表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第五幕 残された者達
191/293

第百九十一話 幼い日のトラウマ

胡散臭い人だと思っていた泰国さんが私に寄り添ってくれて、

信頼できる大人だと分かると色々な事を教えてくれました。


「千夏さん。あなたには魔術の才能があります。

魔術とは知識。先人が残した知識が詰まっている書物を多く読むことで

あなたの人生がより華やかになるのです。」


徳川家の血筋である私には魔術の才があることは明らか。

まだ小学校に入りたてでしたが私に魔術を教えようとしてくれたのです。


「嫌・・。もっとお話ししてほしい・・・。」


ですが久しぶりに安心できる大人が近くにいたこと。

そして泰国さんが話してくれるお話が幼い私にとってまるで冒険譚にように聞こえ、

本を読むよりその話しの続きが聞きたかったのです。


「・・分かりました。お話ししましょうか。」


私の願いを聞き入れてくれた泰国さんが嬉しくて顔を上げました。


「ですが。その前に・・・。」


期待の眼差しで見つめていた私の体を持ち上げ膝に乗せて一緒にソファーに座り、

目の前に活字が広がったのです。


「まずはお勉強からしましょう。その後にご褒美として千夏さんが大好きなお話をしてあげます。」


望んでいたお話ではなく、読書からしようと提案され、

頬を膨らませた私を見た泰国さんは優しく頭を撫でてきました。


「そう怒らないでください。私も一緒に読みますから。」


膨らんだ頬を手で挟んで萎ませ、活字の羅列を指でなぞりながらの勉強が私と魔術の出会いでした。


「おおっ!すごいですね!!」


泰国さんとの勉強で知識を蓄えた私は実際に魔術を放ってみたいと思い始め、

おじい様、おばあ様。そして泰国さんに見守られながら始めた放った魔術は拙いながらも成功し、

三人に褒められたことが嬉しかったことは今でも覚えています。

その嬉しさはやる気に変わり、泰国さんがいない間に知識を蓄え

みんなの前で披露することが習慣となり、引きこもっていた私は徐々に外に出る事が増え

それを見ていた近所のお友達と遊ぶことが出来るようになったのです。


それを見た泰国さんが祖父の家に来る頻度は減っていましたが

来た時に新しい魔術を見てもらおうと勉強の時間が増えていました。

そして学校にも行けるようになり、いつもの日常が戻りだしていたとある日、

夜中に偶然水を飲みに起きた私は祖父の書斎のドアが開いており

灯りが漏れていたことに気が付きました。


(何だろう・・・。)


いつもならおじいさまは寝ている時間でしたから消し忘れたのかと近づくと

中から話し声が聞こえてきて思わず口を塞いでしまいました。


(泥棒・・・?)


いるはずのない時間に声がする。私の心に恐怖が忍び寄り、

急いでおじいさまを呼ぼうと思ったのですが聞こえてきた声に聞き覚えがあったのです。


「今日もやるか・・・。」


「大丈夫ですか?昨日からあまり寝ていないのでしょう?」


兼定さんと泰国さんの声が聞こえてきた私は少し安心しましたが、

何故この時間帯にお二人が書斎にいるのか気になってきた私は空いていた隙間から書斎を覗きました。


「・・・・・・・・・・。」


息を潜め、本棚に向かって話しているお二人。

一体何をしているのか見つめていると本棚の中の本を引き抜き真っ黒な本を押し込むと本棚が動き出し、見たことのない鉄製の扉が現れたのです。


「ここに来る時に毎度思うが・・・仙蔵さんには頭が上がらないな。」


兼定さんが小瓶に入った赤い液体を扉を一滴たらすと重苦しい音がなり、扉の鍵が開きました。


「ええ。だからこそ、我々の成すべきことを果たさなければなりません。」


そして二人は扉の奥に入っていく姿を私は胸を高鳴らせながら見つめていたのです。


———————————————————————————————————————————————


千夏さんはネクロノミコンを手に持ちながらこの部屋を見つけた経緯を語ってくれる。


「それでここを見つけたという事ですか・・・。」


「ええ。ですが入っていく姿を見ただけでここに入る過程の詳細は分かりませんでした。

その光景は幼い私の冒険心をくすぐるには十分。

おじいさまにこのことを話さず、誰もいないタイミングで隠し扉を探してみようと心に決めたのです。」


確かに小学生ぐらいの子供には刺激的すぎる光景。俺も同じ状況ならすぐにでも探しに行くだろう。


「おじいさまがお仕事で出かけ、おばあさまがお昼寝をしている時間。

絶好の機会が訪れた私は足音を出来るだけ消しておじい様の書斎へ行きました。

その光景を鮮明に覚えていた私はまずは黒い本の場所を探すと机の引き出しで発見し、

座椅子を使って泰国さんが持っていた本を取り出し黒い本を押し込みました。

するとあの夜見た隠し扉が現れ、私は心は踊りすぐさま鉄の扉の取っ手を引っ張りましたが

びくともしない。ただ重たいだけではなく、鍵がかかっていると確信した私は鍵を探しますが

何処にも見当たらない。


おじいさまがいつ帰ってくるか。そしておばあさまが目を覚まさないかと時間が経つにつれ

心配になってきた私は鍵を必死に探していると木で作られた机の端に指をひっかけ、

傷から流れてきた血を見て思い出したのです。」


「赤い液体が・・鍵という事をですか。」


兼兄が持っていた瓶に入っていたのはおそらく仙蔵さんの血液なのだろう。

あの二人が仙蔵さんを襲うなんてことはないだろうしおそらく鍵代わりに仙蔵さんが手渡したようだ。


「はい。そして鍵が開いた扉を必死に引くと、

そこには闇が広がり僅かに差した日の光が下に続く階段だと教えてくれていました。

急いで懐中電灯を持ってきた私は恐る恐る下っていくと・・・この秘密の部屋があったのです。」


子供にとってこのような部屋は財宝の山のように輝いて見えた事だろう。

色々と探しまわったに違いない。


「私は銃火器に興味はありませんでしたが本棚に敷き詰められてた見たことのない

書物に私は強い興味を惹かれました。

特にこちらの・・・ネクロノミコン。禍々しい雰囲気を見にまとった本を手に取ると

得体のしれない恐怖が心を襲いましたが、子供の私にはそれすら未知の興味心へとなり、

中を開いてしまったのです。」


「でも・・・その本の文字は読めなかったんちゃうか?日ノ本語で書かれてへんかったやろ。」


「ええ。ですがとあるページに語訳用のメモが挟まれており、何とか読むことが出来てしまったのです。

おそらくお二人が必死に解読を試みた結晶だったのでしょう。

そして・・・とあるページの召喚術に引かれた私は愚かなことにその術を試みてしまいました。

床に簡素な召喚用の陣を描き、祝言を唱える。

何が起きるのかと胸を高鳴らせた私の目の前には・・・おぞましい生物が現れたのです。」


———————————————————————————————————————————————


目の前に現れたのは犬に似た顔面を持つ人型の化け物。

蹄のように割れた足と鋭いかぎ爪を持ち腐敗臭をまき散らす化け物を前に

私は恐怖のあまり足がすくんでしまいました。


「あっ・・いや・・・。」


悲鳴さえ上げられず、なんとか逃げようとしますがうまく動くことが出来ず

そのまま後ろへ倒れてしまったのです。

武器も使えず魔術も頭の中に浮かび上がらない。

なす術なくただただ恐怖していた私を見た化け物は匂いを嗅ぎながらこちらに近づいてきました。


「ひっ・・・・!」


体を固め抵抗することが出来ず、近づいてきた化け物は私の匂いを嗅いでおり

足や上半身、そして腰辺りの匂いを嗅ぐと急に動きを止め、大きな雄たけびを上げたのです。


「や・・やめ・・・・!!」


雄たけびの際に上げた腕を見た私は手に付いていた鋭い爪で殺されると本能で察し、

必死に動かない体を動かしましたが逃げる事は叶わず化け物は私に覆いかぶさってきました。

嗅いだことのない強烈な悪臭と恐怖心が私を襲い、気を失いそうになりました。

その刹那、走馬灯が頭に流れ両親やおじい様との楽しい思い出が流れ、

最期に泰国さんの冒険譚や勉強の日々が頭によぎった時、

その楽しい思い出の声が耳に入ってきたのです。


業火炎弾ごうかえんだん!!!」


あまりの恐怖に目をつぶっていた私はそれが走馬灯の一部だと思っていましたが

酷い雄たけびが耳をつんざくと体が軽くなり、何かが激しくぶつかったような音が聞こえてきました。


「泰国!あいつは俺がやる!!お前は千夏ちゃんを頼む!!!」


聞いたことのある聞いたことのある声に目を開くとそこには泰国さんがおり、

横を見ると得物を手に持った兼定さんが化け物と対峙してしました。


「ご・・めんな・・・さ・・・。」


「分かっています。今は私に掴まっていなさい。」


いつも優しい泰国さんでしたが私の愚行に怒りを感じていたのか見たことのない怖い顔をしており、

私を抱きかかえ階段を上がっていきました。

二人の姿を見た事。そして恐怖から解放された私は安心した反動で気を失いましたが

頭の中には怖い表情をした泰国さんが焼き付いていました。


———————————————————————————————————————————————


手にしているネクロノミコンの召喚術を発動させ、化け物呼び出したと語る千夏さん。

翻訳した兼兄達もすごいが、幼い身で成功させてしまう才能に驚いてしまう。


「無知だったとはいえ、よく無事で帰ってこれたと我ながら思います。

おじいさまとお二人が奇跡的に帰宅してくれたおかげで私の命があるのです。」


今であれば簡単に倒せるだろうが幼い身の千夏さんには手も足も出ないような化け物。

話しの通り二人が来なければ確実に命はなかっただろう。


「そんな辛い過去を思い出して・・千夏さん、大丈夫なんか?」


泰兄が亡くなっただけじゃない。

一生のトラウマになるほどの恐怖の記憶が戻ってきた千夏さんだが

この地下室に入ることを躊躇さえしなかった。


「大丈夫です。あの時の私は一人でした。ですが・・・今はあなた方、苦楽を共にした仲間達がいます。

ですからあの時の化け物を怖がるような事はもうありません。」


・・・嘘だ。

昨日の千夏さんを姿を知っている俺は今の一言が嘘なのだと確信する。

もし怖くないのであればあの場で俺と共にこの地下室に入ったはずだ。

片腕を使えないとはいえ、俺がいればそんな化け物は簡単に倒せる。

ではなぜ純恋達を連れてくる必要があったのか。

それはおそらく自らが守らなければならない大切な後輩を連れてきて自らに発破をかけるため。

倒せる実力がある俺に頼り、後輩たちに情けない姿を見せられないようにと

心を奮起させることで千夏さんはやっとここに入ってこれた。


その心中を察し、心配の目で千夏さんを見つめてしまうが

俺の視線を感じ取った千夏さんはにこやかに微笑み返してくれた。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ