいいか分からず、思わず目を逸らしてしまうが
俺を見続けていた近藤様が身を乗り出し肩を叩いてきた。
「そんな複雑な顔をするな。俺は別に君への期待だけで発言したわけじゃない。
しっかりとした”勝算”があって言ったんだよ。」
肩を叩かれた衝撃で思わず顔を前に向けると、
そこには強い眼差しで俺の目を見つめる近藤様の顔がある。まるで先ほどの発言はなんだ、
前を向けと言っているようであり、そしてその視線は俺の後ろに移された。
「俺の発言を君のお友達届けてくれるかな?加藤楓。」
楓の名を呼び、再びソファーに体重を預ける。
何故楓を指名したのか。お友達とはいったい誰なのか。検討も付かない。
「それは・・・誰の事を言っているんですか?」
「とぼけてもらっちゃ困るな。主人を裏切るのか?
君の同学年の友人にいるだろう。”真田麻由美”と”武田加奈子”が。」
真田のお父さんは武道省長官である真田様。だが・・・武田は何故名前を呼ばれているんだ?
「・・大切な友人を私に利用しろと?」
「利用じゃないさ。君だけが唯一出来る手助けだ。真田真奈美は父に武道省長官を持っている。
そして・・・武田の祖父は”元”武道省長官であり現在は理事に就いているお方だ。
全体に俺達が龍穂を支援すると触れまわらなくても武道省長官や理事に
話しを通しておけばうまく事を隠してくれるだろう。
何せ、ここにいる沖田を君の陰陽師試験に推薦したのは真田長官と武田理事なんだからな。」
確かの陰陽師試験の時に沖田を紹介したのは真田様だ。
だがそれを推薦したのに関わっているのが武道省の・・・理事?
「どういうことです?課長。」
「色々調べてくるとな。点と点が繋がってくるんだよ。魔術師の推薦を遅らせ、
早急に陰陽師試験を取り仕切った伊達さん。そんでその場に沖田を連れてきたのは真田さんだ。
最低でもこの三人はグルだ。龍穂君を神道省とどうしても繋げておきたい訳があり、
そんで俺達公安との繋がりも作りたかった。その人選を悩んだ真田さんはかつての上司である武田さんに相談を持ち掛け、沖田にその矢が刺さった訳だ。
その目的は恐らく未来を見据えた地盤づくりであり、わざわざ席を開けた
副長官の座に座る者に対して強力な支援を行うことで長官に上り詰めた際に
絶対的な柱となってもらうための布石を打っていた。」
何気なく受けた陰陽師試験だったが、裏では壮大な計画が組まれていたなんて思ってもいなかった。
「・・それでも俺は心配です。二道の支援で魔道省の意見をねじ伏せたとしても
皇の耳に入り、不正だと言われた時に何も・・・。」
「武田さんは皇の古くからの友人。
しかもあの人は皇のためならあらゆる手を使っても手を貸してきたお人だ。
座を開けることを武田様は知っており、それは国の象徴であるにも関わらず
負担の大きい長官の立場に居座り続けなければならない皇の負担をゆくゆくは減らすことになる。
俺が龍穂君を手助けすることを二人だけに伝えておけば世間に広がる前にうまく握りつぶし、
そして動きやすいように支援も期待できる。
どうだ?今の話しを聞いても友人たちに話しを通さないつもりか?」
近藤様の宣言の一番の不安点は公安の援助が外部に漏れてしまう事。
沖田が言っていた全体に伝える気はさらさらなかったようで
絶対に口を割ることが無い最低限の人数に話しを通しておくことで
支援の制限が無いようにする最高の話しだがそれでも楓は答えることはない。
「・・素晴らしい話しだと思います。友人の二人もきっと受け入れてくれるでしょう。」
「じゃあ・・・何が不満だ?もし今の話しを受け入れた時、当然君も仲間であり
蟠りを残したまま行動を共にしたくはない。」
真田と武田も泰兄との戦いに参加していた。
それは賀茂忠行との戦いに片足を突っ込んでいる事を意味しており俺の守る対象に入っている。
だからこそ、この提案を受け入れ二人も共に戦ってくれると守りやすいというのが俺の本音だが
楓は一体何が不満だというのだろうか?
「・・・・・・・・。」
楓は無言のまま俺に近づいて来て後ろから頭を抱きかかえる。
いきなりの行動、そして近藤様の前という状況に少し驚くも
俺にしか聞こえない声量で楓の声を聞いて平静を取り戻した。
「また・・・近くに違う女の子を置く気ですか?」
真田や武田に話しを通すこと自体に反対しているのではなく、
沖田が俺の近くにいることに不満があるようで空気は読んでいないものの、
可愛らしいその姿に思わず頭を撫でてしまった。
「違うよ。沖田は心強い仲間だ。」
「・・本当ですか?私は少し前の千夏さんとの件を忘れていませんよ?」
皆とは特別な関係だがそれは今までの戦いで築かれた絆があってこそだ。
それにこのままだと近藤様から直々に沖田を預けられる流れになっている。
言いかたはよくないが・・・手を出すわけにはいかない。
「それは・・・後で埋め合わせをするよ。それでいいか?」
俺の提案に少し悩んだ後、楓は手を放し、顔を上げて近藤様に向かって言い放つ。
「・・分かりました。数日後に二人と遊ぶ約束をしているのでその時に伝えておきます。」
「そうしてくれると助かる。なかなか見せつけてくれるな。沖田もそう思わないか?」
流石に目の前でこんなことをしてしまえば指摘されてしまうだろう。
言われた沖田だが興味が無さそうにいえと一言呟いた。
「・・これで公安課は君を支援することが正式に決まった。だが大々的に分かりやすく
支援をしてしまえば他の所から突かれる。俺が信頼できる奴だけに話しを通し、
隠密に支援を送り君の活躍を見て支援の範囲を広げていくことにする。
俺達はこれから同じ道を歩むんだ。君が敗北した時、その瞬間俺達も指摘さ公安課の課長を降格。
いや、下手をすれば武道省からの去ることになるだろう。
これは賭けだ。俺達の進退、そして日ノ本がかかっている大きな賭けだが
今までの君の実績は俺達のそれだけの事をさせるだけのものを残してきた。
肩に乗っかる重責が君に重くのしかかるだろうが、しっかり跳ねのけてくれよ?」
楓が承諾したことで近藤様は笑顔で再び身を乗り出し俺の肩を叩いてくる。
「よし!用事は終わった!!お前ら帰るぞ!!!」
そしてその勢いのまま立ち上がり、座っている二人に声をかけた。
「ちょっと待ってください。手を結ぶのであればしっかりとした話し合いを————————」
「いらん。どれだけ話し合ったとしてもこの先の展開は全く読めん。話し合っても無駄だ。」
土方様の言葉を一切受け入れることなく立ち去ろうとする。
「あっ、あの!協力していただけるのはありがたいのですがどうやって連絡を取れば・・・。」
俺としても何かと言えないがまだ話すことはあるだろうと、連絡手段を尋ねるために呼び止める。
「それはそこにいる沖田を通してくれ。沖田、今のうちに連絡先を交換しておけ。」
すると携帯が震え、俺に向けて連絡先が送られてくる。
どうやって入手したか分からないが沖田は既に俺の連作先を持っている様だ。
「あ・・・。いや、その・・・!」
「不安になる気持ちも分かる。だがな、こればっかしはいくら話そうが君の不安は拭えない。
結果を勝ち取って初めてその不安が解消されるんだ。
みっともなく逃げ道を探すのではなく、ドンと構えてしっかり結果を出す。
それが男という生き物だと思わないか?」
ため息をついた土方様とじっとこちらを見つめながら立ちあがる沖田は近藤様の背についていく。
「後、伝えておきたいことがもう一つある。これから先、君には多くの試練が待ち受ける。
俺も言ったし、お前さんの式神の龍も言っていたが、君は全ての物事に疑問を抱け。
何故こうなったのか。何故こいつがここにいるのか。
何故・・・俺達と共に来たそいつが一言もしゃべらずそこに座っているのか。
抱いた疑問全てが明かされることはないのかもしれないが出来る限り解決に向けて行動し、
疑問を相手に投げかけろ。」
そう言うと竜次先生に視線を向ける。
「竜次は俺達からお前を守ろうとしてあそこにいたわけじゃなく、
初めからお前達に用があったみたいだ。あの戦いから竜次達はまともに君達と話しをしなかった。
色々と君たちに説明しなければならないことがあったはずなのに
何故ちゃんとした会話の機会をすぐに設けなかったか、詳しく聞いてやるといい。」
見送りはいらないという言葉を置いて三人は部屋を去っていった。
近藤様に名前を呼ばれた竜次先生は未だに口を開くことなく俯いて座っている。
表情は見えないが・・・下に向けられた顔は暗く、ばつが悪い表情を浮かべているのだろう。
「・・・・・・・・・・。」
近藤様の言葉に甘えて、そのままソファーに座り竜次さんに見つめる。
「先生・・・。先生は一体俺達に何の用があるのですか?」
色々と尋ねたいことは山ほどある。友人と言っていた泰兄の事。白の部隊があの後どうなったか。
本当に色々あるが・・・ここはあえて竜次先生に話しを振った。
それは今までの様に自ら疑問を投げずにいる自分を変えないとわけでは決してなく、
竜次先生の用事を聞いた上で対応しようと考えていたからだ。
「俺には竜次先生が聞きたいことは分かりません。
ですが・・・ほんの少しだけですが心当たりがあることは確かです。」
泰兄がくれた地下室を調べていた俺は本の中にとある”名前”が書かれていたことに気が付いた。
その名前を俺は片手で数えるほどだが耳にしたことがあり、
その名の持ち主に取ってとても大切な物なのだと思っている。
「聞かせてください。」
きっと、その本にまつわる用事なのだろう。
何かしら求められると踏んでいる俺はそれを餌に情報を引き出そうと狙っていた。
俺の問いを聞いた竜次先生は少しの沈黙を挟んだ後、ゆっくりと前を向いて口を開く。
「・・単刀直入に言う。泰国が残した・・・”日記”を渡してほしい。」
俺が見たのは日記。その内容は泰兄と兼兄の二人が見たことの無い言語を扱っている交換日記。
その中にはまるで覚えたての子供のような読めるか読めないほどの
文字で書かれた日ノ本語が書かれていたがその中に書かれた聞いたことがある名前。
”ドーラ”という名が刻まれた交換日記を竜次先生は俺達に求めてきた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!




