第十八話 仕組まれた戦いと準備
「龍穂と戦い勝利する。これが条件だ。」
話しについていけない頭をさらにぐちゃぐちゃにかき回されてしまい親父の発言に理解が追いつかない。
「なっ・・・!?」
「た、戦う・・・?」
俺と同じような反応をする純恋。後に立っていた桃子が反応し再び鯉口を切るが
隣に座っていたはずの楓がいつの間にか柄頭を押さえていた。
「・・刀を抜くのは全て聞き終えてからでも遅くは無いはずです。」
「例え皇に使える一族の長であろうとこんな戯言をほざいて良いはずがないやろ。
純恋を守るために・・この場で切り伏せたる。」
「あなたの意見に私も同意ですが何か裏があるはずです。
もし、本当にふざけた内容なら龍穂さんを守るために私も影定さんに刃を向けましょう。」
楓の静止を求める言葉に、桃子は大人しく従い納刀する。
兎歩を使った移動と巧みな言葉は桃子の暴挙を見事に防いだ。
「ああ、少しでも龍穂が強くなれるように戦え。」
「・・ここは人が多すぎるで。わざわざ八海まで行けってことか?」
「そうじゃない。龍穂、お前今どこの学校に通っているか行ってみろ。」
親父はほんの少しだけ口角を上げながら俺に命令してきた。何も知らない純恋達をからかうような顔だ。
「・・昨日から国學館東京校に転校したよ。」
煽れていたとはいえ、大人げなく煽り返す親父だが
はぐらかしても隠しても仕方がないと素直に従い純恋に伝える。
「なっ・・んやて・・・?」
眼を見開き驚愕の表情でこちらを見つめてきた。
「これで少しは理解できたか?龍穂達は今東京へ住んでいる。そして・・・・」
灰と共に煙草を落とし靴で踏みつける。
「戦場は既に用意されている。」
そしてにやけた顔からいつも通りの真剣な顔へと変わった。
「戦・・場?」
「・・交流会か。」
訳が分からずどういうことかと考えていた時、桃子がつぶやく。
「そうだ。龍穂と楓は実力を示すために出場はほぼ確定。
純恋と桃子も前年体調を崩していたため棄権が続いていたが、
そろそろ出ろと”下”からせっつかれているはずだ。」
校長室でも聞いた下と言う言葉。
地位が高い人物などを上と言うことはあるが下とは一体何を示しているのだろう?
「良い機会だ。俺が掛け合って龍穂達と純恋達がかち合うようにしておく。
それに勝てば・・・ヒントを教えてやる。」
「負けた時のあんたの望みってなんやねん。それを聞かなきゃ首を縦には触れへんで。」
「それは言えない。負けた時のお楽しみだ。」
親父は純恋が断れないと知っていて負けた時の条件をチラつかせさえしない。
「・・・ええで。やったるわ。」
飲まざるおえない純恋は抵抗することなく受け入れた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ親父!」
話し合いがつく前に何とか割って入る。
「なんで俺と純恋が戦わなくちゃいけないんだ!?別の方法で決めても—————」
「だまれ。」
遅すぎる指摘だが言わなければならないと声を上げるが親父はたった一言で俺を黙らせる。
「龍穂、お前は負けたら八海に戻ってきてもらう。いいな?」
そして俺にも条件を叩きつけてきた。
「親父・・・・」
「これはお前のために言っている。
実力が無ければ国學館では生き残れない。それに・・・”この先”もな。」
眼を合わせようとせず、どこか遠くを見ながらしゃべっている。一体何を企んでいるのだろう?
「・・時間だな。」
身に着けている腕時計を見て、親父がつぶやく。
「これ以上は皇が心配する。二人とも、帰るぞ。」
「・・久しぶりに会えたんや。もう少しだけ話しをしても———————」
「だめだ。自己責任で外に飛び出し、許可を取ったとはいえこれ以上の時間延長は許せない。
それに戦うのが確定している相手だ。あまり親しくしてはお互いのためにはならないだろう。」
純恋の願いを拒否した親父。
助けを求めて桃子の方を見るが首を振り純恋の手を握る。
「はぁ・・・」
観念したように項垂れた後、俺の方を向いた。
「龍穂。話の流れで察しはついているやろうけど・・・アンタの記憶は封印されてる。
私の場合、時間経過で徐々に解けていったけど龍穂は違うみたいや。
次会う時はお互い敵同士やけどその時まで少しでも記憶を取り戻しておいてほしい。
そうすれば・・・お互い違う景色が見えているはずや。」
そう言うと振り返り出口へと向かって行き
奥から出てきた親父と同じスーツを着た二人組と合流した。
「・・楓。こっちにこい。」
二人を追おうとした親父だが、何かを思い出したように振り返り楓を呼ぶ。
警戒しながらも、楓は親父に近寄り小さな声で何かを話し始めた。
「・・良いんですか?」
「ああ、両親から連絡をもらってな。楓にあったら伝えてくれと頼まれたんだ。
後は楓しだいだが・・・その意志はあるか?」
「・・はい。龍穂さんを捕まえて今日中にはしたいと思います。」
親父と話している楓の背中から生えている黒い羽がより大きく、力強く魔力を放ち始める。
だが怒っている雰囲気はせず、むしろ何か張り切っている様に見えた。
「そうか。張り切るのは良いことだが龍穂と同意の上で行ってくれ。
お互いにとって大切な事だろうからな。」
「分かりました。」
話終えた親父は足早に純恋達へと合流するために屋上の出入り口へ向かっていった。
「楓。」
俺達しかいなくなった屋上で楓を呼ぶ。
羽をしまった楓が妙にウキウキとしながら俺の方へ近づいてくるが
今日の出来事について問い詰めなければならない。
「どうしました?」
「楓は一体何を知っているんだ?」
「・・龍穂さんに隠し事をしていたつもりはありません。
幼い頃の記憶なので全ては覚えていませんし何より今まで話題上がらなかった。
話す機会がなかっただけです。」
「それは俺の記憶が封印されていたからだろ?」
「そうなのかもしれませんね。ですが影定さんが隠したかった記憶は私は持っていません。
その場にいなかったんです。」
「どういうことだ?」
楓は後ろに手を組みながら視線を逸らすように俺に背中を見せる。
「仲良く三人で遊んでいた途中ではぐれてしまったんですよ。
それを両親に伝え、必死で探していた最中に何かが起きた。そう聞いています。
一応口止めはされていましたが・・・
龍穂さんと純恋さんが出会っていた出来事についてまでは口止めされていません。
事実影定さんも龍穂さんに説明を求められた時、すぐに純恋さんの事を話していたじゃないですか。」
じゃあなんで純恋と出会った時俺と接触させないようにしたのか。
そう聞こうとしたが、くるりと振り返り人差し指で俺の唇を軽く押さえてきた。
「もう少しだけ会わせたくなかったんですよ。
龍穂さんが思い出して純恋さんに”答え”を言ってしまう前に私もやりたいことがあったんです」
人差し指をゆっくりと離し、満面の笑顔を浮かべた。
「・・やりたいこと?」
「ええ。その準備は整いました。
今日の夜、消灯後にお部屋に伺いますので眠らないで待っていていただけませんか?」
楓が良くやるお願い。
何かをしてほしい時、手を後ろに組み腰を曲げ飛び切りの笑顔で見上げてねだってくるのだが
何時にもまして顔が近い。
「わ、わかった。」
圧に押されてすぐに承諾してしまった。
「ふふっ♪ありがとうございます。」
俺の答えを聞いた楓は上機嫌のまま体勢を整え携帯を見た。
「良い時間ですね。青さんに連絡を入れて寮に戻りましょうか。」
そう言うと楓は俺の手を引いて歩き出した。
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楓と寮に戻り夕飯を前に一度自室に戻るために廊下を歩いている。
楓が青さんに連絡を入れたが、あの青さんが珍しく先に帰っていたようで
それが逆に嫌な予感を漂わせていた。
(俺の中にいた青さんなら封印されている記憶について何か知っているかもしれない・・・。)
封印されている以前に思い出せない記憶についても出来れば聞きだしたいと思っていると
俺の部屋の前に何かが置かれていることに気付いた。
「・・あ!遅いぞ龍穂!!」
扉の横に壁に背中から寄りかかって座っている青さん。
その隣には・・・
「・・・は?」
大量の漫画が塔の様に何基も積まれていた。
「謙太郎の奴、漫画にハマってしまって様で一々漫喫に来るよりか買った方が早いとまで言い出してな。龍穂には必要ない本を全てどかし、わしのお気に入り達を入荷しようという話になった!」
・・何を言っているんだこの人は。
色々話を聞く前に説教を済ませないといけないようだ。
「・・青さん。話が————」
「おお!待っていたぞ!!」
説教を始めようとしたその時、塔の奥から謙太郎さんが顔を出す。
青さんと同じように廊下で漫画を読みながら俺の帰りを待っていたようだ。
「俺の部屋に置くのには限度があってな!
龍穂の部屋を使っていいと青さんから許可を得て持ってこさせてもらった!」
「・・謙太郎さん。色々言いたいことがありますが、まずはこんな量は俺の部屋でも入りきれません。」
例え全ての参考書を本棚から抜いたとしても入りきらないほどの量。
どうやって運んできたのかも気になるが、まずは返品を検討しなければならない。
「安心しろ!そのための本棚も買って置いてある!」
塔に隠れていたのは謙太郎さんだけではなく四つの本棚が置かれていた。
組み立てもご丁寧に既に終わっており、設置してしまえばいつでも使える状態だ。
「はぁ・・・・・・・。」
早く部屋の扉を開けてくれと言わんばかりの眼差しでこちらを見つめてくる二人。
このまま説教をして拒否をしてしまえばこの大量の本は部屋の前に置かれたままになり
他の生徒達やアルさんに何をしているんだと怒られてしまうだろう。
「・・入ってください。」
呆れながら生徒手帳で部屋を開けて二人を自室へ招く。
「謙太郎!!」
「はい師匠!!!」
喜びながらせっせと本を中に運んでいく。
(師匠・・・?)
今日一日で二人で何があったのだろう?
気になってしまうが、先に聞かなければならないことがある。
とにかく二人の気のすむまで部屋を明け渡すことに決めた。
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「・・・・・・・・・・・・・・」
あの後本棚の本を全て取り出し、
買ってきた本棚も素早く組み立て山の様にあった漫画が全て部屋の中に納まってしまった。
「謙太郎よ。わしの推した漫画、全て読んでからこの部屋に来い。さすれば次なる知識を授けよう。」
「はい!精進して参ります!では!!」
まるで弟子を旅に送るような一幕が目の前で行われている。
いや、漫画の弟子ではあるのだろうからこの状況は間違っていないのかもしれない。
意気揚々と部屋を出ていく謙太郎さんと名残惜しむように眺める青さん。
ここが俺の自室ではなく、二人が手に持っているのが漫画では無ければ
少しぐらいは感動したのかもしれない。
「・・・・さて、わしもあやつに負けないぐらい精進するか。」
そう言うと青さんはソファーに寝転がり手に持っていた漫画を読み始める。
何が精進なのだろう。
「青さん。少し聞かせていただきたいことがあるんですが・・・。」
このままだと消灯までずっと漫画を読んでいそうだ。
来れるかわからないが楓がこちらに来ると言っていたのでそれまでに済まそうと声をかける。
「ん?なんじゃ?」
「二条純恋って子をご存じですか?」
まずは純恋の名前を聞いてみる。俺の記憶がない頃から近くにいたので知っているはずだ。
「・・・どこでその名を?」
読み始めたばかりの漫画を閉じ、座り直して対面にいる俺に対し真剣な眼差しで聞いてきた。
「買い物に行った先で出会ったんです。そこで・・・・」
これなら話を聞いてもらえると今日の出来事を青さんに語る。
「・・・そうか。」
全てを聞き終えた青さんは腕を組み、何も置かれていないテーブルを眺めていた。
「青さんは俺が知らない記憶を全て知っているんですか?」
「・・ここまで来たら隠しても無駄じゃな。ああ、知っておる。」
「じゃあ・・・」
「話せん。今の龍穂には手に余る記憶じゃ。大人しく諦めろ。」
封印されているという記憶の中身を聞こうとしたら先に無理だと言われてしまった。
「・・・・・。」
「納得いかないかもしれんが、龍穂のためじゃ。安心しろ、いずれ記憶を取り戻す時が来る。」
全て知っている青さんがそう言っているのであればと俺は文句を飲み込む。
「分かりました・・・。」
「それにしても、純恋に会っておったとはのぉ。
しかも初対面でにらみつけ、さらには怒っておったとは昔とずいぶん変わった様じゃな。」
「へぇ・・。昔は大人しかったんですか?」
「それは自分で思い出せ。記憶とは印象深い出来事を紐づけて刻み込まれるもの。
封印されているせいで思い出しにくくなっているが、純恋と出会ったことで徐々に思い出すはずじゃ。」
そんな話をしていると、外から消灯時間の合図が聞こえてきた。
「もうそんな時間・・・あっ。」
「何じゃ?」
「楓が消灯時間に部屋に来ると言っていたんです。どうやって来るのかわかりませんが・・・」
楓の生徒手帳では男子寮には入れない。
果たしてどうやって来るのだろうかと思っていると、カーテンの奥の窓を叩いている音が聞こえる。
「・・・・・・・・?」
何だろうとカーテンを開くと
「こんばんわ♪」
紐でぶら下がっている部屋着の楓の姿があった。
「へ・・?」
「早く開けてくれませんか?バレるとまずいんで。」
かすかに聞こえた声を聴き、急いで窓を開けて楓を部屋に入れる。
「お邪魔しまーす。」
「何考えてんだ!?こんなことしたら・・・」
外に声が響いたらマズいことになるので素早く窓を閉じ楓に説教をする。
「先輩たちに男子寮に入る方法を教えてもらったんです。
まあ、一応ばれても大丈夫な様に手を回してはいますよ。時間制限付きですが。」
そう言うと、楓は漫画が置かれている部屋に向かっていきさらには寝室にまで踏み込んでいく。
「すごい数の本が積んでありますね。」
本棚の前の住人達の置き場がなく、一時的に寝室に避難させていた。
「・・楓や。そう言う事か?」
俺と共に追いかけていた青さんは楓に何かを確認している。
「ええ。手早く済ませましょう。」
頷く楓は俺のベットに腰を掛けると、手ですぐ隣を優しく叩く。
「龍穂さん。こちらへ。」
楓と青さんの意図が読めず、何もわからないまま誘われた所へ座った。
「龍穂さん。式神って知ってます?」
神道を少しでも齧っていれば誰でも知っている事を楓は聞いてくる。
「知っているけど・・・。」
「じゃあ、”人間”の式神は?」
「人間の式神?」
式神とは通常精霊や神と行う契約であり、
どちらかの命が絶たれることが無ければ断ち切ることが出来ない強力な契約だ。
それを人間と行うなんて聞いたことが無い。
「・・いや、聞いたことが無い。」
「現代では広く伝わっていないですが、式神の契約は人間とでも行えるんです。
携帯電話が無い時代、念を用い遠くにいる契約者と連絡を取るためなどの
利点を踏まえ使われていましたが断ち切れない契約なので
主従関係を結んでいる人達が主に契約を結んでいました。」
「そうなんだ。それを・・・・俺と?」
「ええ。そう言う事です。」
楓は屋上で見せたような漫勉の笑みをこちらに向けるがどこかぎこちなく感じる。
ほんの少しだが緊張しているようだ。
「神や精霊と人間の式神契約の効果は一緒ですが儀式の内容が異なっていまして・・・
どうしても第三者が必要なので青さんに協力してもらいました。」
「そう言う事じゃ。楓、”どれ”にする気じゃ?」
「・・欲張りたかったですが、時間制限もありますので手早く出来る方法にします。」
「了解した。龍穂、流れに身を任せておるがこの契約をしてしまえば念話は出来るものの
心情の変化を強く感じ取ってしまうなどデメリットもある。
後戻りのできない契約じゃ。本当にするのか?」
長く生きている精霊や神は精神力が高い。
人間の不安などほぼ感じることなく受け流せるが人間同士であると
同情などで強く感じてしまい、精神にダメージを負ってしまうだろう。
「・・ええ。大丈夫ですよ。」
それを死ぬまでずっと感じなければならないとなると流石に考えてしまうが
これから先、楓とは離れることないと思っているので慣れるために
早めに契約しておいた方が良いだろうと承諾した。
「一応聞くが・・・楓は?」
「もちろん!お願いします!」
「よし分かった。では二人とも、体の向きを変え向かい合って座ってくれ。」
ベットの上で正座で向かい合う。
今までにない異様な雰囲気になぜか緊張してきた。
「さて・・儀式の技法はいくつかあるが・・・。」
通常の式神の儀式は難しくはなく相手に自らの実力を示し、
勝てないと認めさせお互いの神力を交わすことで契約は完了となる。
その他に無理やり契約を結ぶ方法もあるようだが契約した精霊や神の実力が使役者より高い場合、
命令を無視し襲われ殺されてしまうこともあるようだ。
「・・・・・・。」
青さんが技法を悩んでいると、楓が何かを訴えるように青さんをじっと見つめている。
「・・・任せよう。準備が出来たら言ってくれ。」
楓の熱視線に折れた青さんは楓に技法をゆだねた。
「龍穂さん。人間の式神使役は神力を交わしたとき、刻印が刻まれます。
他人に見せても何も問題ないですが基本的には隠しておくものです。
衣服で隠れる場所が良いと思いますが・・・どこがいいですか?」
刻印・・か。
楓の言う通り、あまり見えない所に付けておきたいが流石に限度があるだろう。
「・・・背中がいいな。」
体の全面部分にあればどうしても目に入り気にしてしまうだろうと背中を選択する。
「背中ですね。では、服を脱いで背中をこちらに向けてください。」
「・・・・・はい?」
「ですから、服を脱いでください。
人の式神儀式ではお互いの神力を交わす時、”体液”を使います。
出来るだけ濃いものが必要になりますので少しだけ傷をつけて血を出させてもらうので
我慢してくださいね?」
楓は早くしろと言わんばかりに俺の着ているシャツを脱がそうとして来る。
一人で脱げると自らシャツを脱ぎ、上半身裸のまま楓に背中を向けた。
「では、失礼します。」
金属がこすれるような音が後ろから聞こえると小さく、鋭い痛みが背中の中央部分を襲う。
自慢のクナイで傷をつけたのだろう。
「・・始めるぞ。」
青さんが胸の前で両手を叩くと”神言”を唱え始める。
小さな声でぶつぶつと唱えており、静かな部屋の中でも内容は聞き取れないほどだ。
一通り唱え終えた後、青さんは叩いた両手で俺と楓の肩を掴むと
まるで俺達の中に流れる神力を繋ぎ、循環しているような感覚に陥った。
「・・・楓。」
お互いの神力が行き来し、体の中に溜まっていくのを感じる。
青さんが楓に合図を出した。刻印を刻む段階になったのだろう。
「・・・・いただきまーす♪」
儀式中とは思えない言葉が楓から飛び出したかと思うと
背中に生暖かく、湿った感触が飛び込んでくる。
「ひっ・・!?」
予想外の感触に何が起きたのかと体が反応し、
振り返ろうとするがわき腹をがっちりと捕まれ動かすことが出来ない。
「じっとしてろ。」
青さんに静止され、体を動かすのを諦めるが背中を襲った感触には覚えがあった。
おそらく楓は俺の傷口を舐めている。なぜそんなことをしたのか?
式神の儀式にそんなことが必要なのだろうか?生暖かい感触に耐えながら考える。
「・・よし。完了じゃ。」
青さんが終わりの合図を告げるが、楓は舌を背中から離そうとしない。
「か、楓!」
「体液の濃い部分を選ぶ際、多くは血を選ぶが一応唾液でも契約自体はできる。
じゃが、その代わり触れた部分に刻印が刻まれるから選ばれることはごく少量じゃが・・・」
舐めるのを止め、今度は傷口から血を抜き取るように吸い上げていく楓。
「楓は舌に刻印を刻むことを選んだ様じゃな。まあ、血は争えんという事か。」
何とか体を捻り、背中から楓を引きはがすことに成功した。
「何してんだ!!」
「ぷはっ!もう少しぐらい良いじゃないですか。久々に龍穂さんの血をいただけるチャンスなのに。」
引きはがされた楓は名残惜しそうに俺の方を見ている。
これ以上血を吸われないためにも急いで脱いだシャツを身に着けた。
楓は半人半魔。先祖を辿ると人間ではなく、悪魔と呼ばれる血が混ざっており
楓はその力を強く引き継いでいた。
「契約は完了じゃ。楓、龍穂に刻印を見せてやれ。」
悪魔と言っても種類があり楓が引き継いだのは俗に淫魔と呼ばれる種族。
「・・どうれふ?たつほさん。」
大きく口を開けて楓は口の中を見せてきた。
下にはしっかりと刻印が刻まれており、儀式は成功したようだ。
悪魔と言うのは人の血や肉を貪り、生き長らえてきた。
だが人も抵抗し、戦いが繰り広げられ数を減らしていくと種を残していくため
人に紛れ、人との共存を選んだ。
「淫魔は契約の刻印を刻む際、舌に入れる習慣があったとされておる。
自らに伴侶がいる事がすぐに示すことが出来るからじゃ。」
表立って血や肉を喰らえば悪魔とバレ殺されてしまうと別の方法で食事をとるようになっていき
血とは別の濃い体液を摂取することを食事とし、人間の血を混ぜることで
食べ物でもエネルギー摂取が可能となった種族を淫魔と呼ぶ。
「・・・・♪」
頬にこぼれた血を拭きとり、指をしゃぶるように血を舐めとる楓。
淫魔、別名サキュバス。
俺が契約した幼馴染はサキュバスの血を引いた忍びの女の子だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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