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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百七十七話 相対する土御門

こちらを睨む土御門は扇子を畳み俺達へ向けて口を開く。


「まさか陀金を倒すとは・・八海の時より成長している様ですね。」


立つのがやっとの五人とは対照的な佇まい。

装束に傷はついているものの明らかに余裕があり、白の部隊との戦いが

取るに足らなかった事を示している。


「あまりに退屈なこの戦いに終止符を打とうと思っていましたが・・・まだまだ楽しめそうですね。」


肩で息をしている五人。その誰もが俺以上の実力を有しており、

そんな人達を圧倒する土御門の実力は計り知れない。


『・・千夏さん。影渡りで五人の救出をお願いします。』


そんな土御門の前に立つことに普段であれば恐怖する所だが不思議と心は落ち着きを見せており、

冷静に状況を判断し千夏さんに指示を送る。


「ああ、念を送らずとも大丈夫ですよ。

私の目的はあくまであなた。そこにいる弱き者達の救出に手は出しません。」


俺の念を察した土御門は扇子で顔を扇ぎながら口を開くが

その間こちらに向けている視線は外される事はない。


「・・いくつか聞きたいことがある。」


神道省副長官という日ノ本でも屈指の高い位を持つ土御門と同じ目線で話すことなど今までなかった。

殺気を向けることなく佇む土御門を見て、倒す前に少しでも情報を抜き取ろうと会話を試みる。


「本来であれば何も言わずに命を刈り取る事が定石ですが、

こうしてあなたと相対するのはここで最後になる。

あなたを国學館に送り込んだ責任もありますから・・・少しくらいは付き合ってあげましょう。」


俺の強い殺気を飄々といなしながら土御門は誘いに乗ってきた。


「まず・・それだ。なんで俺を国學館に転校させた。」


「分かり切った事でしょう。八海よりこちらにいてくれた方があなたの命を狙いやすい。

ご友人と遊びに行っている所を異形の者へと変えた鬼を仕向けた甲斐がありました。」


「お前・・・!」


猛を襲わせたのはこいつの仕業。青さんが姿をさらしてすぐに駆けつけてきたのも頷ける。


「お前のせいで・・猛が・・・!!」


「猛・・・ああ、あのご友人。なかなか面白い子でしたよ。共にいたお嬢さんも同じですが

私の式神である陀金とハイドラの力を注ぎ込んでも陰の力に飲み込まれずに

人の姿を保った者は久しぶりでした。まあ、正気は失ったみたいですが・・・。」


八海であれだけの被害を出したのにも関わらずに当の本人は記憶の片隅にしか置いておらず、

猛や真奈美のその後なんて気にしてさえいない。


「そんなことはどうでもいいのです。私の行動の全てがあなたをここへ立たせている。

この結果に私はひどく感動しています。

神道省に入省からというもの、全てが私の手のひらの上と思えるような

歯ごたえのない日々が続いていました。

長きに渡って日ノ本を支えてきた天下の神道省もこんなものかと退屈な日々を過ごし、

人生というものに飽き飽きしていたのですよ。」


口角を上げ、光悦とした表情で天を見上げながら自らの才能を披露し始める。


「ですがそんなとき、私の前に降り立ったのは・・・わが主でした。

人生に飽き、乾いていた私の心に水を差した彼の野望。

それを耳にした時・・今までの日々がまるで夢だった如く一気に目が覚めたのです!」


震えながら顔まで上げた手を強く握る。


「遥か彼方の宇宙の神!それらの力を使いこの日ノ本・・そして地球そのものを手に入れる!!

何と魅力的で・・・赤く、ギラギラと燃え上がる熱い野望!!!

それを聞いた私は・・・彼を神の様に崇め、慕う事に決めたのです・・・。」


体から力が抜け、握られていた手はゆっくりと降ろされた。


「私は彼の野望を叶えるために動き出しましたが・・あの方も私と同じく聡明であり、

全ての下準備は整っていました。

三道省に自らの配下を忍び込ませ、魔道省はほぼ手中に収めている。

その現状を見た私自らの手腕をわが主にお見せすることが出来ないと嘆きました。

ですが・・・そんな時、あなたの存在を知ったのです。」


手に持った扇子をゆっくりとこちらに向けてくる。

力が抜け、俯いていた土御門だがほんの少しだけ顔を上げると先程の光悦とした表情はなく、

まるで親の仇の様に俺を強く睨んできていた。


「上杉龍穂。あなたの生き血を吸わなければ我が主の命は失われる。

しかも聞けば命の灯は徐々に小さくなっており、吹けば消えてなくなってしまうほどだ。

それを聞いた私はあなたの命を奪うために奔走しました。

皇に仕えている八海上杉家に養子として迎えられ、八海という”特殊な”土地に

引きこもっていたあなたをどうにかして東京まで連れ出さないといけない。

様々な策が頭の中にめぐりましたが・・・かつて兄弟と呼べるまで深い関係を築いた男が

いる事を思い出したのです。」


べらべらと機嫌よく語る土御門。

俺以外の様子を全く気にする素振りは見せず、兼兄達は千夏さんやちーさん達によって回収されている。


「私は密かにあなたの行動を探り、鬼をけしかけあなたを国學館へと誘いました。

そしてあなたが必ず来れる様、業の長である兼定に働きかけ皇からの推薦をもぎ取ると

私の計画通りにあなたは東京へやってきたのです。


そしてあなたの排除すると共に千仞であるにも関わらず裏で画策している徳川仙蔵をけしかけ、

仮に仙蔵殿が命を落とそうとも徳川家の権威が地に落ちるように仕向けました。

あなたがそこで殺されてくれれば話しが早かったのですが・・・あなたは目の前にいる。

徳川家の権威は落ちましたが私が行った謀が上手くいかなかった事態に

酷く動揺したと同時に私の心には喜びが襲いました。


国學館襲撃、八海、修学旅行。私が考え、仕込んだ作戦の全てが失敗に終わるごとに

私の胸の高まりは大きくなっていく。

上手くいかず、悩む日々がまるで潤った私の心に日の光が差し、撒いた種が成長していく感覚でした。」


こちらに向けた扇子を線をなぞるように横に引いていく。


「それが実り・・・目の前に立っている。

今まで苦悩さえしなかった私にとって・・・あなたは最高傑作なのです。

そして・・・その実を刈り取ることで完成する。」


奴の扇子の先は俺の首を指しておりそれを今から断ち切ると宣言しているのだろう。

その姿を見て俺は心を支配している怒りの中に一つの疑問が生まれる。


白という部隊は家族という繋がりで信頼関係を保っている。

血の繋がりないがそれを感じさせないほどの固い絆で結ばれており、

それは決して簡単に解れる事はないだろう。

土御門も元々はこの白に所属していた身であるはずなのに

今は部隊を抜けて敵対関係にある。


(なんでだ・・・・?)


共に辛い日々を過ごし、それが彼らを家族という関係にまで発展させた。

だが土御門はそれを退屈な日々と称している。

兼兄や竜次先生が語っていた苦しい日々は土御門にとって他愛のない日々だったのだろうか?

それとも嘘をついているのか?だとしたら何故?俺の頭の中に様々な憶測がめぐる。


(何か・・忘れている気がする・・・。)


今まで憎んで来たはずの土御門。こちらに敵意を向けてきているのに

俺はなぜそんなことを思ってしまうのか。記憶の中を探っても答えは出てこない。


「さて・・・これで満足ですか?

あなたはどうも戦いに意味を持たせたいようですが・・・そんなものはどうでもいい。

命を懸けた戦いにどれだけ意味を持って挑んだとしても

蓋を開ければ感情論の押し付けあいでしかないのですから。」


土御門は扇子を開き再び口元を隠す。そして強まっていく殺気と共に強力な力を体から放ちだす。


「そして強い方が勝つ。簡単でしょう?

歴代の賀茂家の悲願。それは非常に重く、小さな体で背負ってきた

あなたには尊敬の念すら抱いています。

ですがそんなものが私に退屈凌ぎに敗北する。それが戦いというものなのですよ。」


「・・おれはアンタに負けねえよ。」


「それはどうでしょう。始まってみないと分かりませんよ。」


俺の挑発を軽く受けながす。立場上本来であれば格下である俺の挑発は頭に来るはずだが

何が起きてもいいような心構えを貫いている。


『ハスター。行こう。』


奴との決着をつけるため、風の魔術で宙に浮かび上がる。

待ち望み、やっとたどり着いた戦いの火蓋が落とされた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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