表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第五幕 残された者達
196/296

第百九十六話 三年生達の卒業式

祝いの場である卒業式。厳しい三年間を耐え抜いた三年生達がその努力を称えられ表彰されていく。

校長先生から渡される卒業証書を堂々と受け取っていく姿を俺は緊張の眼差しで見つめていた。

少人数なので五分と満たないほどの時間で渡し終えると、

そのまま校長先生が卒業生に祝いの言葉を述べる。


(この次か・・・。)


退院して学校に戻った後、毛利先生から次の日が卒業式と伝えられた。

まあそれは親父達との話しで察してはいたがその次の言葉にはさすがに驚かされた。


「在校生の言葉。在校生から代表して・・上杉龍穂、よろしくお願いします。」


大きな声で返事をし、立ち上がり歩いていく。毛利先生からこの場にいる全員と一年から推薦があり、

卒業に贈る言葉を俺に言ってほしいと伝えられた。

明日に迫っているのにも関わらず、練習もできないこの状況で流石にそれはないと

断りを入れようと思ったが、謙太郎さんと千夏さんの男女の寮長から

強い推薦をされていると聞いて受け入れた。

壇上まで上がり、見下ろす形で全体を見渡す。

謙太郎さん達や千夏さん達。そして皇太子校長先生まで座っている。

この人達より頭が高い位置で話すことなんてこの先にあるのだろうか?


「・・卒業生の皆様。ご卒業おめでとうございます。」


まずは卒業生に祝いの言葉を述べる。

俺を推薦してくれたみんなとは過ごした期間は短い。だが・・・濃密さは比べ物にならないだろう。

そして保護者や関係者の方々に祝いの言葉を述べ、今までの思い出を交え三年生に送る言葉を述べた。


———————————————————————————————————————————————


「大役、ご苦労さんだったな。」


卒業式が終わり、控え室に戻ってきた綱秀が労ってくれる。


「・・・ありがとう。」


文句を言いたかったが、昨日帰ってきてリハビリがてらの立ち合いで

鬱憤を晴らさせてもらったのでこれ以上の追いうちはやめておいた。


「ひとまず・・・会いに行くか?三年生達に。」


全てが終わり、今日は帰るだけ。

だが国學館の生徒として最後である三年生達に会いに行かないなんてありえない。


「そうだな。」


全体に指示を出して謙太郎さん達に会いに行くために控室を出る。


「・・こんなの京都校じゃありえへんな。」


隣に歩いている純恋が呟くと、桃子がすぐに返事をする。


「卒業式でみんなで胴上げとかしないのか?」


「無いな。尊敬するなんてのは上っ面だけ。

一応個人的なつながりで祝うってことはあるけど結局こねづくりの一環や。

国學館にいる奴は三道省の高官、そして課長クラスまで上り詰める奴がわんさかおるが

自分が入る予定の省の奴に媚び売って、後々敵対する奴には何にしないのが京都校の奴らや。」


全ては自らが成り上がるため。

高校生からそうした派閥争いがあるのは確かに純恋にとっては息苦しいだろう。


「・・俺達の代になってもこれは無くさないようにしよう。」


俺としてもそんな上辺だけの関係はしたくはない。

東京校の伝統として心から全員を送り出せるように新しく入ってくる子達とも

しっかりとした信頼関係を築かなければならない。

三年生達に会うため式場から出ると、そこには三道省達の高官達に囲まれている

謙太郎さん達の姿が見える。俺達と共に戦った謙太郎さん達もかなりの評価を受けているので

今のうちに唾をつけておこうと必死だ。


「私は家を継ぐ予定ですから武道省にはちょっと・・・。」


だが家を継ぐことが決まっている人ばかりなので、違う省に入ることはほぼ不可能。

伊達さんや謙太郎さんは困った顔で高官達の申し出を断っている。


「千夏さん。私の息子などは・・・・。」


二人以上に囲まれていたのは千夏さんだ。

自分や自分の子供達と何とか関係を結ばせようと多く人が押し寄せているが涼しい顔で全て断っている。


「・・・・・・・・。」


正直あまり良い気はしないが、卒業式の前にこれも自分の務めだと一言入れられていたので

水を差すわけにはいかないと助けに入ることはできない。


「・・・・・!」


この雰囲気で胴上げなんてできないと遠巻きから人が引いていくのを待っていると、

俺達に気付いた千夏さんがじっと見つめてくる。

そしてほんの少し頬笑むと囲まれていたはずの千夏さんが突然姿を消した。


「・・少し隠れさせてもらえませんか?」


俺の背後から聞こえてきたのは千夏さんの声。

対応すると言っていたのに姿を隠して俺の元へ来てしまっていた。


「・・・・いいんですか?」


「思っていた以上にしつこくて・・・。少し休憩します。」


影渡りでこちらに来た千夏さんが突然にいなくなったと騒ぐ高官達。

蜘蛛の子散らばるように急いで探せと走っていく。


「いずれこっちに来ますよ。同じことじゃないですか?」


もしよい関係を結ぶことが出来れば魔道省長官に上り詰める事が出来る。

それを考えた時、あの人達が簡単に諦めるはずがない。


「そうですね・・・。では・・・。」


俺の後ろに隠れたとしても同じことだと伝えると堂々と前出てきて俺の腕に捕まってきた。


「これで・・・近寄ってこなくなるでしょう。」


探している高官達は腕に捕まっている千夏さんを見つけるが、

腕に捕まられている俺の姿を見ると踏み出した足を止めてしまう。


「まあ・・・三道省でも名を上げている龍穂が近くにいるなら大半の奴らは諦めるやろうな。

やけど・・・。」


諦める事が出来ないと近づいてくる奴らもちらほらいる。

どう対応しようかと悩んでいると空いた片腕や俺の前に立ち、

体を寄せてくる三人の姿を見て再び足を止めた。


「こんな堂々とアピールして、辺りに言いふらさせようなんて許さへんで。」


対抗心を燃やした純恋達。このまま近づけば皇の前で大切な又姪を口説くことになる。

それはさすがにできないと諦めて誰も近づいてこなくなった。


「お前らな・・・。」


その姿を見た親父が俺達に近づいてくる。千夏さんの任されている親父は保護者として出席していた。


「へんな噂が流れたらどうするんだよ・・・。」


「別にええやろ。蚊取り線香のおかげで千夏さんに寄ってくる虫共がいなくなった。ただそれだけや。」


ため息をつく親父に向かって俺を叩きながら言い放つ純恋。蚊取り線香って・・・。


「おっ!みんな来てくれたか!!」


対応を終えた謙太郎さん達がこちらにやってくる。


「大変だったみたいだな!」


「いえ、謙太郎さん達の方こそですよ。」


「俺達は親の顔があるからな。断られる前提で声をかけてきているからすぐに諦めてくれたよ。」


続々と集まってくる。三年生達。これなら胴上げが出来そうだ。


「これから千夏は大変だね~。大学行っちゃったら龍穂に隠れられないよ~?」


「その時はお二人が私を守ってくれるのでしょう?」


腕から離れた千夏さんはちーさん達と合流して会話を交わしている。


「私は千夏がそう望んでいるならそうするよ。」


「えっ・・?私は?」


「お前は進級できるか分からないからな。」


「なんだとー!!!」


楽し気に話している姿を見て安心する。大学に行っても三人一緒に過ごしている姿は容易に想像できた。


「龍穂。千夏と少し離れるが安心しろ。もし何かあった時は俺達が守ってやる。」


三人を見つめている俺の隣にきた藤野さんが声をかけてくれる。

今の様に千夏さんと関係を結ぼうとする者ならまだまし。

皇學館に千仞達が千夏さんを襲うなんてこともあるだろう。


「・・ありがとうございます。そう言っていただけると安心できます。」


念と影渡りを使えばすぐに駆けつけられるだろうが状況によっては時間がかかってしまう。

その時間を稼いでくれるだけでも俺からすればかなりありがたい。

気付くと千夏さん達や謙太郎さん達の元へみんなが集まっており、周りから人が離れていた。

俺も輪の中に入ろうと足を踏み出そうとした時、肩に誰かが手を置いてくる。


「・・・よっ。」


振り向いた先にいたのは兼兄。

体のいたるところに包帯を巻いており、報告通りかなりの痛手を負っている。

泰兄と一番親しい人物であり、一番話しを聞きたかった人物がやっと目の前に現れて体が固まる。

泰兄について聞きたいこと。封印が解けた時、説明義務があるはずなのに

姿を現さなかったことへの怒り。

様々なことが頭の中をよぎるが、それらを全て飲みこみ兼兄に向かって口を開く。


「・・おかえり。」


親友、そして兄弟の死を目の前で見た兼兄もかなりつらいはず。

そこに俺が追い打ちをかけても意味がない。


「・・・・・ただいま。」


俺から何を言われてもおかしくはないと思っていたであろう兼兄は

少し驚いた表情をしたが、すぐにいつもの顔で迎える俺の言葉に返事をする。


「・・ありがとうな。」


そして俺の隣に立ち、感謝を述べてきた。

笑みや涙で別れを惜しむ下級生達をなだめる三年生達。その姿を少し離れた所から兼兄と眺める。


「どうだった?この約半年は。」


兼兄も俺と色々語りたいことは今ほどあるだろう。

だが今は節目の時。この場でしか語れないこともあるだろう。


「大変・・だったよ。」


半年間を振り返った時、この言葉しか出てこなかった。

良いことも悪いことも全てが一気に押し寄せた半年間だった。


「そうか・・・・。」


「だけど・・・こっからもっと大変になる。そうなんだろ?兼兄。」


今までの出来事のほとんどが全て計画された事なら、

これからの事もこの人は多少なり想定できるはずだ。

そう思い兼兄に尋ねると、間を置いてそうだと呟く。


「時間は作るつもりだ。だが・・・少し待ってほしい。」


「分かってるよ。その代わり・・・全て話してほしい。泰兄の事。そして・・・兼兄の事もだ。」


過去を語ることは傷口を開くことと同義。

大切な人を失いたくない俺にとって今の兼兄に過去を尋ねる事は出来ない。

だが・・・この人ならいずれ全てを語ってくれる。

それまで待つから全てを話してほしいと優しく伝えた。


「・・分かった。ほら龍穂。胴上げするみたいだぞ。」


兼兄に言われてみんなの方向を見ると確かに謙太郎さんを持ち上げようとしているが、

統率が取れずに中途半端になっている。


「時期寮長なんだろ?行ってやれ。」


兼兄が俺の背中を軽く押してくる。

このまま中途半端のままだとと大切な節目が変な雰囲気で終えることになる。


「ほら!みんな集まれ!!」


それは流石にマズイとみんなの元へ走り、全体を集めて謙太郎さんを持ち上げようとする。


「ははっ!!俺を持ち上げられるか~??」


筋肉の塊である謙太郎さんを持ち上げようとしているが綱秀や火嶽、

木下だけでは持ち上げるのは難しい。

俺も加勢して何とか体を持ち上げるがこれだと、空に向かってあげられるか分からない。


「おも・・!!」


このままでは無理だろうと伊達さんと藤野さんも加わってくれるが

上に放り投げた瞬間、二人は後ろに下がって輪から抜け出してしまう。


「おわっ!!!」


当然俺達だけでは支えられず、謙太郎さんはそのまま固い地面に落ちてしまう。

二人が支えてくれなかったことに謙太郎さんは怒るが伊達さん達は知らん顔をしてそっぽを向いた。

その姿を見た千夏さん達はクスクスと笑い出し、ちーさんは腹を抱えて大笑いをし始める。

笑いは周りに伝染し、輪の中は笑顔が溢れていた。


「これが・・続けばいいな。」


支えきれずに倒れ、みんな共に笑っていたが遠くから俺達を見つめる親父と兼兄の姿が目に入る。


「続くさ。それが・・・俺達の仕事だ。」


笑顔で俺達を見つめる二人。悲しい出来事が続いたが、笑顔が全てを吹き飛ばしてくれる。


「次はお前らの番だよな?」


怒った謙太郎さんの矛先は当然伊達さんと藤野さんの方に向けられる。

首を鳴らしながら近づく謙太郎さんだが、それを見た二人はすぐさま逃げ出していく。


「お前ら!あいつらを捕まえろ!!」


謙太郎さんは逃がさまいと二人を捕まえるように指示を出す。

それを受けた俺達は捕まえるために駆け出すが、二人も捕まらないために必死で逃げていく。

その光景を見たみんなはさらに笑顔が溢れる。

こんな笑顔が続けばいいなと必死で二人を追いながら心の中でつぶやいた。


———————————————————————————————————————————————


「申し訳ございません。」


闇に包まれた場で膝を着き、頭を垂れる大柄の男。その先には枯れたような体を持つ老人の姿があった。


「別に良い。魔道省の発言力が弱まった事は事実だがそれはただ単にお前の出世が遅くなっただけ。

わしにとって何の妨げにもならんわい。」


必死に謝る男だが、老人は全く意に返す様子を見せていない。


「それより・・準備は整っておるか?」


「はい。土御門の裏切りは想定外でしたが・・・そのおかげで”仕込み”が完了いたしました。

これであれば大丈夫かと。」


男からの返答に大きく口角を上げる老人。

枯れた肌が動き、乾いた肌がこすれる音が辺りに響いた。


「今までは泰国に全てを任せていたが・・・やはり信じれるのは己のみ。

わし自身が動くとしよう。賀茂家の血を喰らい、日ノ本を手中に収めるためにな。」


深い闇。まるで光も届かないほどの深海のような瞳で老人は笑う。

それはこれから日ノ本に訪れる波乱。そして覆われる闇の深さを示している様だった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ