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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
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第百七十六話 武者震いの先の戦場

影に沈んでで出来た先は真っ暗な空間。何者かの気配を感じると小さな炎が付いて辺りを照らす。


「来たね。」


小さな炎はジッポーから灯されており、その持ち主であるゆーさんが声をかけてくる。


「純恋の一撃でこの建物の電気系統が全てやられちゃってね。

魔力を探知されるといけないからこれで我慢して。」


小さな炎を頼りに当たりを見渡すと、退場したメンバーがしっかり揃っていたが

激しい戦闘で各々がかなり消耗している。

だが表情は決して折れておらずこの先の戦いへの覚悟が見て取れる。


「ここは非常階段の一番奥。そこにある扉を開ければ屋上だよ。」


ゆーさんがジッポーを持った手を挙げると壁に書かれたRの文字を照らす。

扉一枚隔てた先は戦場であると念を押してくれるが、不思議なくらいに静寂が辺りを支配していた。


「・・戦場を変えたのでしょうか?」


あまりの静けさに千夏さんがゆーさんに尋ねるが、それはないと自信を持って答える。


「龍穂達が来る前に兼兄と連絡を取ったんだけど返信はなかった。

だけど連絡を取った機器の反応はここを示しているからこの先で戦っている事は間違いないよ。」


待ち望んでいた戦いが目の前にある。

頭ではその時が近づいている事を理解していたのにも関わらず、

いざその前に立つと体を武者震いが襲う。


「・・皆さんに聞きたいことがあります。」


覚悟は決まっている。後は踏み込むだけの状態だがその前に

ここにいる全員に尋ねなければならないことがある。


「土御門の実力は計り知れない。

陀金とハイドラを使役していた事実がそれを物語っています。

例え兼兄達が味方してくれるといっても無事では済まないかもしれません。」


あの若さで神道省副長官まで上り詰めた実力は俺達の想像を超えてくる。

そして・・猛達にした行いの様に卑劣な手段をいとわない。

今までの戦いの比ではないような激しい戦闘が待ち受けているはずだ。


「それでも・・・俺と一緒に戦ってくれますか?」


涼音、楓、綱秀、純恋。四人が戦場を離れたが五体満足なのことは非常に幸運だと言える。

四人の実力を疑っている訳では無いがそれは紛れもない事実。

大切な人を守るためと国學館に入学したが非常に濃い日々を過ごすにつれ、

一人、また一人と増えていった。

ここで戦場を離れる。その判断をすることに対して俺は何も言う権利は無い。

むしろこれ以上傷つかないという事実は俺の心に安堵をもたらすだろう。


「・・何を今更。」


俺の決意を込めた言葉を聞いたみんなからは沈黙が返ってくるが、

少し間を開けて謙太郎さんが口を開く。


「ここまで戦ってきてこんなところでおさらばなんて、そんなひどいことは無いぞ龍穂。

メインデッシュが目の前にあるんだ。ぜひ共に行かせてもらおう。」


返事が返ってこなかった時は思わず緊張してしまったが、謙太郎さんが快い返事をしてくれて安心する。


「まあ・・ここで聞くのかって思ってしまうぐらいのタイミングだな。

出来ればもう少し早くに聞きたかったぞ。」


隣に居るであろう伊達さんが俺へ突っ込みを入れる。

確かにここまで傷つく前に行っておかなければならなかっただろう。

伊達さんの言葉を聞いて恥ずかしくなってしまい、顔が真っ赤になる。暗い部屋の中で本当に良かった。


「謙太郎と同じだ。一緒に付いていくよ。

この戦いの結末が気になるし・・・それにここで退いたら母さんに何を言われるか分からない。

勝久もそうついて来てくれるよな?」


「当然だ。長から受けた龍穂と共に戦うという指示を最後まで全うする。」


伊達さんも藤野さんも俺と共について来てくれると言ってくれる。


「私達は白として家族との決着をつけないといけないから当然ついていくよ~。ね、将?」


火嶽を含めた白の三人も良い返事をくれた。


「私は龍穂と一緒にいく。それを純恋も望んでいたし・・何より私もそれを望んでいる。

だから・・ついていくで。」


「私も同じです。それに・・土御門には色々と聞きたいことがあります。

どんな状況だとしても私は奴に会わないといけません。」


桃子と千夏さんも同じ。特に千夏さんは土御門に対して並々ならぬ思いを抱えているようで

薄暗いながらもその表情から決意が伝わってくる。


「・・ありがとうございます。」


良い返事をくれたみんなに向けて感謝の言葉を述べる。

初めは突っ込まれて顔を真っ赤にしてしまったが全員の決意を聞けて良かったと様々な迷いが消し飛び、土御門との戦いだけに集中できる。


「なんだかおもしろいことをしているね。」


階段の下から声がしてゆーさんが声の方にジッポーを投げる。

小さな火が宙に舞い、不自然に途中で止まる。

オイルで燃える小さな灯りが照らしたのは火を受け止めたちーさんの姿があった。


「二人を外の業へ送り届けてきたよ。純恋は神力切れ、綱秀は陰の力を多く取り込んだことで

体が拒否反応を起こして気を失っただけだ。命に別状はないよ。」


無事送り届けてくれた上でなんと二人の症状も説明してくれる。

特に綱秀の事は心配だったのでありがたい限りだ。


「決心を決めたみたいだね。ここから先は命の保証はない・・・って今日一日ずっとそうか。」


「ちーさん。この先の情報を持っていませんか?」


用意周到なちーさんであればゆーさんが取れなかった情報を持っているかを尋ねるが、

無言で首を横に振る。


「多分ゆーが色々やってくれていると思うけど私も同じような情報をしか持ってこれなかった。

だけどこの先の白と連絡が取れていないという事は相当苦戦しているみたいだね。」


このショッピングモールに導入された白の部隊はかなりの人数を要していた。

そしてそのほとんどが土御門との戦いに向かったが、戦いがあまりに激しく

誰一人として連絡を取る余裕さえないのだろう。


「となると突入の際の隙を援護してくれる味方はいない。

屋上に踏み出した瞬間ではなく、ドアノブに手をかけた時から既に戦いは始まっているよ。」


先ほど戦っていた陀金はその巨体に見合う体の動きをしていたが、

土御門にはそんな分かりやすい隙は無い。

戦場の些細な変化を見落とすことなく、小さなドアノブの動きすら警戒して来る。


「・・俺が先頭を行きます。土御門の攻撃を全て対処しながら進みましょう。」


皆が戦ってくれたおかげで俺にはまだ余力がある。

そんな俺が先陣を切ることが一番被害を抑えられるだろう。


「分かった。作戦は・・考えるだけ無駄だね。陣形の好みはある?」


「・・俺一人で前に立ちたいです。」


単独で土御門との戦いを望んだ俺に対して千夏さんと桃子が口を開こうとするが、

二人の前にちーさんの手が伸ばされる。


「文句を言いたい気持ちは分かるよ。

でもね、さっきの純恋みたいな力を持ってないと全力の龍穂の隣に立つ資格はない。

足手まといになるからね。」


俺がみんなの近くにいた方が安全に戦いを進められる。

だがそれは威力の高い攻撃を俺が全て対処することになり、俺自身が攻撃する機会を減らすことになる。

相手は白の部隊を苦戦させる土御門だ。積極的に攻撃することで俺に意識を集中させれば

ちーさん達に攻撃が向く機会を減らせるだろう。


「分かったよ。龍穂には先頭に立ってもらうけど私達が安全を確保出来次第離れてくれ。

残った部隊は私が編成する。龍穂への援護だけに集中して、

命を落とさない事を第一優先にして立ち回るよ。」


ここまでの戦いでみんなが激しく消耗している。

攻撃は俺に任せてもらって援護や身を守ることに集中してもらった方が立ち回りやすい。

ちーさんが残されたメンバーで部隊を編成する。これで後は扉を開けるだけだ。


「情報が無い以上ここに留まる利点は何もない。龍穂の準備ができ次第、突入するよ。」


避難用に作られた分厚い扉の前に立つ。

大抵の音は遮断するだろうがそれでも不気味なほど不自然な静けさに武者震いを超え、

体が震えてくるが手を握りしめて必死に止める。


猛や仙蔵さん。その他にも土御門は俺がしてきた戦いに絡んでいるのだろう。

賀茂忠行の配下の中での重要な役割を担っている事は間違いなく、

そんな奴を倒して情報を抜くことが出来れば俺が生き抜くことが出来る確率が大きく上がるはず。

大きく深呼吸をした後、行きますと小さくつぶやき勢いよく扉を押す。

陽の光が差し込み目を塞ぎたくなるが一心不乱に戦場に変わった屋上へと踏み出す。


辺りに暗黒物質をまとわせ臨戦態勢で駆けていく。

先ほどまで暗い所にいたせいで視界が白く染まり、戦場の状況を上手く把握できないが近くに白の部隊がいる事だけは感じ取ることが出来、俺の後ろからかけてくるみんなの足音が聞こえてくる。


「・・・・・・・・!?」


徐々に視界が元に戻っていき、戦場の状況が明らかになっていくが

俺の眼に飛び込んで来た情報に思わず立ち止まってしまう。刻まれている刀傷や銃跡。

黒く焦げ、コンクリートが抉れたような跡は魔術や神術の応酬があったことが感じ取れる。

そして俺が感じていた白の部隊の気配。

重厚な装備を身に着けた白達には大きな傷がいくつも付いている。

その全てが床に伏せており、誰一人として立っている者はいなかった。


「なんだ・・これ・・・。」


あれだけいた白の部隊がほぼ全壊している。全員がかなりの実力者であるはずなのに・・・。

激しい戦闘が起きていることは分かっていたが、

予想だにしていなかった事実を簡単に受け入れる事は出来なかった。


「龍穂!前だよ!!」


後から聞こえてくるちーさんの声。

混乱する頭を無理やり動かし、指示のあった前を見ると屋上の奥に人影が見える。

肩で息をしながら得物を構える五人。

そしてその奥には余裕の出で立ちでこちらを見つめる男の姿が見えた。


「来ましたか・・・。」


激しい戦いの末、立つのがやっとの兼兄、毛利先生、竜次先生、ノエルさん、アルさん。

そして扇子で口元を隠しながらこちらを睨む土御門の姿があった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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