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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百七十九話 天才に迎えようとしている区切り

都内の繁華街にも関わらず戦場と化したショッピングモールを武装した兵隊が囲んでいる。

本来であれば人混みで溢れているが規制線で広く仕切られ野次馬の姿も見えない。


そんなあわただしく動く兵隊の中にスーツ姿で足を止め、結界の張られた先を見上げる三人。


「まったく、やってくれたもんだな・・・。」


その中の大柄な男が口を開く。三人の胸には武道省のバッチ、

そして武術を極めた者だけに送られる武術師のバッチも付けられていた。


「放っておけばよかったのでは?我々が動かないでもあいつならうまくやってくれるでしょう。」


「そう言うわけにもいかん。これだけの騒ぎになってしまえば隠すことさえ難しい。

そうなれば責任を問われるのはまず俺達。それが分かっていて竜次も俺に連絡を取ってきたんだろう。」


隣に立つ細身の男の問いに頭を掻きながら答える。


「しかも業、そして神道省の副長官まで関わっている。

それが民間人に見つかってみろ。混乱はさらに大きくなるだろうよ。」


戦場の中で戦っているのは日ノ本の中核を担っている人物達。

しかも騒ぎを起こした主犯が神道省の№2と世間に触れれば

日ノ本が大混乱に陥ることは目に見えている。


「・・であれば何故中に入ろうとしないのですか?

その二人が勝敗をつけた時点でどちらかが悪として世間に公表される事は確定しています。

無理やりにでも二人を引きはがしてうやむやにするべきでは・・・。」


もう一人の小柄な女性は大柄の男に尋ねる。

大混乱が起こることを察しているにも関わらず、手を打とうとしない男への疑問は筋が通っていた。


「そう言う事じゃないんだよ・・・。」


視線を戦場に向けながら荒々しく頭を撫でる大柄の男。

頭を揺らされた女性は、すぐさま大きな手に手刀を入れると痛そうに手を引っ込めた。


「やめてください。これから国學館に入学するというのに

バカになってしまったらどうするんですか。」


「これでバカになるようならとっくになってるだろ。

これはな、日ノ本に取って”避けてはならない”戦いなんだよ。」


男の答えに理解できないという表情を向ける男女達。

そんな二人を気にすることなく男は戦場を見つめ続ける。


「・・ひとまずだ。中にいるあいつの合図があり次第突入する。

土方は中で起きた事を口外しない者を選抜しておいてくれ。」


大柄の男の意味深な言葉に対して深堀することはせず、受けた指示を遂行するために動き出す細身の男。


「私は何をすればいいですか?」


「沖田は・・・ここで待機だ。」


何も指示されることが無かった女性は不満そうに睨む。

それをなだめようと再び頭に伸ばすが、再度手刀が阻んだ。


「痛った!何すんだよ。」


「バカになる。」


「だから、これぐらいでなるんならもうなってるだろ・・・。」


「なる寸前。もうやめて。」


「分かった分かった。・・なあ沖田。」


「何?」


「お前、”あの男”に興味があるのか?」


男の問いに黙っていた女性だが少し間を置いた後、口を開く。


「・・ある。だからこそ東京校を選んだんですよ。」


「そうか・・・。」


答えを聞いた男は、ポケットから取り出した携帯の画面を眺めながらため息をつく。


「ならついてこい。そして中で起きた事をしっかりと見るんだ。」


先程から見えてこない会話を続けている男に違和感を持ったのか、女性はそれは何故と尋ねる。


「見たらわかる。そんで・・見た上でもう一度考えろ。本当に東京校に進むかどうかをな。」


答えはそこにある。それしか答えない男に疑問を持った表情を向けるが、

何かを察した女性はそれ以上尋ねる事はしなかった。


「ご苦労様です。」


そんな二人の後ろからよれよれのカジュアルなスーツを着た男が近づく。


「・・ここは武道省の者以外立入禁止です。」


「許可は取ってあります。」


胸元から取り出したくしゃくしゃの紙を大柄の男が確認すると、

そこには特別許可証と書かれており上杉捷紀の操作を許可するという文章の隣に

上杉影定という名と家紋の朱印が刻まれていた。


「はぁ・・・。了解しました。ですが中には—————」


「終わってから・・ですね。それまでここで待機させてもらいますよ。」


そう言うと男女の隣に立ち戦場を眺める男。

嫌々ながらも承諾した大柄の男はその様子を見て口を開いた。


「・・親父殿はお元気ですか?」


「いえ?分かりません。長く会っていないものですから・・・。」


「会っていないとなると・・やはりあなたは・・・。」


「同士ですよ。私は地位を上げることに興味はありません。

そんなことより、中で起きている戦いに非常に興味がそそられます。」


「・・そうでした。あなたはそう言う人でしたね。」


伝わらないほどの薄い警戒を敷いていた大柄の男だが

地位の向上に興味が無いと聞いた途端警戒を解く。


「それに彼らの物語がどういう区切りを迎えるか・・・この目で見て見たいのです。」


男の言葉を聞いた女性は首を傾げるが大柄の男は戦場から目を背け、腕を組んで地面を見つめる。


「・・悪趣味ですな。」


「そうでしょうか?彼らの歩みを少しでも知っている人間なら興味がそそられるはずです。

それに・・・。」


「・・それに?」


「区切りの瞬間を知らなければ彼らにかける言葉が見つからない。

地獄を歩んできた彼らを知る者の一人として・・

少しでも前を向けるように支えてあげるのが大人の役目でしょう?」


戦場に向けて哀愁の表情を向ける男の言葉に誰も答える事が出来ない。

今まさに行われている戦いが日ノ本にどれだけの影響を及ぼすのか、

そして生き残った彼らが負う心の傷がどれだけ惨いものなのかを示していた。


———————————————————————————————————————————————


治療を終えた四人が俺の後ろに立つ。


「お待たせして申し訳ありません。」


毛利先生が俺に謝罪をしてくるが、その視線は土御門から逸れることなく強い殺気を放っている。


「いえ、なぜか分かりませんが手加減を・・・。」


「いや、よくやった。ここからは任せろ。」


俺一人の力だけで耐えた感覚は一切ないと伝えるが、竜次先生が肩に手を置いて励ましてくれた。


「賛同したい所ですが我々に残された力はあまり残っていません。

ここはあくまで龍穂君主体で戦うのがよろしいでしょう。」


「そうね。しっかりと役割分担をして戦うのが一番だと思うわ。」


ノエルさんとアルさん冷静に状況を把握し土御門に対してどう戦っていくかの策を提案してくれる。

この人達であればどの距離であっても十分に戦えるだろうが、それは万全の状態の話しだ。

土御門に傷をつけられ力を消費した状態であれば得意な距離で戦った方が優位に立ち回れる。


「人数有利を取られた。ただそれだけです。どんな状況であっても私の狙いは・・・・。」


佇む土御門は指を鍔にかけながらこちらを見つめているが、ほんの少しだけ足元の幅を広げる。


「・・!!!」


ただ立っているだけに見えるがその立ち姿には覚えがある。

魔術で迎えうつにはもう遅い。急いで得物を取り出し体の前に構える。


「ぐっ!!!」


突然目の前に現れたの土御門は俺に向けて刀を振り下ろしてきている。


「よく分かりましたね。」


あの構えは一兎流。相手の不意を突く立待月たちまちづき

立つ姿勢よりほんの少しだけ歩幅を広く立つ必要があるが

使用者出ないと見分けがつかないほどの僅かな差だ。

音もたてずに兎歩で距離を詰めてきた土御門は勢いそのまま俺を押し込んでいく。

下がりながらも六華で受け止めているが、このままだといずれはさばききれなくなってしまう。


「良い業物が勿体ない。魔術で戦うことになれたあなたの武術など取るに足りません。」


先程まで神術中心で戦っていたことを忘れてしまうような綺麗で力強い太刀筋。

その太刀筋はまるで芸術であり武術師としてもやっていけるほどの実力を秘めているのだろう。


「足元がお留守ですよ?」


必死に刀を受け止めている俺に兎歩を使い、わずかな距離を詰めより踵に足をかけてくる。

予備動作の無い一瞬の兎歩に対応できずにそのまま引っかかってしまい、

後ろに転倒した俺に向かって土御門はとどめと言わんばかりに切先を突き出してきた。


「やらせねえよ!!」


絶対絶命。死を覚悟するほどの状況だが、放たれた切先が細身の長い刃によって阻まれる。

俺を助けに来てくれていた竜次先生が槍を向けており、受けとめたまま薙ぎ払い

土御門と俺の間に割って入ってくれた。


「大切な生徒を助けに来ましたか。」


「お前に摘まれるわけにはいかないんでな!!」


広い間合いを持つ槍のアドバンテージを生かしながら竜次先生は土御門に向けて槍を振るう。

間合いの内側に兎歩で入ろうとする土御門だが予備動作の無い動きなのにも関わらず、

踏み出そうとする足に目掛けて槍が放たれ距離を詰められない。


「流石に分かりますか・・・。」


恐らく土御門の癖か気配を完全に把握しているのだろう。

俺には分からないほどの微弱な何かに竜次先生は反応しているが

その姿はまるで慣れ親しんだ相手との立ち合いだ。


「おっと・・・!」


お互いが一歩も引くことはない立ち合いだが水を差す魔術の一撃が土御門に向けて放たれる。

距離が離れた先にいるノエルさんが出した魔術書からの一撃だが

大量に浮かび上がる魔術書からは次々と土御門の向けて魔術が放たれていった。


「こうもうまく連携されると厄介ですね・・・。」


竜次先生の槍を避けながら土御門は一枚の札を落とすと

地面に触れた札は先ほどの様に式王子が飛び出し魔術を受け止めた。


「これは早めに龍穂君を・・・。」


式王子の出現にわずかに距離を置いた竜次先生を見逃さずにこちらに踏み込んでくる土御門。

体勢は整えたものの奴の兎歩を見ることが出来ない俺はただ受け止める事しかできない。

このまままた押し込まれてしまうと感じながらも六華を構えていると

激しい轟音がなると光の速さで飛んできた毛利先生が土御門の刀を受け止めていた。


「やらせませんよ。」


兎歩より速い雷での移動。そしてその力を体に秘めながらの人達は

コンクリートの床をいともたやすく破壊していく。

あまりに威力に受け止められずに下がっていく土御門と俺の距離は自然を開いていった。


「龍穂君が主体で戦うのではなかったですか?」


「それはあくまで予定の話しです。私達でけりをつけられるのであればそうするまで。」


後に下がっていく土御門の背後に何かが現れると辺りが炎に包まれる。

よく見ると羽の生えた小さな人のようなものが辺りに浮かんでおりアルさんが呼び出した妖精達が

土御門を追いこもうとしていた。


「ふふっ・・・。いいですねぇ。あなた方はこうでなければ。」


追い込まれているはずの土御門は漫勉の笑みを浮かべながら今度は水の魔術を辺りに放ち、

炎もろとも妖精達を起こした波で押し込んでいく。

この追い込まれた状況で浮かべた笑みは決して狂気の笑みではなく

戦いを純粋に楽しんでいるさわやかな笑顔であった。


「・・龍穂。」


俺はその光景をただ眺める事しかできなかったが、影から出てきた兼兄の存在に気が付き隣に振り向く。


「お前もあそこに突っ込んで来い。」


近距離から仕掛ける竜次先生と毛利先生。

そして逃げ場をなくしていくノエルさんとアルさんの連携は土御門を徐々に追い込んでいる。

俺の加勢など必要が無いと思えてしまうほどだが兼兄はあの中に揉まれてこいと言ってきた。


「いや、でも・・・。」


「安心しろ。あの四人の援護もあるし何より隣に俺がいる。因縁の相手なんだろ?」


頭を突かれると猛や真奈美の姿が頭の中に思い浮かぶ。

あの二人はもう表舞台に出る事は叶わない。俺が仇を討たなければ・・誰が打つんだ。


「分かった。」


意を決して六花を握り戦っている土御門を睨む。


「敵とは言えあいつが扱う技術はこの日ノ本屈指だ。

奴の一挙手一投足に集中して盗める技術があるのなら全て盗んでこい。」


俺の肩を叩きながら出してきた兼兄の指示に黙ってうなずく。

奴との決着、それはすぐ近くに迫っていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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