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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百八十三話 封じられていた記憶の真実

「兼定!!全員を退避させなさい!!!」


敵であるはずの土御門が、俺を守るように近づいてくる老人の前に立ち塞がる。

辺りを見渡すと白の部隊を振り払った土御門を抑えようとみんなが動いていたようで、

俺を支えてくれていた謙太郎さんもすぐに俺を支えに戻ってきてくれる。


「ほぉ。主の前に立ち塞がるか。その傷でようやるわい。」


老人は自らを阻む土御門に向かって口角を上げながら言い放つ。

わが主・・・まさか、こいつが・・・!?


「やらせませんよ・・・!!!」


立ちはだかる土御門を気にせず、老人がこちらに近づいてくる。


「なんだか分からんが・・・!」


戻ってきてくれた謙太郎さんは俺を抱きかかえ老人から距離を取ろうと試みてくれる。

抱えられて見た景色、それは急いで避難する白の部隊達と俺を守ろうと動き出す兼兄達の姿。


「・・やっと来たな。」


遠ざかっていく兼兄が土御門に向かってそう呟いたような気がする。

まるであの老人をここに呼び出したような一言、ここまで計画したような口ぶりだ。


「久々じゃの小童ども。見ないうちに育った様じゃな。」


「”賀茂忠行”・・・。今度こそお前を殺させてもらうぞ。」


俺を狙い、俺が倒さなければならない男が現れた。

出来るのであれば俺も兼兄達と共に戦いたいがそれどころではない。

謙太郎さんが向かっている先には大きな影のに続々と入っていく白の部隊達が見える。

伊達さんと千夏さんの姿は既になく、かなり危険な状態なのにも関わらず

藤野さんと桃子は俺たちの事を待っていてくれた。


「こっちや!!」


得物を抜き、何が起きてもいいように構えてくれている。

命を狙われている本人がこの状態では戦えない。兼兄達には申し訳ないが、ここは素直に逃げるべきだ。


「さて・・・我が子孫を大人しく差し出してもらおうか?」


「いやだね。俺達を倒してから奪い取ってみろ。」


竜次先生の声が聞こえてくる。桃子たちが待つ影まであと少し。


「威勢がいいな。だが・・・別にお前達の相手などしなくても—————————」


あと数歩。手を伸ばせば影に届く距離まで迫っている。


「この場の全ては既に我が手中なのだぞ?」


あと少しで戦場から離れられる。

だが俺を抱きかかえてくれている謙太郎さんは苦しそうな声を共に体勢を崩す。


「謙太郎!!!」


俺を離さまいと必死に抱えてくれる謙太郎さんだが、肩から得体のしれない何かが飛び出している。

そして後ろから聞こえてきたあの老人、賀茂忠行の声が聞こえてきたことで頭が理解してしまう。

奴は・・ここで俺を殺す気だ。

先ほどまでは体がそう叫んでいたが、目の前はっきりと表れた死が俺をさらなる恐怖へと誘っていく。

体が硬直してしまいそうになるが目の前にある影、

助かる希望の道が視界に写っている事に何とか精神を保ち、必死に手を伸ばす。


藤野さん、そして桃子も助けに来てくれており魔術や神融和の一撃を俺の後ろに向けて放つが、

謙太郎さんと同じく何かに襲われ二人共体を貫かれてしまう。

腕や肩、致命傷を避けた二人だがなす術く倒れる二人を見て

動けない謙太郎さんを置いて必死に逃げようと体を影へと動かした。

肩に一撃をもらった謙太郎さんは暴れる俺を支えきれず、固いコンクリートに打ち付けられるが

希望の道へ逃げるために体を動かし必死にもがく。

後ろから三人の声が響いてくるが気にしている余裕は一切なく、

本能が逃げる事だけを考えさせ体を動かしていた。


「ふん、他愛もない。」


あと少しで影に触れられる。動かない体で何とか腕を伸ばすが鋭い痛みが手を襲う。

見ると手の甲に謙太郎さんや桃子たちの体を貫いていた得体のしれない何かが突き刺さっていた。


「ぐぁ・・・!!」


貫いた何かはよく見ると蛸のような触手をしているが、そんなことを気にしている余裕はない。

俺の後ろには死神が迫っている。このままだとなす術なく殺されるだけだ。


「どれ、味見と行こうか。」


突き刺さっていた触手が暴れ出すと肉が引き裂かれ血があふれ出してくる。

べったりとついた状態で触手が引き抜かれる。

死神から逃げるために体を起こし、後ろを振り向くと体から生えた触手に付いた血を

舐めとっている賀茂忠行の姿がそこにはあった。


「・・美味。この味だ。」


俺の血を舐めた賀茂忠行は光悦の表情で天を見上げている。


「久しい・・・。幾度と貪ってきた血肉だが、何度口に入れても飽きる事はない。

舌に伝わってくる血が全身に回り・・・永い年月を共にしてきたこの体に活力を与える。」


俺の血を啜る賀茂忠行が目の前にいる。八海で鬼に襲われ、親父に説教されたあの日。

俺の生まれ、そして使命を聞かされたがあまりに現実味がない言葉を聞いて理解を示したものの、

頭の隅にはそんな非現実的な事があるはずはないと思っていた。

だが目の前の現実はそんな俺の考えを全否定し、俺の血肉によって

干からびたような肌に潤いが与えられていくのを目の当たりにする。


「あっ、ああ・・・・・。」


体を動かし六華で切りつける事も、魔術や神術で応戦する事さえできず

手を使って後ずさり事しかできないが貫かれている手ではうまく体を動かせやしない。


「この味を味わってしまうと・・・口いっぱいに頬張りたくなってしまう。」


奴の体から触手が放たれると逃げ場を塞ぐように俺の背後に打ち込まれる。


「生命の核、心の臓をな。」


そして俺を喰らうために賀茂忠行がこちらに近づいてきた。


「歯を突き立て、肉を割いた瞬間。口内に溢れる血肉。

半世紀は口にしていなかった。存分に・・・喰らってやろうぞ。」


体から生えた宿主を蠢かせながらこちらへ近づいてくる。

奴は殺そうと思えば・・・すぐに触手が俺の心臓を貫くだろう。

誰かに助けてもらおうと思い、辺りを見渡すがそこには傷つき倒れている

謙太郎さんや藤野さん、そして桃子の姿しかなく絶望が目の前に広がっている。

兼兄に助けを呼ぼうとしても喉から声すら出ない。

賀茂忠行が・・触手をこちら向ける。俺の心臓を的確に狙った一撃を止める術などない。

出来るのは手で景色を隠しながら目をつぶり現実逃避だけ。

賀茂忠行の一撃を・・・受け入れるのみだった。



「・・・・!!!」



耳に響いた肉が避ける音。心臓を貫かれて・・・俺は死んだ。

だが・・来るべきはずの痛みが体を襲ってこない。

賀茂忠行は俺を一撃で殺し、ここは既に死の世界・・・なのだろうか?


(耳鳴りが・・やまない・・・。)


だが不快な耳鳴りは俺の頭になりっぱなしであり、それは俺が生きている事を証明してくれていた。

だとしたら肉の割ける音の正体は一体何なのだろうか?

賀茂忠行の一撃は確かにこちらに向けられていた。


おそるおそる目を開ける。先ほどまで太陽に照らされた屋上にいたはずなのに

薄く光が差し込んだ暗闇が目の前に広がり、血の匂いが充満している。


「・・・・・・?」


そして・・・体に何かが触れている感触があることに気が付く。

それは俺の守るように体を覆っているようで、一体何が起きたのかと顔を上げる。


「ぶ・・じ・・・なようですね・・・。」


そこにいたのは・・・土御門泰国。口から流れている血は・・兼兄達との戦いで流れたものではない。


「な、なん・・で・・・・。」


充満する血の匂いの正体。目線を落とすとその正体が眼前に広がっていた。

土御門の胸には賀茂忠行が放った触手が突き刺さっている。

本来であれば俺に突きささるはずの触手から・・・俺を庇い自らの体に突き刺していた。


「と・・うぜんです・・。私はあなたの・・”兄”の一人なのですから・・・。」


兄の・・一人?


「あ、ああ・・・。」


その言葉を聞いた瞬間、頭の中に鎖が弾け飛んだような音が聞こえると、今まで忘れていた出来事。

いや、封じられていた記憶が全て頭の中に解き放たれる。


「何故守る?お主・・命が惜しくはないのか?」


「い・・のちなぞ・・・おしく・・ありません・・・。

かれは・・・われわれのきぼうなのですから・・・。」


俺を守ってくれていたのは・・兄。血は繋がっていないが・・・この人は確かに俺の兄だ。


「待って・・。ここで死んじゃ・・・。」


決して死んではならない人。この人は・・・俺にとって大切な人だ。


「だ・・いじょうぶ・・・です。わたしが・・あなたを・・・。」


俺の手を血にまみれた手で握ってくれる。

必死に握り返すが・・・記憶が戻ってきた脳が耐えきれず、視界が微睡み闇に包まれていく。


「やす・・にいちゃん・・・。しんじゃ・・・。」


もう・・・手を握る事さえできない。

ゆっくりと離れていく手の感覚を最後に・・・意識が途切れた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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