第十九話 下の意味
日曜日の朝。実家にいた時に毎朝道場で鍛錬を行っていたいた癖が抜けず
体を動かすため来てみると綱秀と一年生の二人が鍛錬を行っていた。
「くっ・・!!」
「木下。爪が甘ぇぞ。」
綱秀と同じ槍使いの一年もかなりの実力を有しているが、
数少ない隙を綱秀は的確に詰めていく。
「・・さすがだな。」
美しいとも思える二人の槍さばきはまるで演舞の様で見ごたえがあった。
「拓郎は放課後時間があれば綱秀さんと一緒にここへ来てますからね。
あの槍さばきは綱秀さんから教わったんです。」
俺の隣で一緒に見ているのは火嶽将。
つい先ほど戦ったが、彼が振るう木刀は力強く綺麗な動きをしていたのでかなり筋がいいのだろう。
「結構尖っていると思っていたけど、結構後輩思いなんだな。」
「まあ・・・拓郎がしつこく付きまとったから仕方なくやっているのかもしれませんけどね。」
綱秀と戦っているのは木下拓郎。
昨日大浴場であった時、
『一緒に転校してきた子、可愛いですね。連絡先教えてくれませんか?』
といきなり言ってきた。
近くで一緒に湯船に浸かっていた火嶽に頭を叩かれ、
『こういう奴なんで、無視してください。』
そう言われた。スケベな奴らしい。
(風呂か・・・。うまく隠しさないとな。)
風呂の事を考えていると昨晩起きたことを思い出してしまう。
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「これで契約完了じゃ。
「・・・♪」
いやに上機嫌な楓。契約できたことがそんなに嬉しいことなのだろうか?
「楓は舌。龍穂は背中。それぞれあまり見られないようにするんじゃぞ?」
「・・なんでですか?」
「昔の話じゃが、人間との式神契約今でいう結婚指輪みたいなもんでな。
刻印があれば結婚している証と認知されている時もあったからじゃ。」
「昔の話であるのなら今は気にする必要はないのでは?」
「それがなぁ・・・。」
青さんが喜んでいる楓の方をチラッと見る。
察した楓が笑顔で俺の方を見てきた。
「神道に長けた歴史ある家柄では、まだ婚約の際につける所をあるみたいですよ?」
「そうなんだ・・・。物好きな家もあるんだな。」
俺の反応を見た青さんはため息をついた。
「なあ龍穂。八海上杉家は他家からどんな印象を抱かれると思う?」
「え?それは・・・皇に仕えている華族・・だと思います。」
「ああそうだな。ちなみに皇の祖先は神道の神々に当たるぞ?」
「はい。そんなの・・・・・あっ。」
遠回しに何かを伝えようとしていた青さんの意図を汲み取るがそれと同時に頭が真っ白になった。
「そうですね♪八海上杉家も神道に長けた歴史ある家柄ですね♪」
親父の体に刻印が刻まれている所は見たことが無く、家にそんな習慣はないが
初対面で刻印を見た人達は俺が結婚しているのだと勘違いしてしまうだろう。
「・・・狙っていたのか?楓。」
刻印自体を入れるのは悪いことではないが楓が入れたのはいつでも見せることが出来る舌だ。
悪戯好きの楓であればきっと悪用するに違いない。
「どうですかね~?あ、もうすぐ時間なので部屋に戻ります!」
そう言うと逃げるように部屋をかけ、開いた窓から勢いよく出て行ってしまう。
「あ!おい、待て!」
急いで追いかけるも既に手遅れ。窓の外に広がる闇の中へ楓は飲まれていた。
「・・青さん?」
行き場のない怒りを青さんにぶつけようと名前を呼ぶ。
知っていたのならなぜ止めなかったのかと詰め寄ったが
「・・買収されました。」
と両手を上げてその一言呟く。手には封筒が持たれており、そこには”漫画代”と描かれていた。
「なんで・・・はぁ・・・・」
そんなものでこんなことを・・・。そう言いかけたが言葉を飲み込む。
やってしまったことは仕方ない。
後には戻れないと自分に言い聞かせ逃げるように布団に潜りふて寝をした。
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(でも・・・、いずれバレるよなぁ・・・・)
「・・龍穂さん?」
昨日の事を思い出し、ため息をついていると火嶽が心配そうにのぞき込んでいた。
「あ、ああ。どうした?」
「大丈夫ですか?ため息なんかついて。」
「・・気にしないでくれ。」
心配はありがたいが話すわけにはいかないとため息の原因から遠ざけるように返答をする。
「そうですか。・・あの兎歩って技。どうやってやるんですか?」
「あれか?縮地を柔らかく着地するんだ。それが出来れば誰でもできるよ。」
「・・自分がどれだけ難しいこと言っているか分かってます?
眼で追えない速度で移動する縮地で柔らかく着地って・・・人間技じゃないですよ?」
これは褒められているのか?それとも罵倒されているのか?
(火嶽の目の前で何度も使っていたんだけどな・・・。)
確かに難しい技術ではあるが毎日練習すれば出来るようにはなる。
それでも否定されるかもしれないが、少なくとも俺はできるようになった。
「おー!やってるな!!」
道場の入り口が開かれると謙太郎さんと藤野さんが入ってくる。
「お疲れ様です。お二人も鍛錬ですか?」
「いや、龍穂に用があってな。」
「俺に・・・ですか?」
二人がこちらに近寄ってきた。
「ああ。おそらく話は聞いていると思うが、
一週間後に行われる大阪校との交流試合に龍穂と楓で出場してもらう。
京都校から選抜された二人と試合形式で戦ってもらい龍穂達の実力を見てもらうためだ。」
何度も聞かされた交流試合の話か。
確かに出るとだけ聞かされていたが詳しい詳細を聞けてはいない。
「ええ。聞いています。そのことに関して謙太郎さんにお聞きしたことがあるんです。」
いい機会だ。せっかくなので気になっていた事を謙太郎さんに聞いてみよう。
「なんだ?」
「実力を見てもらう相手の話なのですが、‘下”って言うのは何を指しているんですか?」
何度も出てきた下と言う単語。これは一体何を示すのかずっと気になっていた。
「下・・か。誰から聞いたかわからないがこれ以降使うのを止めろ。信用を落としかねないぞ。」
謙太郎さんの明るい顔が一気に険しくなる。
「えっ・・・そうなんですか?」
「おそらく誰かがその単語を使っていたのが気になったんだろうが・・・・。
謙太郎、しっかり説明をしてやれ。理由を聞けば使わなくなるだろう。」
「ああ。そうだな。」
藤野さんも同じように険しい顔をしており謙太郎さんに説明をするように求めていた。
「龍穂はこの国學館には東京、大阪校以外に分校があったことは聞いたことがあるか?」
「・・いえ。聞いたことはないです。」
「国學館東京校普通科。国學館は昔、もっと生徒数が多かったんだ。」
「分校と言った通り、校舎自体は分かれており国學館の山の麓に校舎を構えていて
名前を変えて今も存在自体はしているんだけどな。」
ノエルさんに空を飛ぶ魔導車で連れてもらってきた時、
この山の麓に何かあったような気がするが説明はなくそれが何かはわからなかった。
「特務科と普通科では授業内容も施設の整備も格差が酷くてな。
それに特務科に所属している多くの生徒が華族以上の名家が占めていた。
これも昔の話だが・・・、特務科の授業に普通科の生徒達の手を借りることもあったらしい。
さながら主に使える家臣達の姿に特務科の生徒達の中で
普通科の生徒達を蔑む意味合いで”下”と呼ばれるようになったんだ。」
毛利先生が下と言う言葉を使った時、校長先生が止めに入っていたが
下と言う言葉がまさか蔑称だとは思わなかった。
「・・・そんな意味があったんですね。
でも、なんでその人たちに実力を見せる必要があるんですか?」
昔という事は今は分校ですらないのだろう。その人たちに実力を見せる意味が分からない。
「質問を質問で返して悪いが、この国學館に入学を希望して入れなかった生徒達はどこに行くと思う?」
「・・・?他の・・・名門校とかですかね。」
「そういった選択肢もあるだろうが大半の生徒は元普通科、現在の惟神高校に入学するんだ。
前身の影響もあってな。
国學館とは繋がりがあり、実力をつけて龍穂の様に転校での入学を狙っているんだよ。」
「だが前例は少なくここ数年は転校をした実績はない。
そんな中、名家ではあるが辺境の高校から転校してきた龍穂達はどうしても目を付けられる。
転校を狙っているのは華族達だ。八海上杉家より高い地位の家柄も惟神高校に入学している。
その方々に実力が足りないと目を付けられ転校を余儀なくされる可能性もある。
だからこそ、三道省の高官と惟神高校が見学に来る交流試合の場で実力を示す必要があるんだ。」
国學館への転校を狙い、努力を続けている生徒達を尻目に他所から来た俺達が
悠々と転校をしてきたら文句の一つや二つは必ず出るだろう。
それが華族出身であり、地位も高ければその発言力から俺達を排除しようとするに違いない。
「そうなんですね・・・・。納得しました。」
「一応言っておくが、華族ではなくとも実力でのし上がろうとしている生徒もわんさかいる。
少しでも舐められれば龍穂を倒そうと画策してくる奴もいるだろう。
蟻集まって樹を揺るがすだ。そう思わせないほどの実力を見せなければならない。」
「そんなこと・・・・」
起こることはない。
そう言いかけたが冗談とは思えない謙太郎さん達の表情は一つの疑念を浮かぶ。
「・・・過去にあったんですか?」
高校生がそんなことをできるわけないと思いたいが、
実害が無ければそういった心配を俺に掛けてくることはないだろう。
「それは・・・」
「あったんですよ。」
藤野さんが言いかけた時、再び道場の出入り口が開き毛利先生と見たことの無い男女が入ってきた。
「毛利先生・・・」
「おはようございます。精が出ているようですね。」
登校日ではないのでスーツではなくスポーツウェアを着ている毛利先生。
長い髪も結んでいて凛々しい印象は変わらない。
「今日は龍穂君に用があってこちらに伺いました。
職員室でご挨拶できなかった先生方が龍穂君を一目見たいのだそうです。」
そう言うと一歩下がり、先生方が前に出てきた。
「君の武道の授業を担当させてもらう上泉御影だ。
珍しい居合術と綺麗な太刀筋。良い筋をしているが刀を使う者としては引き出しが少ない様に見える。
指導のし甲斐があると感じているから頑張ってついて来てくれ。」
ポロシャツとベージュのパンツをはいた
引き締まった体の中年の先生がこちらにやってきて握手の手を差し出してきた。
手に何も持っていないのに、その佇まいは体に芯が通っており
友好の構えのはずなのに気圧されてしまった。
だがこのまま手を出さなければそれこそ失礼に当たると握手を交わそうとするが
「・・!!」
一瞬放たれたわずかな殺気に思わず手を引いてしまった。
「これを初見で感じ取るか。思っていた以上に実力があるようだな。」
不敵な笑みをこちらに向けてくる。
「もう何もしない。今度こそしっかり挨拶だ。」
そう言うとわずかに感じさせた殺気はまったく無くなる。
警戒はしつつも、ゆっくりと手を伸ばし上泉先生と挨拶をした。
「・・うん。何度も鍛錬を重ねたのが分かる良い手だ。」
豆を何度も潰し、固くなった皮膚で覆われた手を握り褒めてくれるが
この人の手はまるで岩の様に硬く、刀で出来ない所も固い皮膚で覆われている。
「上泉先生は国内でも数えるほどしかいない武道の特級をお持ちの先生です。
一番得意なのは太刀ですが、その他多くの武器の指導が出来ます。
太刀使いには思いつかないような目線からの指導が行えますので
新たな引き出しを引き出してくれるでしょう。」
武道の特級か。
その条件は上級を取得の上、新たな流派の生み出し武道省に承認されることだ。
上級は武道省が定めた流派を習得し試験に合格しなければならない。
刀や槍、その他多くの武具の流派を習得しなければならないため国内でも取得人数は数少ない。
そして歴史の長い日ノ本で時代と共に洗礼されていった武道で新たな流派を生み出し
認められるのは至難の技だ。
見た目は若く、おそらく三、四十代だろう。
そんな歳で特級まで達しているなんて武道の歴史の中でも屈指の才能の持ち主と言えるだろう。
「次は私の番ですね。」
少し話に間が開いた時、ここぞとばかりともう一人の女性が俺に詰め寄ってくる。
「あなたの魔道の授業を担当します。田中アリア(たなかありあ)と申します。」
花の装飾付けたスーツを着た年を重ねた淑女が目の前に出てきてくると
つんと来るような強い香水の匂いが鼻を襲ってくる。
上品な匂いで決して嫌いではない匂いだが・・これはつけすぎだ。
「武道の才能もあるようですがあなたの魔道の実力はそれ以上のものです。
進むべき道を間違えないように。」
「は、はぁ・・・・」
あまりにぐいぐい来るので思わず引いてしまう。
「・・自分の才能に気付いていないようですね。
あなたの魔力の強さを示したデータをいただいて見させていただいたのですが・・・」
アリア先生は手に持っていた紙をこちらに見せてくる。
一昨日計った魔力測定の結果だ。
「風が飛びぬけて高い数値となっていますがそれ以上に目を引くのは全体的に高い魔力属性。
人間が二十と言う属性の値を叩きだす時、他の値が比例して極端に低くなるものですがそれが無い。
これがどういうことかわかりますか?」
「いえ・・・。分からないです。」
「あなたの潜在能力の高さを物語っているのです。
これがあなたの最大値かもしれませんが・・・全体的に高い数値が
通常の人間の低い数値だと仮定すればあなたの風の属性はまだまだ高くなる可能性がある。
もし本当にそうなった時、あなたは人間ではなく神の生まれ変わりかもしれない。
そう言えるほどあなたはダイヤの原石なのです。」
俺の魔道の才能をデータを駆使しながらしてくれてありがたい限りだが
みんなの前で褒められることはあまり経験が無かったのでかなり恥ずかしい。
「あ、ありがとうございます・・・。」
「ですので、武道ではなく魔道に力を————」
俺に魔道に注力してもらいたいと言いかけた時、毛利先生がアリア先生の腕を掴み止めに入る。
「彼は武道も魔道も才能がありますが神道も同様です。
彼が歩む道は彼が決めるもの。熱くなる気持ちは分かりますが
教師ははあくまでその補助をし、歩みを助ける存在ですので強制はいけませんよ?」
笑顔を作ってはいるものの少量の怒りが伝わってくる。
「・・ええ。分かっていますよ。
ダイアの原石を見つけ、少し興奮してしまったようです。」
「アリア先生は魔術の本場であるイギリスと日ノ本のハーフであり魔術の特級をお持ちで
全ての魔術を高水準でこなすことが出来ます。
高い魔力と精密な魔力操作をお持ちの龍穂君であればアリア先生の指導が
実力へ直接つながっていくと思いますので聞きたいことがあれば気兼ねなく聞くといいでしょう。」
世界各地で使われている魔術はイギリスのものを基盤にしたものであり、
魔術を学ぶのであればロンドンへ行けと言われるくらいだ。
魔道の特級の条件は魔道省が指定した高難易度の魔術の習得と
新魔術の研究の成果をイギリスで上げること。
魔術の歴史も紀元前までさかのぼると言われており
この辺境の島国で新魔術の開発を上げれるという事はこの人もとんでもない人なのだろう。
「さて、お二人の紹介は終わりましたので龍穂君が気になった話をしましょうか。
・・あまりいい話ではありませんが。」
二人の先生の紹介を終えた毛利先生は天井を向きながらつぶやく様に話し始めた。
「惟神高校が国學館普通科と呼ばれていた時の話です。
昔は特務科と普通科は同じ校舎で学んでおり、
現在の新校舎が完成した際にまずは特務科の生徒達のみが新校舎での授業が始まりました。
その時の普通科の生徒達は問題児が多く、しかも特務科の生徒達より家柄が良かった。
もし普通科の生徒達も一斉に新校舎に移動すれば
特務科の生徒達が使う施設の使用を抑えられてしまうかもしれないと危険視したわけです。
ですが・・・その思惑が悪い方向に向かってしまった。」
立ち会う声や先生方の声が響いた道場が静まり返っている。
その場にいる全員が毛利先生の話を真剣に聞いていた。
「素行の悪い生徒達が一部の普通科の生徒達をまとめ上げ新校舎にいる特務科の生徒達を襲ったのです。
ここで特務科を倒せば俺達が特務科に上がれる。もう下と呼ばれることはない。そう唆したのです。
特務科の生徒達も何とか応戦したのですが、
奴らがまとめ上げた生徒達は特務科への昇格を目指した実力のある生徒達。
特務科の猛攻を何とか躱し、統率を上手くとって入学したばかりの一年生を人質に取ったのです。」
「・・それだけ詳しいという事は、毛利先生もその場に?」
腕を組み、静かに聞いていた謙太郎さんが口を開く。
毛利先生が語っている内容はかなり詳細であり、まるでその場にいるような語り様だった。
「ええ。私は特務科の三年生の時の頃です。
一年生を守られなければならない立場であったのですがその時代はまだ実習の負担が多く、
疲れ切った体で不覚を取ってしまいました。
ですがこれは全て言い訳。結果として・・・・死者が出てしまったのです。」
「その普通科の生徒達が・・・?」
「ええ。激しい抵抗をした一年生全員の命を奪ったのです。
それを知った我々は怒り、全力で奴らを捕え武道省に身柄を渡したのですが
本当の戦いはここからでした。
当時の校長が主犯の生徒達の両親からの圧力に屈し
罪を報告するどころか戦った私達に罪を拭おうとしたのです。」
「そんな・・・」
「何とかしようにも校長の権限で寮内へ閉じ込められ身動きが取れない状況に陥った我々に
取れる手段はなく、武道省に捕えらえるのを待つばかりでした。
ですが強固な寮内の鍵を解く者が現れ神道省長官、皇に報告をすることが出来た。
我々の中で皇と縁がある者がいて幸運だったと思います。
皇の計らいで改めて操作が入り、全ての真実が暴かれ主犯や率いられた生徒達は捕まった。
隠蔽しようとした校長も捕まり、事態を収めることが出来なかった先生達は解雇。
そして皇と親交があり、魔道省長官であった徳川さんが校長に就任し、
ここにいる御二人もそのタイミングで先生に就任しました。
その影響で普通科は国學館と言う名前をはく奪され惟神高校と言う名前に変わり、
入学条件に一つの項目が加わりました。
それは推薦者。二人の推薦者を設けることで生徒が何か問題を起こした場合、
親と同等の処罰が施されることになりました。
これは入学する生徒をふるいにかけると同時に責任を重く負わせることになります。
ちなみにこれは惟神高校も同等の条件を設けており同じような事を起こさせないための施策です。
ですが、この施策を打ったうえでも問題の解決には至っていない。
例えば・・・涼音さんの件も種類は違えど同じような問題だと捉えています。」
涼音・・・京極さんのことか。
クラス内でいじめを受けていたが綱秀が助け、いじめっ子達を退学に追い込んだ件だ。
「涼音さんと綱秀君。お二人には本当に申し訳ないことをしたと思っています。」
「いえ・・俺が先生達に報告しなかったですし・・・。
それに俺がいじめているとあいつらから言われたのに俺達の話を信じてくれたじゃないですか。」
「そんな事態になる前に気付かなければならないのが教師の務めなのです。
まだ未熟な私のせいでそんな思いをさせてしまってお二人には本当に申し訳ないと思っています。」
綱秀に向かって深々と頭を下げる毛利先生。本当に後悔しているのだろう。
「話が脱線しましたね。
こういった事件で国學館ではなくなった惟神高校ですが、扱いとしては以前の普通科と一緒です。
今話した事件を起こすことはないと思いますが、
万が一のことがありますのでクーデターを起こそうなんて思わせないほど
圧倒的な実力を交流試合で見せていただきたいのです。」
綱秀の件もある。クーデターが起きないとは言い切れない。
「・・・分かりました。」
毛利先生の願いを叶えるため承諾する。
相手は純恋と桃子だが、向こうも親父と取引のために本気で来るはずだ。
恐らくいい勝負ができるだろう。
「ありがとうございます。心強く承諾していただけるとこちらも安心です。」
下と言う言葉が生まれた経緯。そして国學館で起こった事件は衝撃的なものだった。
俺の身を守るためにも、国學館に残るためにも全力で純恋達に立ち向かわなければならない。
「話は以上ですか?少し龍穂君の魔術を見たいのですが・・・・」
話しが切れるタイミングを伺っていたアリア先生が俺に魔術を使わせようとするが
隣にいた上泉先生が止めに入る。
「先程の毛利先生の話を覚えていますか?
今日は休日です。そう言ったことは授業内でやるべきでしょう?
私だって立ち会いたいところを我慢しているのですから。」
「別に毛利先生がおっしゃっていたことを破ってません。
立ち合いたちのであれば、龍穂君の許可を取ればよろしいのでは?」
大人しく聞いていた先生達だが俺の実力を見たいと言い争いを始める。
それを見た手を止めていた綱秀と木下も立ち会いを再開し始めた。
「奥の二人は辛口の先生達が龍穂君の事をべた褒めしていたのを見て
危機感を感じたのかもしれませんね。」
「・・いいねぇ。俺も体を動かしたくなったぞ!!」
謙太郎さんがやる気を出した綱秀達の方へ歩いていく。
藤野さんもため息をつきながらその後を追って歩き始めた。
「一気ににぎやかになったな・・・・」
「良いことです。・・龍穂君。」
何かを思い出したようにこちらに近づいてくる毛利先生。そして耳に近づき一言、
「式神が一体増えたようですが、なるべく他の方には見せない方がいいと思いますよ?」
その言葉を聞いた瞬間、顔から血が引いていった。
「龍穂君の神道の授業の担当は私です。
龍を使役している時点でかなりの実力は有しておられるでしょうが、私は特級を取得しています。
ビシバシ指導を行っていきますでのこれからよろしくお願いしますね?」
神道の特級にまでなると式神契約の数まで見抜けることができるのか・・・。
「は、はい・・。よろしくお願いします・・・・」
驚きが恐怖へと変わり、どう言い訳をしたらいいかわからず
苦笑いをしながら毛利先生に対して空返事をするしかできなかった。
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